「ああ」浩平は短く答えると、そのまま階段を上がっていった。蛍は浩平の後ろ姿を見つめ、その美しい顔にどこか複雑な表情を浮かべた。やがて彼女はスプーンを置き、スマホを取り出した。蛍はラインを開くと、母親とのトーク画面にメッセージを送った。【お母さん、浩平兄さんの奥さんに会ったよ。妊娠してるらしいの】......一方で、部屋に戻った詩乃は、トイレへ駆け込み吐いてしまった。ここに来てから初めてのつわりだった。寝不足のせいか、食べたばかりの朝食を全部戻してしまった。胃はまだ痙攣するように気持ち悪い。便器の前にひざまずき、何度もえずいたが、もう何も出てこない。涙で顔がぐちゃぐちゃになり、肩を小刻みに震わせながら、彼女は心身共に耐えがたい苦痛にさいなまれていた。そして、部屋に入ると、バスルームから聞こえる嘔吐の声にはっとした浩平は慌ててバスルームへ向かった。「詩乃!」その声を聞いて詩乃の背中がこわばったが、反応する間もなく、浩平が隣にしゃがみこみ、大きな手で優しく彼女の背中をさすってあげた。「また吐いたのか?」それから、浩平は詩乃を立たせると洗面台まで連れていき、蛇口をひねってコップに水を汲み、彼女の口元へ運んだ。「まずは口をゆすって」詩乃はもうぐったりしていて、洗面台についた両手もかすかに震えていた。うつむいて水を一口含むと、口をゆすいで吐き出した。数回繰り返すと、胃の不快感はずいぶん和らいだ。詩乃の様子を見て、浩平は彼女を横に抱き上げてバスルームを出た。彼は詩乃をベッドに寝かせると、布団をかけてやった。彼女の青ざめた顔を見て、浩平は眉をひそめた。その深い瞳には、痛ましげな色が浮かんでいた。「まだ気持ち悪いか?」だが、詩乃は首を横に振り、目を閉じた。「疲れたの。眠りたい」激しく吐いたせいで彼女の声はかすれ、目じりには涙が光っていた。浩平は、吐いたせいで自然に出た涙だと思い、指の腹でそっとぬぐってやる。「テントで寝るか?」彼の声は低く、優しかった。だが、詩乃は首を振った。「大丈夫」彼女が本当に辛そうなのを見て、浩平は小さく息をついた。「わかった。下に降りて経口補水液を用意してくるよ。全部吐いただろうから、少し水分を補給しないと、脱水症状がでたら大変だ」詩乃は目を閉じたまま、かす
Baca selengkapnya