Lahat ng Kabanata ng 腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~: Kabanata 61 - Kabanata 70

84 Kabanata

第61話 秘密の会と不思議の破片

 倉庫の片隅で行われたBL布教会だったが、この倉庫、何とも古びたものでいっぱいになっている。 布が掛けられていて中身が見えないものも多いが、なかなか年季が入っているようだ。倉庫そのものもだいぶ古い。「ここは古いものがたくさんあるのね?」 手近な侍女に聞いてみた。「そうですね。ここらへんは普段使われていない場所だから、秘密の会にちょうどいいと思って」 なるほど。ここはお城の奥まった場所で、普段は人の出入りもないらしい。 おかげでちょっと埃っぽい。 先ほどまで物語の朗読で声を上げ続けていたので、ちょっと喉がイガイガしている。 私が咳払いをしていると、侍女が続けた。「確かこのへんは、九百年とか千年くらい前のものを保管している場所のはずです」「かなり古いのね」 九百年といえば人間の国ことユピテル帝国の黎明期だ。 最初の王と建国の聖女の時代。 私は何気なく倉庫を見渡した。 今はたくさんの女性たちがすし詰めになっていて、楽しそうに物語の感想を言い合っている。 今後、彼女たちと萌え語りができると思うと、心が温まるのを感じた。 ……ふと。 並べられた棚の一つに目が止まった。 理由は分からない。 ただなんとなく気になったのだ。 その棚の前まで行ってみた。 上の段から大きな布が掛けられていて、中身は分からない。「どうしました?」「この棚がなんだか気になって。何が置いてあるのかしら」「じゃあ見てみましょう」 女性たちが何人かやって来て布をめくり上げた。 棚に置いてあったのは、一つが手のひらほどの破片だった。 陶器とも石材ともつかない不思議な材質で、薄暗い倉庫の中で淡く光っている。「…………」 半ば無意識に破片を一つ手に取った。 白い下地に七色の文字が複雑に描かれている。 私はこれ
last updateHuling Na-update : 2025-06-20
Magbasa pa

第62話 帝都の混迷

 その頃、ユピテル帝国の帝都では。「また魔物が出たのか! 近衛兵団は何をしている!」 皇太子ラウルの怒声が執務室に響いた。 伝令の騎士は不満そうに頭を下げながら、報告を続ける。「近衛兵団は魔物との戦いに慣れておりません。不治の傷である瘴気を受けた者もおり、戦線離脱を余儀なくされております。民の犠牲者も増えつつある状況です」「帝都の守りは近衛兵団の務め。ぐずぐず言っていないで早急に魔物を始末しろ!」「しかし」「父上には俺から奏上しておく。査定を下げられたくなかったら、命がけで働け!」 騎士が退出した後、ラウルは苦虫を噛み潰した表情で長椅子に腰をおろした。 近衛騎士団の掌握は次代の皇帝に必要な素質とされている。 このまま失態が続けば皇太子の地位すら危うくなるかもしれない。皇帝の子は彼だけではないのだから。「どうして急に魔物が現れたんだ。建国以来何百年もこんなことはなかったのに」 呻いていると、部屋のドアが開いた。「ラウル様、ご機嫌いかがかしら?」 フェリシアの妹で現婚約者のナタリーが入ってくる。自堕落な生活を続けたおかげで、すっかり体の線が緩んだ姿である。 ラウルは彼女を忌々しそうに見て、ふと思い出した。 魔物が最初に現れたのは、フェリシアがいなくなってしばらくのことだった。 もしや彼女が本当の聖女で、何らかの力で帝都を守っていたとしたら……?「ナタリー」「はぁい」「お前が光の魔力を持っているのは、本当だろうな?」「え?」 ナタリーはぎくりと身を強張らせる。 もちろん彼女は光の魔力など持っていない。 姉を陥れて婚約者の地位を奪うため、魔力鑑定をする神官を買収して結果をでっち上げたのだ。「も、もちろんですわ。あたしこそが真の聖女ですもの!」「伝説によると、聖女たちの中には光の魔力で魔物を追い払った者もいるという。次に魔物が出たら、お前も近衛騎士団に同行しろ」
last updateHuling Na-update : 2025-06-21
Magbasa pa

