All Chapters of お嬢!トゥルーラブ♡スリップ: Chapter 151 - Chapter 159

159 Chapters

【第2部】 第25話 優しい眼差し①

 日が沈みかけているのか、窓から赤い夕陽が部屋に差し込んでいた。 いったい今、何時なんだろう。 あれから、私はずっとベッドの上だった。  動く気にもなれず、何も考えたくない。 もう何度目になるのかわからないため息が、またひとつ口からこぼれ落ちた。 ……龍。 いつも私のことを一番に考え、彼にできる最上級の優しさと愛を注いでくれた人。  どんな時も隣に寄り添い、見守り、支え続けてくれた―― 大好きな、龍。 たくさんの思い出が、ひとつひとつ蘇っていく。 彼の笑顔を思い出した途端、私の目にまた涙が溢れた。 ……傷つけてしまった。 優しい彼が、あんな行動を取るなんて。 でも、嫌だったわけじゃない。  ただ、悲しかった。 そこまでさせてしまうほど、彼を追い詰めていたことが、 ショックだった。 激しい感情をぶつけなければならないほど、彼の胸は張り裂けそうだったんだ。  それほど苦しんでいたことに、私は気づいてあげられなかった。 今もきっと、龍は自分を責め、苦しんでいる。 だって……龍は優しいから。「ごめんね、龍……ごめん……」 涙がまたひと筋、頬を伝っていく。 早く、あなたに会いたいよ――。  そのとき、玄関のチャイムが鳴った。  心臓が、一気に波打つ。 まさか……。 脳裏に浮かんだのは、龍の顔だった。 私はふらつく足取りで自室を出て、一階へと降りる。  速まる鼓動を抑えながら、玄関へ向かった。 人の話し声が聞こえてくる。  期待と不安が入り混じり、胸が痛いほど高鳴っていく。 私はそっと玄関の様子を覗き込んだ。 そこにいたのは、  祖父と話している、ヘンリーと貴子の姿だった。 ……なんだ。  期待が一気にしぼんでいくのがわかる。
last updateLast Updated : 2025-09-30
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【第2部】 第25話 優しい眼差し②

「ごめん! 私、黙ってられない。はっきり聞くよ。  それって……龍さんがいないことと関係してるんでしょ?」 私は目を見開いた。  動揺を隠すことができず、視線があちこちに泳いでしまう。 貴子はそんな私を見て、静かに頷き、優しく微笑んだ。「なんとなく、ね。龍さんもいないし……。  あんたの顔が、何より物語ってるよ」 貴子に言われ、私は自分の顔へ手をやる。 そうだ、朝もおじいちゃんに言われたっけ。  鏡を見てないからわからないけど、きっとひどい顔をしてるんだろうな……。 私は深いため息をついた。「……そう、なんだ。龍と……ちょっとね」 言いにくそうにしていると、ヘンリーがすっと近づいてきた。  目の前に迫ると、穏やかに微笑みながら、私の手をそっと包み込む。 その手はとてもあたたかく、優しかった。「流華……君がそんな顔をしてると、僕も辛い。  君をこんなふうにさせるなんて……僕は、龍を許さない」 ヘンリーは、まっすぐな眼差しをこちらに向け、低く震える声で言った。  その瞳は切なげに揺れている。「流華、僕がついてる。……だから元気出して」 そう言って、彼は精一杯の優しい笑みを向けてくれた。 ヘンリーの真摯な想いが伝わってくる。  その気持ちは、たしかに嬉しかった。 でも――龍のことを悪く言われるのは、どうしても許せなかった。「ありがとう。気持ちは嬉しいよ、すごく……。  でも、龍のことは悪く言わないで。私がいけなかったの。私が」 ヘンリーから目を逸らし、うつむく。 苦しくて、喉が詰まって息をするのさえ辛い。「流華、ごめん、僕――」「ごめん。やっぱり……帰って。今は話したくない」 静かに、そう告げた。 やっぱり、今は誰とも向き合えない。  こんな状態では無理だ。 重い沈黙が室内を支配する。「……
last updateLast Updated : 2025-09-30
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【第2部】 第26話 通じた想い①

