All Chapters of 碓氷先生、奥様はもう戻らないと: Chapter 1141 - Chapter 1150

1150 Chapters

第1141話

「前から疑問だったんだけど、岡崎家と我妻家の先代って親しい間柄だったのに、今回我妻家であんな大変な事が起きたのに、どうしておじいさんは一切表に出たりしていないの?」「おじいさんは随分前に認知症と診断されて、以前はほんの二三日意識がはっきりすることもあったけど、ここ何年はもう全くダメで、記憶が全部なくなってしまって、今は家族も誰だか分からなくなっているんだ」「なるほど」音々は首を横に振り、ため息をついた。「これじゃ、ますます、我妻家は終わりそうね」詩乃は唇を噛みしめ、下腹を見つめた。「もう誰かの操り人形にはなりたくない。ここを出て、自分の力で稼いで生きていけると思っていたのに......でも、よりによって......」よりによって、こんな時に妊娠してしまった。あの夜は本当に偶然だった。それ以来、浩平とは連絡を取っていない。浩平に伝える勇気もなかったし、彼が受け入れてくれるとも思えなかった。産むことも考えた。でも、未婚の女が子供を連れて......詩乃は、自分が良い母親になれる自信がなかった。「浩平さんに連絡してみたらどう?」音々は提案した。詩乃は一瞬たじろぎ、それから強く首を横に振った。「彼にだけは知られたくない!」「どうして?」音々は眉をひそめた。「浩平さんはもう我妻家とは関係ないんでしょ?それに、あなたたちには血の繋がりもないんだから、もしかしたら責任を取ってくれるかもしれないじゃない」「そんなことできない......」詩乃は青ざめた顔で言った。「兄さんには好きな人がいるの」音々は言葉を失った。詩乃に同情するか、野次馬根性を満たすか......悩んだ末、音々は後者を選んだ。「どうして知っているの?まさか、本人から聞いたわけじゃないよね?」「兄さんから聞くわけないじゃない!」詩乃は言った。「偶然見つけてしまったの。兄さんが映画監督になったのも、その人のためだった」「じゃ、彼はなぜ、その人とは一緒にいないの?」「彼女は亡くなったの」詩乃は言った。「孤児で、絵を描くのがとても上手だったんだけど、大学1年の時に鬱病で自殺してしまった」音々は驚いた。絵の才能、鬱病......音々はすぐにこの二つのキーワードに気づいた。なるほど、浩平が真奈美の絵にこだわるのは、多分真奈美にその女性の面影が
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第1142話

いよいよ、12月8日、結婚式の前日になった。北城からは、輝と音々の友人や身内が星城に到着したのだ。音々は我妻家とは和解していないため、実家側の代表は祐樹が務めることになった。祐樹は花嫁の兄として結婚式の準備に携わり、岡崎家も彼の意見を尊重した。祐樹にとって初めての経験だったが、彼の落ち着いた風格には岡崎家の家族や友人も高く評価していた。綾や星羅たちは、「ザ・ノーブルガーデン」に滞在することにした。「ザ・ノーブルガーデン」は雄太が所有する山手の別荘だが、2週間前にもう音々の名義に変更されいたのだった。別荘はとても広く、綾と星羅たちだけでなく、真央と香凜、Kの三人も滞在していた。詩乃は昨夜10時過ぎに到着し、音々は真央に空港まで迎えに行かせた。そして、別荘に戻ったのは、11時を回っていた。子供たちは既に寝ていたので、今こそ花嫁と友人たちの楽しい時間だ。1階のシアタールームでは、音楽が流れ、グラスがぶつかる音と談笑する声が響き渡っていた。綾はジュースを飲みながら、音々が一人で何人もの相手と酒を酌み交わすのを見ていた。そして星羅、香凜、K、そして浩平が加わっても、音々一人には敵わないようだった。こういう光景は、彼らにとってはもはや見慣れたものだった。誠也と丈は傍観していた。二人とも健康に気を遣うタイプで、お茶を飲みながら、騒ぐみんなを静かに見守っていた。そこへ、真央が厚い防音ガラスのドアを開けて、「詩乃さんを連れてきました!」と告げた。その言葉に、盛り上がっていた一同は静まり返り、一斉に真央の方を振り返った。真央は詩乃を連れて中に入った。詩乃はずっとうつむいていた。彼女はまさか浩平がいるとは思ってもいなかった。もし知っていたら、絶対について来なかったと後悔の念に苛まれていた。一方で、浩平は詩乃の姿を見て、一瞬動きを止めた。音々は浩平の反応をじっと窺っていた。しかし詩乃と比べると、浩平の反応はあまりにも普通すぎた。「詩乃、こっちへ来て」音々はグラスを置いて、詩乃に手招きした。詩乃は顔を上げて、音々に近づいて行った。音々は詩乃の手を取り、「お酒は飲めないでしょ?綾と一緒に座ってて」と言った。詩乃は綾の方を見た。綾は詩乃に優しく微笑みかけて、「詩乃さん、久しぶり」と言った。
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第1143話

