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108 Bab

91.

上野悟はここS国で貿易会社を経営していた。妻の景子(けいこ)はジュエリーデザイナーであり、宝飾店のオーナーでもあったので、昨夜姪の智奈が「賢也がジュエリーの換金ができる所を探している」と言った時に、妻の店に連れて来るようにと言った。予感めいたものがあったのだ。男なのに、換金するものが〝ジュエリー〟だって?腕時計やカフス、ネクタイピンでもなく、指輪やブレスレットだなんて…。悟は賢也が言ったという〝姉の〟という言葉など、信じていなかった。あの方に今日の智奈と賢也の予定を伝える為に連絡を取ったついでにその事を尋ねると、案の定、奴には姉などいなかった。では、そのジュエリーはどこからきたのか?盗んだ物なら調べればわかる。だから、智奈には彼を、妻の店に連れて来てもらう必要があるのだ。悟は普段から智奈に内緒でつけている護衛の者たちに、少しでも変な行動を取りそうになったら奴を取り押さえろとよくよく言い聞かせて、やっと安心して彼女を送り出す決心をつけたのだった。結果。賢也は特に変な行動はとらなかった。だが、彼が換金の為に出してきたジュエリーは、どれも盗難届が出ている、れっきとした〝盗品〟だった。しかも、その盗難届は那須川家から出ていた。どういうことだ?奴は誘拐だけじゃ飽き足らず、盗みまで働いたのか??直接関わってないんじゃなかったのか!?悟は訳が分からなかったが、とりあえず、「今日からはホテルを取るから」と言う賢也を引き留めた。「今は観光シーズンだから、あまり良い部屋は取れないよ。遠慮せず、うちに泊まりなさい」「いや〜、でも…」2人は表面上とても穏やかに話し合っていたが、内面ではお互いに相手を嫌悪していた。コイツを逃さないように見張らないと!ホテルに入られたら監視が難しくなる。せめて追っ手が来るまで足留めしないと、あの方に顔が立たない!ニコニコしながらもその笑顔はどこか引きつっていた。そして賢也は、腹の中でふんっと嘲っていた。よく言うよ、このおっさん!今日、何人も黒服付けてたの知ってんだからな!彼はここ何日も、チャラけた感じを装いながらも周囲を警戒していた為、今日智奈と出かけてすぐに、何人もの黒服の男たちが距離を取りながら、後をつけてくるのを感じた。だから普通の観光を装った。自分は何もしていない。理由もなく、この黒服たちに取り押さえ
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92.

やがて、深夜に近い時間ー。やっと寝たか…?賢也は客室のドアを静かに開け、邸の中が間接照明のみの薄暗い状態になっているのを確認し、そっと部屋を抜け出した。そ~っと、そ~っと……。スーツケースを抱え、ゆっくりと足音を立てずに階段を降り、一階に降りたところでふぅ…と息を吐いた。ここまで来たら、あとは…「じゃあな、お世話になりましたっ……と」玄関扉を静かに開け、サッと外に出て、手を添えながらまたそ~っと閉めた。「へへっ、いっちょあがり〜」小声で得意げにそう言い、指で鼻を擦った。だがー。「こんな夜中にどこへ行く?」「!!」いきなり声をかけられて、賢也は驚いてバッ!と振り返った。そこには、黒いコートの裾を風に靡かせた男が一人、立っていた。男はコートのポケットに手を入れて、夜中は少し肌寒い風に吹かれていた。「誰だ、お前…?」賢也は一気に警戒モードを全開にして、一瞬辺りを見回した。気配は……ある!男はそんな賢也を面白そうに眺め、指をちょいちょいと動かしてボディーガードらしき屈強な体格の人物を呼んだ。