All Chapters of 【完結】婚活アプリで始まる危険な恋 ~シンデレラは謎深き王に溺愛される~: Chapter 71 - Chapter 80

84 Chapters

第9話・謎深き王の正体 その5

 玄さんが社長と聞いて、彼の近くに散りばめられていたヒントが、形となってゆく。  彼との会話が脳内に浮かんだ。 ――眞子はなんの店だと思う?――俺の店、当ててみて。当たったら教える。当たったのに違うとか、卑怯なウソは言わないから。――ヒントねえ…そうだな。子供が来たりすることがある。――定休日は無いんだ。年中無休。  飲食店で、子供が来ることがあって、定休日がない、それは―― 「眞子から話は聞いている。アンタが執拗に彼女を攻撃し、追い詰めていたって。眞子は俺の彼女だ。彼女を侮辱するなら、俺を侮辱しているという認識になるが、間違いないか?」「きっ…清川先生が、社長の彼女……ッ!」 ひっ、と息を呑む。目は血走り、口は顎から外れてしまいそうなほどに開いていた。「そ、そんな事とはつゆ知らず…数々の無礼、申しわけございませんでした……」 彼女は戦々恐々という言葉の意味をまさに体中で表していた。小刻みに震え、今にも泣き出しそうだ。「羽鳥シェフの処分はこれから考える。妻を止められなかった責任があるだろう」「そ、そんなっ、あ、あの人は関係ありません! ここ、困りますっ、そんなの困りますっ!」「もうすぐシェフとご両親がアンタを迎えに来る。連絡しておいたから。悪いがそのまま退席してくれ。アンタにこれ以上居座られたら、みんなが迷惑する。幼稚園にも迷惑だ」 ひいっ、と悲鳴のような声を上げ、羽鳥さんは遂にその場へ崩れ落ちた。お義母さんはいや、お義母さんはいやぁ、とその場でしくしく泣き出した。 羽鳥さんって…もしかして、義理実家との仲が上手く行っていないのかな。  これだけ嫌がって泣くってことは、厳しく叱られたりするのかしら。  そういえば聖也君のお迎えをすっぽかして二時間も連絡がつかなかった時、義理実家へ連絡したと言ったら彼女は激高したことがあった。 そういう背景があるから、もしかして幼稚園で日ごろの鬱積を晴らしていたの?  担任に辛く当たり、無茶苦茶な行動を取って
last updateLast Updated : 2025-05-17
Read more

第10話・向き合う その1

 あれから無事に滞りなく音楽会は開催された。玄さんのお陰で、私は指導に集中することが出来た。  肝心の子供たちは頼りなさげに瞳を泳がせたり、辺りを見回して落ち着きのない様子が多く見受けられたが、本番が始まると威風堂々としており、私の心配は杞憂に終わった。無事に歌い切り、保護者の方々から割れんばかりの拍手を貰い、感動の音楽会となった。  子供たちを送り出し、片付けも終わり、園に楽器などを運んで職員も解散の運びとなった。玄さんと約束したので、事情を話して兄に付き添ってもらう予定は断った。園を出ると、玄さんが手配した迎えに連れられた。 今夜、彼と対峙する。  対峙場所は、蓮見リゾートホテル。 彼の業務が終わるまで待って欲しいと言われ、豪華な客室のひとつに通された。  以前宿泊させて頂いた部屋もそうだけれど、調度品、内装、絨毯、どれをとっても素晴らしい。掃除も行き届いているし、宿泊者をもてなす心が溢れている。 それにしても驚いた。玄さんが蓮見リゾートホテルの社長だったなんて。  本当に社長なのかどうか、調査してみると、『蓮見リゾートホテル」は『株式会社蓮見リゾート』が運営していることが解った。更にこの会社は、今年の四月から新社長就任となっている。HPに記載のある代表者の名前、それは――  代表者:蓮見 玄介(はすみ げんすけ)  彼が名前を明かせなかった理由が、そこに書かれていた。  他にもグループ会社に関する記事等もあり、玄さんの写真も掲載されていた。小さなものだけれど、確実に彼の写真だった。もうこれ以上玄さんを詮索するのは止めにして、窓辺から外を見た。上層階のホテルの部屋から見る都会の夜景は素晴らしく、宿泊した人は満足して帰っていくのだろう。 私には似合わない場所だ。 彼となにから話そう、どうしよう、と考えていたら、扉をノックする音がした。「は、はいっ」『俺だ。眞子、入ってもいいか?』 玄さんだ。何からどう話していいのか何も決まっておらず、ただ焦りだけが胸中を支配した。「どうぞ」 急いで扉まで向かい、掛けていた鍵を開錠して彼を招き入れた。複雑な表情で私を鋭く見つめる玄さんに応えられず、思わず俯いてしまった。  座ろうかと優しく声をかけてもらったので、彼の言うとおりに従った。  重い沈黙が続く。それを先に破ったのは玄さんだった。「
last updateLast Updated : 2025-05-18
Read more