第63話 古い魔法陣

 人間と魔族ははるか昔に交流があった。 そういえば、そんな話は前に聞いていた。「魔族にとって九百年は長い時間よね?」 念のために尋ねると、グランはうなずいた。「うん。僕たちの寿命は百年程度だから、もう歴史上の出来事になるね」 この世界の人間の寿命は六十歳そこそこくらいだ。魔族は一回り長生きなんだね。 それでもこの年月は長いと言える。「王になると豪語していた青年か。黒い森を抜けてきたとなると、位置的にユピテル帝国の建国王の可能性があるが」 ベネディクトが腕を組んだ。 黒い森はユピテル帝国の北の国境。九百年前はまだユピテルの領土ではなかったが、近い位置ではある。 黒い森は魔物が出ることもあり、周辺に住んでいる人は少ない。今も昔もだ。 ユピテルが黒い森周辺を併合する以前も、特に『国』というものは存在しなかったはず。「その人の名前や他に一緒にいた人が分かれば、何か手がかりになるかも」「調べましょう」 ゴードンがうなずいた。「古い歴史書を紐解けば、記述があるかもしれません。学者たちにやらせます」「僕はこの破片の効果も調べたいな。ちょっと見ない術式だから、役に立つかもしれないよ」「俺も興味ある。調査にまぜてくれ。あとはフェリシアちゃんの魔力増幅の魔道具を作るのもやらねえとな」 グランとクィンタも口々に言う。 方向性は決まった。 みんなで再確認した後、それぞれの役割を果たすために倉庫を出ていった。   あれから数日が経過した。 今のところ、大きな成果はまだ出ていない。 私は魔力と体力が回復したので、瘴気の傷の負傷者を治療しながら魔道具の調整をしている。 魔力増幅の魔道具は魔族にとって日常的に使うものだと聞いたが、調整は難航した。 同じ人間のクィンタやベネディクトは一定の効果を出しているので、光の魔力が問題であるらしい。「五大属性の魔力はありふれているけれ
last updateHuling Na-update : 2025-06-22
Magbasa pa

第64話 古い魔法陣2

 聖女の祭壇に刻まれていた文字、それは。 私の幸せがあなたの幸せとなりますように。 幸福を祈る心が力となりますように。 祈りを束ねて光となりますように。 光が降り注いで、みなの活力となりますように。「……!」 グランが目を見開いた。「フェリシア、それだよ! この術式の基本原理!」「え?」「いいかい、この連なった楕円の部分が『わたしとあなた』もしくは『あなたたち』。囲みが『幸せ』。渦巻きが『祈る』だ」 一つ一つ指さして解説してくれるが、魔法陣のことはさっぱりである。「渦巻きが小さいものから大きいものに繋がっているだろ。これが『束ねる』だと思う。あと、ここにはないけど祈りが空に向かっている絵もあるはずだ。そして夜空の星が『光』。光が降り注いでいる! 謎が解けたよ!」 グランは私の手をがっしりと握った。今度は避ける暇がなかった。「基本原理さえ分かればこっちのものだ。足りない部分は推測して埋めていける。新しく作り直してもいいね!」「そんな興奮することか?」「クィンタ、お前には分からないのかい? これ、光の魔力にかなり深く踏み込んだ記述だよ」「!」 クィンタも目つきを鋭くした。 そう言われれば、幸せについての記述は光の魔力を使うときのコツと一致する。 なんと。光の魔力とは、太古の昔からハッピーパワーだったのか。 光以外の五大属性がかなり理論立った魔力として説明されているのに対して、やけに精神論的である。大丈夫だろうか。微妙に不安になる。「ねえグラン。ちなみにだけど、闇の魔力とはどういうものなの?」 光がハッピーであれば、闇は恨みつらみ妬みみたいな、いわゆるダークサイドに堕ちちゃう的なアレだったらどうしよう。「闇は夜と眠りの力だよ。魔力の中でも原初の力に近い、純粋なエネルギーだ。五大属性に枝分かれする前の最も古い力だよ」 違った。精神論ではなかった。 なぜ光だけこんなことに。
last updateHuling Na-update : 2025-06-23
Magbasa pa