「捕らえろ」「はっ」一言そう言うと、彼はさっさと邸前に停めた黒塗りの、高級車の後部座席に乗り込んだ。「なんなんだ!?お前、誰だよ!」夜中にも拘らず賢也がそう喚くと、斜め前の家の灯りがパッと点いた。だが誰も出て来る様子はなく、ただ事の成り行きを家の中から窺っているようだった。ちくしょう!賢也はギリッと歯を鳴らし、スモークガラスで見えない先ほどの男を睨みつけた。「俺が何したってんだよ!?」そう喚くと、自分の腕をねじり上げていた男が呆れたように言った。「自覚がないとは呆れたな。誘拐の教唆と、窃盗だよ」「はぁ~!?窃盗!?そんなん知らねぇ!おい!聞いてんのか!?知らねぇっつってんだろうが!!」どんなに喚こうが、拘束の手は緩まなかった。「言い訳は、後で聞く」「言い訳じゃねー!盗みなんて、そんなチンケな事するかよ!!」男はもう何も言わず、暴れる賢也を黒塗りの車の後方に停まっている、大きなバンに押し込んだ。そこで手錠のようなものをかけられ、沢山のボディーガードたちに囲まれて座らされた。くそ、くそ、くそ!!悔しそうに額に青筋を立てている賢也に、隣に座ったボディーガードが胸中で呟いた。うちのボスに捕まった事を感謝しろよな。これ
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「痛ってぇな!!」驚いたことに、悠一はプライベートジェットでS国に来ていた。原省吾からは、この河本賢也の家とも話しがついていると言われ、その手回しの良さに感謝しかなかった。「口を閉じろ」「はぁ!?」苛立っている所に命令をされて、つい反抗的に応えた。「お前、誰だよ!?」もう何度目かの問いに、黒コートの男が答えた。「自分が計画した割に、お粗末だな」「なんだって!?」キッと睨みつけると、男は余裕で嗤った。「俺の婚約者には会ったのか?」「!!」その言葉で、賢也にはこの男があの、那須川悠一だとわかった。やべぇ…。マジかよ、本人登場って…。ちらりと視線を上げると、悠一は不敵に、目を眇めて嗤っていた。はぁ…詰んだわ、俺……。そう思いながらも、自分が実行犯ではないという事実があるからか、賢也にはまだ余裕があった。「俺を、どうするつもりすか?」尋ねると、悠一はフフンと鼻で嗤い、逆に尋ねられた。「どうすると思う?」「……」怖えぇ…。なんだ、この威圧感?歳ごまかしてねぇ??賢也はブルッと身を震わせて、媚びるように悠一を見た。「俺、なんもやってないです…」「ん?」悠一が片眉をピクリと上げた。「なんもやってません!あいつらが勝手にー」「……」必死に言い募ろうとガバッと身体ごと乗り出して、目の前にある冷めた目にゾッとした。「言い訳を聞く気はない。自分が直接手を出してないから、なんだってんだ?そもそも〝教唆〟て意味知ってるのか?」もう少し頭を鍛えろ、と蔑まれて、賢也の顔が赤く染まった。「なんだよ!濡れ衣で殺すつもりかよ!?」罵声を浴びせても悠一はまったく痛くも痒くもなさそうで、それどころか、愉しそうに爪を整えていた。「ふざけんな!法治国家だぞ!?こんな事、許されると思ってんのか!?」「ハハハッ!」悠一の心底可笑しそうな笑い声に、賢也はビクッと肩を跳ね上げた。「お前が言うのか?それを?」「…っ」確かにその通りだった。誘拐をしようとした奴が、言うことじゃなかった…。賢也は腹が立つが言い返せず、ギリギリと奥歯を噛み締めていた。その日の夕方。行きは周りを警戒しながらだったのに、帰りはプライベートジェットで堂々と?なんて、笑い話にもなりゃしねぇ…!しかもここ、どこだよ!?寒ぃよ!賢也はボディーガードたちに連れられて
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94.

