【二〇二五年 杏】 私は視線を落とした。 すると、すぐに修司がフォローするように言った。「杏が落ち込むことじゃないよ。君は何も気にしないで。 杏は、俺たち家族の被害者なんだから……。 本当に、申し訳なかった」 苦しげに目を伏せる修司を、まっすぐに見つめる。「修司は、何も悪くない。 悪いのは……あの二人。 たまたま、修司がその家族だったってだけ。 私は、修司のいいところをたくさん知ってる。 私は修司のことが……」 想いが溢れて、言葉が喉につかえる。 だけど、もう伝えなくちゃ。 視線がぴたりと重なる。「好き……修司のことが、好き」 それは、この十年、胸に閉じ込めてきた気持ちだった。 驚いたように大きく見開かれた瞳が、ゆらゆらと私を見つめる。 しばらくそのまま見つめ合った。「杏、ありがとう。でも……」 修司が再び目を伏せ、苦しげに言葉を続けた。「俺と一緒にいると……きっと杏はまた傷つく。 もう、俺たちのことは――」「忘れられたら、どんなに楽だったか!」 気づけば、私は声を張り上げていた。 溢れる涙が、視界を歪めていく。「この十年、必死で忘れようとしたよ。 でも、無理だった……。 あなたのことを忘れたことなんて、一度もない。 いつだって、心のどこかにいた」「杏、俺だって……」 修司の目にも、涙が滲んでいた。 言葉に詰まり、彼は何かをこらえるように唇を噛みしめた。「修司……好き。 もう、自分の気持ちに嘘はつかない」 もう逃げない。 もう、誤魔化さない。 心から、強くそう思った。「でも……一緒にいると、杏が辛くなるかもしれない」「何言ってるの!」 修司の顔をまっすぐに見据え、はっきりと言った。
Last Updated : 2025-09-01 Read more