詩乃は慌ててスマホを取り出し、ラインを開いて、「二宮社長、私が追加しましょうか?」と言った。「うん」そう言って綾は自分のQRコードを表示した。二人がラインの友達になると、音々は詩乃を綾に任せて、再び皆と盛り上がりにいった。真央はさっき詩乃を迎えに行っていたので、参加していなかった。だからこの時、真央と浩平はまだ何とか音々と張り合えていたが、他の人たちは既にダウンしていた。星羅は最初に負けを宣言し、丈に運ばれて休憩に戻った。香凜とKも顔が真っ赤になっていた。お酒は弱くない二人だが、明日は花嫁花婿の付き添いをしなければならないので、これ以上飲むのはやめて、降参した。なのに、当の音々はまだグラスを片手に、余裕綽々としていた。音々は一滴も飲んでいない真央と、ブランデーを3杯飲んでも顔色一つ変えない浩平を見て、眉を上げた。「二人とも、本当に降参しないの?」真央は言った。「私はまだ飲んでありませんよ。降参する理由がないでしょう!」「そう、まだ始めていないのね。じゃあ、続けて」音々はそう言って、浩平を見た。「我妻監督、あなたは?」浩平はグラスを手に持ち、眼鏡を軽く押し上げながら、落ち着いた様子で言った。「​ご祝儀はちゃんとあげたんだから、これくらい飲ませてくれてもいいでしょ?」音々は言葉に詰まった。そこまで言われたら、音々も止めるわけにはいかないと思って、容赦をしないつもりになった。音々はボトルを持ち、三人のグラスをいっぱいに注いだ。「じゃあ、乾杯しよう!飲めなくなりそうだった言ってね......」それから三人は一歩も譲らず、飲み続けた。一方で、綾と詩乃はジュースを飲みながら、その様子を見ていた。そして詩乃は、思わず何度も浩平の顔を見てしまうのだった。綾もそれに気づいた。彼女は何も聞かなかったが、詩乃の浩平を見る目が少しおかしいことに気づいていた。この時、音々の机に置かれたスマホは、ずっと鳴り続けていた。しかし、音々は気づいていなかった。そしてついに、綾のスマホが鳴った。輝からだった。綾が電話に出ると、輝の声が聞こえてきた。「綾、音々と一緒か?」「みんなでシアタールームにいるよ」「じゃあ、なんで音々は電話に出ないんだ?」綾はまた飲み続けている音々を見て、小さく笑った。「今、
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第1144話

