しおりの圧に耐えられなくなって、直希が煙草を口にした。するとしおりがすかさずライターを差し出し、火をつけた。「……」 先程とは全く違う空気が、直希の肩に重くのしかかる。「新藤直希さん。あなたには、決まったお相手とかがいらっしゃるのでしょうか」「いえ、特にそういうのは」「でしたら是非、あおいのことを考えてくれませんか? 先ほども申しましたように、あなたにならあおいを譲ることが出来ます。あなたの元で更に成長するあおいを、私は見届けたいのです」 身を乗り出して熱く語るしおり。その姿に直希は、心から妹の幸せを願う姉の思いを感じた。「いいですね、姉妹というのは」「……どういう意味でしょうか」「俺は一人っ子ですから、今のしおりさんの様な気持ちを持ったことがありません。いや……厳密に言えば、一人っ子ではなかったのですが……」「……」「自分に弟がいたら……妹がいたらどんな感じだったんだろう。兄や姉がいたら、甘えたりしたんだろうか……そんな妄想はよくしてました。あおいちゃんのことを熱く語るしおりさんを見て、なんでしょう、少しばかり羨ましく思いました」「身内のことを大切に思うのは、ある意味当然なことだと思ってます。しかもそれが、あおいとなれば言うまでもありません。子供の頃、ずっと私の後についてきた可愛い妹。特別な感情を持たない方がおかしいです」「そうですね。あおいちゃんと出会って半年、俺もずっと、彼女を見てきました。初めの頃は何をするにも危なっかしくて、目を離すことが出来ませんでした。 入居者さんですら問題ない、僅かな段差につまずいて転んだり。料理をひっくり返したり、洗濯物を全部地面に落としたり。今思い出しても懐かしいです」「新藤直希さん。その頃のあおいを撮ったビデオなどはありませんか」「え? あ、いや&hel
Last Updated : 2025-10-12 Read more