All Chapters of どうしてあなたを好きになってしまったんだろう: Chapter 61 - Chapter 70

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第三十六話 痛いほど、好きだった 嘘と本音②

【二〇二五年 杏】 なんだか、気まずい……。 先ほどから修司は恐い顔をしたまま何も話さない。 何考えてるの? このレストラン……昨日雅也に告白された場所だ。  そんなところに連れてきて、どういうつもり? 私も黙り込む。  しばらくすると、修司が口を開いた。「昨日は驚いたよ。  まさか……兄さんと杏が知り合いで、しかも恋人同士だなんて」 可笑しそうに笑いながら下を向く修司。  だけど、その笑いはどこか苦しそうだった。 やっぱり、雅也とのことを聞きにきたんだ。 いろいろ秘密も多い。  バレないように気を付けないと。 心臓の音が大きくなるのを感じながら、私は慎重に言葉を選んで答えた。「ええ、そうね……私も驚いた。  まさか、あの人があなたのお兄さんだったなんて」 とぼけた口調で返すと、修司は驚いたように目と口を大きく開ける。  その反応はわざとらしくも見えた。「へえ、知らなかったんだ?」「ええ、あの路地裏であなたに会うまでは」「……ふーん」 不満そうな声音――表情も曇っている。  いつもとは違う空気。 修司が、ちょっと怖く感じる。「ねえ、杏はさ、本当に兄さんのことが好きなの?」 まっすぐな視線に、鼓動が跳ねた。 どうしよう。やっぱり、疑ってる? 焦りが募る。でもそれ以上に。 嘘でも、本気じゃなくても――  修司に「他の誰かが好き」なんて、言いたくなかった。 なんで、そんなこと聞くのよ。 でも、もしかして……修司は、私の嘘に気づいてる? 私は動揺を悟られないように、平静を装った。  喉の奥から言葉を絞り出す。「……ええ、好きよ。好きじゃなかったら付き合わない」 チクリと、胸が痛む。「嘘だ!」 修司が即座に叫んだ。
last updateLast Updated : 2025-07-23
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第三十六話 痛いほど、好きだった 嘘と本音③

【二〇二五年 杏】 でも――あの穏やかで優しい彼を、こんなふうに変えてしまったのは、私だ。 十年前も、そして今も。  私はずっと、彼にひどいことをしている。 大好きなあなたを、傷つけて、追い込んで……。 私はそっと視線を逸らした。 胸が、ぎゅっと苦しくなる。 私のことなんて、忘れてくれればよかったのに。  他の誰かを見つけて、幸せに過ごしてくれていたら。 そしたら、まだあきらめられたかもしれない。 こんなに苦しい想いを、お互いしなくてすんだ。 でも。そんなの、きっと無理。  忘れられるわけ、ない。 ああ、でも……もう何もかも、手遅れ。 手遅れなんだよ。 私はぎゅっと目を閉じ、テーブルの下で手を握りしめた。  自分の気持ちを押し殺すように、声を絞り出す。「別に……私はそういう女よ。昔も、今も」 どうか、このまま私を嫌いになって。  もう、追いかけてこないで。 込み上げる想いを、喉の奥で無理やり押しとどめながら、そう言った。 だけど——「杏……君は、そんな人じゃない」 静かな声が、心の奥にそっと触れる。「俺の知っている杏は、とても優しい女の子だ。  人の痛みがわかる、誰かを思いやれる、あたたかな。  そんな君が、どうして……そんな辛そうな顔をしている?  どうしてなんだ」「……」 もう何も言えなかった。  喉の奥が熱くて、言葉にならない。 今、ここで話してしまったら、きっと全部崩れてしまう。「好きだ」「……え?」 その言葉が、まるで空気を切るように真っすぐ飛び込んできた。 修司のゆるぎない瞳が私を見つめる。「俺は十年前から、ずっと杏が好きだ。忘れたことなんて一度もない。  今も……君が好きだ。  だから、もし何かあるなら教えてくれ。
last updateLast Updated : 2025-07-23
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第三十七話 伝わらない気持ち、気づけない想い①