 願いも虚しく、それから二日が過ぎた。 その間、私はずっと家に引きこもり、彼の帰りを待ち続けている。 朝が来て、夜が過ぎて、また朝が来ても――龍は帰ってこなかった。 今度会えたら、もう絶対に逃げない。  しっかりと向き合って、龍の気持ちをちゃんと受け止めよう。  そして……心から謝ろう。 それから相川さんのことだって、きちんと話して、龍が安心できるようにしよう。 そう、決めていた。  龍を待ち続け、三日目の夕方。 外から差し込む光は赤く染まり、家の中を静かに照らしている。 落ち込んだ気持ちのまま、私は居間でぼんやりとテレビを眺めていた。  そのすぐ横では、祖父が新聞に目を通している。 テレビの音と新聞をめくる音が穏やかに重なり、静かな部屋の中で心地よく混ざり合う。 祖父は、何も言わない。  ただ時折、私の方をちらりと見ては、優しく微笑んでくれていた。 そのとき―― 玄関の扉が開く音が聞こえた。 はっとしてそちらに意識を向ける。 何度も裏切られた期待。  そのたびに、聞き違いだったと肩を落としてきた。 でも、今回は違った。 足音が、ゆっくりと、確実にこちらへ近づいてくる。 この足音は聞き覚えがある。  それは、待ち望んでいた……。 居間の前で、気配が止まった。 私はゆっくりと顔を上げ、そちらを振り向いた。「……っ!」 その姿を目にした瞬間、口元を手で覆う。 驚きと嬉しさ……言葉にならない感情が一気に押し寄せてきて、  涙があふれる。 滲んだ視界の中に、彼がいた。「龍! おお、やっと帰ったか!」 祖父が新聞を放り出し、勢いよく立ち上がると龍のもとへ駆け寄っていく。  けれど龍は俯いたまま、じっとその場に立ち尽くしている。 私は動くこともできず、ただ彼を
last updateLast Updated : 2025-10-01
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【第2部】 第26話 通じた想い②

 夕日が辺りを優しく染めている。  風が吹くたび、ほんのり赤く色づいた木々たちが、さわさわと静かな音を立てた。    柔らかな光に目を細めながら、私は縁側に腰を下ろす。 すぐ隣に、龍の気配がする。  彼は私から少しだけ距離を空け、そっと腰を下ろした。「……」  「……」 しばらく、ふたりとも黙り込んでしまう。 静かな時間が流れ、家の前を通るバイクの音が、妙に大きく耳に届いた。「……夕日が、綺麗ですね」 やっと絞り出された龍の第一声が、それだった。 龍は気まずそうに下を向く。 絶対、私がまだ怒っていると思ってる……。「ねえ、龍」「は、はい!」 私が呼ぶと、龍はびくりと肩を揺らし慌ててこちらを見る。  視線がぶつかると、その瞳がゆらゆらと揺れ、不安と緊張が伝わってきた。 そんな彼の気持ちに寄り添うように、ほんのり微笑む。「私、怒ってないよ」「……え?」 龍は目を瞬かせ、ぽかんとした顔をする。 ほらね、やっぱり怒ってるって思ってた。「だって、私のせいだもん。  私の態度が、龍を不安にさせたんだよ。だから……あんなふうに」 その瞬間、あの日のことが蘇り、顔が熱くなる。「な、何をおっしゃるんですか! 悪いのは、私です!」 龍が勢いよく首を振り、顔を真っ赤にして叫んだ。「本当に申し訳ありませんでした……お嬢に、あんなこと……!」 そのまま、またうつむいてしまう龍。 ……気まずい。  また沈黙だ。 私は、ふうっと小さく息を吐き、口を開いた。「あのさ、私、別に嫌じゃなかったよ」「えっ!!?」 龍がぎょっとした顔で私を見る。 目を剥いて、焦って。顔がみるみる赤くなっていく。「そ、それは……どういう、意味でしょうか?」
last updateLast Updated : 2025-10-02
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【第2部】 第27話 今度は、龍!?①

