腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~ のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 40

55 チャプター

第31話 ハンドクリームを作ろう3

 柑橘類に関しては、前世の二十一世紀でも圧搾法で抽出するとKちゃんが言っていたな。 Kちゃんはアロマにも詳しくて、彼女の部屋にはたくさんのアロマオイルや精油が置いてあった。 中には興奮作用のあるアロマなどもあり、「プチ媚薬で攻め様が受けちゃんに使うのー! で、いつも以上にめろめろになった受けちゃんと思う存分イチャイチャするの!」と楽しそうにおしゃべりしたっけ。ああ、懐かしい。 さて、今回抽出する植物はゼラニウムである。 ゼラニウムはピンク色のかわいいお花。 ちょうど今の時期――冬のはじめ頃――が開花季節で、見た目の可愛らしさからあちこちで植えられている。 この要塞町でもありふれたお花として、よく見かけた。軍団駐屯地にも咲いていたので、庭を管理している人に許可を取ってもらってきたのだ。 ゼラニウムの効能は抗菌作用、抗炎症作用。虫よけにもなる。 ガラス工房主さんのやけど傷に、応急処置として抗炎症作用のあるゼラニウムが役立つはずだ。 傷以外にも皮膚によい植物なので、いいハンドクリームになってくれるだろう。余った分があれば、石けんに混ぜてもいいね。 フラスコの炎はそれなりに長い時間出続けている。 フラスコの中の水はいい感じに沸騰して、ゼラニウムの花びらを揺らしていた。立ち上る蒸気は順調にパイプに吸い込まれて、冷却器で冷やされ、ビーカーにぽたぽたと滴っている。 それにしても、魔法をこんなに長い間使い続けて大丈夫なのだろうか。「クィンタさん。魔力は大丈夫ですか?」「平気、平気。俺は一流の魔法使いだからな。そこらの雑魚とは格が違うんだよ。属性も火と水、金のトリプルだ」 へらりと笑う彼は、特に負担がかかっているようには見えない。 自分で言うのがうさんくさいが、本当に腕の良い魔法使いであるらしい。 複数の属性持ち、しかも三つはかなり珍しい。「フェリシアちゃんは光の魔力だろ? あれ以降、調子はどうだ?」「さっぱりです。クィンタさんを治せたのもまぐれじゃないかと思うくらいで」「まぐれなわけないぜ。よし、いい機会
last update最終更新日 : 2025-05-24
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第32話 かすかな光

 精油ができあがれば、あとは簡単だ。 蜜蝋を小鍋で熱して溶かして、オリーブオイルと精油を少しずつ混ぜていく。ゼラニウムの香りがとても良い感じである。 材料を混ぜている途中、ふと思いついて魔力の混ぜ込みもやってみた。 ゼラニウムの香りにのせて、魔力を一滴、二滴と加える感じで。 魔法も魔力も技術であり能力である以上、日々の訓練で伸びるかもしれない。頑張らないとね。(前にクィンタをを治したときは、夢中でわけが分からなかったけど。あのときのこと、できるだけ思い出して) 確か昔の聖女様の言葉を思い出したんだった。 まず自分が幸せであれ。そして周囲の人々の幸せを願うべし。 なんかそんな内容だった。 確かに、自分の身を削ってまで他人の幸せは願えない。 そんな人がいたらもはや、そういう性癖なのだと思う。 世界の生贄となって平和を祈り続ける人柱とか、物語としてはおいしいが自分の身に降りかかるとなれば全力で逃げるぞ。そんな自己犠牲はごめんです。 そういえば、帝都の『聖女の祭壇』にも似たような文言が刻んであるのよね。 聖女の祭壇は正直よく分からん遺物で、月一回の祈りが当代の聖女に課されていたわけだが。 とても古い建造物で、伝説では建国王と王妃である聖女が作ったとされている。 ちなみにユピテル帝国は、建国時には王政でやがて共和制になり、さらに現在の帝政になったという長い歴史を持つ。 建国から今までは約千年と言われているが、古代文明のさらに千年前なので正確な記録があるはずもなく、けっこういい加減である。伝説と歴史の境目がひどく曖昧になっている。 つまり何もかもがよく分からんのだ。 そういや私を偽聖女扱いして、真の聖女(笑)の地位は妹が収まったはずだが。 妹と皇太子はどうなったんだろうね。興味がなさすぎて今まで忘れていた。 もっとも今、余裕がある状態で思えば、クソわがままな皇太子はもっと教育的指導をしてやればよかったかもしない。 あれこれ追い立てられて余力がなく、わがままに付き合いきれなくて放置してしまった。
last update最終更新日 : 2025-05-25
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第33話 その頃の帝都

