Semua Bab 【完結】あおい荘にようこそ: Bab 171 - Bab 180

204 Bab

171 幸せと言う罰の重みに

  つぐみと菜乃花の喧嘩を治めた後。二人はあおい、明日香に連れられて部屋へと戻っていった。 一人残された直希は部屋に戻り、布団に寝転び天井を見つめていた。 本当なら、あおいを送り届けた後で、栄太郎の様子を見に行くつもりだった。 しかし、それどころではなくなってしまった。 栄太郎のことも心配だったが、大丈夫だと言ってくれたつぐみの言葉を信じ、今日はあおい荘のことだけを考えよう、そう思った。 そして夜。 様々なことが頭に浮かび、さながら脳内は、これまでの半生を振り返るイベントの様相を見せていた。 そして。 考えれば考えるほど、これまでの言動に嫌気がさしてきた。  * * * 昨夜、あおいに告白された。 卒業式の日、つぐみに告白された。 みぞれとしずくの父親になってほしい、そう明日香に言われた。 そして今日。 菜乃花から二度目の告白を受けた。  これまで、罪人である自分にそんな資格はないと、彼女たちの想いを拒んで来た。しかし昨夜、あおいからその罪を許され、そして罰を受けることになった。 幸せになるという罰を。 もう、今までのような言い訳は出来ない。 彼女たちの想いと向き合い、結論を出さなくてはいけない。 そう思うと、自分でも驚くぐらい混乱するのが分かった。 ある意味、十字架を背負っていた時の方が楽だと思えるぐらい、彼女たちの気持ちが重くのしかかってきた。「なんだよこれ……」 どれだけ自分は、不幸に依存してきたのか。 不幸を望んでいるが故に、バランスを保っていた自分。そんな自分が滑稽に思えた。 そして今。自身の答えが誰かを傷つけることになると思うと、頭が痛くなった。吐き気がしてきた。 誰も不幸にしたくない。みんなに笑顔でいてほしい。 自身を顧みず、人の幸せを望むことがどれだけ楽な生き方だったかを、思い知らされているようだった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-01
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172 初恋

  隣に座った直希は、自販機で買ってきたミルクティーを菜乃花に渡した。「待たせちゃったかな」「いえ、そんなことないです。私が勝手に、早く来ただけですので」「着替えた方がよかったんじゃない? 制服のままだと寒いだろ」「いえ、大丈夫です。ここで海を見て、色んなことを考えたかったので」 そう言って一口飲み、「あったかい……」と笑みを漏らした。「……ここに来てから、本当に色んなことがあったんだなって、そう思ってました。おばあちゃんと初めてあおい荘に来た日、あおい荘の雰囲気に驚いて……直希さんに会って……男の人とあんなに話をしたのは初めてで……でも直希さん、私に目線を合わせてくれて、穏やかに笑ってくれました。私が怖がらない様に気を使ってくれて……それが嬉しかった事、すごく覚えています。 それからの毎日は、ものすごく目まぐるしく動いてました。毎日が新鮮で、キラキラ輝いていて……あおい荘に住むようになってからは特にそうで……まるで自分じゃないみたいで、いつも笑って……本当に楽しかったです。 つぐみさんと友達になって、明日香さんとも仲良くなれて……あおいさんに楽しい毎日をもらって、笑顔をもらって……夢みたいでした。 私は他人が苦手で、いつも怯えてました。男の人は勿論だけど、女の人に対しても、いつも身構えていました。何もされないって分かってるのに、視線が怖くて……笑われているような気がして、本当に怖かったです。 でも、文化祭が終わった頃から、自分でも驚くぐらい肩の力が抜けていました。あれだけ緊張していた教室なのに、まるで自分に『ここにいていいんだよ』って囁かれてるような気がして……クラスメイトとも普通に話せるようになってました。 そう思って考
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-02
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173 何度でも言うよ

  12月24日、クリスマスイブ。快晴。 あおい荘のスタッフ、入居者たちが玄関先に集まっていた。 待ちに待った、栄太郎の退院日。 それぞれの思いを胸に、皆が栄太郎の帰還を待っていた。 スタッフの中に、兼太と共に笑っている菜乃花の姿もあった。 あの日から一週間が経っていた。  * * * 兼太に支えられてあおい荘に戻った菜乃花は、そのまま部屋へと戻っていった。 散々泣き疲れたせいか、足元もおぼつかず、歩いて10分ほどのところを30分もかけて戻って来たのだった。 玄関口で兼太が、「……じゃあ、これで」そう言って帰ろうとしたのだが、その兼太の袖をつかみ、「お節介焼くんだったら、最後まで責任持ちなさいよ……」と力なく言われ、そのまま部屋に入っていったのだった。 菜乃花の顔を見た小山は複雑な表情を浮かべたが、後ろで立っている兼太に気付くと、「ちょっと山下さんの所に行ってるわね」そう言って部屋を出たのだった。 「……」 菜乃花は部屋の隅に腰を下ろすと、膝に顔を埋めて肩を震わせた。 こういう時、どうするのが正解なんだろう。そんなことを思いながら入口で立っていると、菜乃花が無言で隣に座る様、畳を叩いた。「お邪魔……します」 決まり悪そうにそう言うと、兼太が静かに腰を下ろす。「……兼太くんは」 重い空気を破り、菜乃花が口を開く。「今の私を見て、どう思ってるのかな」「どうって……俺の気持ちはもう、伝えたはずだよ。何も変わってない」「何よそれ……答えになってない」「俺は……菜乃花ちゃんのことが好きだ。これからだって、ずっとそのつもりだ。菜乃花ちゃんは俺にとって大切な人で、その&hel
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-03
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174 けじめ