春奈のせいだ!!あいつが!余計な事を俺に吹き込むから!!賢也は、悠一のここを出て行く時に言った言葉が忘れられなかった。「いいじゃないか。どうせ人生設計なんか、考えてもないんだろ?だったら、ちょっと退屈かもしれんがここで、俺の金で、働きもせず、毎日食っちゃ寝できる生活を満喫しろよ」そう言って、奴は後ろ手を振って帰って行ったのだ。なんだよ、それ!勝手に、なんにも考えてないみたいに言うなよ!!賢也には夢があった。可愛くて、ちょっとエッチな嫁さんをもらって、子供をばかすか産んでもらって、大家族を作って、いつかみんなで世界一周旅行をするのだ!ずっと、そう思っていた。でも……。それ、もう無理じゃん!!賢也は地団駄を踏んで悔しがった。そしてやがて、ふぅ…と息をつき、ドサリとベッドに横になった。俺、身ぃ一つなんだけど、どうすんの?帰りの飛行機の中で携帯は取り上げられた。スーツケースももちろん返してもらってない。もう!どうすんだよ!!賢也は一応おしゃれを気取っているので、着の身着のままなんて、到底受け入れられないっ。彼はガバッと起き上がると、とりあえず室内を漁ってみた。VIP個室に似せて作ってあるせいか、クローゼットがあった。早速開けてみると、そこには同じ病衣が何着も並んでいた。なんだ、これ…。ダセェ!あり得ない!けれどどこを漁っても、これ以上の物は歯ブラシなどの日用品しか出てこなかった。マジか…。これだけで、賢也は泣きそうになった。そして。この彼の様子を監視カメラで見ていた悠一は、呆れたように苦笑した。「なぁ…これ、罰になってるのか…?」「……」傍らのボディーガードたちは、只々黙って恐縮していた。「まぁ、今日は初日だしな…」あんまりダメージがないようなら、部屋を変えるのもありだな。そもそもなぜこんな清潔で整った部屋に入れたのかというと、河本家への報告を年一でする事を約束しているからだった。賢也は身寄りのない孤児でも、家族に愛されてない訳でもなかった。そもそも精神病院に入れるだけで済ましている事が、悠一にしてみれば既に譲歩しているのだが、悔しいが奴の言う通り法治国家である限り奴らの人権などへの配慮を、求められれば叶えなければならない。その点で、悠一は手を尽くした。訴えてでもここから出してやる!という気を起こさせな
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「わぁ〜、すごい!こんなに描いたの!?」スケッチブックをパラパラとめくり、白川麻衣が感嘆の声を上げた。やっと数日ぶりに事務所を再開して、久しぶりに会った麻衣と原友香は、少しはしゃいでいるようだった。友香は早速キッチンで紅茶とお持たせのケーキを用意して、雪乃と麻衣に声をかけた。「ひとまず、お茶しませんか?」その言葉に雪乃はくすくすと笑い、今日は仕事にならないかな…?と思った。「いいわね〜。ほら!雪乃も早く!」「はいはい」雪乃は麻衣に腕を捕られ、スケッチブックをデスクの上にポイッと置いて、引っ張られるままに奥の応接スペースに行った。そこにはいつも行列ができて、午前中でケースの中の物は全て売り切れるという、評判のお店のケーキがいくつか並んでいた。どう見ても、一人3つはいけそうな程綺麗で美味しそうなケーキ…。雪乃の顔は、途端にニコニコになった。麻衣もその瞳をキラキラと輝かせて、そそくさとソファに座った。友香はそんな2人を見て、慈愛の笑みを浮かべたのだった。その時。ピンポーン…とチャイムが鳴り、一瞬3人で〝誰が行く?〟と無言の攻防が繰り広げられた。だがここは家主の雪乃が行くべきだろう…とため息を一つついて、彼女はフォークを静かに皿に戻したのだった。「はい…どなた…?」そう言いながらガチャリとドアを開けると、そこには引き締まった身体を洗練されたスーツに包み、近寄り難い雰囲気を醸し出した那須川悠一が立っていた。「雪乃…」その名を呼ぶだけで彼の瞳は愛しげに細められ、その声は甘く、深みを増した。「悠一?」確か彼は出張に出かけていたのでは…?もう帰って来たの?雪乃はパチパチと目を瞬き、小首を傾げた。「戻ったの?」そう尋ねると、彼は「うん」と頷き、だが更に「また今から別の出張なんだ」と言った。忙しいのね…。雪乃はそう思ったが、それでなぜ悠一がここへ来たのかは、分からなかった。「で、何か用事?」彼女にしてみれば、忙しい悠一がわざわざ来たのには何か用があっての事だろうと、至極当然のこととして訊いただけなのだが、悠一は途端に拗ねたように口を尖らせた。「なんだ?用がなければ、会いに来られないのか?」「そういう訳じゃ…」雪乃はその時、まだ一口も食べていないケーキを思い出して、ちらりと部屋の中に視線を向けた。瞬間、悠一の眉が跳ね
