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今さら私を愛しているなんてもう遅い のすべてのチャプター: チャプター 151 - チャプター 160

240 チャプター

第151話

会議室は一瞬にして水を打ったように静まり返った。会議に参加した人たちはお互い目を合わせていた。特に先ほど秀信を指示した株主たちは、今や後悔してならなかった。博人は険しい表情をしていて、その冷たい視線が出席者たちの顔を舐めるように一人一人見つめた。その時。突然、誰かの電話が鳴り出した。高橋は額に滲んだ冷や汗を拭き、全員の視線を浴びながら、携帯を取り出した。電話の相手から何を言われたか知らないが、彼の表情は一気に険しくなった。時折、机の周りに座っていた株主たちを覗くように視線を走らせた。彼はほどなく電話を切った。高橋は電話をおろし、博人に向かって口を開くと、言い淀みながらも、ようやく声を出した。「西嶋社長、緊急の報告があります」博人は目を細め、その長い足を踏み出し、会議室を後にした。彼が会議室を去ると、そこに残った人たちはようやく安堵し、生き返ったかのようにホッと息をついた。一方。高橋と博人は吹き抜けに来て、周りを確認し、他の人がいないのを確かめてから口を開いた。「西嶋社長、ネット上で突然社長に関する不利な噂が広がっています。恋愛のためなら仕事も顧みず、遠くまで行って妻を追いかけるなどと言われています。そして、西嶋社長が虹陽を離れてから、西嶋家の人たちが再び動き始め、多くの偽情報を流しているようです。そのため、会社の株価は下がる一方で、投資家たちの信頼も大きく揺らいでいます」……博人の顔色が徐々に暗くなり、彼は口元に冷たい笑みを浮かべた。「たった数日離れただけで、あの連中はもう我慢できなくなったようだな?」周りの空気が一気に冷え込んだようだった。高橋も眉をひそめた。しかし、西嶋社長の有能な右腕として、彼はすぐに解決策を思いついた。彼は少し躊躇い、勇気を出してこう言った。「西嶋社長、今投資家の信頼を取り戻す最善の方法は、社長夫人と共に記者会見をし、お二人の仲が良く、何の問題もないことを示すことですね」博人は無表情で高橋を一瞥し、その視線は「それが出来たら苦労しないだろう」と言わんばかりだった。「コホン」高橋は軽く咳払いし、今の状況から見ると、その方法は確かに無理だと認め、続けて言った。「もう一つの方法があります。西嶋社長に少し我慢してもらわなければならないんですが」
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第152話

その言葉を聞き、周りの人はようやく胸を撫でおろした。悠奈は嬉しそうな表情を浮かべ、張り詰めた緊張の糸がぷつりと切れ、その場で崩れ落ちてしまった。未央は素早く反応し、手を伸ばし彼女の肩を支えた。「よかった。お母さん、絶対無事だって信じてたわ」悠奈の嗚咽交じりの声が震え、涙が制御できないかのように流れ落ちた。未央も喜びの笑みを浮かべ、悠奈をしっかりと抱きしめた。二人はきつく抱き合い、このいい知らせを共に喜んでいた。悠生も両手を広げ、彼女たちに加わりたがっていたが、自分と未央の関係を考え、ただ立ち尽くして寂しそうに見つめることしかできなかった。暫く見ていると。悠生はゆっくり口を開いた。「白鳥さん、今回は君のおかげで母が無事だった。感謝するよ」藤崎家の力でも、虹陽の病院にコネがあるが、未央ほどの迅速さではないのだ。「京香さんの力になれて、よかったと思いますよ」と未央は微笑みながら言った。それから。悠生は悠奈の腫れあがった目を見て、心配そうに言った。「二人は一旦帰って休んだらどうかな?ここは俺がいるだけで十分よ」昨日から彼らはずっと京香のことを心配していて、ほとんど眠っていなかったのだ。悠奈は眉をひそめ、本能的に拒否した。「兄さん、私もここでお母さんが目を覚ますまでいるわ」しかし、未央も彼女の手を握り、諭すように言った。「さっき先生がおっしゃってたでしょう?京香さんが目を覚ますまでは、まだ数時間かかるって」「あなたの目を見てよ。真っ赤なりんごのように腫れているわ。もし京香さんに見られたらまた心配させてしまうわよ」そう言われ、悠奈は自分の顔に触れ、頑なにここにいようとしていた態度を緩めることにした。「わ、分かりました」悠生は感激したように未央を見てから、落ち着いた声で言った。「下まで送ろう」エレベーターに入り、病棟を離れ、病院のロビーを通り抜けようとした。その時、何の前振れもなく罵声が聞こえてきた。「西嶋博人のやつ、頭おかしいだろう! ただあの白鳥っていう女のことを『尻軽女』だと罵っただけだってのに、あんなに俺にひどくあたる必要あるのか?俺はどう言ってもあいつの伯父だろう?西嶋家の上の世代だぞ!ちょっと諭しただけで、女のために俺に手を出すとは!一体どういうつもりなんだ?」
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第153話