【三人称】 その頃、帝都では。 皇宮の一室で、皇太子ラウルと妹のナタリーが茶菓子をつまみながら雑談していた。「ナタリー。お前、太ったんじゃないか?」 寝椅子でくつろいだラウルが、ナタリーの姿を眺めながら言った。 無遠慮な言葉に、ナタリーはキッと彼を睨みつける。「まあ、殿下! なんてことをおっしゃるの。あたしは真の聖女として、毎日厳しい教育と修行に耐えているのに。ひどいわ!」「あー、悪かった。泣くのはやめてくれ」 ラウルはため息をついて、やる気のない声でなだめた。 ナタリーは実際、姉がいなくなってからかなり肥えた。 それまでは美しい姉と張り合うためにスタイルの維持を頑張っていたのだが。張り合う相手がいなくなったせいで、気持ちがゆるんだらしい。 今もハチミツがたっぷりかけられた焼き菓子を山のように食べていて、ラウルは内心で胸焼けがした。「ひどい、ひどすぎる。殿下といえど聖女を侮辱すれば、どうなっても知りませんわよ!」 子供のように泣き続けるナタリーに、ラウルは内心でうんざりとした。 ナタリーはいつもわがままでラウルを困らせる。(こんなことなら、婚約者をすげ替えなければよかった。姉のフェリシアは無愛想で面白みがなかったが、聖女と婚約者のつとめはしっかり果たしていた。それに比べて妹はどうだ) ラウルは確かにフェリシアに不満があった。 光の魔力を持つ聖女だと引き合わされた彼女は、いつも無表情でラウルに無関心。 唯一瞳に光が灯るのは、ラウルの侍従を見るときだけだった。 婚約者なのに自分は愛されていない。関心を向けられてさえいない。 心を向けているのは、身分が卑しい侍従だ。 そう思えば怒りが募った。 実際のところをいえば、婚約当初のラウルはわがままで傲慢な子供であったために、フェリシアが相手にしなかっただけである。 侍従を見ていたのは主従BLで妄想していたから。 そんなことを知るはずもないラウルは、フェリシアを一方的に憎んでいた。
last update最終更新日 : 2025-05-26
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第34話 こぼれる光

 完成した石けんとハンドクリームは大好評だった。 石けんは肌に優しく、それでいてしっかりと汚れを落としてくれるので、皿洗いも洗濯も楽になった。 お風呂で使えるおかげで、従来の垢すりよりも肌を傷めずに清潔を保てるようにもなった。 しかも以前のどろどろ半液体と違って固形だから、持ち運びも便利である。個人用に小さく切ったり、まとめ使い用に大きめに切り分けたりして使っている。 単価こそ少し上がってしまったが、評判を聞いた軍団長が予算を作ってくれて、普段遣いできるようになった。ありがとう軍団長! ハンドクリームはあかぎれのケアにもってこい。 ふんわり香るゼラニウムの香りも気に入ってくれた人が多かった。 ところが、予想外のことが起きてしまった。「フェリシアさん。このハンドクリームは素晴らしいですね」 オカヒジキの灰を買い足しに行った際、ガラス工房主が満面の笑みを浮かべていた。「見て下さい。やけど痕まですっかり良くなりましたよ」「え」 差し出された手は、つるんとしてきれいなものである。つい何日か前までやけど痕や傷で痛々しかったのに。「新しくやけどをしても、ハンドクリームをつけておけばすぐに痛みが治まって傷跡も残らない。もう手放せません。なくなったらすぐに買いに行きますよ」「は、はあ……」 喜んでいる工房主には悪いが、いくら何でも効果出すぎじゃない? ていうか傷の治りを早くするくらいならともかく、やけど痕まで消えるか、普通? 麻薬並みにヤバい即効性である。正直ちょっとこわい。 何か副作用が出たらどうしよう? でも材料は蜜蝋とオリーブオイルと精油だけだしなあ? ヤバいものは何も入っていない。 あえて言うなら光の魔力の混ぜ込み……? いやそんなバカな。そりゃあ光の魔力は癒やしの力があるみたいだけど、ぜんぜん使いこなせていないし。 首を傾げながら要塞に戻った。「ねえ、みんな。あかぎれの調子はどうかしら?」
last update最終更新日 : 2025-05-27
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第35話 こぼれる光2