綾はテーブルの上の空になった酒瓶に目をやった。かなりの量を飲んでいる。音々は酒に強いとはいえ、酒は体にいいものじゃない。ほどほどにしておくべきだ。本当に命に関わることになったら大変だ。綾は輝に言った。「そろそろ休もうと思うんだけど、輝、あなたも早く寝た方がいいよ」輝は綾の言葉を聞いて安心した。そして彼は明日の結婚式の迎えの件について再度念を押してから、電話を切った。そして、綾もスマホを置いて、音々の手からグラスを取り上げた。「もう部屋に戻って休んだ方がいいよ。寝不足だと明日のメイクのノリが悪くなるよ」そう言われて、音々は素直に引き下がった。「我妻監督、今夜は私の負けね。明日、明日また勝負しよう!」そう言って音々は詩乃の方を向いた。「詩乃、飛行機で疲れてるでしょ。今夜はあなたと真央......いや、真央は酔うとひどいから、あなたを蹴飛ばしたりするかもしれないし......3階の東側のゲストルームを使ってくれる?部屋は片付けてあるから、すぐ使えると思うよ」詩乃は立ち上がり、「お姉さん、分かった」と答えた。音々は手を振って、「それじゃあ、私は先に休むね。皆さんもお休み」と言った。花嫁が去ると、友人たちもそれぞれの部屋に戻っていった。真央はすでに泥酔して意識がなかった。片や香凜とKもだいぶ酔っていたが、意識ははっきりしていたので、二人で協力して彼女を部屋まで連れて行った。誠也と綾も部屋に戻った。ほどなくして、深夜の別荘は、急に静まり返った。そして、真央は部屋に戻る途中で吐いてしまい、かなり酔っていたようだ。そこを使用人が掃除をしていたのだった。それを見た詩乃は使用人に、「キッチンにトマトはある?」と尋ねた。「はい、冷蔵庫にあります。お持ちしましょうか?」「ありがとう。自分で取りに行ってくるよ」「かしこまりました」詩乃はキッチンに行き、冷蔵庫からトマトを2つ取り出した。トマトジュースは二日酔いに効くらしい。詩乃は大学時代に海外留学していた時、浩平としばらく一緒に暮らしていた。当時はまだ兄妹として、仲良く過ごしていたんだった。浩平はある日、接待で飲みすぎて、帰宅するとソファに倒れこんで頭痛を訴えたのだ。あの時のことを思い返すと、詩乃は当時彼らの食事の世話をしてくれていた使用人
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第1145話

真央はすっかり酔っていたが、酒癖は悪くなかった。詩乃は真央がトマトジュースを飲み干すのを見届け、ようやく胸を撫で下ろした。トマトジュースを飲んだ後、真央は胃が温まり、気分が良くなった。そして、そのままベッドに倒れこんで眠ってしまった。詩乃はずっと真央のそばで見守っていた。彼女が汗をかいているのを見て、ティッシュで額の汗を拭いてあげた。そして、真央の呼吸が安定し、深く眠っていることを確認してから、彼女は静かに部屋を出て行った。......それから、詩乃は空になったカップをキッチンに持っていくと、キッチンにあったトマトジュースの入ったカップがなくなっていることに気づいた。どうやら使用人がもう浩平に届けたようだ。詩乃は空のカップをシンクに置き、キッチンを出て、3階へと向かった。荷物は使用人が既に部屋に運んでくれていた。詩乃は、音々が言っていた東側の部屋のことを思い出した。そして、彼女は東側の部屋のドアを押して、中に入った。部屋の電気はついていた。しかし、奥に進むにつれ、何かがおかしいと感じ、足を止めた。大きなベッドの上に男性用の黒いジャケットが置いてあり、ナイトテーブルの上にある腕時計に見覚えがあった......詩乃はドキッとした。まさか、部屋を間違えた?ちょうど出ようとしたその時、バスルームのドアが「カチャッ」と開いた。それを見た詩乃は息を呑み、その場に立ちすくんでしまった。バスローブを着た男性は、襟元が大きく開いており、胸元や腹筋には水滴が滴り落ちていた......その瞬間、詩乃の頭は真っ白になった。あの夜の出来事が、不意に、そして鮮明に蘇ってきた。逃げ出したいのに、足は根が生えたように動かない。目を見開いて何か言おうとするけれど、声が出ない。「お、お兄さん......私、私は......あなたは......」彼女はそう言いつつ、このまま気を失えたらどんなにいいかと思った。浩平はドアを開けると、詩乃が自分の部屋に立っているのを見かけた。状況を理解する間もなく、詩乃の怯えた表情が目に入った。彼は眉をひそめた。自分がそんなに恐ろしいのか?と思った。「ここは俺の部屋だ」浩平はさりげなくバスローブの襟を正してから、詩乃の目を見て、落ち着いた声で言った。「あなたは小さい頃から
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第1146話