【二〇二五年 杏】 新が私の手を引いて、足早に歩いていく。  その歩調についていくのがやっとで、私は自然と小走りになっていた。「ね、ねえ、新!」「……」 さっきから新は何も言わない。 私はふと、先を行く新の背中を見つめた。  大きな背中……いつの間に、こんなに立派になったの? 男らしい背中に、少し驚く。 新は私にとって、いつまでも可愛い弟のイメージのままだった。  それが今は、まるで大人の男性みたいに見える。 やだ、弟相手に何考えてんの?  私、疲れてるのかな。 かぶりを振って思考を追い払った。 その後も、新はたまにちらりと私を振り返るだけで、家に着くまで何も言葉を発さなかった。  アパートに辿り着き、玄関へ入ったところで、私はやっと一息ついた。「はあ、疲れた……。  ねえ、新、どうしたの? なんであそこにいたの?」 聞きたいことはたくさんあった。 なぜあの場所にいたのか?  そして、なぜあのタイミングで、あんなふうに連れ去ったのか。 まあ、二つ目は聞かなくても大体想像はつくけど。「……とりあえず、ご飯食べてお風呂入ってから。落ち着いて話そう」 新は私の方を見ず、淡々と話す。 その態度に違和感を覚えた私は、彼の顔を覗き込もうとした。  でも、それも空振りに終わる。 新はさっさとお風呂を沸かしに行ってしまった。「もうっ……」 私はため息を吐いて、靴を脱いだ。  お風呂からあがった私は、髪を拭きながらリビングへ向かう。 ちょうどそのとき、新がお風呂へ向かっていった。 なんだか、避けられてるような……。  しかも元気がない。 やっぱり、私が修司と会っていたこと、相当怒ってるのかな。 しょうがないじゃない。修司の方から来たんだから
last updateLast Updated : 2025-07-24
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第三十七話 伝わらない気持ち、気づけない想い②

【二〇二五年 杏】 食事を終えたあと、私たちは仲良く並んで食器を洗った。  片付けがひと段落したところで、ローテーブルを挟み、向かい合って座る。 二人とも無口なまま、沈黙が続いた。  さっきまでの穏やかな空気は、すっかり消えてしまっている。 新の表情はどこか硬く、私もなんとなく気まずい。  目を伏せたまま、膝の上でそっと指先をもてあそんでいた。 そのとき、新がぽつりと口を開いた。「ねえ、なんで修司さんといたの? しかも、二人きりで食事なんて」 やっぱり。口調がいつもより強め。  怒ってる……。「あれは、修司が悪いのよ。  会社の前で待ち伏せされて、あのままじゃ帰ってくれなさそうだったから、話を聞いただけ」「ふーん。そうは見えなかったけど。姉さん、嬉しそうだったよ」 新は唇を尖らせ、そっぽを向く。  拗ねているときのしぐさだ。「何よ、それ……」 むっとして眉をひそめながら、私も言い返す。「じゃあ、新こそ、なんであんなところにいたの?」 一瞬だけ目を泳がせた新は、声を落としてぽつりとつぶやいた。「別に。姉さんのことが心配で、会社まで迎えに行ったんだよ。  そしたら修司さんと一緒にいて……気になって、つい……」 顔をそむけたままの新の頬が、うっすらと赤く染まっていた。 怒ってるんじゃなくて、心配してくれてたんだ。  少し、照れてるのかな。「そうだったの。ごめんね、また心配かけて。  もしかして、新も雅也さんのことで心配してるの?」「新も、って……修司さんも気にしてるのか。そりゃそうだよね」 新は下を向いて、なにか考え込むように黙り込んだ。 やがて顔を上げ、真剣な目で私を見つめる。「姉さん、お願いだから、もうあの家族には関わらないで」 その視線が、胸をざわつかせた。  弟の必死な想いが伝わってくる。「わかって
last updateLast Updated : 2025-07-25
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第三十八話 止まらない炎、ほどけない想い①

