腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~ のすべてのチャプター: チャプター 51 - チャプター 54

54 チャプター

第51話 ケモの可能性

 キラキラした目で私を見つめているグランと、困惑中の人間御一行様。話は平行線でちっとも進まない。  その双方を見やってゴードンが何度目かのため息をついた。「我らの事情が厳しいのは確かですが、だからといって誘拐はいけません。主の不義理をお詫びいたします」 そう言って深々と頭を下げた。  ううむ、理性的でいい人じゃないか。  主であるグランに小言を言いながら、それでも忠誠心の高さが垣間見える。 理想的な主従カプである……! 誘拐は大変な目にあったけど、彼らを見るためにここまで来たと思えば苦労も吹っ飛ぶというものだ。「詫びる心があるならば、私たちを帰してくれ」 ベネディクトが言うが、ゴードンは首を横に振った。「男性お二人だけであれば、今すぐにでも。けれどフェリシア様を手放すわけにはいきません。それでは納得していただけませんよね」「当たり前だ。てめえらの事情なんぞ知ったことか」 クィンタが吐き捨てるように言ったが、今度はグランが口を挟んだ。「人間にも無関係な話ではないよ。そうだね、例えば。最悪のシナリオとして、僕がほどなく魔物との戦いで死んだとしよう。次代の魔王候補はまだ育っていない。そうすると瘴気の抑止力が消えて、この土地はあっという間に汚染されるだろう。次に瘴気は南下して人間の国に向かう。そう、あなたたちの領土だ。軽く計算してみたことがあるが、このケースだと最短で百年、遅くとも二百年で人間の国の北部は瘴気に呑まれる」「…………」 みな、押し黙った。 百年は長いようで短い。子や孫の世代になれば確実に影響が出るということか。  少なくとも現在の北の国境である要塞町は、ただでは済むまい。  リリアやメイドたちや、兵士の皆さん。彼らの子孫が故郷を失ってしまうなど、考えるだけで嫌だった。 私がもし心からグランを好きになって結ばれれば、そのシナリオを回避できるのか。  お城の様子を見たところ、魔族たちの文明度はユピテル帝国と大差ないようだ。  だったら暮らしぶりに大きな変化は出ないだろう
last update最終更新日 : 2025-06-10
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第52話 ケモの可能性2

 私の部屋とベネディクト・クィンタの部屋はすぐ近くにしてもらった。  魔族たちは今のところ悪意も害意もなさそうだが、状況によって変わるかもしれない。  頼れる二人がいれば安心である。 部屋はなかなか立派で、迎賓室と思われた。広いリビングの他にベッドルームが二つもある。  ユピテル帝国に比べると建築様式はそれなりに違う。北で寒い土地のためか、開けた回廊は少なくて重厚な雰囲気だった。「お食事の前に、おみ足を洗わせていただきます」 部屋に数人の侍女たちが入ってきた。一人は湯の張ったタライを持っている。  足を洗う習慣はここでもあるんだな。ユピテルにもあるし、昔の日本でもあったよね。  まあ今回の私はドラゴンのグランに掴まれて運ばれてきたので、足は汚れていない。  それでも温かいお湯に足を入れるとほっとした。 そして、特筆すべきは侍女たちの姿である。  ゴードンのように角を持つ者の他、猫耳やうさ耳の人がいる! めっちゃかわいい! もふもふだ!  どうやらこの世界の魔族は獣人に近い生き物であるらしい。  私はケモもけっこう好きだ。これはケモカプの可能性がある……!  ケモ同士でもいいが、ベネディクトやクィンタと絡ませてもおいしいのでは??? 私が一人興奮していると、うさ耳の娘さんが若干不審そうな顔をしていた。  いかん、表情を取り繕わねば。  一度表情筋をリセットして優しげな微笑みを作ると、ますます不審そうにされてしまった。くそ、タイミングが悪かったか。 それからすぐに食事に呼ばれたので、部屋を出る。  行き先は立派な晩餐室だった。  最近は要塞の食堂で飲み食いしていたせいで、上品な雰囲気にちょっとビビる。  私は一応貴族の生まれだが、ほら、実家では奴隷同然の扱いだったから……。  まあ、ここは遠い異国の地だ。マナーとかうるさいことは言われないだろう。 ベネディクトとクィンタ、グランがやって来て着席した。  大きな円卓を囲んで食事が始まった。 &nbs
last update最終更新日 : 2025-06-11
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第53話 覚悟

