「……」 目の前に倒れている少女がいたら、どうするのが正解なのだろうか。 世知辛い世の中、一つの決断がその後の人生を狂わせることもある。 声をかけていいものか。不審者呼ばわりされないか。 痴漢扱いされるのだろうか。 世の男たちはきっと、戸惑い悩むことだろう。 しかし彼、新藤直希〈しんどう・なおき〉は違った。 迷うことなく声をかけた。「どうしました? 大丈夫ですか」 直希の声に少女は反応しない。苦しそうに、小刻みに息をしているだけだった。 * * * 今日は7月20日。 天気予報では、猛暑日だと言っていた。「熱中症……?」 直希が少女の肩に手をやり、再び声をかける。「大丈夫ですか?」 肩を揺さぶられ、ようやく少女が目を開けた。 そして視界に入った見知らぬ男の手を握ると、息絶え絶えにこう言った。「お水……お水をください……それからあと……何か食べる物を……」「お水と食べ物……分かりました。とにかく中に」 少女が差し出された手を弱々しく握り、立ち上がろうとする。 しかし力が入らず、そのまま直希の胸に倒れ込んでしまった。「……ちょっと我慢してくださいね」 直希はそう言うと、彼女を抱きかかえて立ち上がった。「あ……」 少女の胸が締め付けられる。(これ……これって、お姫様抱っこ……) 直希が立ち上がると、少女は直希の肩に手を回し、そのまましがみついた。「大丈夫ですか? 中に入りますよ」
Last Updated : 2025-05-19 Read more