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「確保!!」A国でー。ケンのアパートで、ゴロゴロと寝転んでファッション雑誌を見ていた春奈は、突然ドアを蹴り開けて入って来た男たちに、驚いて固まっていた。「な、なに…?」遠慮もなにもなくドカドカと部屋に押し入って、ベッドの上で一瞬ポカン…としていた春奈は次の瞬間、見ていた雑誌を目の前の黒服の男の顔めがけて投げつけた。「きゃあ!!誰か来て!殺される!!」そして全力で叫ぶ彼女に、男たちは苛ついた。この女…!彼らはここA国で、ずっと彼女を監視していた男たちで、真木の指示により、ついに対象者の捕獲へと踏み出したのだった。「大人しくするなら、乱暴な事はしない。そうでなければー」「うるさい!なによ!偉そうな口、利くんじゃないわよ!!」バッとベッドから飛び降り、一番近くで彼女に話した男に向かって、春奈は手近にあった重いガラス製の花瓶を投げつけた。ガッシャーン!!幸い、何も入っていなかったが、花瓶は粉々に割れ、直撃を受けた男は額から血を流して膝をついた。「くっ……」相手が女性ということもあって、「さすがにいきなり床に押さえつけるような真似は出来ない」と無駄な親切心を見せたのが運の尽き、春奈によって見事な反撃をくらった。彼女は目の前で、まるで自分に跪いたかのように蹲った男の額から血が滴り落ちるのを見ても、フンッと鼻を鳴らしただけだった。「あんたたち!どうせ悠一んとこのボディーガードでしょ!?私に手を出して、タダで済むと思ってんの!?」自身満々に腰に手をあててそう喚く春奈に、残った護衛たちも急に険しい顔つきで言った。「なんだ?まさかと思うが、ボスが助けてくれるとでも思ってんのか?はんっ、バカじゃないか?」「なんですって!?」春奈は、今更悠一が自分に優しくしてくれるなんて、思ってなかった。ただ、この目の前の傍若無人な男たちに何か言ってやらなければ気が済まなかったのだ。ただ、それだけだ。それなのに、まさかこんな…たかが悠一の犬のような手下にまで、こんなに侮辱されるとは!彼女が、ギリギリと歯を食いしばって男たちを睨みつけていると、ふいにまた一人男が入って来た。「今また、なにをごねてるんだ?」「……」愛斗!?春奈は、一瞬囚われていた激情など忘れたかのように目を瞬いて、目の前に立つ男をじっと見つめた。「なんで、ここに…?」子供のように首
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「いい加減にしてくれないか…?」その威圧感たっぷりの声音と冷たい眼差しに、春奈を糾弾していた男がビクリッと震えた。「あ、あんた…」震える声で何かを言おうとするが、言葉が続かない。そんな男に愛斗は一つため息をつくと、簡潔に言った。「この女は我々が処理する。口出し無用だ」「処理……」そのまるで、牛や豚を〝処理する〟とでもいうような物言いに、男の顔は青褪めた。自分は精々警察にでも連行されて、2〜3日でも勾留されてケンの行方を問い詰められればいい…。その程度に思っていた。彼女は見る限り、そんな悪辣な人物には見えない。店でケンと話しているところだって何度も見たし、その時の印象も可愛らしい女性…というものだった。だけど状況から見ても彼女が一番怪しかったから、ちょっと懲らしめてやろうと思っていただけだ。だがー。今のこの男の言い方だと、自分が思っていた以上に彼女は大変な事をしでかしているらしい…。もしかして…ケンは既に……。男は最悪の状況を想像して、ハクハクと口を動かすが言葉がでなかった。「この…この女は、いったい何を……」やっとのことでそう言うも、返ってきた答えはそっけなかった。