 魔族たちの寿命が人間と違うのかどうか知らないが、九百年は彼らにとっても相応に長い年月のようだ。 記録が風化する年月としては、十分なのだと思う。 グランが言う。「黒い森は広大な上に、瘴気がはびこっているからね。歩いて通り抜けるだけでも大変だよ。魔族としても無理に南下する必要はなかったし、人間と接点がなかったのさ」「グランのように空を飛べれば、移動は楽そうね」「うん! 魔族はみんな人の姿と獣の姿を持つけど、翼を持つものはそんなに多くない。フェリシア、今日は爪で掴んでしまってごめんね。今度は背中に乗せてあげる。空でデートしよう!」「まあ、そのうちね」 私が否定しなかったせいか、グランはとても嬉しそうにしている。やれやれ。 それからも食事は比較的和やかに進んで、無事に終わった。 お腹がいっぱいになったら急に疲れを自覚した。 今日は午前中から要塞を出て光の魔力を使い、拉致られて半日も空を飛んで、初めて見る魔族たちの話をたくさん聞いた。 とても目まぐるしい一日だった。疲れるのも致し方ない。「少し疲れてしまいました。もう休みます」「うん、そうして。明日もあなたに会えると思うと、今から楽しみ」 部屋までみんながついてきてくれた。「フェリシアちゃん。明日以降の話、軽く打ち合わせておこうぜ」「他の者は、すまないが外してくれるか」 ベネディクトとクィンタが交互に言う。グランは肩をすくめた。「いいけど、無理に逃げ出そうとしないでね。城の周辺は割と安全だけど、森に入ったら魔物がうじゃうじゃいる。僕のフェリシアを危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ」「ちょっと話をするだけだから」「ん。信じる」 グランはそう言ったが、見張りくらいはつけているだろう。 とりあえず人払いをして、人間組三人は部屋に入った。「で、どうする?」 椅子にどっかりと腰をおろして、クィンタが言った。ベネディクトがうなずく。「脱出はあまり得策ではないだろ
last update最終更新日 : 2025-06-12
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第54話 覚悟2

 それに魔族たちだって。グランは困った奴だが、ゴードンとの組み合わせは最高だ。  さっきちょっと会った侍女たちも、人間とそんなに変わらないように見えた。  彼女らはきっとBLの良さを分かってくれるに違いない。  ケモという新たな扉を開くのだ。 であれば、魔族を見捨てる選択肢はない。  そもそも無事に帰れるかどうかは彼らの心次第なのだ。  ここはしっかり仲良くなって、きっちりBL布教して、ケモカプをたくさん摂取しておいたほうがお得というもの。  ……というようなことを三秒ほど考えて、私は言った。「私は魔族たちに協力します。力を尽くして、魔物と瘴気の問題に取り組みます」「フェリシアちゃん……」 クィンタがどこか苦しそうに言う。「お前さんはどうして、そこまでまっすぐなんだ。こんな目に遭ってまであいつらを助けると、迷いなく言えるんだ」 理由はさっき考えたとおりなんだが、BL云々言うのはまずいかなあ。ちょっと取り繕っておこう。「魔族を助けることが、めぐりめぐってユピテル帝国を――ゼナファ軍団の皆さんを助けることになるからと、信じているからです」 ベネディクトとクィンタは目を見開いている。感動しているような雰囲気だ。  え? 私そこまで変なこと言ったかな?  困っていると彼らは目配せをしてうなずいた。  二人はそろって椅子から立ち上がる。「フェリシアの心は、しかと承知した。であれば私たちも全力できみを守り、力になると誓おう」 なんか厳かに宣誓されてしまった。  まあ気持ちは嬉しいので、「ありがとうございます……」 と、言っておいた。     翌日、朝食を済ませてから話し合いの再開となった。  会議室には人間三人の他、魔族はグランとゴードン。それから数人の身分の高そうな人が同席している。  彼らは魔族の国の要職にあると説明された。「昨
last update最終更新日 : 2025-06-12
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