第65話 ハッピーパワー

 彼の瞳には涙が浮いている。 いやごめん。幸せは祈ったけどBL的な意味です。「おいおい、魔王様よ。フェリシアちゃんの心の清らかさにつけ込んでるんじゃねえぞ」 クィンタがグランの手を振り払って、しっしっと犬を追うように手を振っている。 いやいやごめん。清らかではないです。むしろ欲望まみれで……。 グランは少しだけむくれた顔をしたけど、すぐに泣き笑いみたいな表情になった。「壊れた破片でこの効果なら、魔道具を完全に復元したらすごいことになるね。僕、頑張るよ。魔族たちが安心して暮らしていける国を作るのは、代々の魔王の悲願だった。その願いに手が届くなんて……」「あまり先走らないでね。それでも土地の浄化は難しいかもしれないから」「……うん。それでもつい期待してしまうんだ。あなたのまばゆい魔力と優しい心に」 ぱたりと涙が落ちて、グランは慌てて目元をこすった。 それから無理やり笑って言った。「さあ、僕も頑張らないとね。この魔道具を完成させて、フェリシアにぴったり合うよう調整するよ。任せて、魔道具作り、得意なんだ」 彼は机に並べた破片を見る。 その目は真剣で、以前のような身勝手さはなりを潜めていた。 この短期間で、グランも成長したのかもしれない。 そして私は思った。 こんなに凛々しい様子であれば、ゴードンとの主従カプは受け攻め交代かリバでもいいな……と。      それからさらに数日後、書庫を探していたゴードンがやって来た。「九百二十年前の記録に、人間の王の記述がありました。当時の魔王の目線から書いた回顧録のようです」 羊皮紙の束をどさりと机に置く。 ホコリをかぶった古い紙をめくっていけば、やがて目当ての記述にたどり着いた。『魔暦千二百四十五
last updateHuling Na-update : 2025-06-24
Magbasa pa

第66話 古文書

『彼女の魔力を分析して、光の魔力の本質は『祈り』であると仮定した。精神、感情の動きが魔法として放出される、極めて稀な属性である。術者の精神状態に依存するため不安定な反面、非常に大きな出力が出るときもある』 祈りかあ。私はどっちかというと『妄想』なんだけど。 幸せを強く感じて願うという意味では、それぞれでやりかたが違っても不自然ではないかもしれない。精神のありようなど、人それぞれだろうし。『魔王と魔族たちは不安定さを極力抑えて安定化し、広範囲に高出力で光を放てるよう魔道具を作った。彼女と人間たちの全面的な協力があって、二年ほどで完成した。材料は白色魔石を基剤に、七色の魔法染料を集めて魔法陣を刻んだ』 古文書には魔道具の完成図が描いてあった。 人の背丈ほどもある碑文のような形で、例の象徴化されたマークが絵画のように描かれている。『魔道具は想定通り稼働し、周辺の瘴気はかなりの範囲が浄化された。ただし彼女への負担はそれなりに大きく、一月以上寝込む結果になってしまった。起き上がれるようになっても不調が続き、何度も頼めるようなものではなかった。そうしてある日、人間の王と彼女は言った。「この魔道具を貸してもらえないだろうか。国を作る場所に運んで、瘴気を浄化したい」』「負担が大きすぎる……」 グランが呻いている。 私はそれをあえて無視して、ゴードンに言った。「ゴードンさん。続きを」『魔王は反対した。よその土地で何度も魔道具を使えば、彼女の命にさえ危険が及ぶかもしれない。けれど彼らは聞き入れない。魔王は仕方なく彼らの頼みを聞くことにした。そして別れまでの時間を使い、少しでも魔道具の性能を底上げしたものを改めて作って託した』『人間たちが去っていって五年ほど後、民の何人かが伝令としてやってきた。「お久しぶりです、魔王様。私たちは国を建てました。ユピテル王国という名で、王はあの人です」。魔王は尋ねる。「彼女はどうなった? 元気にしているか?」。すると伝令は目を伏せた。「王妃様は何度も浄化を繰り返して、ついに命が尽きました。今は王家の墓で眠っておられます」。魔王は嘆き悲しんだが、全
last updateHuling Na-update : 2025-06-25
Magbasa pa