秀信はまだ前に未央に会った時、彼女が博人の後ろで大人しく控えていた姿をしっかり覚えていたのだ。西嶋の家族内のパーティーでは、彼女は一言も発せず透明人間のようだったのに、今では彼に向って威張れるようになっている。未央は彼の嫌味が聞こえないふりをし、平然と言った。「お褒めいただき、ありがとうございます」秀信は胸が詰まりそうになったが、悠生もここにいるため、彼女を思いきり罵ることができなかった。彼は冷たく鼻を鳴らし、痣のできた目を押さえながら未央たちの横を通り過ぎ、すぐに去って行った。悠奈は不思議そうに尋ねた。「さっきのは誰ですか?なんて横暴な人なんでしょ」「西嶋博人の伯父で、能なしの野心家よ。本当に笑える人だわ」未央は全く遠慮なくそう評価した。西嶋家は藤崎家と全く違った。親戚が多いがそれぞれ下心を持ち、計算尽くしてお互いに利益を巡って争っていた。悠奈には、なぜ親戚同士でそこまで争うのか理解できなかったが、深く追求はしなかった。「未央さん、帰りましょう。タクシーが来ましたよ」未央は頷き、悠生に別れを告げ悠奈と一緒にタクシーに乗った。藤崎家は虹陽にも不動産を持っている。それは藤崎家のおじいさんが投資用に購入したものが、それからずっと空き家になっていたのだ。悠奈は病気のためほとんど立花を離れたことがなく、今車の窓に近づき、興味津々な眼差しで外の景色に張り付いていた。「未央さん、あれを見てください。あそこはどんな場所ですか、すっごく賑やかそうですよ」未央が視線を向けると、市内に新しくオープンした大型ショッピングモールが見えた。「高級ブランドのモールみたいね。私がここを離れた時はまだ建築中だったの。今はもうオープンしてるようね」悠奈は目をパチパチと瞬かせ、そこへ行きたそうな眼差しでモールを見つめ、突然未央の手を掴んだ。「どうせ今寝れないんですから、見に行きましょうよ?」未央はもちろん異存はなく、運転手に言った。「すみません、この近くに止まってくれませんか」すると。未央と悠奈は新しく開いたモールに入った。周りは人が多く、活気に満ちていた。母親が生死の危機を乗り越えたからか、彼女はその緊張感からようやく解放され、思わず買い物に夢中になった。藤崎グループのお嬢様である悠奈は株も持っているの
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第154話