第10話・向き合う その2

 ホテルを出たあの日、詫びの手紙を置いておいた。『玄さんの彼女にはなれません。今までありがとうございました』と。それを、彼は見つけたのだ。だからこうして私の前に現れた。「どうしてって…」 言葉に詰まってしまう。貴方は既婚者だったくせに私と関係を持ったの?――と、詰ってしまいそうになるから。「理由を聞くまで納得できない。きちんと説明して欲しい。俺のなにが駄目だったのか」 私はどう伝えればいいのかわからなかった。しかしどう頑張ってもストレートにぶつけるしか無い。「黙って理由も言わず、君に出て行かれた時の俺の気持ちがわかるか? この世の終わりみたいに思えて、正直この暫く、仕事なんか何も手に付かなかった。君が無事かどうか、心配で仕方なかった。色々想像した」「ごめんなさい」 確かにあれだけお世話になっておきながら、お礼もきちんと言わずに玄さんの下を去ったのは良くなかったと思う。その点についてはひとこと謝っておきたかった。「俺に黙って行方をくらませたのは、眞子にもそれ相当の事情ができたのだろう。だから音楽会まではと我慢していたんだ。幼稚園まで突撃しなかったことを褒めてもらいたい位だ。明日は休みなんだから、問題ないはずだ。さあ、ここを出て行った理由を聞かせてくれ」「だって、玄さん――…」 口から鉛を呑み込まされたように、喉の奥が重い。言葉を口にするのも苦しい。でも、ここまで来たのだから言わなきゃ、と思って真っすぐ前を向いた。正面には端正な玄さんの顔がある。彼の表情は少し怒っているように見えた。「既婚者なんでしょ? 私、既婚者の人とは付き合えないよ」「は? 俺が既婚者? なんで、それ、一体どこ情報?」 明らかに玄さんは狼狽えたように見えた。「私、見たの」「なにを?」「マリエちゃんって女の子が、玄さんをパパだって言っていた所を。私が助けた迷子の子――マリエちゃんって、玄さんの娘なんでしょう?」「――!」 玄さんは一旦空を見つめ、深いため息をついた。「眞子に見られていたとはな」 観念したように呟き、玄さんが頭を掻いた。「やっぱり本当だったのね。どうしてっ。私…奥様やマリエちゃんに顔向けできない…取り返しのつかないことをしてしまったわ」「待て待て。俺からまだ何も話していないのに、どうして話が飛躍するんだ。疑問に思った時点で俺に聞いてくればいいのに
last updateLast Updated : 2025-05-19
Read more

第10話・向き合う その3

  「もう謝罪はいいから玄さんの話を聞かせて? 貴方は、蓮見リゾートの――社長なのね?」「そうだ。俺は蓮見玄介。今年の四月から、このホテル事業の社長になった。というのも、先代――俺の父が病に伏せったせいだ。他にも役員や取締役は多くいたが、派閥争いも多く、父の希望で俺に白羽の矢が立ったんだ。正直、俺は社長の器じゃない。本来なら兄が継ぐ予定だったんだ。でも色々とあって、仕方なく俺が継ぐことになって。サポートを受けながら、毎日奮闘しているんだ」「そうだったの…じゃあ、玄さんのお店って、このホテルのレストラン?」「ああ。もともとレストラン事業があまり成績が振るっていなかったから、社長就任と同時に『いいものを沢山食べられる高級バイキング』の企画を立てたんだ。でもさ、眞子に愚痴っていた通り、営業始めても全然さっぱりで。宿泊客はコース料理の方を頼むから、取り込むターゲット層としてハナから頭になかった。このバイキング事業は、ホテル利用客以外を取り込もうと考えた。それなのに価格設定が高すぎたせいで、客足が更に遠のいてしまった」「庶民からすれば、あのバイキング料金は高いよ」「俺はそこがわからなかったんだ。いいものを提供しようと、そればかりを考えていた。顧客ニーズや動向をしっかり把握できていなかったのが敗因だ」 玄さんはブラックカード王だもんね。その値段が高すぎるなんて思わないかぁ。「あと、蓮見グループは婚礼事業にも力を入れる事に注力したものだから、独自のアプリ開発も視野に入れていた。婚活アプリやマッチングアプリを上手く使うつもりで考えた。だから俺が最初に既存のアプリでモニターになったんだ。どんな女性が登録していて、実際には何が求められているのだろうって」「ずっと疑問だった。どうして玄さんみたいな人がマッチングアプリをするのかなって。そういう事業目的があったんだ」「ああ。俺は普段から『蓮見リゾートの社長の蓮見玄介』という肩書を下げたまま生きている。正直重荷で苦しかった。打ち立てた事業内容は尽く失敗続きだったし、役員会や株主会でも相当やり玉に挙げられた。七月までに成果が見られなければ、ちょっとマズイ事になっていた」「
last updateLast Updated : 2025-05-19
Read more

