流華の祖父、大吾は自分の部屋でくつろいでいた。 一人掛けのゆったりとしたソファーに深く腰掛け、葉巻に火をつける。 窓から見える月明かりだけが部屋を照らす、薄暗い部屋の中。 葉巻の煙を肺いっぱいに吸い込む。 ゆっくりと煙を吐き出すと、大吾は闇夜に輝く月を眺め物思いにふける。 すると、静けさを遮るようにノックの音が部屋に響いた。「大吾様、こんな夜更けに恐縮ですが、少々お時間をいただけないでしょうか?」 それは龍の声だった。 妙に低く、緊張と慎重さが入り混じった声。 さては、何か思い詰めているな。 そう感じた大吾は扉に向かって声をかける。「入れ」 大吾の返答のあと、すぐさま扉が開いた。 「失礼いたします」 龍は一礼すると音もなく部屋の中へと入ってくる。 少しでも神経に障らないようにという龍なりの気遣い。こういう細やかな気遣いができるところも龍を認める要因だった。 ただ、それ故に、少々考え過ぎてしまう難儀なところもある。と大吾は思っていた。 大吾は真っ直ぐに龍を見据える。「どうした? こんな時間に珍しいな」 「申し訳ございません。大吾様に聞いていただきたいことがありまして」 龍の瞳の奥に、感情が見え隠れする。 それを大吾は見過ごさなかった。「……流華のことか」 大吾の発言に、龍の眉がわずかに上がり、目も少し大きくなった。「え……ええ。何故わかったのですか?」 龍の問いに、大吾は大きな声を上げ笑う。「おまえにそんな表情をさせるのは、流華しかいない」 「はあ……」 ニヤリと笑う大吾を見つめ、龍は困った顔をする。 龍自身、何の自覚もなかった。「で、流華がどうした?」 「はい。お嬢とヘンリーのことです」 龍が真剣な表情で次の言葉を発しようとした、そのとき、「ああ、二人が両想いだと
Last Updated : 2025-07-25 Read more