自分の部屋に戻ると、詩乃はドアを閉めて、大きく息を吐き出した。しかし、兄の態度は以前と何も変わらなかった。本当に、何も覚えていないのだろうか?本来なら安心するべきなのに。なぜか、胸にぽっかり穴が空いたような喪失感を感じた。詩乃はお腹を撫でながら、心にチクリと刺されたようだった。この思いがけない小さな命とは、もうすぐお別れだ。妊娠ホルモンのせいなのか、この小さな命がもうすぐ自分のもとを去ってしまうと思うと、詩乃はたまらなく名残惜しかった。彼女は重いため息をつき、着替えを持ってバスルームへ向かった。その夜、詩乃はベッドの中で何度も寝返りを打ち、なかなか寝付けなかった。......そして、時はあっという間に午前4時になった。別荘の外で車の音が聞こえた。花嫁のスタイリストチームが到着したのだ。雲は岡崎家の古株として、雄太に頼まれ、ここ数日手伝いに来ていたのだ。彼女はスタッフを招き入れ、2階の音々の部屋へと案内した。音々は昨夜お酒を飲んだので、今ごろはぐっすり眠っているだろう。雲はドアの前に立ち、ノックした。反応はない。雲はいつものことのように微笑んで、言った。「花嫁さんは昨夜お酒を飲んだから、まだ寝ているんでしょうね。少しお待ちください。私が起こしてきます」それを聞いて、メイクアップアーティストとアシスタントは笑顔で頷き、「分かりました」と答えた。雲はドアを開けて中に入った。ドアは少し開いていて、中から話し声が聞こえてきた。「4時ですよ。起きる時間ですよ」「雲さん、あと30分だけ寝かせて」「ダメですよ、さっき岡崎さんがわざわざ私に電話して念押ししてきましたから。あなたが起きられないって、とっくに見抜いてたんです。9時には迎えに来るから、準備が出来ていなければ、そのまま抱き上げて連れて行くとも言っていましたよ!」「そんなことさせないから!」音々はベッドから飛び起きて、あくびをしながら怒ったように言った。「綾たちに、結婚式のゲームをネットでたくさん調べてもらったんだから、彼が全部クリアしないと結婚してあげられないんだから!」それを聞いて、雲は笑って言った。「それなら早く支度しなさい。カメラマンも下に待っていますよ。式の様子は全部録画するんだから、花嫁らしくしないとダメですよ」
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第1147話

その頃、他の人たちも次々と目を覚ました。星羅は昨夜飲みすぎて、目が覚めると頭が割れるように痛く、胃もむかむかして吐き気がしていた。まるで魂が抜けたようだった。丈に「君は本当にダメだな」と言われ、星羅はベッドに突っ伏したまま、蒼空を連れ出してほしいと頼んだ。彼女はもう少しだけ眠りたかったのだ。仕方なく、丈は蒼空の手を引いて部屋を出て、ちょうど3人の子供たちを連れた誠也と出くわした。誠也は光希を抱きかかえ、優希と安人は彼の後ろをついて歩いていたところだったが、蒼空の手を引いて出てきた丈を見て、軽く眉を上げた。「星羅は飲みすぎたのか?」「二日酔いでぐったりしてるよ」と丈は言い、そして尋ねた。「綾さんは?」「音々の付き添いに行ってる」丈は頷いた。「じゃあ、今日は私たちが子守だな」そう言われて、誠也は薄っすら笑った。それから、二人の大の男は4人の子供たちを連れて階下に降りた。階下では使用人たちがすでに忙しそうに働いていた。きちんとしたスーツを着こなし、花嫁の兄としての風格がバッチリと決まっていたのだ。「おめでとうございます!今日はめかし込んでますね!」丈は祐樹を見て笑いながら言った。「昨夜はどこにいたんですか?」「音々の結婚プレゼントを準備していました」そう言って祐樹は落ち着いた様子で、2階に視線を向けながら続けた。「音々はもう起きていますか?」「今、化粧をしているところです」誠也は尋ねた。「彼女に会いたいですか?」祐樹は頷いた。「化粧が終わってからにしましょう」誠也はそれ以上何も言わなかった。祐樹が音々に特別な感情を抱いていることは、誠也も気づいていた。しかし、祐樹は非常に理性的で自制心のある人間だった。音々が彼を兄としてしか見ていないことをよく理解していたので、他の感情を抱くことはなかった。音々には兄役が必要なら、彼はその役割をきちんと果たそうと思っているようだ。誠也は、祐樹が感情をコントロールする力に感心していた。もし自分が同じ立場だったら、到底できないだろうと思った。「花嫁さんの化粧が終わりました!」アシスタントが2階から降りてきて、カメラマンに声をかけた。「そろそろ撮影の準備をお願いします」「はい!」カメラマンは機材を担ぎ上げ、祐樹の方を向いて言った。「あなたも一緒に来て、家族写
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第1148話