【二〇二五年 杏】 そして、修司は当たり前のように、私の前に姿を見せるようになっていた。 前にも増して、しつこいくらいに何度も。 会社の事件も落ち着き、他の刑事が姿を見せなくなっても、  修司だけは毎日のように現れ、私に声をかけてきた。「なあ、杏、また話せない?」「……あれが最後だから」 速足で歩く私に、ぴったりとついてくる修司。「だって、あの時は邪魔が入っただろ?」 その言葉に、きっと睨みつけた。「何よ、新を邪魔者扱いしないで」 怒りをぶつけるように背を向け、そのまま歩き出す。  だけど修司は、それでも諦めずについてくる。 昼休み、終業後、ちょっとした移動のとき——  修司は、ことあるごとに私に話しかけてきた。 いったい、仕事はどうしているのか……さぼってるのかな。  そんなささやかな疑問が、ふと脳裏をかすめた。 でも、そんなことよりも、本当に困っていた。 いったいどうすれば、あきらめてくれるんだろう、と。  そして。  今日もまた、廊下を歩く私に声がかかる。 もう、いい加減にしてよ……そう思ってるのに、  なぜか、嬉しく思う自分もいて。 ダメ、ダメよ、杏。 お父さんを裏切る気? 新を悲しませる気? 何度も何度も自分に言い聞かせる。  呪いのようなその言葉を、今日も心の中で繰り返していた。「ごめんって。新のこと、嫌いなわけないだろ? 杏の弟なんだから。  好きな人の弟は、好きに決まってる」 いきなり「好き」なんて言葉を大声で言われて、私は思わず立ち止まった。「大きな声で『好き』とか言わないでっ」 慌てて振り返り、声を抑えながら怒る。  辺りを見渡すが、幸い、誰もいなかった。 ほっと胸を撫で下ろす。 こんな言葉、誰かに聞かれたら困る。  変に誤解され、噂になり
last updateLast Updated : 2025-07-26
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第三十八話 止まらない炎、ほどけない想い②

【二〇二五年 杏】 ――唇が、重なる。 一瞬。でも、それは強烈で、すべてを揺るがすような衝撃だった。 何かが、弾けた。  いや、切れた。張りつめていた心の糸が。 好き、好き、好き、どうしようもなく……でも。 突き飛ばせばいいのに、できない。  身体が石になったように動かない。  この時間が、ずっと続いてほしいと思ってしまう。 ダメ、ダメ、ダメ……!「っ、やめて!」 私は全身の力を込めて、修司を突き飛ばした。 その勢いに、修司が少しよろけ、驚いたような顔で私を見つめる。  瞳に、わずかに悲しみがにじむ。「……最低」 私はそれだけを言い捨てて、その場を走り去った。  全速力で走っていく私の頬を涙が伝っていった。 なんで、なんで、なんで!? 心を乱さないで。  もう、終わったはずなのに。 なんで、あきらめてくれないの……! 苦しい。苦しいよ。 ダメだよ、杏。  あなたにはやるべきことがある。 父さんのことは忘れない。  新のことは、私が守る。 そうでしょ? 胸の奥からこみ上げる熱を、荒い息と一緒に吐き出していく。  私はただ、がむしゃらに走り続けた。  やがて、ゆっくりと速度を落としていき、静かに立ち止まる。 目を閉じ、深く、深く息を吐いた。 そして、ぐっと顔を上げる。  涙に滲む瞳で、もう一度、まっすぐ前を見据えた。   それからも、修司は日を空けることなく、私に会いに来た。  私は彼を、徹底的に無視した。 姿を見かければ、即座に向きを変えた。  真正面から来られたときは、迷わず全速力で逃げた。  話しかけられても、知らないふりで通り過ぎる。 それでも修司は、あきらめ
last updateLast Updated : 2025-07-27
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第三十九話 再会のテーブル、沈黙の刃①

