All Chapters of 腐女子聖女~BL妄想は世界を救います~: Chapter 51 - Chapter 60

84 Chapters

第51話 ケモの可能性

 キラキラした目で私を見つめているグランと、困惑中の人間御一行様。話は平行線でちっとも進まない。  その双方を見やってゴードンが何度目かのため息をついた。「我らの事情が厳しいのは確かですが、だからといって誘拐はいけません。主の不義理をお詫びいたします」 そう言って深々と頭を下げた。  ううむ、理性的でいい人じゃないか。  主であるグランに小言を言いながら、それでも忠誠心の高さが垣間見える。 理想的な主従カプである……! 誘拐は大変な目にあったけど、彼らを見るためにここまで来たと思えば苦労も吹っ飛ぶというものだ。「詫びる心があるならば、私たちを帰してくれ」 ベネディクトが言うが、ゴードンは首を横に振った。「男性お二人だけであれば、今すぐにでも。けれどフェリシア様を手放すわけにはいきません。それでは納得していただけませんよね」「当たり前だ。てめえらの事情なんぞ知ったことか」 クィンタが吐き捨てるように言ったが、今度はグランが口を挟んだ。「人間にも無関係な話ではないよ。そうだね、例えば。最悪のシナリオとして、僕がほどなく魔物との戦いで死んだとしよう。次代の魔王候補はまだ育っていない。そうすると瘴気の抑止力が消えて、この土地はあっという間に汚染されるだろう。次に瘴気は南下して人間の国に向かう。そう、あなたたちの領土だ。軽く計算してみたことがあるが、このケースだと最短で百年、遅くとも二百年で人間の国の北部は瘴気に呑まれる」「…………」 みな、押し黙った。 百年は長いようで短い。子や孫の世代になれば確実に影響が出るということか。  少なくとも現在の北の国境である要塞町は、ただでは済むまい。  リリアやメイドたちや、兵士の皆さん。彼らの子孫が故郷を失ってしまうなど、考えるだけで嫌だった。 私がもし心からグランを好きになって結ばれれば、そのシナリオを回避できるのか。  お城の様子を見たところ、魔族たちの文明度はユピテル帝国と大差ないようだ。  だったら暮らしぶりに大きな変化は出ないだろう
last updateLast Updated : 2025-06-10
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第52話 ケモの可能性2

 私の部屋とベネディクト・クィンタの部屋はすぐ近くにしてもらった。  魔族たちは今のところ悪意も害意もなさそうだが、状況によって変わるかもしれない。  頼れる二人がいれば安心である。 部屋はなかなか立派で、迎賓室と思われた。広いリビングの他にベッドルームが二つもある。  ユピテル帝国に比べると建築様式はそれなりに違う。北で寒い土地のためか、開けた回廊は少なくて重厚な雰囲気だった。「お食事の前に、おみ足を洗わせていただきます」 部屋に数人の侍女たちが入ってきた。一人は湯の張ったタライを持っている。  足を洗う習慣はここでもあるんだな。ユピテルにもあるし、昔の日本でもあったよね。  まあ今回の私はドラゴンのグランに掴まれて運ばれてきたので、足は汚れていない。  それでも温かいお湯に足を入れるとほっとした。 そして、特筆すべきは侍女たちの姿である。  ゴードンのように角を持つ者の他、猫耳やうさ耳の人がいる! めっちゃかわいい! もふもふだ!  どうやらこの世界の魔族は獣人に近い生き物であるらしい。  私はケモもけっこう好きだ。これはケモカプの可能性がある……!  ケモ同士でもいいが、ベネディクトやクィンタと絡ませてもおいしいのでは??? 私が一人興奮していると、うさ耳の娘さんが若干不審そうな顔をしていた。  いかん、表情を取り繕わねば。  一度表情筋をリセットして優しげな微笑みを作ると、ますます不審そうにされてしまった。くそ、タイミングが悪かったか。 それからすぐに食事に呼ばれたので、部屋を出る。  行き先は立派な晩餐室だった。  最近は要塞の食堂で飲み食いしていたせいで、上品な雰囲気にちょっとビビる。  私は一応貴族の生まれだが、ほら、実家では奴隷同然の扱いだったから……。  まあ、ここは遠い異国の地だ。マナーとかうるさいことは言われないだろう。 ベネディクトとクィンタ、グランがやって来て着席した。  大きな円卓を囲んで食事が始まった。 &nbs
last updateLast Updated : 2025-06-11
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第53話 覚悟