祐樹は封筒で音々の頭を軽く叩きながら言った。「そんなわけないだろ。俺はまだ老後の資金を残さないいけないからな」それを言われて、音々は封筒を押し戻しながら言った。「老後だけじゃだめだよ!あなたはまだ結婚してないんだから!これは自分で持っておいて。結婚するとなったら、お金がかかるんだから」祐樹は真剣な顔つきで言った。「いいから、受け取っておけ。岡崎家がお金を気にしないのは分かっている。だけどこれは、俺が兄として、あなたにあげたものだ。俺の気持ちなんだから、受け取ってくれ」その言葉を聞いて、音々は泣きそうになりながら、祐樹を見つめて鼻をすすった。「お兄さん、その言い方......泣いちゃうよ」祐樹は冗談めかして言った。「泣いちゃだめだぞ。メイクが崩れたら、写真写りが悪くなるだろう」音々は笑ったが、涙がこぼれ落ちてきた。そして、彼女は祐樹に抱きつきながら言った。「お兄さん、ありがとう!」祐樹は音々を抱きしめ返そうとしたが、結局、彼女の頭を撫でるだけにとどめた。「バカだな、あなたは俺の妹だ。お祝儀にそれくらい用意してあげるのは当たり前だろ」音々は祐樹から離れ、鼻をすすりながら言った。「お兄さんが結婚するときは、私もお祝儀奮発するからね!」祐樹は笑った。「分かった。ここにいる皆が証人だ。後から、なかったことにするなよ」音々は彼を睨みつけた。「なかったことになんてするわけがないじゃない!」そこへ、綾が近づいて言った。「さあ、これで準備ができたわね。メイク直しをして、記念撮影よ」音々は頷いた。メイクさんすかさず音々のメイクを直した。記念撮影の時、詩乃は少し緊張した様子で隅に立っていた。祐樹と音々が何枚か写真を撮った後、音々は詩乃に手招きした。「詩乃、こっちへ来て」すると、詩乃は目を輝かせて、すぐに近づいて言った。「お姉さん」「お兄さん、詩乃とも一緒に写真撮ってもいい?」祐樹は、もちろん構わなかった。そして、音々は右腕で祐樹に、左腕で詩乃に寄り添うと、その瞬間をカメラマンはバッチリと収めた。写真撮影が終わると、詩乃は音々に小さな箱を差し出した。「お姉さん、これ、ほんの気持ちばかりのプレゼントよ。あまりお金がなくて、つまらないものだけど......気にしないで」これは詩乃が自分の稼ぎで買ったものだっ
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第1149話

