Semua Bab もう一度あなたと: Bab 61 - Bab 70

108 Bab

61.

「では、ご理解いただけたということで…」真木が、悠一に書類を手渡した。悠一はその内容を確認して頷くと、真の目の前に置いた。「確認しろ」そう言われて見ると、その書類には、娘が悠一と婚姻届を出してから今までに使った金額が事細かに書かれていた。基本的に自由にしていた春奈は外国で好きなように暮らしていたので、そこに住む為の住居、土地の購入価格。使用人を雇った人件費。春奈の使った生活、遊興費、等々…。親の目から見ても常識外れの贅沢三昧で、目を疑う有様だった。「これは……」真は冷や汗で、背中がじっとりと湿ってきた。真木が言った。「これにプラスして、春奈さんは最も大切な〝秘密厳守〟という条項を故意に破っていらっしゃいますので、損害賠償も請求いたします」「!!」「そんな…」真と小夜子は青褪めていた顔を更にショックで、今や真っ白に変えていた。真木はその様子をじっと見ていたが、ふと、春奈が大人しくしていることに違和感を覚えて、視線を向けた。彼女はさっきまでの勢いを無くしたかのように俯いていたが、その目は一点を見つめ、微かに何やらぶつぶつと呟いていた。「……」真木は、この事を悠一に知らせようと目配せをしようとしたところ、既に彼もそれを注視していることに気がついた。すると、2人に見られていることにも気付かず、その時春奈は静かに嗤った。「あの……」しばらく、真が書類を最後まで読み込むのを待っていた悠一は、彼が怖ず怖ずと声をかけてくるのを聞いた。「質問か?」「あ、はい…。その、この金額ですが…まさか、全額返金しろと…?」怯えたような視線に、悠一はふんっと鼻を鳴らした。「そう書いてあるだろう。読めないのか?」「い、いえっ…。ですが!…これはちょっと……」「なんだ?何が言いたい?」はっきりしない真に、悠一はイライラと問うた。「払いたくないというのは聞かないぞ?春奈には、始めにはっきりと言ってあったことだからな」「!」断言されて、真は春奈を見た。「お前……」「な、なによ…」その目は血走り、彼女は初めて見る父親の形相に戸惑った。「こんな契約、勝手にしやがって…!」手にした書類をグシャッと握り潰し、あれ程可愛がっていた娘を今や憎々しげに睨みつけていた。「あなた……」小夜子も、想像もできない金額の負債を一瞬にして負ってしまった事実に
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-14
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62.

「おかえりなさいませ」邸の執事、小高に迎えられて、悠一はほっと気が緩むような感じがした。実際、藤堂家では苛つく事ばかりで全く落ち着かず、帰りの車の中でも終始不機嫌だった。だが唯一良かったのは、まだ早い時間だったので戻る途中で役所に寄ることができ、春奈との離婚届を提出できた事だった。悠一はやっと…という安堵の気持ちを噛み締め、小高に向かって言った。「心配かけたな。さっき、手続きしてきた」「!」その言葉に小高は一瞬身を強張らせ、そして笑顔で告げた。「おめでとうございます。やっと、でございますね」「ああ…」会話をしながら脱いだ上着を渡し、ネクタイも外した。「彼らは?」そうして尋ねると、小高も心得たとばかりに頷き、その視線を客室の方へと向けた。「今はご入浴の最中かと」「わかった」悠一も頷き、とりあえず着替える為に彼も2階へと向かった。コンコンコンッ浴室の扉をノックする音に、中にいた男が振り返った。どうやら着ているシャツなどはビチャビチャに濡れていて、その額にも汗が浮いていた。周りでハラハラと見守っていた小野真里も、突然現れた悠一に驚いて、しばし固まってしまった。「手伝うか?」そう問いかけると、男は苦笑して「いや…」と断り、部屋の方を顎で指して言った。「母さんの方を頼む。なかなか泣きやまなくて…」「わかった」悠一はくるりと背を向け、浴室を後にした。部屋に入ると、さっきまでとなにも変わらず、男の母親が慣れた手つきで赤ん坊をあやしていたが、相変わらず赤ん坊、陽斗はべそべそと泣いていた。「お疲れさまです」悠一はなんと言って声をかけたら良いのか分からなくて、とりあえずそう言ったのだが、思いがけず相手にはウケたようだった。「ふふっ、会社みたい」「……」微笑われて、悠一も苦笑した。「すみません」「やだ、謝らないで!意地悪したんじゃないの」彼女はそう言って、また微笑った。悠一はつい先日、林可南子と息子の愛斗を邸に呼び寄せた。2人は双子を引き取ることを希望していたので、特に愛斗が子供の世話に慣れることが必要だと、まずは慣れた環境で、慣れた者がいる所で、双子にも彼らに慣れてもらう為、この邸に来てもらったのだった。可南子の希望で、父親の弓弦には伝えていない。愛斗にとっては一応父親でもあるから会いたいか尋ねたのだが、彼も特
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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63.