「気にするな」「……」どうやら自分は、踏み込んではならない領域に足を入れようとしたらしい…。ということは、ケンはもう…。最悪の答えに辿り着いて、男は僅かに涙を滲ませた。「わかりました…」せめて、その女をきちんと裁いてほしい…。男はグズっ…と鼻水をすすり、拳で涙を拭いながら頷き、愛斗に視線を合わせた。その時点で、愛斗は彼が何か誤解をしていることに気がついたが、「まぁ、いいか…」と黙って頷き返した。そして男は去って行き、春奈は再び黒服の男たちによって引きずられるように連れて行かれたのだった。なんなの?なんなのよ!?なんの意味深なアイコンタクトよ!!気持ち悪い!!春奈は胸の内で思い切り罵りながら、車へと押し込められた。「空港へ」空港!?愛斗の言葉に車が走り出し、春奈は驚いて彼を見た。「どこに連れて行くつもり!?」「……」「愛斗!」応えようとしない愛斗に、春奈が問い詰めてきた。それに対して、愛斗はやっとその顔を春奈に向け、冷めた口調で言った。「黙れ」「!」驚きながらもまだ何か言おうとする春奈にうんざりして、愛斗は同乗しているボディー
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春奈は、どこかの建物の中に入ったのはわかっていたが、それがなんなのかは分からなかった。外を歩いていた時に感じた通りなら、ここは那須川邸ではない。第一、寒いし…。今、目の前の一人掛け用のソファに足を組んで座る悠一も、薄手だがコートを羽織っている。春奈はぶるっと身体を震わせ、縋るように彼を見つめた。当然のように、自分は悠一の足下に座らされている。彼はそれを見てもまったく心を動かされず、ずっと冷めた目を向けている。床は冷たく、ケンのアパートにいたままの薄着でいた為、春奈はとにかく寒かった。「悠一…寒いの……」小さな声で何か暖かいものを懇願しても、彼はじっと目を逸らさなかった。「悠一…」「楽しかったか?」「え…」抑揚のない声で質問されたが、いったい何が言いたいのか分からなかった。春奈が視線をウロつかせると、悠一がゆっくりとその身を屈めて彼女の顎を強く掴んだ。「質問に答えろ。楽しかったか?」「な、なにが……」掴まれた顎が痛くて、思わず涙が滲んできた。だが悠一はそんなことにはまるで頓着せず、更に彼女の顎を掴む手にギリッと力を込めた。「い…痛い!」そう言って、咄嗟に身体を捻った。がー。手は離れなかった。ひたすら万力の力を込めてギリギリと顎を締め付け、まるで骨を砕かんばかりだった。「社長ー」その時、ふいに悠一を呼ぶ声がして、彼は本当に〝仕方なく〟その手を離した。ただし、そっと…ではなく、放り投げるように。その勢いで春奈の身体は真横に投げ出され、ドサッ!と床にうつ伏せる格好となった。「うう…ひどい…」こんな扱いは只々屈辱的で、彼女の瞳から涙が零れ落ちた。「ひどい、だと?」春奈の言葉に反応した悠一が、再び怒りをぶつけてきた。「では、お前がした事はなんだ!?」「わ…私……」言い淀むと、悠一はダンッ!と足を踏み鳴らした。「お前は!実の姉を!どこの誰ともわからん奴らに、誘拐させようとしたんだぞ!!」「……」「奴らが、雪乃に危害を加えない保証があったのか!?」「……」彼の怒りがそのまま言葉となってぶつけられ、春奈の顔は真っ白になった。「お、お姉ちゃんは……」恐る恐るそう尋ねる彼女に、悠一はハッと吐き捨てた。「無事に決まってるだろう?俺が、そんなヘマするか!!」「……」よかった…。この時、春奈の胸の内で、
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春奈を〝奥の部屋〟に入れた時、一瞬愛斗はその清潔さにホッとした。彼自身、彼女のことを許せないと思っているし、何らかの罰を与えてやらないと気が収まらないと思っていた。だから彼女を捕らえると聞いた時、彼は自ら悠一に「自分に行かせてほしい」と頼んだのだ。悠一も雪乃に手を出した春奈に怒り心頭だったし、今度こそ、彼女への制裁を加えると決意しているようだったので、それに便乗させてもらったのだ。だが、しかしー。正直、彼がここまでするとは思わなかった。女性に対し、ましてや彼らは幼い頃からの知り合いだというし、〝制裁〟だと言っても少し怖がらせる程度だと思っていたのだ。