 廊下の掃除をしていると、ベネディクトがやって来た。「フェリシア。今日も頑張っているな」「いえいえ。これが私の仕事ですから」 そんなことを言いながら、雑談する。「最近、兵士たちの体調が良くなっている。石けんとクリームで肌荒れを起こしていた連中も改善された」 こちらも効果が出ているようだ。「体調は、食事のせいもあるかもしれませんね。料理長と相談して、なるべく栄養バランスのいいメニューを作っていますから」 この国では『栄養バランス』という概念が薄かったので、料理長をサポートする形でメニューを組んでみた。 肉は予算的に無理でも大豆やそら豆でタンパク質がとれる。野菜は生と加熱したものを両方食べてもらう。 味付けもできるだけ工夫して、飽きないメニューにした。 あとはあれだ。おいしくな~れの魔法。 光魔法の練習がてら、食べた人の幸せな姿を思い浮かべながらこっそり唱えている。 まあ、そんなん唱えているとバレたら恥ずかしすぎるので、あくまで一人のときにこっそりと。「フェリシアがここに来てから、全てが良い方向に向かっている」 ベネディクトが呟くように言った。「魔物の襲撃は、以前の半分以下の頻度。しかも一回あたりの数が減り、動きすら鈍い。特にクィンタの怪我があった一件以来、魔物たちの活動はこれまでにないほど沈静化している」「そうなんですか」「きみの聖女の力ではないのか?」 彼の灰色の目に真摯な光が宿っている。その視線を受けて、私は怯んでしまった。「でも、私は何もしていません。光魔法も相変わらずです。こんな有り様じゃあ、とても『聖女様です』などと言えません」 冗談めかして言えば、ベネディクトもやっと笑ってくれた。「聖女はさておき、要塞の多くの人間がきみに勇気づけられている。むろん私もだ。――ありがとう、フェリシア」「え、いえ、そんな……」 いつも真面目な表情の彼が、柔らかく微笑んでいる。 その
last update最終更新日 : 2025-05-27
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第36話 ある夜の要塞

【三人称】「それでさ、フェリシアさんが鍋の前で何か呟いているから、こっそり耳を澄ませてみたら。『おいしくな~れ』って言ってんの!」「なにそれ、可愛すぎる。だから最近、料理を食うと力が出るのか?」「きっとそうだ。料理は愛情と言うからなあ。愛情たっぷり込めてあるんだよ!」 夜の就寝前、兵士たちが寝床で雑談をしていた。 話題は要塞町のアイドルことフェリシアである。「最近は洗濯物からいい匂いがするし」「石けんを変えたらしいぞ。前のは獣脂の石けんだから、獣臭かったもんな」「俺、鎧でこすれて肌荒れひどかったんだけどさあ。フェリシアちゃんの石けんでしっかり洗ってクリームつけたら、あっという間に良くなったんだよ」 兵士たちはうんうんとうなずいた。 と、そこに金髪の男がひょいと顔を出した。クィンタである。「お前ら、なに駄弁ってんの?」「隊長。フェリシアさんの話をしていました」「ふーん」 クィンタは部屋に入ってきた。兵士は慌てて横に避けて場所を作る。 そこに遠慮なく腰掛けて、クィンタは続けた。「てめえら、あの子に手出しはやめとけよ。フェリシアちゃんは下っ端どもがどうにかできる女じゃねえ。背負ってるもんが違う。全部ひっくるめて幸せにしてやる覚悟がなけりゃ、黙って見とけ」「分かってますよ」 兵士たちは神妙な顔になった。「フェリシアさんは俺らのアイドル、いや、女神ですから。抜け駆けする奴がいたら袋叩きです」「お、おう」 予想以上の返答にクィンタはちょっと引いたが、同時に安心もする。「しかし女神とは言いえて妙だな」 フェリシアの力は、瘴気の傷を治してもらった彼が一番良く承知している。あの光り輝く温かな魔力は、確かに女神のようだった。 フェリシアは光の魔力を使いこなせないと悩んでいたが、クィンタには徐々に上達しているように見える。いずれ彼女ならできるだろうと、あまり根拠はないが信じていた。「俺もフェリシア女神
last update最終更新日 : 2025-05-28
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第37話 ある夜の要塞2

