「あ、もう着きます。お嬢、今日はありがとうございました」 ニコリと微笑み、軽くお辞儀する龍。 次の瞬間、観覧車のドアが開いた。 扉の外では係員が身振り手振りで私たちへ合図を送っている。 龍は立ち上がると、私に向けて手を差し出した。 私はその手を取り、龍を見つめる。 いつもの優しい微笑み。 先ほどの違和感は何だったのだろう、気のせいだったのかな。 私は龍に促されるまま、ヘンリー達が待つ地上へと降りた。 「流華!」 観覧車から降りると、ヘンリーが私におもいっきり抱きついてきた。「勝手にいなくなったら心配するでしょ、待っててって言ったのに」 少し頬を膨らませ、眉を寄せたヘンリーが私を見つめる。 あれ? 貴子には知らせたつもりだったんだけど、さてはヘンリーには伝えなかったな。 と横目で貴子を見つめる。が、彼女は不機嫌そうに私を見つめているだけだった。「ごめん、ごめん。たまには龍と二人でお話したかったの」 「ふーん、何話してたの?」 「ん? 別に。いつも通り」 私の返答に、なんだか納得していない様子のヘンリーが複雑そうな顔をする。 いったい何を勘ぐっているのやら。「ヘンリーを私に押しつけて、流華は龍さんと楽しんできたんだ?」 なぜか貴子までもが、すごく不愉快だというような顔でこちらを睨んでくる。「いや、押しつけてないって。 貴子とヘンリーはジェットコースターが好きで、私と龍は観覧車が好きだったってだけだよ」 私は二人の気持ちを落ち着けようと言い聞かせる。 予想以上の二人の剣幕に、私はたじたじだ。「ま、いいけど。……勝手な行動はしないでよね」 拗ねた子どものような表情で顔を背ける貴子。 なんだか、小さい子どもを宥めている親のような気分になってきた。 ま、そこも可愛いんだけどね。 二人とも、嘘がなくて正直で、憎めない。
最終更新日 : 2025-08-03 続きを読む