本屋と一緒に軍団長の執務室を出る。 本屋は興奮した様子で話しかけてきた。「やりましたね、フェリシアさん。これで僕の本屋はぐっと大きくなります。もう背負子を背負って町から町に移動せず、帝都に店を構えて売り込めるようになりますよ!」「良かったですわ」 にっこり微笑み返すと、本屋は少し息を呑んでから言った。「これも全てフェリシアさんのおかげです。僕、本当はこの物語が売れるかどうかは半信半疑でした。フェリシアさんとリリアさんの熱気に当てられたのを、後悔した時期もあります。でも……」 彼は語る。 おっかなびっくり物語を持ち込んだ先は、ある貴族女性の文学サロン。小さな本屋が出入りするくらいだから、貴族としてそう格は高くない。 その女性に物語を売り込んだ。 フェリシアとリリアと相談した通り、男性同士の絆と情念を要点にして、有名な英雄叙事詩を再構築したものと謳って。 帝都では英雄叙事詩は男性人気が高く、女性は悲恋などのラブロマンスを好む傾向にあった。 だから最初はサロンの女性も難色を示したそうな。私に戦記物は分からないわよ、と。 けれど戦いのシーンはあくまで二の次で、男性同士の人間ドラマを主軸にした物語だと粘り強くアピールしたところ、手にとってもらえた。 手にとってもらってからは早かった。 サロンの女性はあっという間に物語の虜になり、今では日々「王子が、王妃(美少年)が、知将が~」と語っているのだとか。 その人が熱心に布教してくれたおかげで、ネズミ算式にBLの虜になる人が増えた。 今では帝都の文学を嗜む女性の多くがこの物語を愛好している。 一部では男性すら魅了している! なんと、このユピテル帝国でも腐男子が誕生した。 となると先ほど、恥ずかしがらずに軍団長に紹介してやればよかったかもしれない。もったいないことをした。 まあいずれ試してみよう。「これでフェリシアさんの名が、作家として帝都に……いえ、帝国中に轟くことになるでしょう。でも、フェリシアさんは僕と優先契約を結んでいますからね。よろしく
最終更新日 : 2025-06-01 続きを読む