【二〇二五年 杏】「ふーん、そう……」 新はじとっとした視線を送ってきたものの、あっさりと引き下がった。 鏡越しに見える新の背中を見つめながら、内心ほっとする。 ……なんとか誤魔化せたみたい。 この前のこともあるし、正直に話したらきっと新は猛反対するだろう。 なら、黙ってるしかないじゃない。 復讐は、私一人でやる。 もう大人なんだし、きっとうまくやれる。 なぜか私は、自信満々だった。 準備を終え、玄関へと向かう。「姉さん、行ってらっしゃい」 いつもと変わらず、にこやかに送り出してくれる新。 その笑顔を見て、胸がちくりと痛んだ。 私、嘘ついてる。 新に嘘なんて、あまりついたことなかったのに。 いや、あったかな? でも、悪意のある嘘はなかった。 これだって、別に悪意があるわけじゃない――そう言い聞かせ、自分を納得させる。「いってきます」 精いっぱい、いつも通りの笑顔でそう返したつもりだった。 だけど、新は鋭いからなあ。 バレてないといいけど……。 人混みの中を小走りで駆け抜けていく。 しまった……待ち合わせ、五分過ぎてる。 たった五分だけど、やっぱり印象悪いかな。 いや、落ち着け。 向こうが私に惚れてるんだから、多少の遅れくらい、気にしないはず。 そう思って、走っていた足を緩めた。 息を整えながら顔を上げると、視線の先に――すぐに見つけてしまった。 駅前で立っている、月ヶ瀬雅也の姿を。 どんなに人混みに紛れていても、なぜか目に入ってしまう。 ……この忌々しい感覚。嫌だけど、こういうときだけはありがたい。 私は雅也の背後からそっと近づき、声をかけた。「お待たせしました」「あ、杏さん!」 嬉しそうに笑顔を浮かべる雅
Last Updated : 2025-07-16 Read more