第10話・向き合う その4

  「きちんと礼を言うのが遅くなって悪かった。あの時は茉莉恵を助けてくれて本当にありがとう」「そんな…迷子になって困っている子供を助けるのは、当然だよ」「いいや、そんなことは無い。茉莉恵が心細くて泣いていても、暫く誰も声をかけてくれなかった、と言っていた。眞子が最初に声をかけてくれた優しいお姉さんだ、と。まあ、こんな世の中だ。男が泣いている女児に声をかけると、誤解されるからな。面倒ごとに巻き込まれたくないから、見て見ぬふりをしてしまう。ただ、その垣根を越えるヤツもいる。下手をすると誰かに誘拐されていたかもしれないと思うと、ゾッとしたよ。助けてくれたのが、眞子みたいな優しい人で良かったと」「そうだね。それは私も思った。交番で一緒に待っていたら、お迎えが来てくれたみたいだから、そのまま立ち去ったの。豪華なお洋服を着ていたから、きっとお金持ちのお嬢さんなんだなって思ったし、沢山お礼したいって言われていたけれど、お金なんか受け取りたくなかったから。お礼が欲しくてマリエちゃんに声をかけたんじゃないもの」「君が黙っていなくなったこと、茉莉恵がとても残念がっていたよ。シンデレラのお姉ちゃんに助けてもらったから、お礼したかった、って」「ストラップ交換したから、茉莉恵ちゃんにはもうちゃんとお礼はもらったよ」「ほんと…眞子らしいな」  玄さんが私の頭をなでてくれた。「茉莉恵が迷子になった日、兄夫婦が事故で亡くなったことをあまり理解していなくて、ママやパパに会いたい、探しに行くと家を飛び出した時だったから、あの子も相当辛い時期だったんだ。でも、優しいシンデレラのお姉さんに会えて、沢山楽しい手遊びや、幼稚園の事を聞かせてくれて、すぐにパパやママに会えるよ、って言われたことが、とても嬉しかったらしい。無事に家へ戻った時に、茉莉恵には酷だがしっかり向き合って話をしたんだ。両親を事故で失った事、幼いながらも受け入れてくれて、だったら玄介お兄ちゃんが茉莉恵のパパになってと言われて、承諾したんだ。彼らの忘れ形見を、俺が引き継いで命を懸けて守って行こうと誓ったんだ」 そんな背景があったなんて。ただの迷子だとばかり思っていた。  幼い
last updateLast Updated : 2025-05-20
Read more

第10話・向き合う その5

  「噓は極力吐かないつもりだったが、隠すには限界があるから、隠しごとをしたのは詫びたい。正体を明かさずに君と付き合おうとしたことも」 そうせざるを得なかったのは玄さんの背負うものがあまりにも大きいから。今なら理解できるけれど、それでも頭が追い付かない。「ただ、これだけは信じて欲しい。茉莉恵や蓮見の新事業を救ってくれたシンデレラだから、君に惹かれたんじゃない。アプリを通じて楽しいやり取りをしたり、俺を特別扱いしないで一人の人間の男として扱ってくれたり、事業の事を色々褒めてくれて、背中を押して応援してくれて、仕事を頑張るように励ましてくれて、本当に腐っていた時にいつも勇気をくれた君に俺は恋をした」「玄さん…」「真面目で一生懸命で、子供たちを分け隔てなく愛して、仕事を頑張る姿も素敵だと思う。君といると、俺の苦しいだけの辛い時間が、とても楽しい毎日になった。だから手放したくない、誰にも渡したくないって思ったんだ」 向き合っていた対面から長い腕が伸び、私の手を取られた。「清川眞子さん」 端正な顔。そっと握られた手から、私自身の緊張が読み取られてしまいそうなほど、彼は真っすぐに見つめてくる。「今まできちんと向き合えず、話もできず、申しわけ無かった。でも、これで俺の話せる全ては話した。もしまだ疑問に思っていることがあれば遠慮なく言って欲しい。他にはまだ疑問があるだろうか?」 私は首を振った。包み隠さずにすべてを説明してくれたので、疑問に思うことは残っていなかった。「では、改めて言わせてもらう」「は、はい」「清川眞子さん、俺と付き合って欲しい」 玄さんのことは大切だけど。  お付き合いするには様々な苦労や困難、弊害がある。  庶民と王様ではつり合いが取れないよ。「玄さんの気持ちは嬉しいけど…私、スーパー庶民だよ?」「構わない」「美人でもないし」「いや、眞子はとても綺麗だ」「玄さんには釣り合わないよ」「そんなことはない。とても釣り合っていると思う」
last updateLast Updated : 2025-05-20
Read more