【二〇二五年 杏】 とうとう私はここへ戻ってきたんだ。 月ヶ瀬家の屋敷を睨みつける。 ここへ来たのは、二度目。  ――十年ぶりだった。「杏? どうした? 行こう」 雅也が私の肩を抱き、ゆっくりと屋敷へと近づいていく。 妙に胸がざわついていた。  嫌な感情が、奥底から湧きあがってくる。 忘れたかったはずの過去の記憶が、蘇ってくる。 雅也の手が触れるたび、気持ち悪くてたまらなかった。「ただいま」「おかえりなさいませ」 玄関では、執事らしき人物が出迎えてくれた。  荷物を預けると、雅也が私に微笑みかける。「父さんに紹介するよ」「ええ」 私は、したくもない笑顔を必死に作って頷いた。 とうとう、あの男との再会か。 胃がムカムカする。 あの車の中の出来事が、蘇る。  忘れられないあの時間。 まさか、あんな奴が警視庁のトップだったなんて。  いったい今は、どんな顔をして生きているのか。「ねえ、お父さんって、何されてる方なの?」 何気ないふりで尋ねると、雅也はさらりと答えた。「ああ、そういえば言ってなかったね。父は昔、警視総監を務めてたんだ。  今は政界で、いろいろ手広くやってるよ」 ……やっぱり。  妙に納得する。 警視庁の次は政界か。  きっと、また裏であくどいことをしてるんでしょうよ。 心の中で毒づいた。 国のトップに立つような人間が、どうしてこうもろくでもない奴ばかりなのか。  修司みたいな優しい人が権力を持てば、世の中も少しは変わるのに。「あんまり、驚かないんだね」 雅也が少し不思議そうに私を見る。 しまった、もう少し驚いたふりをするべきだったか。「いえ……すごすぎて、驚きすぎて反応できなかったの」 ごまか
last updateLast Updated : 2025-07-28
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第三十九話 再会のテーブル、沈黙の刃②

【二〇二五年 杏】 そのまま、今度は先ほど気になっていた女性の前へと導かれていく。  女性の前に立ち止まると、雅也は軽く紹介する。「この子は俺の妹」 ……妹?  初耳だった。「詩織(しおり)です。よろしくお願いいたします」 丁寧に頭を下げたその女性は、とても上品で可愛らしかった。「よろしくお願いします」 握手をしながら、私はその顔をじっと見つめる。 やっぱり、どこかで会ったことがあるような……。 記憶の糸を手繰り寄せていると、  ふいに、詩織さんが明るく声を上げた。「そうだ、私も紹介したい人がいるんですよ」 にこやかに振り返った彼女が、奥の方へ向かって手を振る。  その視線の先から、誰かがゆっくりと歩いてくる。 私は息を呑んだ。 驚きで目を見開いたまま、言葉を失う。  そこに立っていたのは…… 新だった。 気まずそうに目を伏せる彼を、私はただじっと見つめるしかなかった。 そのあとの食事は、まるで映画のワンシーンのようだった。  屋敷に着いた時間が早かったせいか、夕食の時間も少し早められた。 長いダイニングテーブルには、次々と料理が並べられていく。 私の右隣に雅也、左隣に新。  向かいの席には修司がいて、その隣に彼の父親と詩織さんが座っている。 私はできる限り修司の視線を避けた。  でも彼は、ずっと私のことを見つめていた。 重たい空気が漂う中、雅也がにこやかに口を開いた。「今日は俺の恋人を紹介するつもりだったけど、まさか妹の恋人まで紹介されるとは思わなかったよ」 その言葉に詩織さんが微笑む。「ふふっ、驚かせようと思って内緒にしてました。私からも紹介させてくださいね」 花のように可愛らしく笑う、正真正銘のお嬢様。 ——けど、なんで新と? なんで、修司の妹と新が付き合ってるの?  これは、たまたま? それとも……。 驚きと混乱が入り交じったまま、私は新を見つめた。  新は前を向いたまま、こちらを一切見ようとしない。 どうして、何も言ってくれないの……。  いったい、何を考えてるのよ。「じゃあ、改めて。僕の恋人、佐原杏さん。……もうすぐ婚約者、かな」 雅也が照れくさそうに笑いながら、私を紹介する。 仕方がないので、私は立ち上がった。  そして、無理やり笑顔を作り、お辞儀する。「佐原杏です
last updateLast Updated : 2025-07-28
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第四十話 誰のために、揺れるふたつの心①