皆が食堂で夕飯を食べている間、双子はリビンクで小野真里にミルクを与えられ、あやされていた。夜眠れなくなるのを防ぐ為に興奮するような遊びはせず、静かな音楽を流しながら身体のマッサージをしたり、話しかけたりと、彼女なりに工夫をしているようだった。それを見て、愛斗は可南子と頷きあった。「悠一さん、あの小野さんなんだけど…。子供たちがいなくなったら、こちらを辞めちゃうの?」可南子が尋ねると、悠一はチラリと小高を見た。それを受けて、小高が答えた。「以前訊いたところでは、彼女は料理などのスキルがないので家政婦にはなれない、と。こちらを辞める時は、他の保育士が必要な仕事を紹介してもらえないか?と言われました」「そう…」それを聞いて、彼女は思い切って言った。「彼女を一緒に連れて行っては駄目かしら?」「彼女を?」悠一が首を傾げると、可南子は真剣に頷いた。「正直に言うと、最初はあちらで乳母を雇おうと思ってたの。でもこの子達を見てたら…ちょっと慣れない人は難しいかな…て」「ああ…」悠一は苦笑した。確かにこの子供たちは難しい。何が理由で泣いているのか、機嫌が悪いのか、全くわからないことが度々あるのだ。雪乃にはなぜかわかるようだったが、彼女は今いない。頼りは子供たちと一番多く接している小野真里だけだった。彼女が言うには〝雪乃に伝授された〟ということなのだが、子育ての経験がそもそもない雪乃に、そこまでできるとは思えなかった。つまりは、彼女が自分なりに子供たちを見て判断している…という事だろう。悠一としても、少しは情が移っている双子に彼女がついて行ってくれたら、こんなに安心なことはない。だが、国内ならともかく、海外となると簡単には紹介できない。「一応、話してみます」「ありがとうっ」可南子はホッとしたように微笑んだ。よっぽど彼女がお気に入りらしい。もしかしたら、愛斗と…などと考えているのかもしれないな…。悠一はそう思い、そっと小野真里の方を見た。彼女は今、とても優しい顔を子供たちに向けて微笑っていた。ふと見ると、可南子もそれを見ており、愛斗も目を細めてその景色を眺めていた。その瞳は、とても慈愛に満ちていた。おやおや…嫁候補まで見つけたか…。悠一は密かに口角を上げて微笑った。その後、小野真里にこの話をもっていくと、意外にも彼女はあっさり
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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64.