しかし、未央と悠奈が店を出ようとした瞬間。「待ちなさい」知恵は突然声をあげ彼女を止めた。彼女は外で常に上品で優雅な振る舞いを見せる人間で、今日も例外ではなかった。豪華な紫のワンピースを身につけ、慌てることなく、近づいてきた。「聞いた話だけど、博人と喧嘩してるの?」元々、こんな些細なことを知恵が気にする必要はなかったのだ。ただ、最近はネット上にあがったニュースが西嶋グループに悪い影響を与えて、株価を下げることになっていると考えて、未央に声をかけたのだ。知恵は眉をひそめ、高圧的な態度で未央を見つめ、命令した。「西嶋家の嫁として、状況をはっきり把握し、大局を見て物事を考えてから行動すべきよ。今すぐ博人と仲直りしなさい。こちらで記者会見を手配するから、その世間の根も葉もないうわさをしっかりと打ち消してごらん」その口調は、未央が必ず言うことを聞くだろうという確信に満ちていた。しかし……未央は顔色を一つも変えず、冷たく彼女を一瞥し、落ち着いて言った。「西嶋さん、分かってほしいんですが、私は冗談で言ってるのではありません。本当に息子さんと離婚するつもりなんです。西嶋家のごたごたにもこれ以上関わりたくありません」彼女は遠慮なくはっきりと言った。知恵は眉をひそめ、じっくり未央を頭から足まで見て、その決意に満ちた瞳と視線が合うと、ようやく彼女が本気であることを悟った。沈黙が暫く続いた。「蓉子さん、持ってるバッグを私にちょうだい」知恵は突然そう言った。蓉子はすぐに彼女の意図に気付き、顔色が一気に暗くなった。「義姉さん、このバッグはエルメスの最新作なのよ。世界中にも十個しかないわ。やっと手に入れたのに……」まだ言い終わらないうちに、知恵は彼女の言葉を遮り、きつい口調で叱った。「余計なことを言わないでちょうだい、早く持ってきて」仕方のない蓉子は未央を憎らしげに睨みながら、そのブランドのバッグを知恵に手渡した。すると。知恵はそれを受け取ると、躊躇うことなく未央に差し出し、淡々と言った。「博人との間に何があったのかは知らないけど、男は外で働くのが大変だから、あなたの気持ちに気を回せないのも無理はないのよ。このバッグを受け取りなさい。西嶋家からの謝罪だと思って。だから、記者会見の件を早く進めてちょう
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第155話

知恵の顔色は非常に険しくなった。息子の博人が西嶋家の実権を握って以来、親戚たちはこぞって彼女の機嫌を取ろうとしていて、こんなふうに面と向かって歯向かってくる人間なんて全くいなかったのだ。「あなた、どこのお嬢さんなの?ご家族に知られても構わないのかしら?」知恵は声のトーンを低くし脅した。悠奈は胸に手を当て、大袈裟に怖がるふりをして、思わず笑ってしまった。「立花の藤崎家の者ですよ。うちの両親に言いつけるんですか。わあ、怖い!」彼女の兄は博人と張り合える人物なのだ。西嶋知恵ごとき、何ができると言うのか?「この……この礼儀知らずが!」知恵は怒りで顔が真っ赤になり、全身を震わせながらようやく一言絞り出した。悠奈はふんと鼻で笑い、遠慮なく言い返した。「私がどうであれ、あなたのようにわざと年長者ぶる態度よりマシでしょ?このばばあ!」二人が言い争っている間に、エルメスの店員はもう新品のバッグをラッピングし、両手で未央に差し出した。「お客様、こちらが先ほどご購入なさったバッグでございます」知恵は悠奈に言い負かされ、未央に矛先を向けて、低い声で言った。「受け取っちゃいけないわ。この女からバッグを受け取ったら、もう二度と西嶋家に帰らないでよね!」彼女は自信満々な様子で、未央が絶対受け取る勇気などないと確信しているようだった。かつて、未央は博人のために、必死に西嶋家に溶け込むため、知恵の言う事なら何でも従っていたからだ。しかし。未央は一瞬の躊躇いもなく、店員からバッグを受け取った。一方はもうすぐ離婚する夫の家族、もう一方は新しくできた親友。どちらを選ぶか、考えるまでもないだろう。未央は口元を緩め、悠奈に優しく礼を言った。「ありがとう。後で何か美味しいものをご馳走するわね」「はははは、いいですね」悠奈は顎をあげ、得意げに知恵を一瞥し、未央の腕を組んで店を出ていった。二人は振り返りもせず、エルメス店を後にした。知恵はその場に立ち尽くし、胸につかえた怒りが抑えきれず、両手をぎゅっと握りしめた。その時、鋭い爪が掌に食い込んでも全く気にしなかった。その時。蓉子の驚いた声が耳に入った。「白鳥未央は一体何を考えてるの?博人に本当に見捨てられてもいいってこと?」知恵は目を細め、突然携帯を取り出し
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第156話