 無事に一波乱去った、と思いきや、また波乱の予感。 それはまた、祖父が連れてやってきた。  いつも通り夕食を食べ終えた私は、一息ついてお茶を飲んでいた。「龍、今度はお前にお見合いじゃ」 机を挟んで座る祖父が、にこりと微笑み、そう告げた。 居間に一瞬、凍りつくような静寂が流れる。  そして次の瞬間、私の叫び声が響き渡った。「ど、どういうことよ!」 いきなり告げられた衝撃のセリフに、頭が真っ白になったが、すぐに正常に戻る。 私は勢いよく祖父に詰め寄ろうとした。 しかし、祖父は私の行動を先読みしていたのか、するりとかわして龍の前へと移動する。  口をぽかんと開けたままの龍の前に立ち、祖父は胸を張って堂々たる眼差しを向けた。 どうだ、と言わんばかりに。 しまった! ちっ、先読みされたか……。 私は祖父を睨んだ。 そのとき、ようやく我に返った龍が、慌てて声を上げる。「い、いったい、どういうことですかっ?」 龍は祖父の威圧感に押されつつも、怯むことなく真剣な眼差しを返している。  祖父はにやりと微笑んだあと、すぐに悩ましい顔つきになった。「うーん、せっかく二人が仲直りしたばかりだから、今回は断ろうかとも思ったんじゃが……。  どうやら、お相手が龍をえらく気に入っておるみたいでな」 腕を組み、考え込むような素振りを見せる。 ……どうせ格好だけだろうけど。「理解しかねるのですが、なぜ私がお見合いを? 私にはお嬢がいるのですよ?」 龍の表情と口調に、少し鋭さが混じる。「うん、わかっとる。しかしなあ……言いにくいんじゃが、また相川さんなんじゃよ」 あっさりと衝撃発言を繰り出しながら、祖父はくったくのない笑顔を浮かべた。  私と龍は、思わず祖父を凝視する。「相川さんって……あの相川さん!?」「そう、その相川さんじゃ」
last updateLast Updated : 2025-10-03
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【第2部】 第27話 今度は、龍!?②

「龍、頼む。わしの親友の頼みを聞いてやりたいんじゃ。  一目だけでいい、会ってやってくれんか?」 龍と祖父の視線が交わる。 ……やばい、これは雲行きが怪しくなってきた。 私は焦って龍に声をかけようとした。「ねえ、龍――」 けれど、その言葉は途中で止まった。 だって、私を見た龍の表情がすべてを物語っていたから。 ごめんなさい、と。「お嬢、申し訳ありません。  一度だけ許してくれませんか? 会うだけですから」「龍……」 切なそうに見つめる龍を見ていたら、もう何も言えなくなった。 今回は、彼の優しさが仇になってしまった。 ていうか、この展開……前に私がやった、反対バージョンじゃない!  なんで、またこんなことになってんの? 一人でモヤモヤと悩む私に、龍が微笑みかけてくる。 大丈夫、とでも言いたげに頷くと、彼は祖父に向き直った。「……わかりました。一度会うだけです。すぐにお断りしますから」「ほんとか!? ありがとう、龍。恩にきるぞ!」 祖父は嬉しそうに軽く飛び跳ねると、その場でいそいそと電話をかけはじめる。  きっと相川さんに報告するのだろう。 ……本当に調子がいいんだから。 祖父をじとっと睨みながら、頬を膨らませた。 私に続いて龍まで……なんでこうなるの? 肩を落とし落ち込んでいると、龍がそっと私の耳元に顔を寄せてきた。「お嬢、本当に申し訳ありません。あなたには辛い思いをさせてしまうことに……」 悲しそうに眉を下げる龍。  彼もかなり意気消沈しているみたいだ。 そうだよね、龍だって辛い……。  龍は優しいから、おじいちゃんのことを想ってくれたんだよね。 私はそんな彼を励まそうと、懸命に笑顔を作った。「大丈夫、私、平気だよ。  龍だって、相川さんのこと耐えてくれたんだもん。私も耐えてみせる」
last updateLast Updated : 2025-10-03
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【第2部】 第28話 落ち着かない①

 それから数日が経ち……。 まあ、なんてお見合い日和なんでしょう。 縁側に佇んだ私は、雲一つない青空をにらみつけた。  日差しは暖かく、ぽかぽかとあたたかい。 今日は、龍のお見合いが行われる日。 どうせなら、曇ったり雨でも降ってくれた方が少しは気分も晴れただろうに。 私が大きくため息をついた、そのとき――。 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。  その音を聞いた瞬間、私は勢いよく玄関の方をにらむ。 来た!「では行きますが、ご心配なく」 スーツ姿の龍がネクタイを直しながら、私の方へ近づいてくる。  そして、そっと顔を覗き込み、優しく微笑んだ。 ……なんだか、ドキドキする。  いつもと違う龍。 大人の雰囲気が漂っていて、ダークグレーのスーツがとてもよく似合っている。  白いシャツに、深みのあるボルドーのネクタイが映える。 龍は何を着ても似合うけど、スーツを着ると大人の色気が増す。 私は思わず見惚れてしまい、固まった。 格好よすぎて、緊張するじゃない……!「お嬢……どうされました?」 龍が不思議そうに首を傾げる。「ううん、何でもない」 慌てて首を振り、気持ちを落ち着ける。  でも今度は、違う感情が湧いてきてしまう。 ――嫉妬だ。 こんなに格好いい姿を、他の女に見せるなんて、嫌だ。 けど、お見合いなんだからしょうがないよね。  我慢だ、我慢。 ……そう思ってみても、あふれる思いは止められなかった。 私はふくれっ面のまま、龍に思い切り抱きついた。 はじめは戸惑っていた龍も、しばらくすると私の頭を優しく撫でてくれる。  なんだかほっとして、余計に愛しさが溢れだしてきた。 龍を離したくなくて、私はさらにぎゅっと彼を抱きしめた。 わずかな時間、私たちは黙ったまま熱い抱擁を交わした。
last updateLast Updated : 2025-10-04
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【第2部】 第28話 落ち着かない②