 魔族たちの寿命が人間と違うのかどうか知らないが、九百年は彼らにとっても相応に長い年月のようだ。 記録が風化する年月としては、十分なのだと思う。 グランが言う。「黒い森は広大な上に、瘴気がはびこっているからね。歩いて通り抜けるだけでも大変だよ。魔族としても無理に南下する必要はなかったし、人間と接点がなかったのさ」「グランのように空を飛べれば、移動は楽そうね」「うん! 魔族はみんな人の姿と獣の姿を持つけど、翼を持つものはそんなに多くない。フェリシア、今日は爪で掴んでしまってごめんね。今度は背中に乗せてあげる。空でデートしよう!」「まあ、そのうちね」 私が否定しなかったせいか、グランはとても嬉しそうにしている。やれやれ。 それからも食事は比較的和やかに進んで、無事に終わった。 お腹がいっぱいになったら急に疲れを自覚した。 今日は午前中から要塞を出て光の魔力を使い、拉致られて半日も空を飛んで、初めて見る魔族たちの話をたくさん聞いた。 とても目まぐるしい一日だった。疲れるのも致し方ない。「少し疲れてしまいました。もう休みます」「うん、そうして。明日もあなたに会えると思うと、今から楽しみ」 部屋までみんながついてきてくれた。「フェリシアちゃん。明日以降の話、軽く打ち合わせておこうぜ」「他の者は、すまないが外してくれるか」 ベネディクトとクィンタが交互に言う。グランは肩をすくめた。「いいけど、無理に逃げ出そうとしないでね。城の周辺は割と安全だけど、森に入ったら魔物がうじゃうじゃいる。僕のフェリシアを危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ」「ちょっと話をするだけだから」「ん。信じる」 グランはそう言ったが、見張りくらいはつけているだろう。 とりあえず人払いをして、人間組三人は部屋に入った。「で、どうする?」 椅子にどっかりと腰をおろして、クィンタが言った。ベネディクトがうなずく。「脱出はあまり得策ではないだろ
last updateLast Updated : 2025-06-12
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第54話 覚悟2

 それに魔族たちだって。グランは困った奴だが、ゴードンとの組み合わせは最高だ。  さっきちょっと会った侍女たちも、人間とそんなに変わらないように見えた。  彼女らはきっとBLの良さを分かってくれるに違いない。  ケモという新たな扉を開くのだ。 であれば、魔族を見捨てる選択肢はない。  そもそも無事に帰れるかどうかは彼らの心次第なのだ。  ここはしっかり仲良くなって、きっちりBL布教して、ケモカプをたくさん摂取しておいたほうがお得というもの。  ……というようなことを三秒ほど考えて、私は言った。「私は魔族たちに協力します。力を尽くして、魔物と瘴気の問題に取り組みます」「フェリシアちゃん……」 クィンタがどこか苦しそうに言う。「お前さんはどうして、そこまでまっすぐなんだ。こんな目に遭ってまであいつらを助けると、迷いなく言えるんだ」 理由はさっき考えたとおりなんだが、BL云々言うのはまずいかなあ。ちょっと取り繕っておこう。「魔族を助けることが、めぐりめぐってユピテル帝国を――ゼナファ軍団の皆さんを助けることになるからと、信じているからです」 ベネディクトとクィンタは目を見開いている。感動しているような雰囲気だ。  え? 私そこまで変なこと言ったかな?  困っていると彼らは目配せをしてうなずいた。  二人はそろって椅子から立ち上がる。「フェリシアの心は、しかと承知した。であれば私たちも全力できみを守り、力になると誓おう」 なんか厳かに宣誓されてしまった。  まあ気持ちは嬉しいので、「ありがとうございます……」 と、言っておいた。     翌日、朝食を済ませてから話し合いの再開となった。  会議室には人間三人の他、魔族はグランとゴードン。それから数人の身分の高そうな人が同席している。  彼らは魔族の国の要職にあると説明された。「昨
last updateLast Updated : 2025-06-12
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第55話 犬猫コンビ