休日。ベッドに寝転んで何気なくスマホをいじっていた白川麻衣は、驚いて飛び起きた。「何これ!?」そこには、『那須川グループ社長の那須川悠一が1年前に契約婚をしており、相手の女性との間に双子の子供までいた!?』とか盛大に書かれていた。急いで内容を確認すると、子供は悠一の子ではなかったが那須川家の血筋だった為、本来の父親が拒否していたこともあり、自分の子として育てる決心をし、実子としたかった為仕方なく、母親である女性と出産後の離婚を条件に契約婚をした…というのだ。ところがいざ出産をしてみると女性は離婚に応じず、しかも聞いていた話と違って本来の父親は子供を拒否しておらず、寧ろ引き取りたいと言っていた事から、この度子供を父親に引き渡す事になったというのだ。相手の女性と悠一の離婚は話し合いの末既に解決済みであり、今噂になっているような事実はない…という会見だった。悠一の隣に座る男性は彼によく似ており、誰もがその男が悠一の父、弓弦の婚外子では?と疑っていたがそれについての言及はなく、またそれを追求する勇気がある者もいなかった。子供たちを男性の戸籍に移すことはまた徐々に進めていくことになっているが、今回こうしてわざわざ会見を開いたのは、悠一が愛する女性ときちんと結婚する為だという。現在、その女性との間に誤解が生じたことで婚約破棄の危機に瀕しており、しかも間違った情報が噂となってしまったことから、女性に誠意を伝える為にもはっきりさせる必要があると考え、今に至ったということなのだった。「……」バカじゃない…?一連の記事を見た後の麻衣の感想が、それだった。子供を産んだ女性というのはおそらく春奈だろう。あの娘ならそれくらいの事はやりそうだ。おじさまの婚外子を見つけた根性には、敬服するけど。そう思って、嗤った。でも、悠一がこんなに愚か者だとは思わなかった。春奈をみくびりすぎじゃない?子供の頃からあの執着心に晒されて、麻痺しちゃってたのかしら?そう首を捻りながら、とりあえず雪乃にメッセージを送った。『携帯見て。那須川悠一が会見開いたって!』麻衣の中で悠一の評価は高くない。というか、ほぼ底辺だ。昔から、悠一が雪乃に執心しているのはわかっていた。でもいくら春奈が、悠一に好意を向ける女性に対して激しい敵意を持つからといっても、無視はないんじゃない!?と思っ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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ピロン麻衣からメッセージが届いた。それに従って携帯を見てみたがー。感想としては〝ふ~ん、そう…〟だけだった。何それ。あの子たちが悠一の子供じゃなかったから、何だっていうの?雪乃は前世での悠一を思い出していた。あの頃の悠一も同じ事情を抱えていたんだろう。でも彼は今みたいに春奈と離婚しなかったし、寧ろ好き勝手させてた…双子もずっと手元に置いて育ててた。主に雪乃が。ずっと冷たかったし、ずっと無視してた。10年。こんなに長い間無視できる?春奈のことがあったとしても、理解できない。したくない。自分がどれだけ辛い毎日を送っていたと思っているのか?彼が知らないはずはない。味方なんて、誰もいなかった。唯一気にかけてくれたのは執事の小高だけだったが、彼も所詮、悠一側の人間だ。いざとなったら、悠一の味方だった。春奈がどうだとか、自分には関係ない。自分は、悠一に失望してるのだから!!今世で、なぜ彼が春奈との縁を切ったのか知らない。彼にどんな心境の変化があったのか、そんなのは自分に関係ない!ふんっ!雪乃は腹立たしさを吐き出して、携帯をポイッと放り投げた。翌日、仕事終わりに「今日は夫の誕生日だから」とそそくさと帰宅して行った友香を見送って、雪乃は麻衣と食事に出かけた。麻衣も友香も休憩部屋に少しの服や荷物を置いていたので、一旦別れてそれぞれシャワーを浴び支度をして出たのだが、運の悪いことに入店したレストランで名家の奥さま方に会ってしまった。「あら、雪乃さん?」目につかないようにこっそりと個室へと続く階段を上がっていたのだが、獲物を見つけるのが上手い人というのはどこにでもいるものだ。早速目をつけられて呼び止められ、雪乃はため息を圧し殺して笑顔で振り返った。「並木さん、お久しぶりです」彼女は〝自分はなにも知りません〟というように挨拶をし、微笑んだ。実は昨夜マンションの部屋を悠一と真木が訪ねてきて、事の顛末を簡単にだが教えてくれた。春奈が並木廉とそんな事になっていたとは思わなかったが、彼が春奈贔屓なのは知っていたので、へぇ…と思っただけだった。その時悠一に「そういう訳だから邸に戻って来い」と言われたが、断った。何が〝そういう訳〟なのか。春奈との事はそっちの都合で、自分とは関係ない。勝手なことを言うな、と思った。悠一はなぜなのかわからないよ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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「大丈夫?」