All Chapters of 碓氷先生、奥様はもう戻らないと: Chapter 1161 - Chapter 1162

1162 Chapters

第1161話

「俺が冗談を言ってるように見えるか?」浩平は少し困ったように言った。「詩乃、俺はそんなひどい男じゃない。あの夜はたしかにアクシデントだったけど、もう覚悟は決めたんだ」詩乃にはその意味がわからなかった。「覚悟を決めたって、どういうこと?」「あの日、目が覚めたらあなたはもういなかった。人に調べさせたら、北城に行ったと分かったんだ。北城には音々さんがいるから、あなたもきっと大丈夫だろうと思って、俺は安心してH市に残ってお父さんと交渉を続けた」浩平の低い声が、静かな病室に響いた。「お父さんは口では、俺とあなたを結婚させて、俺を我妻家の婿養子にするってなんてうまいことを言っているが、でも本当は、俺たちを跡継ぎを産むための道具としか思ってないんだ。音々さんの子は岡崎家が全力で守るだろうし、前の騒動で立場が弱くなった我妻家は、もう岡崎家には逆らえないはず。お父さんはそれを分かってるから、後ろ盾のない孤児の俺と、昔から大人に逆らえなかったあなたに目を付けたんだ」それを聞いて、詩乃はため息をついた。「なんだか私たち、すごく可哀想ね。やっぱり立場が弱いといいように扱われてしまうのかな」浩平はそう言う彼女の言葉に思わず笑えてきた。「それはお父さんや我妻家の連中がそう思ってるだけだ。俺はもう我妻家を出た。後ろ盾になる家はないけど、今まで築いてきた資産と人脈があれば、お父さんの言いなりにならないといけないってこともないから」「だったらなんで、息子を兄さんの養子に出すって、お父さんと約束したの?」「俺が断ったら、彼がそれで引き下がると思うか?」詩乃は言葉を失った。「俺がお父さんに同意したから、彼もおばあさんもあなたのことを見逃して、入江家との結婚を無理強いするのをやめたんだ。彼らにとって今は、入江家との縁談よりも、我妻家の血を引く跡継ぎの方がずっと大事だからな」それを聞いて、詩乃はようやくことの全貌が分かった。「じゃあ、私が今まで、北城でこんなに自由に暮らせていたのは、我妻家が私を諦めたからじゃなくて、あなたがとっくに話をつけてくれてたからなのね」「ああ」浩平は詩乃の頭を撫でた。「でも心配するな。もし本当に男の子が生まれても、あいつらには渡さない」「でも、渡さなかったら......」詩乃は心配そうに言った。「彼らが黙っているはずないで
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第1162話

今の国内では、結婚するのに戸籍謄本がなくても婚姻届と本人確認書類があれば入籍ができるようになったのだ。浩平はそれからS国のある山の麓の小さな町に家を買い、婚姻届を提出した後、彼は詩乃を連れて、そこで体を休めることにした。今まで、浩平は映画を撮っていない時は、ほとんど世界中を旅していた。特に計画は立てず、カメラを片手に気の向くままに旅をするのが彼のスタイルだった。でも今は詩乃が妊娠しているから、彼も気が向くまま旅をすることはできなくなった。それに、彼女のつわりがひどかったのもあって、浩平は婚姻届を出した三日後には、音々たちに別れを告げ、詩乃を連れてS国へ飛んだのだ。S国に着くと、浩平は詩乃の体を気遣い、まずはS国の首都でしばらく滞在することにした。この時期、そこは旅行のハイシーズンだった。すると、詩乃のつわりは不思議と、外に出て街をぶらぶらしている間には治まり、元気で食欲もわいていたのだが、部屋に戻ったとたん、ぐったりしてしまうのだ。浩平も最初、偶然だと思って、三日間滞在している間、彼は毎日、昼になると詩乃を連れて遊びに出かけた。しかしやはり、外にいる間、詩乃は元気いっぱいで、何でもおいしく食べられた。でもホテルに戻ると、三十分もしないうちにめまいと吐き気に襲われ、昼間に食べたものを全部吐いてしまうのだった。そこで、悩んだ浩平は産婦人科の医師に相談してみると、妊婦には個人差があり、薬で改善できるものではないので、本人がどう感じるかを一番に考えるしかないと言われたのだ。結局、どうすれば一番楽でいられるか、本人に合わせるしかないということだ。だから、浩平は四日目に詩乃を連れてあの山の麓の小さな町へと向かった。そこは景色が美しく、空気もきれいだった。そして何より、ゆったりとした時間が流れていて、休暇を過ごすにはぴったりの場所だった。もちろん、妊娠初期のひどいつわりに苦しむ詩乃にも、うってつけの環境だった。そして、浩平は詩乃が夜でも快適に過ごせるように、家の外の芝生に直接テントを張った。夜になると満天の星が輝き、少し気温は低くなるが、それでも、北城の秋冬に比べればずっと過ごしやすいのだ。その日、浩平は空の下、カセットコンロで今夜の夕食を作っていた。隣のテントでは、メッシュのカーテン越しに詩乃が見えた。彼女はタ
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