All Chapters of お嬢!トゥルーラブ♡スリップ: Chapter 181 - Chapter 190

196 Chapters

【第2部】 第40話 彼の素顔

「うわぁ、綺麗……!」 思わず、感嘆の声が漏れた。 小高い丘の上。  そこから見下ろす景色に、私は一瞬で心を盗まれた。 街並みに目を向けると、建物はまるでミニチュアのように小さく見える。  人の姿なんて豆粒ほどだ。 こういうものを前にすると、人間なんてちっぽけな存在に思えてくる。 ほんのり赤く染まり始めた太陽が、辺りを包み込んでいく。  町も丘も、オレンジ色に染まりながら優しく輝いていた。 なんだか、ロマンチック……。 丘の周囲には低木や草花が広がり、そよ風が吹くたびにそれらが静かに揺れる。  葉擦れの音や鳥のさえずりが、心地よいハーモニーを生み出していた。 人影はまばらで、静かに景色を堪能できる。 こんな場所が近くにあったなんて、知らなかった。 目を輝かせながら、ゆっくりと景色に見入る。  すると、相川さんが、そっと私の隣に寄り添ってきた。「僕のお気に入りの場所なんですよ。気に入りました?」 お互いの肩が触れそうな距離に彼がいて、私はさりげなく一歩横に退く。「素敵な場所ですね! とても気に入りました」 正直な気持ちだった。  この景色は、すごく好き。「それはよかった。……流華さんって、龍が最初の男なんですか?」 相川さんの唐突な質問に、私は固まった。「さ! 最初の男!?」 大きな声が出た。  しかし、すぐに冷静になる。 「最初に付き合った人」って意味だよね? そう解釈し直し、頷いた。「そうです。私、今まで……」 ――ん? 言いかけたところで、ふと疑問がよぎる。 ヘンリーってどうなるんだ?  私たちは付き合っていたことになるのだろうか? 考え込んでしまい、腕を組み黙り込む。 そんな私の様子に、相川さんがまた可笑しそうに笑った。「すみません……そんなに悩まなく
last updateLast Updated : 2025-10-17
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【第2部】 第41話 龍の怒り①

「おう、おう。こんなところで、あの相川組の若頭が女といちゃついてるとはな。珍しい!」 突然現れた男。  一目見て、そちら側の人間だとわかった。 濃い紫のサングラスをかけ、黒のスーツをだらしなく羽織り、はだけた胸元には金のネックレス。  がに股の足取りで、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。 典型的だな、とあきれかけたその瞬間。 周囲に、多くの気配を感じる。  姿こそ見えないが、どうやらこの男の仲間が潜んでいるようだ。「おまえ……確か、八幡組の……」 相川さんが低くつぶやく。 どうやら知った顔らしい。 それにしても、やはり相川さんは只者じゃない。  いつもふざけているから、忘れそうになるが。この人も龍と同じ穴の貉か……。 男が現れた瞬間、彼の雰囲気が変わった。  さっきまでの柔らかさは消え、一気に尖ったものへと変化した。「いっつも隙を見せねえから、困ってたんだよ。  なのに、今日はどうした?  浮かれた様子で、隙だらけじゃねえか。その子のせいかな?」 男はニヤリと笑い、いやらしい目つきで私を見つめる。「彼女は関係ないだろ。  もし手を出したら……どうなるかわかっているのか?」 私を背に庇いながら、相川さんは挑発的に言い放つ。  こんな時でさえ、彼には焦りの色は微塵もない。「ふっ、いつまで強気でいられるかな?」 男が片手を上げると、周囲の茂みや建物の影から次々と人影が現れる。 ざっと七、八人……といったところか。  仲間と思われる男たちが私たちを取り囲んでいく。あっという間に包囲されてしまった。 なんで弱い奴って、人数で勝とうとするんだろう。 ……カッコ悪っ。「ちょっと、あんたたち! 大勢なんて卑怯よ。  やるならタイマン張りなさいよ!」 相川さんの背後から出て、男たちに向かって叫ぶ。 一瞬、静かになった。  男たちは、
last updateLast Updated : 2025-10-18
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【第2部】 第41話 龍の怒り②