雪乃は奥さま連中、特に並木まどかから解放されて、個室に着くなり、はぁぁ…と大きなため息をついた。「疲れた……」麻衣はそんな雪乃を気の毒そうに見て、気分を変えるように明るく問いかけた。「さて、何食べる?あっさり?こってり?それとも、両方いっちゃう??」「……太るわよ?」ジト目で見られて、う…と言葉に詰まる。確かに…。雪乃はスタイルが良いが、自分は……。麻衣は自らの身体を見下ろして、渋い顔をした。そうしてメニューの、サラダが載ったページを静かに開いた。それを見て雪乃は吹き出し、麻衣の頭を撫でて言った。「可愛いことしないで。大丈夫よ。まだいける!」「まだって!?」雪乃に慰められてふくれていると、コンコンッと部屋の扉がノックされた。2人が顔を見合わせていると、遠慮がちに扉が開き、ひょこっと友香が顔を出した。「友香?どうしたの?」驚いて訊くと、彼女はニコッと笑って言った。「私もここにいたんです。あの、もし良かったら、合流しませんか?夫もそう言ってますし」その言葉に、前から彼女の夫と子供に会ってみたかった雪乃たちは、一も二もなく頷いたのだった。ウェイターに部屋を移動する事を伝え、雪乃は麻衣と連れ立って友香が家族といる個室に移って行った。「こんばんは」「お邪魔します」そう口々に言い、2人は友香の夫、原省吾(はらしょうご)と握手を交わした。麻衣は友香から「夫とは15歳離れている」と聞いていたので、普通におじさんを想像していた。でもー。いやいや、全然イケてる!ダンディなおじさまじゃないっ。と思った。原省吾は年齢を感じさせないスタイルの良さと、おしゃれなセンスをさり気なく晒し、若者特有の気負った雰囲気も、カッコつけな態度も必要ない、一目で一流とわかる雰囲気を持っていた。眉目はもちろん整っていて、若い頃はさぞかし…と思わせる魅力に溢れた男だった。「ママ、このお姉さんたちはだ〜れ?」おばさんと言わない。合格!麻衣は可愛らしい子供にも、大きな丸印を付けた。「友吾(ゆうご)、ご挨拶して。ママのお友達よ」友香が優しく言うと、原友吾もにっこり笑ってペコリと頭を下げた。「はらゆうごですっ。3さいです!」幼稚園で練習でもしているのか、「はい!」と手を上げてハキハキ言うのがなんとも可愛い。「友吾くん、私は白川麻衣よ。よろ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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昨夜、友香と彼女の夫や息子、それから麻衣と5人で食事をした雪乃は、楽しくてつい食べすぎてしまった事を反省し、習慣のストレッチを倍時間、それから今朝のジョギングも少し距離を伸ばして行った。最近足を捻って痛めて以来、サボり気味だったジョギングの距離を伸ばしたことで、マンションに戻ってきた時彼女は汗だくで、足元も少しふらついていた。はぁ…はぁ…エレベーターを待つ間息を整えていると、チンッと涼やかな音をさせて開いた扉から出て来た悠一が、ピタリと足を止めた。そこには額に汗を滲ませ、頬を紅潮させながら息を乱した雪乃がいて、それを目にした瞬間、彼の胸を高鳴らせたからだ。「おはよう」それでも口から出る声も言葉も平静で、まったく動揺すら窺えない。「はぁ…、おはよう。もう仕事?」「うん」その警戒心のない、普通に家族のような…夫婦のような会話に、悠一の目元が知らず柔らかくなる。「そう。いってらっしゃい」「うん」気不味いのか、それとも単に面倒くさいのか、「うん」としか返事をしない悠一に、雪乃は肩を竦め、そのまま彼の横を通り過ぎてエレベーターに乗って行ってしまった。「社長……」「なんだ?」迎えに来て一部始終を見ていた秘書の真木宗太は、社長のあまりの不甲斐なさに呆れていた。その顔…喜んでるって分かりづらいです…。奥さまも呆れてたし…。表情筋を鍛えるマッサージでも調べて、お勧めするか…?「?」真木が言葉を続けない事に僅かに眉を寄せたがそれ以上なにも言わず、悠一はスタスタと車へと向かった。一方雪乃は。しまった、普通に声かけちゃった…。エレベーターの扉が閉まった途端、大きなため息をついた。気を抜くとすぐ、前世でしてたみたいに声かけちゃう…。雪乃は悠一と過ごした10年間、どんなに無視されようと、挨拶と行き帰りの声かけは欠かさなかった。なぜならたまに、本当になんの気まぐれか、彼が「ん…」と返事をしてくれたから。それだけで雪乃は1日幸せだった。彼の「ん…」という声を耳の中に蘇らせて、微笑みを浮かべてしまうほどだった。今考えると、なんて愚かだったんだろう。こんなにも卑屈に、彼からの関心を求めていたなんて!悠一の一言とも言えない言葉に喜んで、幸せを感じるなんて、なんてバカバカしい!雪乃は、せっかくの朝の清々しい気分が、愚かしい前世の習慣のせいで台無し
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-23
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68.

