【二〇二五年 杏】 修司が私を連れやってきたのは、彼の部屋だった。 私は導かれるままに部屋へと入っていく。 なんでこんなに素直に従ってしまったのか、自分でもわからない。 ただ、彼が傷ついているような気がして、放っておけなかった。 最近は、修司のそんな顔ばかり見ている気がする。 それも全部、私のせいだね。 窓から差し込む赤みを帯びた夕暮れの光が、修司の姿を静かに照らし出す。 その横顔には、言葉にならない哀しみが滲んでいるようで――胸の奥がきゅっと痛んだ。「ねえ、杏……どうして兄さんなの? どうしてなんだよっ」 俯いた修司が苦しげに息を吐く。 その姿に胸が締めつけられる。 だけど、自分の気持ちを打ち明けることは、できない。 深く息を吸い込み、ぎゅっと口を堅く結ぶ。 いつの間にか、手のひらには強く力が入り、爪が食い込むほどに握りしめていた。「よりにもよって……」 修司は一瞬、言葉をのみ込んだ。 そして顔を上げ、真っすぐに言い放つ。「杏は、兄さんのこと本当は好きじゃないよね?」 鋭い視線が私を射抜く。 私の内側を暴こうとするその眼差しに、思わず身を引きたくなる。 だけど、動揺を見せないよう、私は平然を装った。「何で、そう思うの?」「だって、全然そう見えないからだよ。それに、好きになる理由がわからない」「人を好きになるのに、理由なんていらないわ」 言葉が、つい口をついて出た。 自分でも驚く。 それは――たぶん、私自身が修司を好きになったときに、理由なんてなかったからだ。「そうだね……理由なんて、ないのかもしれない」 修司はふっと息をつき、目を伏せた。「僕もそうだった。君を好きな理由なんて思いつかない。 ただ好きなんだ。好きで、好きで、どうしようもなくて……この想いを止められない!」 その声が
Last Updated : 2025-07-30 Read more