博人は唇を噛みしめ、心の中にある疑問を話し始めた。「つまり、奥様の態度が急に冷たく変わったんですか?」高橋は顎に手を当てて少し考えた様子で、すぐに博人に尋ねた。「社長に対してそうなんですか?それとも他の人に対してもそのように奥様はなりましたか?」高橋のその質問は博人の心にグサッと刺さるものだった。博人は少し顔を曇らせて、今朝未央に会った時のことを思い出し、苦しげにこう言った。「俺だけにだ」高橋はそれを聞いて考え込み、心の中で状況の分析を始めた。「いつから奥様の態度が変わりましたか?」博人は少し考えて「昨日からだな」と答えた。ここまで聞いて、高橋は何か分かったかのように瞳に光を宿らせ、太ももを勢いよく叩いた。「分かりました。それでしたら、きっと昨日奥様が誘拐されている間に何かあって、社長に対する態度が変わってしまったのでしょう。社長、よく何があったか考えてみてください」その瞬間、廊下は静寂に包まれた。博人は何か考え込んでいる様子だった。脳裏にはすぐに昨日起きたことが一つ一つ思い出されていた。そして突然何かを掴んだようだ。待てよ!もし、昨日のあの放送された音声が、地下室で発せられたものであるのなら、きっと未央もそれを聞いていたはずだ。誘拐犯は彼に未央と雪乃のどちらか一人しか助けることはできないから、選べと言ってきたのだ。あの時、博人はなんの迷いもなく赤いボタンを押した。それは未央を助けるほうの色だった。過去、彼は彼女に間違ったことをしてきた。それにより本来自分が最も愛していたはずの女性を深く傷つけてしまったのだ。それで、今回、彼はもう二度と後悔したくないと思い未央を選んだ。だが、しかし。そのボタンを押した時、何も起こらず、暫くすると雪乃のほうが他の出口から助けられて出てきたのだ。そこまで考え、博人はどういうわけなのかはっきり分かってきた。もし、彼が未央の立場であったらどうだろうか、手足は縛られ目隠しもされて何も分からない状態だ。きっと未央は博人が雪乃を助けることを選んだのだと勘違いしてしまうはずだ。「クソ!」博人はこれで全てを理解できた。すると彼は突然拳を作り、すぐ傍の壁を力いっぱいに殴った。あまりに力がこもっていたので、手の皮が破けて血が滲んでいたが彼はそんなこと全く気にしていなか
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