第10話・向き合う その6

 これからのことを考えると、彼との未来は、きっと平坦ではない。苦しみや困難が次々に押し寄せることは想像に難くない。そんな現実の重みに、胸の奥がじわじわと締めつけられていく。――本当に私に乗り越えられるのだろうか。そう問いかけても、明確な答えは返ってこない。ただ、不安ばかりが膨らんでいく。 でも、それでも。  それでも私は、玄さんを失うことの方が、ずっとずっと怖い。  不安と恐怖がせめぎ合う胸の中で、私は彼を見つめた。ただ、見つめることしかできなかった。気持ちを伝えていいのか、それさえもわからないまま――。「……玄さん」 小さく名前を呼ぶと、彼はすぐに応えてくれた。「眞子。――ずっと、俺の傍にいてくれ。もう、君を失いたくないんだ」 その一言は、まるで私の心の深部を見透かされたようで。  不安を抱える私の気持ちを察してくれたのだろう。玄さんはそっと私の手に、自分の手を重ねてくれた。その手の温もりが、沁みる。彼は穏やかに、けれど確かに、自分の胸の内を語り始めた。「眞子の無事がわからなかったあの期間、何も手につかなかった。仕事も、生活も、すべてが空っぽだった。食事すら、まともに喉を通らなかった。ただ……ただ、眞子のことを
last updateLast Updated : 2025-05-21
Read more

第10話・向き合う その7

  「私も玄さんが好きよ」「それは、どんな所? できれば聞かせて欲しい」「しっかりしているようで、実はうっかり者の所とか」 本当はこんな場面で言うものではないとわかっていても、ずっと秘密にされて苦しい思いをさせられたのだから、少しくらい王様をからかってやろうと悪戯心が働いた。  ホルモン焼屋でブラックカードを出したことを思い出しながら、玄さんにそれを告げた。「む。眞子もそうだろう。そそっかしいと思う」 案の定玄さんがムキになった。彼は、意外にお子様な部分がある。「そうやってすぐムキになって、むくれちゃう所とか」「むむ。善処しよう」 苦虫を嚙み潰したような顔に思わず笑ってしまう。「あとは、クイズに弱い所とか?」「……俺、いい所、ひとつもないな」 私の意地悪攻撃で玄さんがちょっと落ち込んでしまった。「からかったりしてごめんなさい。ほんとうは、いっぱいあるよ」 私は玄さんの頬に手を当てしっかりと見つめて伝えた。「力強くて、真っすぐで、同じ価値観を共有出来て、子供好きで、大切なものを自分の力で守る事ができる立派な所。凛々しくて格好いいし、他にもお仕事を頑張っているところや、あとは――」「もういい。出来て当たり前の世界で生きてきたのに、余りに褒められると照れる」 嬉しさ半分恥ずかしさ半分でやや顔を赤くして照れた玄さんに言葉を止められた。「なあ、眞子。こんなにも両想いなら、二人で乗り越えていけると思わないか?」 真剣に見つめられて心臓が高鳴った。  もう誤魔化せない。隠せない。でも、身分の差は容赦なく私の前に立ち塞がる。「玄さん…でも、私……」「玄介と呼んでくれ、眞子。もう隠さないから。君を、大事にしたい」「玄介さん…」 彼の本当の名前を初めて呼んだ。なんだかくすぐったくて、変な感じがする。  暫く見つめ合った。情熱的なまなざしで、彼は私の心をいとも容易く侵略する。「眞子
last updateLast Updated : 2025-05-21
Read more