第67話 諦めない

 出発までの数日を、私は破片からより効率的に魔力を放つ方法を練習して過ごした。 この魔道具は強力な魔力増幅器だが、特に大きな丸の絵が描いている破片の効果が大きかった。 満月と思われるこのシンボルを手に取って、月夜にこっそりと逢瀬するカプを妄想すると破片がぴかぴかと光る。「フェリシアちゃん、練習であまり飛ばしすぎるなよ」 などとクィンタに呆れられる始末だった。 だいたいコツはつかめたので、白色魔石の鉱山へと出発した。 ドラゴンに変身したグランと翼を持つ魔族たちが中心になって編成される。 鉱山の周辺は確かに汚染が進んでいたが、意外にも鉱山それ自体は瘴気が薄かった。「これは、白色魔石そのものが瘴気に対して抵抗力を持つのかもしれませんね」「なるほど。だから光の魔力と相性がいいのかもね。素材としてうってつけ」 そんなことを話しながら進む。 坑道内はさほど瘴気が濃くなかったので、魔道具を持った私が入るとほぼ問題ない状態になった。周辺の瘴気をグランが抑えてくれているおかげもあるだろう。 なるほど、闇の魔力は周囲の瘴気を一時的に押し留めて緩和するようだ。 よく目を凝らしてみれば、グランを中心に薄い魔力の壁が展開されているのが見えた。防護壁のように見えるこれが闇の魔力なのだろう。 坑道の中に魔物は少しだけいたが、どれも弱い種類だった。魔族たちの敵ではなく、あっという間に蹴散らされた。 それから皆で手分けして鉱石を掘り出した。意外にあっさりと必要量を確保できた。 こうなればもう坑道に用はない。さっさと引き上げた。 お城に帰って研究室に置かれた白色魔石は、けっこうな大きさである。一抱えほどもある。 触ってみると滑らかな表面とひんやりとした感触が心地よい。(夜、遅く帰ってきて冷え切った攻め様の皮膚の感覚ってこのくらいかなぁ。受けちゃん、寝床で温めてあげなきゃ。それですっかりあったまった攻め様とあーんなことやこ~んなことを) などと妄想しながらぺたぺた触っていたら、魔石がぼんやりとピンク色に光った。
last updateHuling Na-update : 2025-06-26
Magbasa pa

第68話 光の祭壇

 そのようにして魔族と人間が力を合わせること半年。 ついに光の魔力増幅魔道具が完成した。 最初にドラゴンのグランに魔族の国に連れられてきてから、もう七ヶ月ほども経ってしまった。 冬だった季節は春を通り過ぎて、既に夏になっている。 要塞町のゼナファ軍団長や、メイド、兵士たち。みんな心配していると思う。 帝都で魔物が出たという話も気になる。 だからこの魔道具での浄化が成功したら、私とベネディクト、クィンタは一度要塞町に帰してもらう約束をした。「フェリシアのお願いだから聞くけど、僕、あなたを諦めていないからね」「はいはい。お願い聞いてくれてありがとうね」 というようなやり取りを経て。 お城のホールに設置された『光の祭壇』の前に立った。 魔力増幅魔道具こと光の祭壇は、帝都の聖女の祭壇と同じくらいの大きさ。 過去の魔道具よりは一回り小さくて、高さは私の胸くらい。厚みは十五センチ程度だ。 表面には七色のインクでびっしりと魔法陣が描かれている。 さらに祭壇の置かれた床にも魔法陣は連なっていて、起動していない今ですら濃い魔力の気配が漂っていた。 私が光の祭壇の前で膝を折ると、左前方にベネディクトとクィンタ、右前方にグランとゴードンが立った。 祭壇の起動に彼らの力も借りるのだ。 ベネディクトは土と木属性。クィンタは火、水と金属性。 そしてグランとゴードンは闇属性の魔力を持っている。 彼ら四人で五大属性と闇をカバーしているのだ。 私の光と合わせて、現在確認されている魔力属性が全てまかなえる。 あとついでにベネ×クィとゴードン×グランは私の最推しカプなので、目の前にいるとテンションがアガるのである。「――始めます」 静かに言えば、彼らはうなずいて膝をついた。 よしよしよし、キタキタ――っ。 イケメンたちが跪いている絵は素晴らしいですね! にやけそうになる口元を必死で押し留めた。 そっと伸ばした手が祭壇に触
last updateHuling Na-update : 2025-06-27
Magbasa pa

