キラキラした目で私を見つめているグランと、困惑中の人間御一行様。話は平行線でちっとも進まない。 その双方を見やってゴードンが何度目かのため息をついた。「我らの事情が厳しいのは確かですが、だからといって誘拐はいけません。主の不義理をお詫びいたします」 そう言って深々と頭を下げた。 ううむ、理性的でいい人じゃないか。 主であるグランに小言を言いながら、それでも忠誠心の高さが垣間見える。 理想的な主従カプである……! 誘拐は大変な目にあったけど、彼らを見るためにここまで来たと思えば苦労も吹っ飛ぶというものだ。「詫びる心があるならば、私たちを帰してくれ」 ベネディクトが言うが、ゴードンは首を横に振った。「男性お二人だけであれば、今すぐにでも。けれどフェリシア様を手放すわけにはいきません。それでは納得していただけませんよね」「当たり前だ。てめえらの事情なんぞ知ったことか」 クィンタが吐き捨てるように言ったが、今度はグランが口を挟んだ。「人間にも無関係な話ではないよ。そうだね、例えば。最悪のシナリオとして、僕がほどなく魔物との戦いで死んだとしよう。次代の魔王候補はまだ育っていない。そうすると瘴気の抑止力が消えて、この土地はあっという間に汚染されるだろう。次に瘴気は南下して人間の国に向かう。そう、あなたたちの領土だ。軽く計算してみたことがあるが、このケースだと最短で百年、遅くとも二百年で人間の国の北部は瘴気に呑まれる」「…………」 みな、押し黙った。 百年は長いようで短い。子や孫の世代になれば確実に影響が出るということか。 少なくとも現在の北の国境である要塞町は、ただでは済むまい。 リリアやメイドたちや、兵士の皆さん。彼らの子孫が故郷を失ってしまうなど、考えるだけで嫌だった。 私がもし心からグランを好きになって結ばれれば、そのシナリオを回避できるのか。 お城の様子を見たところ、魔族たちの文明度はユピテル帝国と大差ないようだ。 だったら暮らしぶりに大きな変化は出ないだろう
最終更新日 : 2025-06-10 続きを読む