「ぐはっ!」 一人の男が、突如苦しそうに呻いた。「え? 何……?」 一番遠くにいた男が、ゆっくりと倒れていく姿が目に映る。 何が起こったの? 地面に伏した男のすぐ隣には、いつの間にか龍が立っていた。「龍!?」 ここにいるはずのない彼が、不機嫌そうな表情で男を見下ろしている。「ははっ、やっぱり」 相川さんがどこか楽しげに笑う。「え? どういうことですか?」 事態が飲み込めず、戸惑いながら聞き返す。「ずっと僕たちのあとをつけていたみたいですね。  君のダーリンは」「は?」 予想もしなかった展開に、私は相川さんと龍を交互に見つめた。  龍は物凄い勢いで男たちをなぎ倒していく。  拳を振るうたび、蹴りを繰り出すたび、次々と男たちは地面に沈んでいった。 私は呆然とその光景を見つめる。 相川さんはたまに楽しそうに笑いながら、呑気に観戦している。「……あの、相川さんも加勢しなくていいんですか?」 私は、もっともなことを聞いた。 だって、もともとあの男たちは相川さんを追ってきたんだよ?  なのに、なんで龍が一人で戦っているの?「いやぁ、龍なら一人で全員片付けちゃうでしょう?  私は戦闘があまり得意ではないので、遠慮しておきますよ」 爽やかな笑顔で答える相川さん。  私は呆れて、何も言えなくなった。 戦闘が得意じゃないのに、なんであんなに余裕だったわけ? もしかして……最初から龍がいることに気づいてた? 疑わしげな眼差しを彼に向けると、相川さんがまるでゲームを楽しむかのように告げた。「あ、あと一人ですよ」 私は龍の方へ視線を戻す。 龍は、先ほど私たちに絡んできた男と対峙していた。  周囲には、彼によって倒された配下たちが地べたに這いつくばっている。
last updateLast Updated : 2025-10-18
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【第2部】 第42話 勝利のご褒美①

「龍!」 私は勢いのままに龍の胸に飛び込んだ。  ぎゅっと腕に力を込め、きつく抱きしめる。「お嬢……」 龍もそっと私を包み込むように、優しく抱き返してくれた。「よかった、無事で。……まあ、龍ならあのくらい平気だとは思ってたけど」 冗談めかして笑いかけると、彼も少しはにかみながら微笑む。「私の方こそ、お嬢に何かあったらと思うと、気が気じゃありませんでした」「ところで、どうして龍がここにいるの?」 にこやかに問いかけると、龍の表情が固まった。  そしてゆっくりと、視線を私から逸らしていく。「えーと、その……あの」「ん?」 言葉に詰まる龍に、無言の圧をかけた。「すみません! あとをつけていました!」 彼は少し距離を取り、深々と頭を下げた。 私は腰に手を当てて、あきれたように息を吐く。「やっぱりね……。  心配だったんでしょ? 気になって仕方なかったんだよね?  で、いつから? もしかして最初から?」 詰め寄る私に、龍は頭を下げたまま答えた。「……最初から、です」 その答えに、あきれながらも、どうしようもなく愛おしさが込み上げてくる。 つけられていたことよりも、  私のことをそこまで思ってくれてたことが、嬉しかった。「龍、顔上げて」「……はい」 沈んだ声で顔を上げた龍に、私はそっと不意打ちのキスをした。「お、お嬢!」 驚いたように一歩後退し、目をまん丸にして私を見つめる。「龍、かっこよかったよ」「へ?」 瞬きを繰り返しながら、わけがわからないという顔で首を傾げる龍。「あんなに怒った龍、初めて見たかも。私のために怒ってくれたんだよね?」「もちろんです! お嬢を守りたい一心で」 私は再び彼に抱きつく。「……っ」 動揺が、
last updateLast Updated : 2025-10-19
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【第2部】 第42話 勝利のご褒美②