第10話・向き合う その8

 「ふっ、ああっ、玄介さんっ、ぁあぁっ」 彼は私の反応を見ようと、鋭い視線をぶつけてくる。ぞくりと背筋が粟立ち、腰が浮いてしまう。 恥ずかしくて顔を逸らしたくなるのを堪えて見つめ返すと、彼は満足そうに目を細めた。――ああ、やっぱりこの人だ。 確信する。私が好きなのは、彼。触れ合いたいのも、彼。 何時の間にこんなにも深く玄介さんを好きになり、私の中で大きな存在へ形を変えていたのだろう? 蓮見リゾートホテルの社長だから好きになったんじゃない。彼が何者であったとしても『玄さん』と過ごす時間が、今の気持ちを作り上げたのだ。 彼の正体を知っていたら、恋に落ちる事は無かっただろうけど。 婚活アプリで素性不明だったからこそ、繋がった不思議な縁。「眞子」 余裕を失った玄介さんが、必死に私を求めて雄になる。――玄介さんも、私と同じ。 そう思うと不思議なほどに気持ちが楽になる。そこには身分差も何もなく、ただ一人の男と女が惹かれあうだけの、純粋な気持ちだけが存在しているのだ。今はその中で、彼を好きだと素直に伝えよう。 私は彼の背中に手を回して強く抱きしめた。すると玄介さんもまた、同じように返してくれる。 暫くそうしていると、玄介さんの手が私の胸を包み込むように触れてきた。その感触に驚いて思わず体を離そうとしても、彼はそれを許さない。 まるで宝物でも扱うかのような優しい手つきで、両胸を揉みしだかれていく。その感覚があまりに官能的で、甘美な吐息を漏らしながら身を捩った。 気付けば玄介さんの顔が間近にあり、そのまま唇を奪われる。舌を差し入れられて絡め取られると、脳髄が刺激されて何も考えられなくなる。 彼の手の動きに合わせて次第に体が熱を帯びてくる。自然と息が上がり、艶のある吐息が漏れてしまう。恥ずかしいのに止められない。「眞子……」 玄介さんが私の名を呼んだ声は、低くかすれていた。熱を
last updateLast Updated : 2025-05-22
Read more

第10話・向き合う その9

 恋愛は自由なのだと常に思っていた。  でも、そうではなかった。  実は沢山のしがらみに包まれていて不自由であり、添い遂げるとなればその苦難は尚の事。  それでも一緒に居たいと思える相手かどうかを考えた時、困難を乗り越えてでも傍にいたい、玄介さんの隣にいたい、と素直に思った。「あっ……んんっ……ふぅ……」 彼の名前を呼ぶたびに私の心は満たされていき、この瞬間が永遠に続けばいいのにと思う。この気持ちを伝えることが出来るのなら、私はどんな困難だって乗り越えられる気がした。「玄介さん……玄介さん……!」 彼を求める想いが強くなればなる程に身体の奥底が熱を帯びて疼く。それに伴い鼓動も早まっていく。  玄介さんの手が下肢へと伸びてきて私の秘部へと触れる。  指先で撫でられてびくりと身を震わせながらも拒むことは無く、むしろもっと触れて欲しいという欲望を抱いてしまっている自分に困惑してしまう。「眞子……俺は君の全てが欲しい」  彼の言葉に頷くと同時に彼は私の両足を割り開く。そして中心に顔を埋めて舌を這わせてきた。その途端に電流のような快感が駆け抜けた。「やっ……んっ……はぁ……」 敏感な突起を舐められ吸われて甘噛みされる度に快楽が押し寄せてくる。思わず声が漏れてしまい慌てて口元を押さえた。「我慢しないで声出して」 低い声で囁かれればそれだけでゾクゾクとしてしまう。恥ずかしさと快感が入り混じった複雑な感情が押し寄せてくるものの拒むことも出来ずに、ただ彼の愛撫を受け入れるしかなかった。  秘部の上を何度も往復させながら舐め続けているうちに蜜が溢れ出し彼の舌によって掻き出されていく。その度に甘美な刺激に襲われて意識が飛びそうになる。「んっ……はぁ……あっ……んっ……」 舌先で転がされて擦り付けられて吸い付かれると堪らず声を上げてしまった。あまりの気持ち良さに腰が揺れてしまうのを抑えられない「気持ちいい?」「ん……気持ち……いい……」 喘ぐように答えると更に攻め立てるよ
last updateLast Updated : 2025-05-22
Read more
PREV
1
...
456789
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status