電話の向こうから嘲笑するような冷たい笑い声が聞こえてきた。その時。知恵はまだ何か言おうとしたが、相手はすでに電話を切り、聞こえてくるのはツーツーという音だけだった。「この親不孝者!」彼女を安心させてくれる者など一人たりともいない!知恵は頭の血管をピクピクと跳ねさせ、呼吸を乱して胸が激しく上下した。そして目の前が突然真っ暗になり、気絶してしまった。「知恵さん?知恵さん?」蓉子は顔色を変え、すぐに救急車を呼ぶため携帯を取り出した。モール内は一瞬にして騒然となった。未央は店で起きたことなど知らず、すでに悠奈と食事を終え、家に戻っていた。藤崎家が虹陽で購入した家も市内にあり、しかも最もいい場所だった。ここから有名な博物館が見えるのだ。悠奈はリビングに少し座っていたが、すぐに睡魔に襲われ、欠伸をしながら疲れがどっと押し寄せて来た。「未央さん、私は先に寝ますね」未央は頷くと、一人でソファに座り、携帯を取り出してニュースを見ようとした。アプリを開くと。トップニュースの見出しが目に飛び込んできた。西嶋グループが不祥事を起こした。記事によると、西嶋グループの管理職の数名が不祥事を曝露されたのだ。不倫や部下へのパワハラ、さらに会社の機密情報を不正に売却した容疑で逮捕された者までいた。そして、このカオスな状況の原因はすべて博人に矛先が向けられていた。全ては彼が妻を取り戻すため、会社を放り出して他の市へ赴いたせいだというのだ。投資家たちの博人に対する信頼は下がる一方で、西嶋グループの株価も下落し続けていた。未央も眉をひそめた。ある程度、この件は彼女が原因で起こったものだが、博人の性格をよく知った彼女からすれば、彼が状況を説明するため記者会見でも行うはずだ。どうして今になっても何も手を打たないのだろうか?むしろ、事態を悪化させているように見える。未央は唇を噛み、無意識に携帯の画面をスクロールし、LINEのフレンドリストの中であるシンプルなアイコンを見つめた。何のメッセージも来ていない。もしかすると、前に彼女がひどすぎることを口にしたからか、博人はここ数日姿を見せず、彼女には付き纏ってきていない。これでいいのだ。未央は密かにため息をついた。西嶋グループの件について、たとえ
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第157話

悠奈は京香の様子を見ると、涙が一気に溢れ出し、ベッドに駆け寄った。「ううう、お母さん、無事で本当に良かった!」彼女はここ数日びくびくと緊張していて、まともに眠れていなかったのだ。今京香の様子を見て、ようやく胸を撫でおろした。未央も目頭が熱くなり、悠奈の感情が移ってきた。18歳以降、彼女の傍には家族がいなくなった。父親は投獄され、母親は他のところへ行ってしまったのだ。藤崎兄妹と京香の存在は、久しぶりに家族の温かさを感じさせてくれた。「いいのいいの、もう大人でしょう?そんな泣いちゃって」京香は悠奈をたしなめるような言葉を口にしたが、その目には心配の色に満ちていた。悠奈は鼻をすすり、何とか涙をこらえ、笑みを見せた。病室の重苦しい空気が一気に和らいだ。京香は未央を優しく見つめ、穏やかに口を開いた。「悠生から聞いたわ、あなたが私を救ってくれたのね?」未央は頭を振り、微笑んで言った。「おば様が幸運の持ち主で、ご自身で頑張っていましたから、私はただちょっと手伝っただけですよ」京香は眼差しがさらに優しくなり、未央の手を握り、ゆっくりとこう言った。「この二日間、私は死の淵をさまよっていたわ。だから、今までの考え方も改めたの。あなたと悠生のことは、私はもう干渉しないことにするわ」未央は目を見開き、彼女がまだ何か言う前に、京香はまた続けて言った。「でも、私は本当にあなたのことが好きなの。だから、藤崎家のお嫁さんになれなくても、私は未央さんのことを自分の娘のように大切に可愛がりたいの。今後、私のことを母親だと思ってほしいわ、いいかしら?」未央は呆気に取られ、顔を上げると、京香の澄んだ瞳がまっすぐに見つめてきた。その目には真剣さが見えた。「私は……」未央は暫く躊躇ったが、すぐに頷いて承諾した。それを見て、京香も嬉しそうに笑い、ずっと手首に付けていたブレスレットを取り出し、未央に手渡した。「急な話で、何かいいプレゼントを用意してないけど、まずこのブレスレットを受け取って。後でまたもっといいものを贈るわ」「おば様、これは高すぎますよ」未央は眉をひそめ、断ろうとした。しかし、口調も不機嫌そうになった京香にすぐに遮られた。「まだそんなふうに私を呼ぶの?母親だって思ってくれないの?怒るよ」未央は少し照れ
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第158話