  少し落ち着いた頃に、つぐみたちを呼んでほしい、そう菜乃花が言った。 兼太は一瞬戸惑ったが、やがて笑ってうなずくと、彼女たちを呼びに部屋を出て行った。 今すぐにしなければいけないことがある。 これまでずっと、自分の弱さに甘えて逃げて来た。 でももう、そんな自分じゃ嫌だ。 周囲の人たちは皆、私の弱さを知っている。だから何があっても許してくれた。有耶無耶にしてくれた。 そのせいで自分の中にも、知らない内に甘えが生まれていた。 そんな殻を破りたい。そしてそれは今しかない、そう思った。  * * *「……入るわね」 つぐみがそう言って扉を開ける。つぐみに続いてあおいも、そして集配に来ていた明日香も入ってきた。「じゃあ俺、食堂に行ってるから」 そう言った兼太を、菜乃花が呼び止めた。「あ、でも……俺はいない方が」「いいの、ここにいて。いて欲しいの」「……分かった」 そう言って扉を閉めると、促されるままに菜乃花の隣に座った。つぐみたちも、菜乃花を囲むように腰を下ろす。「大丈夫ですか、菜乃花さん」「はい、大丈夫です。その……さっきまではそうでもなかったんですけど、今は落ち着きましたので」「そうですか、それならいいのですが」「兼太くんのおかげです」 そう言うと、兼太は照れくさそうに頭を掻いた。「それで、あの……みなさんにはちゃんと、報告した方がいいと思いまして」「報告って、何かしら」 つぐみの声に、菜乃花が肩をビクリとさせた。「あと……菜乃花。話をするなら、ちゃんとこっちを向きなさい」「つ、つぐみさん、ちょっとそれは」 あおいが慌てて口を挟む。しかしつぐみはそ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-04
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175 宴

 「来た来た」 正門前にタクシーが止まると、兼太が嬉しそうに声を上げた。 その声に、皆が安堵の笑みを浮かべる。そしてそれぞれの思いを胸に、正門へと歩いて行く。 扉が開き、まず文江が外に出て皆に頭を下げた。山下や小山が「おかえりなさい」と嬉しそうに声をかける。 直希は料金を支払って助手席から出ると、皆に一礼した後でトランクにある荷物を取りに後ろに回った。 だが一向に、栄太郎が車から出て来ない。「栄太郎さん……なんで出て来ないんですかね」 兼太のつぶやきに、明日香が陽気に言葉を返した。「栄太郎さん、柄にもなく照れてるんじゃない?」「嘘……あの栄太郎さんが、照れてる?」 庭先でざわつくスタッフや入居者たちに、直希が苦笑した。「じいちゃん、溜めはそのぐらいでいいよ」 その言葉に誘〈いざな〉われるように、栄太郎が勢いよく姿を現した。 「メリー・クリスマース!」  * * *「え」「あ」 栄太郎はサンタクロースの格好をしていた。 その姿に、一瞬固まった入居者たちだったが、やがて肩を揺らして笑い出した。「サンタさんです! つぐみさん、サンタさんが来ましたです!」「……あおいには受けたみたいね、よかったわ」 周囲の反応に微妙な顔をした栄太郎だったが、あおいの言葉に気をよくしたのか、背負っていた袋を下ろすと、中の物を手に取った。「ええっと、これは小山さんだな。メリー・クリスマス!」「あらあら、うふふふっ。この年でサンタさんからプレゼントだなんて、長生きはする物ね」「小山さん、色々迷惑かけたね」「うふふふっ。おかえりなさい、栄太郎さん。お元気になられたみたいでよかったわ。これからもよろしくね」「ああ、ありがとう。そしてこれは&hel
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-05
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176 クリスマスプレゼント