(光の魔力のコツは……) 私自身の幸せを実感しながら、相手の幸福を祈ること。 今の私は幸せだろうか。 急に魔族の国に連れてこられたけど、別に嫌な思いはしていない。 一人きりなら不安だったかもしれないが、ベネディクトとクィンタがいるおかげで安心している。 きちんとおもてなしを受けて、ごはんはおいしい。 ゴードン×グランの主従カプには無限の可能性を感じる。 なんだ、普通に幸せじゃないの。 むしろケモな魔族たちと出会えて、新たな扉が開きそうだ。「ねえ、あなた」 私は虎の人に話しかけた。「あなたには、友人はいますか? 心から信頼できる同性の戦友が」「いるとも」 虎の人は少し戸惑いながら、グランの後ろに控えている一人を指し示した。さっき部屋を出て彼を呼んできた人だ。「あいつは、今でこそ国の要職に就いて偉そうにしているが。前は俺と同じ戦士だった。よく背中合わせで戦ったものだ。瘴気ではないものの傷を受けて戦士を引退したが、今でも魔王様のために尽力している。信頼は変わらない」 指さされた人は照れているのか、居心地が悪そうだ。 その人は狼の耳をしたシュッとしたイケメンである。 対して虎の人はムキムキマッチョなワイルド系。 猫系と犬系! 遠慮なく気持ちを口にして甘えてくるでっかい猫と、真面目で照れ屋だけどまんざらでもないわんこ! 良い! とても良いッ!! あらぁ~。 一応、と思って聞いただけだったのに大収穫じゃないか。 ふつふつと萌えが心に湧き出てくる。 よぉし、これならいけちゃうぜ!(幸せになーれ。苦しいのは飛んでいけ。元気になって、狼の人といっぱいイチャイチャしてね) そっと触れた指先に光が灯った。淡いピンク色の光は、青黒い瘴気に触れるとあっという間に消し飛ばしていく。 傷を覆っていた瘴気が消えた。 クィンタのときのように重傷ではないので、このままでも大丈夫そ
last updateLast Updated : 2025-06-13
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第56話 試す日々

「そんなつもりはない。けれどフェリシアの癒やしの力が知られれば、結果的にそうなるかもしれない……」 グランは悔しそうに表情を歪めた。 他の魔族たちは魔王と私とを交互に見ている。 グランは私を『運命の人』と呼ぶ。 突然誘拐をしてきたり私の意思をろくに聞かなかったりと、自分勝手ではあるけれど、大事にしたいという気持ちはなんとなく伝わってきた。好意的に見れば、空回りしているといったところか。 でも他の魔族たちはどうだろう。 突然やって来た人間が、とても有用な能力を持っていた。 であれば限界まで能力を搾り取って利用してやろうと考えた人がいてもおかしくない。 私自身が実力を把握していない以上、安請け合いは駄目なのだ。 止めてくれたベネディクトに感謝しないと。 少し振り返って目配せしたら、微笑んでくれた。ほっとする。「しかし、魔王様。フェリシア殿の力を使わない手はありません。負担がかからない範囲で是が非にもお願いしなければ」 魔族の一人が言った。 魔王であるグランの手前、気を使った言い方ではあるが。私を酷使したい気持ちはあるのだろう。「フェリシアはどう思ってるの?」「できるだけ力になりたいと考えています。けれどベネディクトさんの言う通り、私は未熟です。光の魔力を扱えるようになったのも、つい最近のこと。どのくらいお役に立てるかは、未知数です」「うん。それなら、フェリシアに負担がかからない範囲でお願いしたい。それ以上は許さない。いいね?」 グランの口調は静かだったが、有無を言わせぬ強さがあった。さすが魔王。 魔族たちの中には不満そうな者もいたけれど、その場はそれでおさまった。   光の魔力は自分の意志で発動できるようになった。 けれど魔力量はどのくらいなのかとか、どの程度の魔物や瘴気に通用するのかとか、不透明な部分はまだまだ多い。 それで以降は、私の力を推し量るためにいろいろと試してみることにした。
last updateLast Updated : 2025-06-15
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第57話 試す日々2

