伶の心の中では、自分と悠良はすでに山あり谷ありを共にしてきた。たとえ以前は契約関係だったとしても、それは彼女を自分のそばに留めておくための小さな手段に過ぎなかった。幸い、最後には互いの気持ちが通じ合い、もはや無理に引き留める理由もなくなったのだ。だからこそ、正雄がその話を持ち出したときも、心の中に不安はあったが、まさか悠良があれほどあっさり拒むとは思わなかった。伶の胸の内は、綿を詰め込まれたように重く塞がる。一瞬で空気は気まずくなった。悠良もそれを感じ取り、慌てて口を開き場を和らげる。「正雄さん、先にこのお菓子を召し上がってみてください。私も普段よく食べていて、とても美味しいんですよ」「おお、そうかそうか」正雄は菓子を手に取りながらも、ちらりと伶を盗み見た。顔つきは変わらないが、影響を受けているのは一目で分かった。正雄は心の中で嘆息する。――まだまだ妻を得る道のりは長い、あと一歩だな。だが、数え切れぬ人を見てきた自分でも、悠良が何を迷っているのかまでは読めなかった。好きじゃないとは思えない。だが、彼女の本心は依然として謎のままだ。......史弥は病院を出ると、そのまま友人たちを呼び出してバーへ向かった。ソファに腰を下ろした諒は、スマホをいじりながら瀬南にメッセージを送る。【まだ来ないのか。あいつ、もう強い酒を三本も空けてるぞ。】瀬南【急かすな、もう入口まで来てる。】最初は諒ひとりが史弥の酒を見守っていたが、やがて三人そろって彼の飲みっぷりを黙って見つめることになった。三人とも表情は重い。「なぁ、これどう見ても様子がおかしいだろ」「俺に聞くなよ。見れば分かるだろ、十中八九、女のことでこじれてるんだ」瀬南が分析する。諒は眉をひそめた。「でも誰が相手だ?まさか石川じゃないよな」「石川?関係あるかよ。おまえ、子供のころから一緒に育ったのにまだ分かんねぇのか。あいつと石川は、どうしても離婚したいって揉めてるだろ」「この前なんて石川が俺んちに来てさ、『史弥を説得してほしい、離婚なんてしたくない』って泣きついてきたんだぞ」その時、千隼は長い指先でグラスを回しながら、ふっと言った。「小林の可能性もあるだろ」諒と瀬南はそろって呆然とする。「いやいや、小
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