「フェリシア・ラビエヌス令嬢。聖女の力を騙った罪で、帝都を追放処分とする」 皇太子殿下の冷たい声が響く。 ここは彼の執務室。 部屋にいるのは殿下と彼の侍従である青年、それに私の異母妹だけだ。「騙ったとはどういう意味でしょうか」 半ば呆れながら、それでも表情には出さずに聞いてみる。「聖女とは当代に一人のみの光の魔力を持つ者。光の魔力はお前ではなく、妹に顕現したと言うではないか。神官たちの証言が出た。ではお前は嘘を言っていたことになる」 殿下の言葉に、もはや言い返す気力を失ってしまった。 彼の隣では妹がニヤニヤと感じの悪い笑みを浮かべている。 あの子は私を見下して、私のものは何でも奪おうとした。 ドレスも宝石も、実家での居場所も。亡き母の形見も。 聖女は皇子と結ばれる。 今度は婚約者をお望みらしい。 神官の証言とやらも、どうせ実家の父と義母がでっち上げたのだろう。「どうやら認めるようだな。皇家を騙したのは重罪、だが他ならぬお前の妹が真の聖女であるならば、減刑して追放だ。妹に感謝するのだな」 さすがに貴族の娘を処刑するとなると、事が大きくなりすぎる。 追放は彼らが溜飲を下げ、かつ、秘密裏に済ませてしまう便利な手段なのだと思う。「追放先は第五軍団ゼナファの駐屯地。北の辺境だ」 侍従の青年だけが気遣わしげな視線で私を見ている。 北の辺境、要塞町は不便な場所と聞いている。 住民の多くが無骨な軍団の関係者で、帝都のよう豊かで行き届いた都市とはほど遠い。 私は目を伏せた。「――仰せのとおりに」 皇帝と妃に話は通したのか、とか、魔力鑑定を司る神殿の扱いはどうするのか、とか。気になる点はいくつもあった。 でも、もうどうでもいい。 聖女の地位も婚約者の立場も、今の私に必要ではない。 殿下が舌打ちをした。「お前はいつもそうだ。いつもそうして無表情で、まるで人形のよう。気味が悪い!」「皇太子殿下、姉は可哀想な人なのです。どうかお慈悲を」 妹がいかにも善人のフリをして、馬鹿にした表情を浮かべる。 これ以上、この茶番に付き合うのはごめんだ。「失礼いたします」 最後に侍従に一瞬だけの視線を送る。唯一の心残りに。 そして私は部屋を出た。 目の前で閉じられた扉が、過去との断絶を表しているようだった。「やった、やったわ。ついに実家を
Terakhir Diperbarui : 2025-05-06 Baca selengkapnya