その時。未央はすぐに悠生に追いつき、後ろから呼び止めた。「藤崎さん、待ってください、私が下まで送りましょう」悠生は少し意外そうな表情を浮かべたが、すぐに歩調を緩めて未央と肩を並べて歩いていた。ところが。二人は地下駐車場に着いた時、そよ風が吹き、未央の前髪を乱した。悠生はふと足を止め、少し腰をかがめて彼女の髪を整えてあげ、耳にかけた。「ありがとうございます」未央がそう言った瞬間、目の前でカシャと閃光が走った。眩しい光だった。未央は目を細め、見上げると、カメラを構えたパパラッチが二人を撮影したようだ。眉をひそめた未央は一瞬顔色が暗くなった。一方、悠生はすでに状況を把握し、彼女に言った。「俺があの男を追ってみるよ」もしここであのパパラッチに逃げられたら、二人が一緒にいる写真がネットに流出し、メディアがどんな記事を書くか分かったものではない。悠生自身は構わないが、未央にとってはいい影響はないだろう。何と言っても、彼女はまだ博人と正式に離婚していないのだ。未央は頷くと、悠生はすぐにパパラッチの方向へ追いかけた。待っている時。聞き慣れた二人の会話する声が聞こえて来た。「博人、私が手伝いましょうか?」雪乃と博人がここに向かって歩いてくるのが見えた。未央は一瞬目を細め、なぜかわからないが、無意識にある柱の後ろに身を隠した。「博人、ネットの記事を見たわ。博人が大変な状況なのも知ってる。私に手伝わせて」雪乃は博人の横についていて、努力して彼の歩調に合わせようとしながら続けて言った。「私があなたの恋人だと認めてくれれば、その恋愛しか考えてないふざけた社長だなんていう噂はすぐに消えるわ。あなたは白鳥さんのためじゃなくて、立花で業務を開拓するために行ったって……」雪乃はペラペラと話していたが、隣の博人は全く無表情で、何の反応も示さなかった。雪乃は唇を噛みしめ、悔しそうに言った。「博人、それも駄目なら、ただゴシップでもいいよ、それをネットに出したらいいよね?以前もそうやってたじゃない?」雪乃には一体何が違うのか全く理解できなかった。以前何もなかった時、彼女と博人のゴシップがトップニュースになっても、目の前の人は見て見ぬふりをしていた。今は、西嶋グループが危機に瀕してい
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第159話