「春奈!もういい加減にしろ!」バシッという音が玄関ホールに響き渡った。「なによ!殴ったわね!?」春奈は一瞬にして赤く腫れ上がった頬を手で押さえ、キッと父親の藤堂真を睨みつけた。A国ー。那須川悠一が唯一残してくれた別荘で過ごすうち、その露骨に監視される生活や、今までと違い買い物も満足にできず、欲求が満たされない毎日に春奈のイライラが頂点に達し、とうとう地団駄を踏みながら喚き散らした。「もう嫌!!こんな生活耐えられない!お父さんたちは平気なの!?」「春奈……」母親の小夜子は眉根を寄せ、真はその唇を捻じ曲げた。こんな生活にしたのは誰なんだ。張本人が何を言ってるんだ!真は胃の底がグツグツと煮えたぎり、最近特に痛み出して最早薬無しでは生活できないほどだった。「春奈…元々はここも処分されるはずだったのよ?それを残してもらえたんだからー」「バカ言ってんじゃないわよ!私がサインしたからここを残してくれたのよ!?今があるのは!私の!おかげなの!」「……」勘違いも甚だしいが、これ以上何を言っても無駄だろうと、真はため息をついて頭をゆっくりと振った。小夜子はただその目に涙を浮かべて、哀れそうに娘を見つめた。その2人の態度に、春奈の怒りが爆発した。「もういい!!私、出て行くから!」「春奈!!」急いで娘の腕を掴んだ妻が思い切り振り払われてよろけたのを見て、真は一気に青筋を立てた。「勝手にしろ!その代わり、何があっても責任は取らんからな!!」去っていく後ろ姿に怒鳴りつけたが、帰ってきたのは「フンッ!」という嘲りだけだった。「あなた……」打ちひしがれたように縋り付く妻に、真は言った。「もう諦めなさい…。あの娘は、もうどうしようもない。育て方を間違えたとしか言えん」「……」涙を流して立ち去ってしまった娘を思い、小夜子はがっくりと肩を落とした。一方真は、この事態を悠一に知らせなければならない事に、また胃が痛む思いだった。けれど、黙っている訳にはいかない。黙っていても監視者が報告するだろう。ここで口を閉ざせば、次はどんな処罰が待っているかわからない。そんなのは御免だ!真は雪乃を頼りにしていた。この娘が悠一をなんとか宥めてくれれば、自分たちの再起もあり得るのだ。今はそれを待って英気を養う時だ!真はぐっと唇を噛み締め、腕の中の妻を休ませ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-23
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ケンは物陰に隠れて、藤堂雪乃を見ていた。春奈が見せてくれた写真の彼女よりも何倍も美しく、好ましい感じだった。写真の彼女は確かに美しく、たおやかで、それでいてその瞳に聡明さが窺えた。一方、今目にしている彼女はとても溌溂としていて、瞳は太陽の光を受けてきらきらと輝いている…という感じで、全体的に強く、靭やかに見えた。ケンは実際に彼女を初めて目にした時、混乱した。本当に彼女が人の夫を奪ったのか?春奈が言うには、自分たち姉妹は子供の頃から元夫、悠一のことが好きで、姉の雪乃はいつも彼女と悠一が仲良くするのを邪魔していたらしい。それを両親にいつも注意されて不貞腐れていたのだが、ある時悠一の祖母を味方につけて婚約を交わしてしまったと言うのだ。話を聞いた時、とんでもない女だと思った。さぞかし意地悪で、傲慢な女に違いない!そう思っていた。でも、実際の彼女は……。ケンは躊躇していた。春奈から、「夫のことはもう諦めたけれど、子供の頃からの意地悪や今回のことに対する仕返しがしたい」と言われた時は〝よし、協力してやろう!〟と思った。それが、彼女をちょっとだけ誘拐して怖がらせ、悠一からお金をせしめてやろう…という内容でも、雪乃が実家を破産させて、両親まで困窮させていると聞いたから、手伝ってもいいと思ったのだ。