 「明日香さん……今なんて」「結婚してほしいんだ、あたしと」 突然のプロポーズに、直希は煙草を落として固まった。「あたしね、その……前に一度、ダーリンにプロポーズしたつもりだったんだ。みぞれとしずくの父親になってほしいって。でも、ダーリンってば鈍感だから、言葉通りに受け止めちゃって。一世一代の告白だったのに、うまく誤魔化されちゃってさ。だからね、もう一度はっきり言おうって、ずっと思ってた。 あたしは今も昔も、ダーリンのことが好き。愛してる。でもダーリンは、あたしって言うか、女のことになるといつも逃げ腰でさ。つぐみんやなのっち、アオちゃんにアピールされても、いつもうまくとぼけてた」「それはその……あ、いや、とぼけてた訳じゃなくて」「分かってる。ダーリンはちゃんと、相手の気持ちを理解してた。少なくとも、あたしやなのっちのことはね。ただダーリン、本当にそういうことになると臆病だから、鈍感な振りをして誤魔化してた」「……ははっ、お見通しだったんですね」「でもね、あたしはそれもいいかって思ってた。毎日が本当に楽しかったから。あおい荘が出来て、なのっちやアオちゃんもやってきて、毎日賑やかに笑いながら、みんなでダーリンのことを取り合って。本当、楽しかった。 無理にあの日のことを掘り返して、今の幸せを失いたくない、そう思ってた。でもね、楽しい時間もそろそろ終わり……そんな気がしたんだ」「明日香さん……」「アオちゃんの家から帰って来て、ダーリンを見た時に感じたんだ。ダーリンの中で、何かが変わったって」「……」「ダーリンが自覚してるかどうかは分からない。でもね、あの時あたし、本当にそう思ったんだ。あたしはバカだからうまく言えないけど、ダーリン、未来を見ることを恐れなくなった。そう思ったんだ。 いつも感じてた、ダーリンの中にある闇。それが何なのか、あたしは
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-06
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177 竹馬の友

 「おっ、やっと来たな。こっちだ、こっち」 クリスマスパーティが終わったあおい荘。日付が変わってしばらくした頃に、庭に生田と西村がやってきた。 迎えたのは栄太郎。「新藤さん、こんな時間にどうしたんですか」 宴会が終わりに近づいた頃。栄太郎は生田と西村に、後でここに来るよう耳打ちしていたのだった。「いやな、たまには野郎三人で、こうしてゆっくり話したかったもんでな」「嘘、ですね」「嘘なもんか。何と言ってもわしらは、若い頃からよくつるんでた仲なんだ。まあ西村さんは、ちょっとばかり年を食ってからの付き合いだがな」「で、本当のところは」 栄太郎の昔話に耳も貸さず、生田が厳しい表情で言った。「いや、ははっ……なあ生田さんや、わしもあんたとは、随分長い付き合いだ」「まあ、確かに……私が高校の頃からですから、かれこれ60年ぐらいですね」「そうか、もうそんなになるのか。西村さんとは、40年ぐらいだな」「ほっほっほ。わしはなんじゃ、仕事をやめてからになるからのぉ。それぐらいになるかな」「それでだ。わしらにもな、色々あったと思うんだ。時には喧嘩もした。本気で怒鳴り合いもした。だが……今ではそれもいい思い出だ。わしはあんたらに出会えたこと、天に感謝してる」「新藤さん。あなたがその目をしてる時は、碌なことがなかったように記憶してる。何を企〈たくら〉んでるんですか」「企〈たくら〉むだなんて、人聞きの悪いことを言わんでくれ。わしはただ、心の友たるあんたらに、ちょっとした頼みごとをしたいだけなんだ」「やはりね……それで? どんな頼みごとなんですか」 生田が、やれやれといった表情で腕を組む。栄太郎は苦笑し、頭を掻きながら小声で言った。「煙草……なんだがな、最後に一本だけ、めぐんでほしいんだ」「煙草って…
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-07
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178 除夜の鐘

 「おまたせ」 直希が蕎麦を持ってくると、あおいは恐縮した様子で頭を下げた。「すいませんです直希さん。大晦日までお世話かけてしまいまして」「いいんだよあおいちゃん。一年の締めは俺の作った年越し蕎麦、これはあおい荘の恒例行事にするつもりだから」 そう言って笑顔を向けると、あおいも嬉しそうに笑った。「ほい、つぐみも」「ありがとう、直希。昼間何をしてるのかと思ってたんだけど、手打ちにしてたのね」「ああ。やり方は何となく知ってたけど、やってみたのは俺も初めてなんだ。うまく出来てるといいんだけどな」 そう言ってテーブルに置くと、直希も同じテーブルに座った。「では……いただきます」「いただきます」  * * * 大晦日。 あおい荘はいつになく、静かな夜を迎えていた。 この数日で、入居者のほとんどはそれぞれの実家に帰省していた。 そしてそれは、直希の強い意向でもあった。 あおい荘の入居者たちは皆、ADL(日常生活動作)も自立していて、認知等の症状もほとんど見られない。 しかし年齢を考えると、いつ何が起こっても不思議ではない。 以前あおいの姉、しおりに言った言葉。「高齢者の皆さんは、悪くなることはあっても良くなることはないんです」 そのことを直希は、現実の問題として理解していた。 今日元気だとしても、明日どうなのかは誰にも分からない。 だから今、元気な内に少しでも多く交流を持ってほしい、そう願っていた。 日頃仕事で忙しい家族たちも、年末年始であれば時間を作れる人が多い。 ならこの時期、団欒のひと時を持ってもらいたい。 ひょっとしたら、今年が最後になるのかもしれない。 考えたくないことだったが、事実そうなってしまうこともある。そしてそうなった時に後悔しても、もう手遅れなのだ。 だから彼は、長期の休暇を持てるタイミングで
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-08
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179 逃げたくない