「ターッイム!」 いつの間にか、私たちのすぐそばに相川さんがいた。「ねえ、僕のこと、忘れてないかな?」 ちょっと引きつった笑顔で、私と龍を交互に見つめる。「なんですか? まだいたんですか。もう帰っていいですよ」 龍が冷たく言い放つ。  その声音も表情も、容赦がない。 相川さんは一瞬だけ不機嫌そうな顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。「ふっ、まあ今回はあなたに花を持たせてあげましょう。  あれだけの人数を相手に、流華さんを傷一つつけず守れる自信は、僕にはありませんから」 肩をすくめると、龍をじっと睨み、すぐに顔を背ける。「僕はどちらかと言うと頭脳派なんです。あなたみたいに化け物じみた強さは必要ない」「しかし、俺のように強くなければ、お嬢は守れない」 龍の言葉は静かだが、芯のある強さを感じる。 その姿に、かっこいい……と見惚れてしまった。 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、相川さんが小さく息を吐く。「わかった、今日は帰る。流華さん」 急な呼びかけに驚き、相川さんを見た。「今日のところはあきらめます。  でも、僕はこう見えて一途なんで……覚悟してください。  ――また、会いましょう」 ニコッと微笑みながら、相川さんは私の手を取った。  そのまま、甲にそっと口づけを落とす。「あっ! 貴様っ!」 龍がすかさず蹴りを放つが、相川さんはそれをひょいと軽くかわした。 その動きは素早く、華麗で、まるで龍の身のこなしを見ているようだった。 先ほど「戦闘は得意じゃない」と言っていたのは、本当だろうか。  少し疑わしく思えてくる。「流華さん、龍。また」 相川さんはいつもの飄々とした笑顔で、私たちに背を向けた。 その遠ざかる背中を見送りながら、龍がぽつりとつぶやく。「あいつ……」「どうしたの?」「
last updateLast Updated : 2025-10-19
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【第2部】 第43話 わが道をいく祖父①

 そして、ある日の休日。 私と龍は、緊張した面持ちで祖父と向き合っていた。  あ、ついでにヘンリーも参加して。 如月邸の居間では、四人が真剣な表情で膝を突き合わせている。「おじいちゃん!」「おう!」 私の威勢のいい呼びかけに、祖父も元気よく応じる。「相川さんとは交際しないし、婚約もしませんから」「同じく、相川さんとは交際しませんし、婚約するつもりはありません」 私に続いて、龍もきっぱりと宣言する。「おう、わかった!」 祖父のその一言に、その場が静まり返った。  そして、皆固まる。 しばしの沈黙の後、屋敷中に叫び声が轟く。「えーーーっ!!」 三人の声が揃う。 祖父は、そんな私たちの反応を見て、満足そうに笑っている。「ちょ、ちょっと待って。だって、おじいちゃんが私たちにお見合いしろだの、デートしろだの、強制したんじゃない。断ることもできない感じだったよね?」 あまりにあっさりと承諾する祖父の意図がわからず、私は詰め寄った。「ほっほっほ。別に、絶対断れんとは言っておらん。  わしの友人の頼みだから、バッサリ断るのも気が引けただけじゃ。  流華たちが本気で嫌なら、それでかまわんよ」 呑気そうな笑顔を向ける祖父を、私たちはあきれた表情で見つめる。 ……なんだ、断ってもよかったのか。 ほっと胸を撫で下ろす。  だが、安心したのも束の間、今度は怒りの感情がふつふつとこみ上げてきた。「だったら……もっと早く断ってくれればよかったじゃない。  なんで、そんなに引き伸ばしたの?」 そう、何度も断っていたのに、おじいちゃんが断ることに難を示していたのではないか。 私がギロリと睨みつけると、祖父は視線を宙に向けながら答えた。「だって、何事もスムーズに物事が進むのは面白くないと思わんか?  おまえたちに試練を与えてやろうかと思ってな」
last updateLast Updated : 2025-10-20
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【第2部】 第43話 わが道をいく祖父②