別荘の中で、綾は詩乃の手を引いて部屋から出て、すぐにドアを閉めた。「詩乃さん、私たちがこのゲーム最後の砦よ。これは質問カード、後であなたが質問してね」そう言って、綾は詩乃にカードを渡した。それを言われ、詩乃は少し恥ずかしそうに言った。「私、私がですか?」「そうよ、あなたはまだ結婚してないし、イケメンの付添人男性はたくさんいるから、頑張ってね」星羅は詩乃に意味ありげな笑みを浮かべた。詩乃は顔を赤らめながら言った。「私は、私は結婚を急いでませんので」「あなたもそろそろ年頃じゃない?」星羅は言った。「ところで、どうしてあなたは付添人をやらないの?」詩乃は元々、音々の付添人を務めるつもりだったが、妊娠していることが分かり、大事をとりその役目を断ったのだった。だけど、今それを聞かれると「付添人はもう足りていますから」詩乃は気まずそうに答えた。すると、綾は意味深な様子で詩乃を見つめた。星羅は大雑把な性格で、詩乃の異変に気づかなかった。そうこうしていると階下では、輝が男性陣を引き連れて玄関から入ってきていた。男女の付添人グループはそれぞれ8人ずつ。輝には男性陣の応援があり、女性陣は奇策を弄したが、難なく課題をクリアし、無事に最終関門までたどり着いたようだ。そして、花嫁の部屋の前。綾、星羅、詩乃の3人の女性がドアの前に立ちはだかっていた。輝が男性陣を連れてやって来て、カメラマンがその様子を撮影していた。輝は花束を抱え、3人を見て言った。「最終関門だな、さあ、かかってこい!」綾は笑って言った。「輝、この最終関門は音々が特に念を押していたんだけど、あなただけが挑戦できるのよ」そう言うと、男性陣は一斉に騒ぎ始めた。輝の幼馴染の何人かはユーモアのセンスがあり、一人が冗談めかして叫んだ。「奥さんは文武両道だって聞いたぞ。輝、このまま降参したらどうだ!」そう言うと、みんなは大笑いした。輝は手を振って制止した。「邪魔するな、音々には考えがある。彼女の言うとおりにする!」それを聞いて、幼馴染たちは笑って言った。「輝、覚悟はできているようだな!」その時、綾は詩乃を軽く促した。「あなたが読んで」詩乃は頷き、輝の方を向いて言った。「岡崎さん、お姉さんが10個の質問を用意している。全部答えられたら、ドアを開けてあげ
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第1150話

すると、詩乃は目元を震わせ、慌ててうつむいた。浩平は身長190センチ近く、肩幅も広く、脚も長い。さらに顔も端正で、高い鼻梁には金縁眼鏡をかけており、知的で禁欲な雰囲気を醸し出していた。彼はスーツの上着を脱ぎ、隣にいた友人に手渡すと、袖口と襟のボタンを外した。その一連の動作は、ゆっくりとしていて丁寧だった。花嫁の友人たちも、思わず見とれていたほどだった。皆も自然と浩平のためにスペースを空けてあげた。浩平は袖をまくり上げ、たくましい腕を露わにした。そして、彼は両手を床につけ、つま先を地面に立て、完璧な腕立て伏せの姿勢をとった。「1、2、3......」傍らで皆も一斉に浩平の動きに合わせて、数を数えた。彼の動きは無駄がなく、とても速かった。力を入れるたびに、腕や手の甲の筋が浮き出て見えた。一方で、詩乃は浩平が腕立て伏せをする様子を見ながら、手に持った質問カードをぎゅっと握りしめていた。そして、あの夜の出来事が、不意に脳裏に蘇ってきた......「80、81、82......」100に近づくにつれて、皆の声はさらに高揚していった。そして、ついに「100」と叫んだ瞬間、周囲は歓声に包まれた。浩平は動きを止め、立ち上がって両手を叩いた。少し息が上がっていたが、表情は落ち着いていた。星羅は思わず言った。「監督って、撮影のために昼夜逆転の生活で、身体を壊しやすいって聞くけど......我妻監督は全然そんなことなさそうね」それを聞いた詩乃は、うつむき加減に小さく微笑んだ。他の人はどうだか知らないけど、兄のことはよく分かっている。普段からトレーニングを欠かさず、撮影に入っても、毎日続けているのだ。それに、徹夜するのは脚本を書いたり、編集作業をする時だけで、普段の生活リズムや食生活はとても規則正しい。今の若い世代の中では、かなり自制心が強いほうだと言えるだろう。花嫁の友人の中で、真央、香凜、桃子、霞の4人は、音々が昔からよく知っている仲だった。残りの4人は、輝の友達で、皆地元の名家の令嬢だった。その中に、古川家の令嬢、古川澪央(ふるかわ みお)がいた。彼女は、最近海外留学から帰国したばかりのダンサーで、浩平を初めて見た時から、その容姿と雰囲気に惹かれていた。浩平が涼しい顔で100回の腕立て伏せ
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