第69話 大きな成果

 永遠に続くかと思われた光も、やがて徐々におさまっていった。 私は幸せな光景を噛みしめるように、余韻を残さず味わうように、祭壇の前で膝を折ったままでいた。「フェリシア! 体は大丈夫か」 温かい手が肩に乗せられる。 そっと目を上げてみれば、心配のあまり泣きそうになったベネディクトが私を覗き込んでいた。「ええ。大丈夫です」 ゆっくりと立ち上がる。彼が手を貸してくれたけど、ふらつくことはなかった。 今までたくさん魔力を使うと倒れてしまったり疲労感がひどかったが、今はそんなこともない。 クィンタとグラン、ゴードンもやって来て私を取り囲んだ。「フェリシア、気分はどう?」「平気。むしろなぜだかすっきりしているわ」 先ほど彼らが見せてくれた萌えがまだ心を満たしている。「瘴気の浄化は、これから報告が入るでしょう。フェリシア殿、まずは休養を」 ゴードンが言って、ホールの出口を指し示した。 出口では猫耳っ子たち侍女が待ち構えているのが見えた。 私が倒れてしまったときのために備えて、ベッドも整えてあるはずだけど。無駄になっちゃったね。「大丈夫……なのですけど。知らず負担がかかっているかもしれませんし、大人しくいたします」 茶目っ気を混ぜて言えば、みんなちょっと呆れた顔をした。 クィンタがけらけらと笑い始める。「あぁ、そうしてくれ。まったくフェリシアちゃんにはかなわないぜ」 一応、部屋に戻ってお茶を飲むが、体調は本当に大丈夫だった。「やはり皆さんの力を借りたのが良かったのでしょう。祭壇の周囲で魔力が循環しているのを感じました」 私が言えば、グランがうなずいた。「瘴気に汚染されているのは大地、ひいてはこの世界そのものだから。五大属性で自然環境の疑似構築をして、闇属性で流れをコントロールする。計画がうまくハマったよ」「俺の発案だぜー? もっと褒めてくれていいよ?」 クィンタが得意げにグランの肩に
last updateHuling Na-update : 2025-06-28
Magbasa pa

第70話 久方ぶりの帰還

 ドラゴンのグランは素晴らしいスピードで青空を飛んでいく。 風を切る音が耳に心地よく、夏空になびく髪は気持ちが良い。 けど、みるみるうちに通り過ぎていく黒い森を眺めて、ふと思った。「黒い森の瘴気は浄化されていませんね」「本当だな。北の方はきれいさっぱり消えたと聞いたが」 黒い森は魔族たちの領土の南にある。 もともと北に比べれば瘴気は薄かったが、それでも人間にとっては脅威だった。「北の土地に意識を集中していたせいかもしれません」 私は少し考え込んだ。あのときは確か、魔族の領土を浄化しようと集中していた。 結果、南はおろそかになってしまったのかも。「フェリシアちゃんが気にすることじゃねえよ。要塞町やユピテル帝国に被害が出るようなら、光の祭壇を借りて浄化してもいいわけで」「うん。魔族はいつでもフェリシアに協力するよ」 クィンタとグランに交互に言われて安心した――そのとき。「魔物がユピテル軍と交戦している!」 ベネディクトが声を上げた。 見れば黒い森の細い獣道で、ゼナファ軍団の兵士たちが魔物と激しく戦っていた。 魔物のランクは低いものがほとんどだが、数がかなり多い。兵士たちの苦戦が遠目にもはっきりと見えた。「加勢する!」 グランがドラゴンの声で叫んで急旋回した。 木々の梢を鳴らし、長大な尾を振るって魔物をなぎ倒していく。 銀のドラゴンを見た兵士たちはパニックに陥りかけたが、「落ち着け、兵士たちよ! ゼナファ軍団副軍団長、ベネディクトが帰還した!」「俺もいるぜ。魔法分隊長のクィンタだ」 二人の姿を認めて、大きな歓声を上げた。「このドラゴンは味方だ。そして光の聖女、フェリシアもここに!」 ドラゴンの背から身を乗り出すと、歓声はいっそう高くなった。 私の手には小型の魔道具がある。光の祭壇を応用した魔力増幅の魔道具だ。 効果はそこまで大きくないが、弱い魔物相手であれば十分だった。
last updateHuling Na-update : 2025-06-29
Magbasa pa
PREV
1
...
456789
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status