「那須川悠一に部屋を売った!?」翌日。3階の空き部屋に清掃会社を呼んで綺麗にしているのを白川麻衣に見つかり、何をしているのか問われた。「なんで?ここって、あいつがあなたに結納品としてくれたんでしょう??」「うん」雪乃は事務所のデスクにうつ伏せて頷いた。「だったら、なんでまた買うわけ?」「会社の近くに部屋があると便利だからって…」「そんなの、信じたの?」「……」疑わしげに見下ろしながら訊かれるのに、雪乃は未だ伏せたまま「ん゙〜〜〜」と唸るだけで誤魔化していた。彼女に理由なんか言えない。悠一に〝口説かれてる〟なんて、とうに結婚してると思い込んでる彼女に言えるわけがない。大体、自分にだって訳がわからないのだ。会社の近くに〜云々も、実は社内に彼専用の宿泊部屋がある事を雪乃は知っている。それなのに、なんで??一番訊きたいのは自分なのだ。前世、邸に帰らない日はそこに泊まり込んでいた事を憶えていた。何がきっかけなのか、彼女に腹を立てると何日も邸を空けていて、彼女を徹底的に無視した。最初の頃は彼が何処に行っているのかわからなくて、オロオロしてあちこち探し回った。そうして、彼が彼だけの部屋でゆっくり寛いでいる事を知ったのだ。その時の安心感と寂寥感は、雪乃の内の深い所に沈み込んで重くのしかかっていた。自分と同じ邸の中にいることすら嫌だなんて、どうしてそんなに嫌われちゃったの…?あの頃の雪乃には悠一しかいなかったから、彼に見放されたらどうすれば良いのかわからなくて、不安で眠れなくて、夜になると涙を零していた。「雪乃ってば!」耳元で叫ばれて、思わず首を竦めた。「そんな大きな声出さなくてもー」「何言ってんのっ。あいつがここに来たらきっとあなたに張り付いてるわよ!?邪魔じゃないっ」そんな事ないと思うけど…。そう思いながら、雪乃は昨夜の悠一とのキスを思い出して、顔が赤くなった。「なに?なんで赤くなってるの?」完全に問い詰めモードに入っている麻衣に、雪乃は必死にうつ伏せて顔を隠した。「大丈夫よ。そんないつもいるわけじゃないと思うわ」「なんでそんな事がわかるのよ」「……本人が言ってたから?」「……」「ほんとだってば!」彼女が何かを誤魔化そうとしているのはわかっている。でもそれが何なのか、わからない。麻衣は大きくため息をつい
Last Updated : 2025-07-07 Read more