「直希さん、直希さん」 テーブルに顔を埋めて眠る直希に、あおいが何度も声をかける。 肩に手をやり揺さぶるが、直希は反応しない。「……」 涙の跡が残った寝顔はとても穏やかで、憑き物が取れた子供の様だった。 その寝顔に微笑みながら、あおいは思った。 直希は今日まで、自分では想像も出来ない荷物を背負いながら生きてきた。 ――親殺し、妹殺しの十字架。 彼はその十字架を背負いながら、たった一人、贖罪の為に戦ってきた。 彼に対して感じていた、自虐的ともいえる人々への献身。その理由がようやく分かり、そんな彼の為に、自分も役に立ちたい、そう思った。 栄太郎の病気、風見家の問題。 いや、遡ってみればそれだけではない。 節子の問題や菜乃花のいじめなど、これまであおい荘で繰り広げられてきた数々の騒動。 彼はその問題、ひとつひとつに真摯に向き合って、走り続けてきた。 それがどれほど過酷な日々だったか。ちっぽけな存在である自分には想像もつかない。 しかし今、自分の前で眠っている直希を見て、あおいは思った。 直希さん、少しはお役に立てたでしょうか。 今の直希さん、本当にかわいい寝顔をしてますよ。 * * * 考えてみれば、自分の中でも直希に対する見方が変わっていた。 これまで自分は直希のことを、人生の指標を示してくれる、尊敬できる人だと思っていた。 道に迷った時、勇気が出ない時。そんな時、直希の言葉を待っていた。 直希がいれば大丈夫。直希の言葉通りにすれば間違いない、そう思っていた。 そんな彼に、いつからか芽生えていた想い。 それは憧れでもあった。 それは人生の師に対する思いと似ていた。 そんな彼に自分は恋をした。 しかし今、自分の前で泣きじゃくり、心の闇を吐きだした直希は、これまで自分が知っている直希とはまるで違って見えた
Last Updated : 2025-10-22 Read more