上野悟はここS国で貿易会社を経営していた。妻の景子(けいこ)はジュエリーデザイナーであり、宝飾店のオーナーでもあったので、昨夜姪の智奈が「賢也がジュエリーの換金ができる所を探している」と言った時に、妻の店に連れて来るようにと言った。予感めいたものがあったのだ。男なのに、換金するものが〝ジュエリー〟だって?腕時計やカフス、ネクタイピンでもなく、指輪やブレスレットだなんて…。悟は賢也が言ったという〝姉の〟という言葉など、信じていなかった。あの方に今日の智奈と賢也の予定を伝える為に連絡を取ったついでにその事を尋ねると、案の定、奴には姉などいなかった。では、そのジュエリーはどこからきたのか?盗んだ物なら調べればわかる。だから、智奈には彼を、妻の店に連れて来てもらう必要があるのだ。悟は普段から智奈に内緒でつけている護衛の者たちに、少しでも変な行動を取りそうになったら奴を取り押さえろとよくよく言い聞かせて、やっと安心して彼女を送り出す決心をつけたのだった。結果。賢也は特に変な行動はとらなかった。だが、彼が換金の為に出してきたジュエリーは、どれも盗難届が出ている、れっきとした〝盗品〟だった。しかも、その盗難届は那須川家から出ていた。どういうことだ?奴は誘拐だけじゃ飽き足らず、盗みまで働いたのか??直接関わってないんじゃなかったのか!?悟は訳が分からなかったが、とりあえず、「今日からはホテルを取るから」と言う賢也を引き留めた。「今は観光シーズンだから、あまり良い部屋は取れないよ。遠慮せず、うちに泊まりなさい」「いや〜、でも…」2人は表面上とても穏やかに話し合っていたが、内面ではお互いに相手を嫌悪していた。コイツを逃さないように見張らないと!ホテルに入られたら監視が難しくなる。せめて追っ手が来るまで足留めしないと、あの方に顔が立たない!ニコニコしながらもその笑顔はどこか引きつっていた。そして賢也は、腹の中でふんっと嘲っていた。よく言うよ、このおっさん!今日、何人も黒服付けてたの知ってんだからな!彼はここ何日も、チャラけた感じを装いながらも周囲を警戒していた為、今日智奈と出かけてすぐに、何人もの黒服の男たちが距離を取りながら、後をつけてくるのを感じた。だから普通の観光を装った。自分は何もしていない。理由もなく、この黒服たちに取り押さえ
Terakhir Diperbarui : 2025-08-17 Baca selengkapnya