春奈は言った。「悠一はすっごくお金持ちだから、欲張りさえしなければお金を払って解決する方法をとるわ」と。「お金持ちって…どれくらい?」そう訊いたのは単純に興味があったのと、身代金の金額の、境界線の見当をつけたかったからだ。「う〜んとね。とにかくすごいお金持ちよ。想像がつかないくらい。だからね、このくらいなら……」と、こっそりと耳元で囁かれた金額に驚いて、思わず生唾を飲み込んでしまった。「そ、そんなに…?」「うん。いい話でしょう?」にっこり笑ってそう言う春奈に、ケンは焦った。「もしかして、君もすごいお金持ちなのかい?」彼はそんな環境に身を置いたことがなく、関わり合いになることを恐れた。だが、彼女は平然と答えた。「以前はね。でも、言ったじゃない。お姉ちゃんに破産させられたって。今は見る影もないわ」「……」「無理ならいいのよ?諦めるから…」弱々しげにそう言われて、ケンは頭の中が酷く混乱した。「いや…」「大丈夫よ。他の人をあたって
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-23
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70.

数日前、悠一はある1つの報告を受けていた。A国に遣った、藤堂家…特に春奈の動向を監視する者たちからのものだった。その者たちが報せるには、春奈はA国で数日過ごしただけで癇癪を起こし、両親と仲違いをして別荘を出て行ってしまい、とある若い男と接触したというのだ。その日はその男の部屋に泊まり、どうやら関係を持ったようなのだが、2〜3日もすると男はチケットを取り、出国したということだった。男は〝ケン〟と呼ばれる、春奈が常連の店のアルバイトらしく、普段は真面目に働く至って普通の青年らしかった。送られてきた男の写真を見た時に抱いた感想は、「あの女が好きそうな顔だな」というだけのもので、特に危険な感じは受けなかった。だが次の日、雪乃に付けていたボディーガードから受けた報告で、男〝ケン〟が彼女の前に現れたことを知り、これが春奈の仕業だと理解した。「いかがいたしましょうか」同じく報告書に目を通していた真木は、悠一の目に怒りの火が宿るのを見てため息をついた。まったく、あの女も懲りないな…。今度こそ、見逃してはもらえないだろうな…。真木は自業自得だと思いながらも、悠一がどこまでやるつもりなのか心配していた。「社長ー」「まだだ。こいつが何をするつもりなのか、はっきりするまでは手を出すな」確かに、ケンは他国の人間だったこともあり、手を出すにしても迂闊に証拠などは残せない。国際問題に発展するようなことは、避けるべきだ。まずは彼の身内や友人などを調べて、どの程度の付き合いなのか、仮に彼が行方不明になったとして、どのくらい捜そうとするのか…。つまり、どの程度〝騒ぐのか〟を調べる必要があった。「かしこまりました」真木は頭を下げて悠一のオフィスを後にし、早速A国で懇意にしている情報屋へ連絡を取った。そして、監視者へは春奈への監視の強化を指示した。何かあっても絶対に逃げられることのないよう、一時も目を離さず、24時間態勢で監視に臨むよう伝えた。以前のように彼女に同情したり、籠絡されたりするような者が出ないよう、今回は厳選した人事だったが、お互いがお互いを見張れるように2人一組で行動する事を、改めて指示した。次の失態は、真木自身の失脚にも繋がりかねない。悠一は、信頼を裏切る者に容赦がない。これまで真木はそれに応えてきたからこそ、今の地位を築けているのだ。もち
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-23
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