Home / BL / あやかし百鬼夜行 / Chapter 21 - Chapter 23

All Chapters of あやかし百鬼夜行: Chapter 21 - Chapter 23

23 Chapters

九十九の願い事⑪

「……青藍」 佐加江は、何度か瞬きを繰り返す。 外便所へ行った事を思い出したが、そのあとのことは青藍の仕業かと彼を軽く睨みつけた。 「そうやって人のことからかって、面白い?!」 「いや、あの」 「僕のことなんか、放っておいて。あんな風に脅かされて、怖かったんだからね。すごく怒ってるんだから」 「ーー申し訳ありません」 「そう!悪いことしたら、謝るの。良くできました!」 腹の虫が収まらない佐加江は、つい幼い頃の癖で青藍の角を片手で掴んでガシガシと撫でた。すると、彼はうっとりと表情を弛める。なんとも甘やかな表情に佐加江は赤面し、肌に吸い付く濡れたパジャマに怒りの矛先を向けた。 部屋へ着替えに行こうとしたが、立ち上がると同時に佐加江の下腹部辺りでドクンと何かが脈打つ。 「……に、これ」 臍の下あたりに、経験した事のない痛みが走った。呼吸が止まるほどの激痛だ。 男の子宮が目覚めるとき、腹痛があると越乃から教えられた。男性器を受け入れやすくするために内蔵の位置が大きく変わるのだ、と。そして、落胆する佐加江に夢を見させようとしたのか、越乃はこんなことも言っていた。 ーーアルファとオメガには、運命の相手がいる。 その相手の側で発情を迎えると、より妊娠しやすくなるよう身体が準備をするため、下腹部の痛みは酷いものになるらしい。が、これがそうなのか佐加江には分からなかった。 「痛……ッ」 腹を押さえ、うずくまった佐加江に駆け寄ろ
last updateLast Updated : 2025-05-09
Read more

九十九の願い事⑫

「初めてなの」「綺麗な色をしています」「暗くて見えないくせ……、に」「鬼は夜目が利くのですよ。暗くても真昼のように見える」 その言葉にハッとした。佐加江はパジャマの裾を伸ばし、勃起してしまっている性器を隠そうとする。道理で青藍の目が暗がりでもはっきりと見えたわけだ。今も海中の夜光虫のように、青白く二双の瞳が闇に浮かんでいる。 膝に割り込まれ股を広げる姿も、頬を高揚させている顔も青藍に見えてしまっているかと思うと堪らなかった。「……んふ」「随分と苦しそうですね」 青藍の目を見つめながら、佐加江は小さく頷く。体内で軋む子宮が、何か別の生き物のように身体の底で、番を迎えることを待ちわびている。「人の丙の前でこんな顔をされたらと思うと、嫌なものです」 「あ……っ」「大丈夫ですよ。爪はしまいましたから」 独り言のように呟いた青藍の言葉の意味を理解するよりも先に、指先がニュルっと後孔へと入り込んだ。が、初めてという事もありそこは狭く、押しだそうとしている。 声というよりは、喉から空気が抜けたような気のない音が漏れる。押し広げられる感覚に内腿が震え、背中は畳の上をずりあがろうしていた。 ゆっくりと繰り返される抽送。鼻にかかったような甘ったるい喘ぎに、佐加江は必死に手の甲を噛んでいた。臍の辺りに落ちた髪にしゃらしゃらとくすぐられ、その毛先は胸を通り過ぎ、頬をなでる。 外の雷雨は激しさを増すばかりで、一瞬の稲光が雨戸の隙間を縫って二人の距離を白日の下へ晒した。息遣いが触れ合う距離。すぐそこに落ちたような雷鳴におののき、佐加江は青藍にしがみついた。「昔から、お前は怖がりです」 「ち、違う」 みぞおち辺りがヒクヒクして、嗚咽が止まらない。「……オメガで良かったなって。こんな風に発情が起こらなかったら、青藍に相手にしてもらえなかったと思うと」「発情が起こらな
last updateLast Updated : 2025-05-10
Read more

九十九の願い事⑬

廊下を歩く足音が聞こえる。 雨戸を閉め切ったまま何日も過ごした自室の布団の中で、佐加江は目を覚ました。「佐加江!」「……おじさん」「とうとう来たのか」 家中に充満した精液とフェロモンの残り香。越乃がハンカチで鼻と口を覆い、眉間にしわを寄せながら雨戸を開けていた。佐加江は久しぶりに浴びた陽射しに目を細める。「……うん」 「薬は飲まなかったのか」 「わけが分からなくなっちゃって」「そうか。……心配した。何度も電話したんだ、携帯にも保育園にも。村長も尋ねて来ただろう。一人で心細かったな、大丈夫だったのか」「青藍が、いてくれたから」 越乃は妙な胸騒ぎを覚えた。この村に、そんな名前の男はいない。それに抑制剤を飲まなかったとなると、フェロモンの匂いで様子を見に来たアルファである村長が気付くはずだ。取り乱した越乃が、佐加江のうなじを見たが噛み跡はなかった。「セイランというのは、……誰だ」 窓から見える鬼治稲荷神社の赤い鳥居を、佐加江が見つめている。「佐加江、よく聞きなさい。仕事は辞めていい。連絡はしておくから、もう行くな」「おじさん、何を言ってるの?」「無断欠勤を一週間もして、ご迷惑をおかけしたんだ。家にしばらくいなさい」 「でも」 「家から一歩も出ては駄目だ」 それだけ言い残し、越乃は急いで診療所へ向かった。「学長、とうとう来たようです」 診察室にある備え付けの電話で、越乃は佐加江に聞こえないよう小さな声で藤堂へ連絡を入れた。「ええ。いろいろあったようですが、噛み跡はついてません。今日から一歩も外へは出さないつもりですが、……もしもし?」 電話が切れてしまった。途中、ノイズが入ってよく聞き取れなかったが、内容は伝わっただろう、と越乃は受話器を置いた。
last updateLast Updated : 2025-05-11
Read more
PREV
123
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status