それが、どうやら間違っていた。那須川悠一という異母弟は、制裁する相手に対して一切の情けをかけない。性別も関係性も何もかもを排除して、ただその罪に対する罰だけを秤にかけ、遂行しているようだった。その姿は正に〝冷酷〟そのもので、そうでなければ足下を掬われてしまうような世界で生きているのかと思うと、彼は異母弟が哀れで仕方なかった。愛斗は先ほどの春奈を思い出していた。一見綺麗で清潔な部屋に入れられ、でもベッドや机以外何もない、音の出るような物もない、相手をしてくれる人もいない。そんな現実を思い知って、絶望にふらついた春奈がつい「いつまで…」と口にしたところ、悠一の秘書をしている真木宗太が冷たい目で彼女を一瞥し、そして告げた言葉に戸惑いが立ち昇った。「いつまで?…死ぬまでですよ」「!」「!?」春奈もだが、愛斗も息を詰めた。死ぬまで…。それは若い彼女にしてみたら、途方もなく長い時間だ。その間、ここに…?真木も愛斗の戸惑いを察していたが、黙っていた。これは那須川家の問題であり、自分が口を出していいことではない。そうして彼女を置いて皆で引き返した後、真木は、愛斗が悠一に会いたいと言った事を伝えた。悠一もこうなることが分かっていたのか、愛斗への伝言を伝えるだけで「会うつもりはない」と言った。真木は悠一から言われた通りの言葉を伝えると、頭を下げて愛斗の前を辞したのだった。悠一が告げた言葉は、「俺の決定がすべてだ。受け入れられないのなら、今後一切関わるな」というものだった。つまり、春奈はもうずっとこのままだし、裏切れば、彼ですらこの〝制裁〟の対象になり得る…というのだ。愛斗はしばらく
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オフィスにて。悠一のデスクに、ジャラジャラと複数のジュエリーが置かれていた。「これで全部か?」そう言う彼の目にはなんの興味も示されてはいなかったが、確認する声は鋭かった。「はい。書類とも一致しています」真木は作成された書類を差し出しながらそう言い、姿勢を正した。昨日帰ってきたばかりで、今はまだ始業してすぐの時間。そうであるにも拘らず、既に悠一の満足するものが用意されている事をみても、彼は優秀なスタッフだった。「うん」悠一は一言そう言って頷き、特に彼を褒めたりはしなかったが、真木はその反応だけで彼が自分の仕事に満足していることを理解した。「こちらは、どうされますか?」尋ねると、悠一は少し考えて言った。「全て金に換えて、例の病院建設の資金に加えろ」「かしこまりました」真木は請け負って頭を下げ、オフィスを出て行った。春奈や賢也、他にも事件に関わった奴らを収容した施設は、元々あの土地にあった病院を改装して、ほぼ改築に近いほどのものだったが…新しく据えたものだった。そのおかけでそこには唯一の病院がなくなってしまい、不便になってしまうから…ということで、悠一が新たに中規模の総合病院を今、建設していた。それができればあの町には相応しくないほどの設備が整う予定なので、引っ張ってくる医師や看護師など、必要なスタッフの募集を既に始めていた。もちろん、地元での就職口としても多大なる期待をしていた。関わるスタッフは多岐にわたる為、地元だけでは賄えない現状があるので募集を試みたのだが、意外にも地元出身の者や、近隣の出身者が多く応募してきていた。そういう意味でも、悠一はあの町の人々にとても感謝されていた。こういった話題に大きく反応したマスコミに取材の申し込みをされることも増えたが、元々そういった顔出しをしない悠一は全て断った。逆に、勝手な取材合戦などで地元を騒がせることを嫌い、まとめた資料を希望する所には配布することで、それに応えていた。富裕層の慈善事業は最早当たり前のように行われていたが、これほどの規模のものは珍しく、改めて那須川家の大きさやその影響力に人々は驚愕したのだった。だが世間の評価は悠一には関心がなく、彼にしてみれば、それは個人的な制裁を加える場所を一つ得ただけの事で、上辺の、ほとんどカモフラージュに近い事業にはさして興味がなかった
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