「では、ご理解いただけたということで…」真木が、悠一に書類を手渡した。悠一はその内容を確認して頷くと、真の目の前に置いた。「確認しろ」そう言われて見ると、その書類には、娘が悠一と婚姻届を出してから今までに使った金額が事細かに書かれていた。基本的に自由にしていた春奈は外国で好きなように暮らしていたので、そこに住む為の住居、土地の購入価格。使用人を雇った人件費。春奈の使った生活、遊興費、等々…。親の目から見ても常識外れの贅沢三昧で、目を疑う有様だった。「これは……」真は冷や汗で、背中がじっとりと湿ってきた。真木が言った。「これにプラスして、春奈さんは最も大切な〝秘密厳守〟という条項を故意に破っていらっしゃいますので、損害賠償も請求いたします」「!!」「そんな…」真と小夜子は青褪めていた顔を更にショックで、今や真っ白に変えていた。真木はその様子をじっと見ていたが、ふと、春奈が大人しくしていることに違和感を覚えて、視線を向けた。彼女はさっきまでの勢いを無くしたかのように俯いていたが、その目は一点を見つめ、微かに何やらぶつぶつと呟いていた。「……」真木は、この事を悠一に知らせようと目配せをしようとしたところ、既に彼もそれを注視していることに気がついた。すると、2人に見られていることにも気付かず、その時春奈は静かに嗤った。「あの……」しばらく、真が書類を最後まで読み込むのを待っていた悠一は、彼が怖ず怖ずと声をかけてくるのを聞いた。「質問か?」「あ、はい…。その、この金額ですが…まさか、全額返金しろと…?」怯えたような視線に、悠一はふんっと鼻を鳴らした。「そう書いてあるだろう。読めないのか?」「い、いえっ…。ですが!…これはちょっと……」「なんだ?何が言いたい?」はっきりしない真に、悠一はイライラと問うた。「払いたくないというのは聞かないぞ?春奈には、始めにはっきりと言ってあったことだからな」「!」断言されて、真は春奈を見た。「お前……」「な、なによ…」その目は血走り、彼女は初めて見る父親の形相に戸惑った。「こんな契約、勝手にしやがって…!」手にした書類をグシャッと握り潰し、あれ程可愛がっていた娘を今や憎々しげに睨みつけていた。「あなた……」小夜子も、想像もできない金額の負債を一瞬にして負ってしまった事実に
Last Updated : 2025-07-14 Read more