「すごい成果だ……」 グランや魔族たちはもちろん、ベネディクトとクィンタまで唸っている。「魔力の放出だけでこれだもんな。技術としての魔法を作れば、相当な効率になるだろ」 クィンタの魔法使いらしい意見に、ベネディクトは少し違う感想を述べた。「黒い森に出る魔物は、一番強くともCランクだった。魔族の土地の厳しさを実感した」 そういえば黒い森で遭遇した魔物は、光に呑まれてバタバタ死んじゃったっけ。弱い奴ばかりだったのね。「でも、フェリシアを戦場に連れて行くのは良くないよ」 グランが言う。「フェリシアに戦いの心得はない。強い魔物ほど弱い魔物をたくさん連れている。彼女の能力を活かす前に、危険にさらしてしまうから」「確かに。それに魔物殺しは他の者でもできる。フェリシアにしかできない、瘴気の浄化に注力すべきだろう」「うん」 方針は決まった。 けれど私はもう一つ、試してみたいことがあった。「瘴気の傷の治療の他に、試したいことがあります」 魔物退治の実験が終わった後、私は言った。 その場にいたみんなが注視してくる。「瘴気は土地そのものを汚染すると聞きました。であれば、その土地の瘴気を浄化できないでしょうか」「それは……考えたこともなかった」 グランが目を見開いている。「でもグランは、闇の魔力で土地の瘴気を抑えているのよね。同じようにできないかしら」「僕の場合は瘴気そのものを抑え込むというより、障壁を作って侵入を防ぐ感じなんだ。壁は高く厚いものから薄いものまで作れて、その分コストと効果が違う。重要な土地には高い壁を、そうではない場所には最低限のものを」 話を聞くと、こんな感じだった。 瘴気は北の土地ほど強い。 魔族は昔はもっと数が多く広範囲に住んでいたが、北からの瘴気に押されてだんだん黒い森のほうへ南下してきた。 今はこのお城がある周辺が魔族の主たる居住地で、北の瘴気を
last updateLast Updated : 2025-06-16
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第58話 毒沼

 それから数日かけて準備をして、私たちはお城を出発した。 メンバーは人間組三人、グラン、ゴードンと他、魔族の小隊が十数人だ。「魔物との戦いはなるべく避ける。手早く目的地まで行って、確かめたらすぐに引き返すからね」「分かったわ、グラン」 お城の前の広場でグランは一人、進み出た。 どうするのかと思っていたら、ぶわり、彼の輪郭が闇に溶ける。 数秒後には銀のドラゴンが四肢で立っていた。 他の魔族たちも半数ほどが変身している。鳥や飛竜、翼を持つ恐竜(プテラノドン?)みたいな人までいろいろだ。 皆、翼を持っていた。飛んでいくつもりなんだ。「すげぇな……。姿形が変わるだけじゃなく、魔力量も増えてやがる」 クィンタの呟きを拾ったグランが、竜の大きな口で答えた。「どちらかというと、獣の姿が僕らの本性だからね。集団生活や道具を使うのに便利だから、人の姿を取っているけど」 ゴードンがグランの背中に飛び乗って、私を引き上げてくれた。 ベネディクトとクィンタが続こうとしたところ、グランはちょっと嫌そうな顔をしていたが、結局乗せてくれた。「さあ、行こう」 グランが大きく羽ばたくと体が宙に浮いた。 他の魔族たちも仲間の背に乗ったり、足につかまったりしている。 グランを先頭に渡り鳥のようなV字の隊列を組んで、北へ飛んでいった。 グランの背中から地上を見下ろすと、森はやがて平地へと変わっていく。少し向こうには小高い山も見える。 草原と森を貫くように流れる川は、どこか青黒い色をしている。瘴気とよく似た色だった。土地だけでなく水も汚染するとは……。「もうすぐだよ」 お城から出てまだ一時間も経っていないが、目的地は近いようだ。幸い、魔物と遭遇はしなかった。 グランは平原の開けた場所に着地した。魔族たちが続く。「――あそこだ」 グランはドラゴンの姿のままで視線を向けた。 その先は沼沢地のようになっ
last updateLast Updated : 2025-06-17
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第59話 次の一手