  新しい年を迎えて数日が経った。 この日。つぐみは須藤に誘われ、街の喫茶店に来ていた。  * * *「ふふっ、お兄ちゃん、さっきからそればっかり」「いやいや、そうは言うけどさぁ……休みってのは、どうしてこうも早く終わってしまうのかな」「早くって言ってもお兄ちゃん、一か月も休暇取れたんでしょ。そんなに長い間休める人なんて、そうそういないよ?」「それはそうなんだけど……ああ駄目だ、戻りたくない」「何言ってるのよ。ドイツにはお兄ちゃんを待ってる人、たくさんいるでしょ」「……休みってのは、取れるまでが楽しいんだってつくづく思ったよ。長ければ長いほど、終わる日を指折り数えてビクビクしちゃって……贅沢なのは分かってる。でもね、それでも……ああもう、あと10年ぐらい休みたいよ」「ふふっ、やっぱりいくつになっても、お兄ちゃんはお兄ちゃんよね」「そうかな」「うん。だってお兄ちゃん、学生時代もそんなこと言って、お父さんに叱られてたじゃない」「そうだった? ははっ、そうかもしれないね」「そうよ、全く……ふふっ」 小さく笑い、コーヒーに口をつける。「一週間後にはお兄ちゃん、戻ってしまうのよね」「ああ。でもまあ、夏ぐらいにはまた休暇も取れるだろうし、今はそれを希望に頑張るとするよ」「患者さんの為にもそうして頂戴ね。でも……本当によかったわ、お兄ちゃんがいてくれて」「栄太郎さんのことかな」「うん。栄太郎おじさんがあんなことになってしまって、私もどうしていいか分からず、戸惑ってしまった。でもお兄ちゃんがいてくれたから……お兄ちゃんが励ましてくれて、そして色々と教えてくれたから、私も頑張らなくちゃって思えたの。お兄ちゃんの話
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-09
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180 突然の

  コーヒーを一口飲み、須藤が苦笑した。「お兄ちゃん?」「ああいや、ごめん。何て言ったらいいのかな、つぐみちゃんも直希くんも、すっかり立派になって……自分も頑張らないとって思ったんだ」「お兄ちゃんも頑張ってるじゃない。泣き言も多いけど」 そう言って微笑むつぐみを見て、須藤は小さく息を吐いた。「今日誘ったのは、つぐみちゃんに伝えたいことがあったからなんだ」「私に? 何かしら」「いきなりなんだけど、驚かないで聞いてほしい。僕にとってはその……こっちに戻ってからずっと考えていたことで、決して勢いとかじゃないんだ」「何よ、妙に口ごもっちゃって。別に何を言われたって驚かないわよ」「……つぐみちゃん。俺と一緒に、ドイツに行かない?」「え……?」 意外な言葉に、つぐみがそう声を漏らした。「と言っても、もしそうなるにしてもつぐみちゃん、パスポート持ってないよね。手続きとか色々あるだろうし、実際には夏頃になると思うけど」「待って待ってお兄ちゃん。驚かないって言ったけど、流石にそんな話とは……どういうことなの」「つぐみちゃんと再会して、つぐみちゃんが本当に医者になってて驚いた。そして栄太郎さんの件があって……その後もこうして話をしていく中で、つぐみちゃんには物凄い可能性があるって思ったんだ。つぐみちゃん、君はきっと素晴らしい医者になれる。僕なんかよりもっと高みに行ける、そう確信したんだ」「そんなこと」「僕は日本が誇る名医なんだろ? 自分ではそんなこと思ってないけど、勝手に名前だけが独り歩きしてる。でもいいさ、今だけは使わせてもらう。 その名医が保証する。つぐみちゃん、君には無限の可能性がある」「お兄ちゃん……」「つぐみちゃんが今よりもっと経験を積んでいけば、きっとそう
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-10
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