「まさか、フェリシアが帝都を出たのに関係が?」「分からん。本人から何か聞いていないか?」 彼らの頭に共通して浮かぶのは、フェリシアが来て以来、要塞町周辺の魔物が沈静化している事実だ。 帝都でそれと反対のことが起こっているとしたら。 ベネディクトは頭を振る。「特に何も。彼女はただ聖女、皇太子妃としての教育を受けていただけで、光魔法を使えなかったと言っています」「ふむ……」 一方でこの要塞町では、魔物の出現が明らかに減っている。 兵士たちの体調は整っていて、士気も高い。「我がゼナファ軍団がこの要塞を引き上げることはないが」 軍団長が静かに言った。「帝都の動向次第では、援軍を求められる可能性はある。心していてくれ」「フェリシアちゃんは、どうするんです? クソな実家に戻すなんぞ、ありえないですよ?」 クィンタが鋭い目を向けた。軍団長は苦笑する。「可能な限り守るよ。ただ状況を見る限り、彼女は最大にして最強のカードだ。聖女の力が表沙汰になったら、影響は計り知れない」「その聖女の力とやらも、まだ曖昧ではっきりしませんが」「それが問題だ。彼女をここに引き留めるにしても、帝都に送るにしても、扱いを決めかねる。まあ今は、時間稼ぎをしながら様子をみるしかない……」「せめてフェリシアに基盤があればいいのだが」 ベネディクトがぼそりと言った。「実家に頼らずとも生きている力が。そうすれば余計な干渉が一つ減る。皇帝や元老院の出方はまだ不明でも、生きる道はいくつあってもいい」「そうだな。女性の生きる道といえば、まずは有力者との結婚があるが。皇太子と婚約破棄に至った彼女では、それも難しいものがある。だから、商売はどうだろう。フェリシア嬢は石けんやハンドクリームを作っていた。あれを外部へ売りに出し、利益を還元してもいいかもしれん。私の家の伝手を探してみよう」 軍団長は有力貴族の出身。帝都の実家では商人と幅広い付き合いがある
last update最終更新日 : 2025-05-28
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第38話 大ヒット

 ねえ、ちょっと聞いてよ奥さん! 帝都で英雄叙事詩BLが大ヒットしたんですって!! ……興奮のあまり口調がおかしくなった。失礼。 先日、数カ月ぶりに本屋が要塞までやって来て、このニュースを伝えてくれたのだ。 私もリリアも、居合わせた他のメイドたちも大興奮。 男性同士の熱くたぎるような、それでいて甘く切ない恋が帝都の御婦人方の心をも捕らえた! こんなに嬉しいことはない。 しかし本屋は良いニュースばかりを持ってきたわけではなかった。「写本の手が足りないのです」「というと?」 ユピテル帝国は古代文明の国。当然、活版印刷技術はない。 だから本を増やすには人の手で写本をしないといけない。 誤字を少なく正確に写本するのは一つの技術。 多くは写本奴隷という技能を磨いた奴隷たちの仕事である。 奴隷というが、技能持ちの奴隷は値段が高い。 目の前の彼、移動本屋のように小さな版元では、自分の奴隷を持つのは不可能なので、大きな版元から人手を借りることとなる。 しかし今回、英雄叙事詩BLは爆発的な大ヒットとなった。 それゆえに大量の写本を求められたが、本屋が雇える奴隷の数は少ない。 需要は山ほどあるのに、供給が足りない! そしてユピテル帝国は著作権の概念が未熟で、人気作は勝手に写本されて出回ってしまう。「このままではせっかくの商機が、他の版元に取られてしまいます」 本屋は悔しそうだった。 けれど私は、帝都でBLが受け入れられるならそれでいいかという気持ちもある。 私の最大の目標は布教そのもので、個人の名声とかお金とかは二の次なのだ。 だって住み込みで働いていれば、衣食住には困ってないし。「フェリシアさんへの報酬も、あまり用意できていません。本当に申し訳ない……」 本屋はそう言いながらも、金貨三枚を渡してくれた。 私の物語を買い取るときにお金をもらったので、これは臨時ボーナス
last update最終更新日 : 2025-05-29
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第39話 大ヒット2