「三日ですか。そういえば、要塞でクィンタさんの傷を治したときもそのくらい寝込んでいましたね。限界を迎えると、そのくらい倒れてしまうのかも」「なに、呑気に言ってんだ」 クィンタが不機嫌そうに腕を組んだ。「俺らがどんだけ心配したか、分かってんのか。勘弁してくれ」「すみません……」 言いながら起き上がろうとして、腕に力が入らず失敗してしまった。予想以上に体が弱っている。 三人はまたお互いに牽制し合った末、ゴードンの指示でさっきの猫耳っ子がやってきて介助してくれた。「あれからどうなりましたか?」 背中にクッションをいくつも入れて起き上がり、猫耳ちゃんに白湯を飲ませてもらってから、私は聞いた。「土地の浄化は部分的に成功したよ。フェリシアを中心に半径四分の一マイルほどが浄化されて、その外側も瘴気がかなり緩和された」 一マイルは千六百メートルほどだったか。じゃあ半径四百メートルくらいがきれいになった、と。 うーん? あの沼の広大さを思うと、大した面積ではないな。 一回やるたびに三日寝込んで、回復するのにさらに何日もかかって……となると、私の力で土地を浄化しきるのはほぼ無理ではないか。 だってあの沼沢地は、『一番手近であまり瘴気が濃くない場所』とグランが言っていた。 もっとひどい場所であれば、私じゃどうしようもないかもしれない。 他の人たちも同じ考えのようで、表情が冴えない。「今まで対抗手段のなかった瘴気が浄化されたのは、すごい成果だよ。けれどフェリシアにここまでの負担をかけてまですることじゃない」 グランが静かに言った。私は言葉を返す。「はっきり言っていいですよ。このやり方では効率が悪すぎて、魔族の領土を救うには到底足りないと」 グランは答えなかった。答えないという態度自体が答えだ。 それから彼は首を振った。「フェリシアの力は必要だけど、土地の浄化は負担が大きすぎる。やはり僕が魔王として瘴気の侵入を阻むのがいいと思う
last updateLast Updated : 2025-06-18
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第60話 朗読会

 魔力の使いすぎは思った以上に体力を削っていて、歩けるようになるまで三日もかかってしまった。 その間はベネディクトやクィンタ、グランが部屋に入り浸っていた。 萌えをもらえるのは嬉しいのだが、私にはもう一つ使命がある。 それは、女性たちへのBL布教である! 男性たちが目の前にいては、布教はどうにもやりにくい。 動き回れるようになった後、魔道具の調整や魔力の訓練などの時間の隙を見て女子たちへ話しかけた。「ねえ、侍女さん。この国には物語はあるかしら?」 まずは下地調査だ。 身の回りの世話をしてくれる猫耳っ子に聞いてみる。「ありますよ! はじまりの魔王の話とか、あたし好きです」 魔族たちの建国神話を聞かせてくれた。 夜闇と地底の神々が主役の物語で、なかなか興味深い。「人間の国にも、物語はあるんですか?」 反対に聞かれて、私は内心でニヤリとほくそ笑んだ。計画通りだ。 そこで私は魔族たちを集めて英雄叙事詩の朗読をすることにした。 二次創作BLではない、正統派の本家本元の叙事詩である。 というのも、女性だけを集めてBL布教しようとしたらグランが割り込んできたのだ。「人間の国の物語? フェリシアが語って聞かせてくれるの? 僕も絶対聞く!」 だそうで。仕方ないので男女問わずOKにした。 ま、いきなり二次創作じゃなくまずは本家を知っておくのはいいことだ。 朗読会の会場になったお城のホールは思っていた以上に大きく、魔族たちがたくさん集まっている。 ちょいとビビっていると、ゴードンに魔道具を渡された。小さい箱みたいな魔道具だった。「拡声器の魔道具です。両手で持って話してください。ここは広いですから、無理なく後ろまで聞こえるように」「ありがとうございます」 私はBL創作者であって吟遊詩人でも歌手でもない。声量があるわけじゃないから助かった。「それでは始めます――」 もう何度も読み込んですっかり覚えてしまった英雄叙事詩を、改め
last updateLast Updated : 2025-06-19
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