「……すまなかった、わしが悪かった」 突然しおらしくなった祖父に、私は驚いて目を向ける。 肩を落とし、頭を垂れたその姿は、まるで別人だ。  いつも余裕で、ちゃらんぽらんなあの祖父からは、とても想像できない。 さすがにやりすぎたかな、と少し反省する。「べ、別に……もういいよ。  今回のことで、龍の想いがよくわかって嬉しかったし」 龍に視線を向けると、彼は照れたように微笑み返す。「はい。私もお嬢への想いを再確認できましたし、お嬢の気持ちも伝わってきて、嬉しかったです」「龍……」 私たちが見つめ合っていると、後ろから呆れたような声が聞こえた。「二人ともよかったね。でも、僕のこと忘れるでしょ?」 恨めしそうにこちらを見つめるヘンリーに気づき、慌てて声をかける。「ヘンリー、ごめんね! 別に忘れてたわけじゃないよ。  今回、ヘンリーにはすごく助けられたし、慰められた。ほんとに嬉しかった」「本当? そっかあ、流華の役に立てたならよかった」 不機嫌そうだったヘンリーの表情が一瞬でやわらぎ、可愛い笑顔が戻る。 すると、なぜか祖父まで急に元気になった。「な、結果オーライじゃろ? みんな幸せ、一件落着じゃ」 さっきまでのしおらしさは何だったのか。 祖父はニコニコしながら、私と龍の肩をポンポンと軽く叩いた。 龍と顔を見合わせる。  なんだかおかしくて噴き出すと、龍もつられて笑い出した。 そして、みんなで大笑い。  ほんと、おじいちゃんにはいつも振り回されてばかりだけど……。 これが、如月家なんだよね。   それから数日後のことだった。  祖父が相川さん兄妹を家に招いた。 縁談を正式にお断りするためだ。 相川さんのお爺さんにはすでに話を通してあるらしく、この日は兄妹への説明。 やがて相川兄妹が家に到
last updateLast Updated : 2025-10-20
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【第2部】 第44話 執念深い兄妹①

 しんと静まり返る室内。 最初に口を開いたのは私だった。「あの……相川さん。この度はいろいろと申し訳ありませんでした。  おじいちゃんのせいで、話がどんどんおかしな方向に進んでしまって。  結局、相川さんには失礼なことを……」 沈んだ気持ちのまま、私は顔を伏せた。  すると、相川さんはあっけらかんとした声で話し出した。「何を言っているんですか? 祖父たちのおかげで流華さんに出会えたんです。  そしてお近づきになれ、あなたに恋をした。  私は後悔なんてしていません。むしろ感謝しているくらいですよ。  本当に愛するというのはどういうことか、教えてもらいましたから」 誇らしげに微笑む相川さんを、不思議な気持ちで見つめ返す。 まさかお礼を言われるとは思わなかった。「私も……」 続いて、果歩さんが静かに口を開く。「龍さんのこと、好きになれてよかったです。  まだ諦めきれないけど……人の気持ちはどうしようもないですものね。  龍さんの気持ちは動かない。それはわかりました」 果歩さんも、どこか晴れやかな表情で私たちを見つめている。 私は心の底から安堵した。 もっと重苦しい空気になると思っていたが、どうやら思い過ごしだったらしい。  ……そう感じたのも束の間。 次の瞬間、相川兄妹はそろってニヤリと笑った。「ということで!」 相川さんが楽しげに宣言する。「今回のお見合いとは関係なく、私たちはあなたたちを想い続けます。  もう出会ってしまったんですから、しょうがない。  こうなったら、心変わりされるその時まで、付きまといますよ」 そう言って、私にウインクを飛ばしてくる。 油断していた私はもろにそれを受け止めてしまい、背筋がゾクリとした。「そうですよ。龍さんだって、万に一つの可能性で私のことを好きになるかもしれないでしょ?  私たち兄妹、甘く見ないでいただきたいです
last updateLast Updated : 2025-10-21
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【第2部】 第44話 執念深い兄妹②

