朝の光がまだ柔らかい時間、隼人の車が滑るように道路を進んでいた。 昨日の高速の大事故の影響で、あちこちが渋滞していたため、ふたりは早朝に出発していた。 千歳は助手席に座り、窓の外をぼんやりと眺めていた。 昇りかけた太陽が、少しずつ街を金色に染めていく。 その光景に、彼女はなぜか胸を締めつけられるような感情を覚えた。 隼人は気を遣うように、時折ぽつりぽつりと話しかけてきた。 しばらくして、車が体育館の前を通りかかったとき、千歳はふと言葉を失い、その巨大なドーム型の建物に吸い寄せられた。 隼人が首を傾げる。 「どうかした?」 千歳はふっと微笑み、指先でその建物を指しながら、静かに口を開いた。 「……あれ、私が結婚式を挙げた場所なの」 懐かしさが胸にこみ上げてくる。 当時の結婚式は盛大だった。 数えきれない友人たち、報道陣も押し寄せて―― まるで夢のような一日だった。 大学の恩師の前で、智也は指輪をはめながら、こう誓ったのだ。 「生涯、君を裏切らない」と。 ――あの時、私は何を考えていたんだろう。 きっと、両親のように温かく穏やかな結婚生活を築けるって、本気で思っていた。 智也の愛は、誇らしかった。 でも―― その「真心」は、時間とともに薄れていった。 智也は今も優しい。 でも、その優しさはもう、私ひとりだけのものじゃない。 彼の心には、もう別の女性がいる。 そして、その女性との間に新しい命まで宿している。 あの頃、愛を誓い合ったこの体育館。 朝日を浴びてきらめいているのに、私にはただ、寂しく見えた。 「……でも、もうすぐ離婚するから。今さら思い出しても仕方ないよね」 自嘲気味にそう呟くと、車はゆっくりと匝道に入っていく。 隼人はハンドルを切りながら、そっと視線を千歳に向けた。 「どうして……?」 その声が少し急いていたことに気づき、すぐに言い直す。 「いや……ごめん。君たち夫婦って、すごく仲がよさそうだったから……何があったのか、気になって」 千歳は一瞬視線を逸らし、そして小さく息を吐いた。 「……浮気、だよ」 隼人が一瞬固まる。 「浮気?」 「うん。智也はね、すごくよくしてくれた。でもそれが、彼にとって『外に女を作らな
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