【二〇二五年 杏】 それぞれの思惑が絡み合っているような重い空気を感じつつ、食事は続く。 雅也と詩織さんは饒舌だったが、あとの四人は口数が少ない。 それはそうだろう。  いろいろ思うところが多いのだから。 父親の一挙手一投足に神経をとがらせながらも――  私の心をもっともざわつかせるのは、修司の存在だった。 彼はずっと、私に視線を向けてくる。  それを感じながら、私はわざと視線を逸らし続けた。 そんな切ない顔で、そんな優しい瞳で見つめないで。 苦しいよ……。 私の心が悲鳴を上げ、胸がきゅっと締めつけられる。「ちょっとお手洗い」 そう言って、私はさりげなく席を立つ。 部屋を出ると、ドアの脇に控えていたメイドがこちらを向いた。「どうされましたか?」 笑顔でそう尋ねられ、私も笑顔を返す。「ちょっと、お手洗いに」「ではご案内いたします」「いえ、大丈夫です。場所を教えていただければ」 メイドに道順を聞いた私は、その方向へと歩き出す。 聞かなくても、本当は知っていた。  ……だって、昔ここに来たことあるんだから。 私は、静まり返った廊下をひたすらまっすぐ歩いていった。  突き当たりを曲がるとすぐにトイレがあったが、立ち寄らず、そのまま足早に通り過ぎていく。 周囲を見回しながら、怪しげな部屋を探す。 せっかくここまで来たのだ。  一つでもいい、父に関する手がかりを見つけたい。 あの男の部屋、あるいは書斎は、どこ……? 一つ、一つ、部屋を確認していく。 早くしなくちゃ、あまり長居していると、怪しまれる。 焦りながらも、静かに歩みを進めていく。  心臓が早鐘を打ち、冷や汗がにじむ。 何個目かのドアに差しかかったとき、ふと目の前の部屋に違和感を覚えた。 重厚な扉と、静かな佇
last updateLast Updated : 2025-07-29
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第四十話 誰のために、揺れるふたつの心②

【二〇二五年 杏】「何してるの?」 そう言ったかと思うと、新は私を部屋の中へ押し込み、背後でドアを閉めた。 気づけば、薄暗い部屋の中で、ふたりきり。 窓から差し込む、赤みがかった夕暮れの光が、新の顔を照らし出す。  眉間には深い皺が寄っていた。「こんなところでウロウロしてたら、怪しまれるよ」「……わかってる。ちょっと部屋の様子を見てただけ」「父さんのこと、調べようとしてたんでしょ?」 ドキリとした。  まるで心を覗かれたようで、言葉が詰まる。 新は私の目をまっすぐに見据え、深いため息をついた。「やっぱり……姉さんはそういうこと、しないで。そういうのは僕がやるから」「僕がやるって、どういう意味?」 問い返すと同時に、私は今日ずっと気になっていたことを口にした。「ねえ、新。あなた、どうしてここにいるの?  それに、びっくりした。まさか彼女が修司の妹さんだったなんて……」 新は一瞬ばつが悪そうに視線を逸らした。「……別に、いいだろ。  とにかく、姉さんはこの家の人たちと関わらないで。  大人しくしててほしい。ていうか、あいつとも別れて」「あいつって、雅也のこと?」 まさか。それを止めたくて、詩織さんと付き合ったの?「新、何考えてるの? 詩織さんとの関係、本当に……」「もういいだろ。とにかく、姉さんはこの家の人間と関わっちゃいけないんだよ」「あなたは関わってるくせに?」 問い詰めると、新は言葉に詰まりかけ—— ガチャリ。 扉の向こうから音がして、二人同時にそちらを向いた。  心臓が一瞬止まる。 ゆっくりと扉が開き、その隙間から顔を覗かせたのは……修司だった。「……二人とも、こんなところでどうしたんだ? 遅いから心配になって」 修司は私に視線を向け、少し戸惑ったように笑う。 私は、突然の
last updateLast Updated : 2025-07-29
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