 気まずい空気が漂う中、相川さんが口を開いた。「龍、君とは本当に縁があるようですね」 相川さんは口元に笑みを浮かべ、意味ありげに龍を見つめる。  それに対し、龍はわずかに眉をひそめた。「……まあ、そうですね」 あからさまに嫌そうな顔をして、相川さんを睨む。「あれは、そう……いつだったかな。僕たちがまだ高校生だった頃」 なぜか急に思い出話を語りだす相川さん。 何? 急に。  でも、気になる。 私は二人に意識を集中させた。「その話はいいだろう」 龍が少し苛立ったように、相川さんの言葉を遮る。「なんでだい? 君の過去の活躍を、流華さんに聞かせてあげようと思っただけなんだけど。  それとも……聞かせたくない理由があるのかな?」 勝ち誇ったような笑みを浮かべる相川さん。  龍はさらに険しい表情で睨みつける。「わざわざ聞かせるほどのことじゃない」「何を言ってるんですか。ここら一帯じゃ敵なしだった、あの暴走族の総長さんが」 部屋の視線が一斉に龍へと向かう。 ああ、その話か、と私は納得した。  以前、誘拐されたときに、龍が暴走族の総長をしていたことは知った。 でも……それが何?  今さら隠すことじゃないでしょ。「お、おまえだって暴走族だったくせに!」 龍がここぞとばかりに相川さんの過去も暴露する。 驚いた。相川さんも暴走族だったのか。  それは初耳だ。 私は興味津々で二人を交互に見つめる。「うん、そうだね。  だから、その頃から僕たちはライバルだったわけだ。  まあ、族にいたときから君の方が有名人だったけど。  この世界に入ったときも、その名はもう既に有名だったよ。  如月組の若頭・龍ってね」 相川さんは可笑しそうにクスクス笑いながら語る。  龍は、先ほどから私の方を気にするように、ちらちらと視線
last updateLast Updated : 2025-10-21
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【第2部】 第45話 ヘンリーの災難①

 ほっとしたのもつかの間、先ほど閉まったばかりの扉が勢いよく開いた。「やっほー、流華! 龍!」 さっきまで相川さんたちがいた場所に、ヘンリーが満面の笑みで飛び込んできた。「ど、どうしたの?」 驚く私に、ヘンリーは嬉しそうにほくそ笑む。「ふっふー、お祝い」「なんの?」「え? だって、やっとあいつと縁が切れたんじゃないの?」 あいつ、とは相川さんのことだ。 私たちのやりとりを見ていたのか、それともおじいちゃんから聞いたのか。  ついさっきのことを、なぜ知っているのだ。「うーん、残念ながら、あきらめないって言われちゃったんだよね」 残念そうに肩をすくめる。「えー! まだあきらめてないの? ほんと、執念深い奴だなあ」 ヘンリーは眉をひそめ、不機嫌そうに口をとがらせた。「ヘンリーにだけは、言われたくないんじゃない?」 軽くツッコミを入れる。  ヘンリーだって、私のことをずっとあきらめなかったじゃない、という目で見つめる。 すると、ヘンリーは開き直ったように胸を張った。「そうだよ! 僕だって流華のこと大好きだから、あきらめたくないよ。  でも、仕方ないじゃないか! 僕はこの世界の人間じゃないんだから……またいつか、お別れが――」 そのとき、ふと私たちは顔を見合わせた。「ねえ、ヘンリーって、いつまで透真くんの中にいるの?」 今回の騒動ですっかり忘れていたけど。  ヘンリーはかなりの時間、中村透真の体を借りている。 いったいどうなっているのだろう。  透真くんは大丈夫なのかな。「うーん、今回は何がきっかけで戻るんだろう?  前は、透真自身が目覚めたときだったけど……」 ヘンリーは腕を組み、真剣に考え込む。  やがて、何かに気づいたように目を輝かせ、ポンと手を叩いた。「もしかして、流華の心を射止めたときかも!」「は?
last updateLast Updated : 2025-10-22
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