『フェリシア~~~。やってくれたわね』 本屋が帰った後、メイド部屋にて。 私は軽く目を閉じて、小さいフェリシアを問い詰めた。『私のこと、操ったでしょう。形見を質入れするつもりなんてないのに!』『ふふっ。だってフェリシアは言ってたじゃない。『いつだって体を交代するよ』って』『うっ。そりゃあ言ったけど、そういうことじゃなくてね……』『無駄だからね、抵抗しても。明日はしっかり質屋さんに行って、お金をもらってこよう』『ううーっ』 小さいフェリシアは聞く耳を持たず、とても楽しそうにしている。 私の心の中で、くるくる踊っている様子が感じられる。『英雄たちの物語が帝都で人気だなんて、とっても素敵! わたしとあなたのためだもの、お母様も許してくれるよ? むしろ応援してくれると思うなあ』 どうにも説得は無理そうだ。 私はため息をついて、受け入れることにした。『でも、他にお金ができたら、真っ先に質草を取り戻すからね』『別にいいのに。まあ、もしお金に余裕ができたらね』 話がついたので目を開ける。 急に黙り込んだ私を、リリアが心配そうに覗き込んでいた。「フェリシア先輩、大丈夫ですか?」「ええ、何でもないわ。明日はちょっとお出かけするから、外出許可を取らないと」 高価なネックレスを持ち歩くから、誰かに付き添いを頼んだほうがいいかもしれない。 この要塞町は治安はいいが、絶対に平気とは言い切れないので。     いろいろ考えた末に、質屋の付き添いはベネディクトに頼むことにした。 彼は要塞に駐留するゼナファ軍団の副軍団長。周囲ににらみをきかせてもらうには最適だろう。 頼む以上は事情を話さなければならない。 彼の部屋を訪ねていいかと聞いたら、困った顔をされた。「フェリシア。妙齢の女性が男の部屋を訪ね
last update最終更新日 : 2025-05-30
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第40話 お金の話

「軍団長は、それだけフェリシアを買っている。無論、私たちもだ」 ベネディクトがまっすぐに私を見た。「遠慮はしなくていいぞ。どうせ軍団長にも儲けが入るんだ。ちゃっかりしてるぜ、あの人」 クィンタはちょっとわざとらしく手を広げている。「だから、母上の形見は手放さなくていい。相応の額を初期費用として支払う算段だ。もし足りなければ、私も出す」「あーあ、これだから名門貴族のお坊ちゃまは。俺は給料以上の金は持っていないんだ。残念だがそこは役に立てねえ」 ううーん。 形見を質入れしないで済むのは嬉しい。でも本当にいいのだろうか。 悩む私を、リリアが励ましてくれた。「フェリシア先輩。わたしには難しい話はよく分かりませんけど、お金がもらえるならもらっておきましょうよ! それで物語の写本をいっぱい作って、もっと人気を出すんです!」「……そうね!」 話が上手く進みすぎだけど、軍団長もベネクィの二人も信用できる人だと思う。 それに何より、私を厚遇して騙す理由が見当たらない。 聖女の力が本物だと思い込んで、囲い込むつもりかもしれないけど。 皇太子や実家の家族に比べるまでもなく、この人たちはとても良くしてくれた。 曖昧なままの聖女の力くらい利用してくれていい。 だいたい、聖女の力の本領は魔物を弱体化して浄化するというもの。それから傷を癒やす力。 であれば、常に魔物との戦いを続けている要塞の兵士たちにこそ必要な力ではないか。 大いに利用してくれて結構だ。 むしろ私がもっと頑張って、光の魔力を使いこなせるようにしないと。 そうと決まれば迷いは消えた。 帝都では私のBL物語を待っている人がいる。急いで写本を作って、たっぷりと萌えを届けなければ!「それでは、恐縮ですがよろしくお願いいたします。ご迷惑ばかりかけてしまって、本当にすみません」「迷惑など何もない。顔を上げてくれ」「そうだぜ、フェリシアちゃん。後で軍団長から正式に話が行く
last update最終更新日 : 2025-05-31
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