 ど、どうしよう! 私は咄嗟に隠れようと一歩を踏み出す。  が、何かに足を取られ、そのまま思い切りすっ転んだ。 よりにもよって――みんなの目の前で。 盛大なこけっぷりに、皆の動きが止まる。「いたた……っ」 膝をさすりながら、そっと顔を上げる。 皆の視線が、じっと私に注がれていた。 や、やっちゃった……!  よりにもよって、こんなときに! 顔から火が出そうなくらい恥ずかしくて、その場から動けなくなる。「大丈夫ですか!? お嬢っ」 龍が慌てて駆け寄り、手を差し出してくれる。「あ、うん、平気平気。ごめん、ごめん」 私は慌てて立ち上がるけど、恥ずかしさでまともに顔を上げられない。 まさに穴があったら入りたい、とはこのことだ。 そのとき、祖父の傍らに立っていた女性と目が合った。  お人形のように可愛らしい女の子だ。 艶やかな着物がとても似合っていて、私は自然と目を奪われた。 淡い桃色に花が散りばめられた生地。  さらりとした長い黒髪に、ぱっちりとした瞳。  長いまつげがその大きな目を際立たせていて、整った鼻に、小さな口元。  唇には、ほんのりとピンクのグロスが光っている。 ……可愛い。 思わず見惚れてしまう。 この人が、相川果歩さん――。「お嬢、気をつけてくださいね。本当にそそっかしいんですから」 龍は苦笑しながらも、その瞳は愛おしげに私を見つめている。  私は恥ずかしさに顔を赤らめたまま、何も言えずに笑い返した。「ささ、果歩さん、こちらへどうぞ」 祖父が果歩さんを奥座敷へ案内していく。 すれ違いざま、果歩さんはずっと私のことを見つめたままだった。  その瞬間、ふわっと甘い香りが鼻先をかすめる。 ……女の子らしい、可愛い香り。 彼女によく似合っている。 私はただ、その
last updateLast Updated : 2025-10-04
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【第2部】 第29話 龍のお見合い①

 やっぱりダメ、気になってしかたない! ついに我慢できなくなった私は、とうとう奥座敷へと向かった。  足音を忍ばせながら、そろりそろりと近づいていく。 でも、あまりに近づきすぎると気づかれそうで……。 奥座敷から少し離れた廊下の曲がり角。  その陰に身をひそめ、そっと耳を澄ます。 小さな声しか聞こえないけれど、内容はどうにか拾える。 私はその場に落ち着き、静かに息を殺した。 「果歩さんは、あの真司さんの妹だそうですね」 龍の声だ。 声だけで胸がときめいてしまい、そんな自分にあきれる。「ええ……それが何か、問題でも?」 果歩さんの声。 声まで可愛らしい。  まるでそのまんま、見た目通りって感じ。「いえ」 龍の返事のあと、少しの沈黙が訪れる。「……あの、私のこと覚えておられませんか?」 果歩さんの声が、どこか期待に満ちている。「はあ……どこかでお会いしましたか?」「ええ。以前、男性に絡まれていたとき、助けていただきました」 なるほど。  そのとき龍に惚れた、ということか。 ……わかるけど。 龍は強いし、颯爽と相手を蹴散らす姿は、きっと格好良かったんだろうな。 戦う龍の姿が脳裏をよぎった。 しばしの沈黙。  どうやら龍が思い出そうと考え込んでいるらしい。「……そんなことも、あったかな? すみません、覚えてなくて」 龍の言葉に、果歩さんはショックを受けたのか、また静かになった。「いえ、いいんです。  私が勝手に、あなたのことを忘れられないだけですから……。  あのときの龍さん、すごく素敵で目が離せませんでした。  強くて、優しくて……こんな方に、人生の伴侶になってもらえたらって」 えっ!?  私は驚いて思わず手で口を押さえた。 たった一度会っただ
last updateLast Updated : 2025-10-05
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