「未央?」博人は一瞬ポカンとし、彼女の複雑な色を含んだ目を見て、先ほどの会話を聞かれていたと悟った。未央は眉をひそめ、思わず心の中の疑問をぶつけた。「さっきどうして綿井さんの提案を受け入れなかったの?」今の状況からみると、博人が頷けば、西嶋グループの危機なんてすぐ解決できるはずだ。こんな小さな騒動などで、彼の地位が揺らぐことはないのだ。博人は目を伏せ、両手を握りしめながら低い声で言った。「理由なんてない。ただそうしたくないだけだ」未央は目の前の男を見つめ、眉間に寄せたしわが少し緩んだ。博人の頑固な性格を彼女はよく知っていた。無理強いされればされるほど反発するタイプなのだろう。彼女自身が原因でなければそれでいい。未央は静かに息を吐き、ふっとさっき頭をよぎった考えが少し滑稽だと思った。仕事一筋の博人が彼女のことを考えて会社の利益を顧みないなんてありえないだろう?自惚れるにもほどがある。暫く、二人は無言でいた。駐車場は再び静寂に包まれた。間もなく、後ろから足音が聞こえてきた。悠生が戻ってきて、未央に言った。「もう大丈夫だ。あいつに写真を削除させた」そして。彼は視線を博人に受け、軽く会釈して、挨拶した。「西嶋社長、またお会しましたね」博人は面白くないといった目つきで目の前に並んで立つ二人を見つめた。普段なら彼は激怒するところだが、今日は何も言わなかった。「先に失礼する」博人はじっと未央を見つめてから、返事も待たずにエレベーターに向かった。どうしてだろうか、その後ろ姿はどこか弱々しく寂しげに見えた。未央はポカンとし、複雑な表情を浮かべながら視線をそらした。今日の博人はどこかおかしかった。それに、どうして突然病院に?具合が悪いのか。それとも西嶋家の誰かが入院したのか。頭の中にさまざまな考えが巡った。悠生も彼女のそわそわした様子を察し、未央を気遣って尋ねた。「見に行ってみようか?」「いいえ、その必要はありません」未央は首を振った。今の二人の関係では、博人に何があろうと彼女に関係ないことだ。二人は車に乗り込むと、悠生は眼鏡の下の目を細め、何かを考えながら、未央にこう尋ねた。「白鳥さんはどこへ行きたい?」未央は少し考えてから口を開いた。「中心通りにあ
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第160話

さっきのパパラッチは用心深く、悠生の前では写真を削除したふりをしながら、実はこっそりバックアップしていたのだ。未央は眉をひそめ、携帯を開くと大きく書かれた記事の見出しが目に飛び込んできた。西嶋グループの社長夫人、不倫疑惑。コメント欄ではざまざまな意見が飛び交い、大騒ぎをしていた。「どうりで西嶋社長は他のところへ行ったわけだ。婚姻関係にひびが入っていたのか」「写真の中の男の方に見覚えがあるな。経済新聞に出てたような」「ところで、社長夫人はすごい美人だな。多くの女優より綺麗じゃん。西嶋社長が忘れられないのも無理ない」「俺は今西嶋社長の状況しか興味ないや。ちゃんと指揮とれるか?会社をきちんと運営できるのか?」……未央の表情は徐々に険しくなっていった。この写真がネットに流出したことで、明らかに博人をさらに追い詰めただろう。耳元で、瑠莉のからかう声が聞こえた。「ははは、未央、やるじゃないの!立花市の藤崎グループの唯一の後継者を落としたってすごいよ」未央は眉をひそめ、仕方なく説明した。「彼とは何もないの。その写真も偶然に撮られただけ」「え?そうなの?」瑠莉の声に明らかに落胆が滲んでいたが、すぐに続けて言った。「まあ、別にいいけど。少なくとも、西嶋博人のあのクズ男には不快な思いをさせたわけだし。」彼女は少し間を置き、さらに博人の不幸を楽しむように言った。「西嶋グループは株主総会を開いて、あいつを社長の座から降ろそうとするらしいよ」未央は目をパチパチと瞬かせ、思わず口を開いた。「彼は西嶋グループの実権者で最大株主でしょ?誰が彼をその座から降ろすことができるの」瑠莉は頭を振った。「私も知らないわ、どうでしょうね」二人は暫くお喋りをし、話題を変えた。「ところで、白鳥家の件はどうだった?」瑠莉は心配そうに尋ねた。未央は数秒沈黙し、ため息をついた。「難しいわ。新しい手がかりが見つからないの」今分かっているのは晃一の死が絵里香と無関係ではないこと、そして、地下室にいた謎の男も首謀者の一人だろうということだ。しかし、その手がかりはほぼ期待できなくなった。今は聡子の方が黒幕を誘き寄せるかどうかを待つしかないのだ。瑠莉の声は重くなり、同じようにため息をついた。「わかった、こっち
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