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73 Chapters

71.

「あの…大丈夫ですか?」朝のジョギングの帰り道、雪乃は道端で蹲っている青年に声をかけた。そこは木陰になっていて、彼の黒一色の服装ではなかなか目につきにくいところだったが、偶然にも雪乃は吹いた風に被っていたキャップを飛ばされ、追いかけた先で気がついたのだった。「あの…?」青年は額に脂汗をかき、とても苦しそうにお腹を押さえていた。「病院に行きますか?」「……っ」青年の前に屈んでそう問いかけるが、痛みの為か返事をもらえず、雪乃は困った。声をかけた以上、このまま知らん顔はできない。でも見たところ外国人っぽいし…。病院に連れて行っても大丈夫かな?医療費とか沢山かかったら、かえって迷惑かけちゃうかも……。雪乃は悩んだ末、もう目の前がマンションだった為、とりあえず中に連れて行って休ませることにした。「うち、このマンションなんで。中で休んでください。腹痛の薬もあると思いますし…」「あ、ありがとう…」それだけ言って、青年はぐったりと気を失ってしまった。え?……どうしよう…。私一人じゃあ運べないし…。そう思って、ポケットからスマホを取り出した。トゥルルルル…トゥルルルル…なかなか相手が出ない。今日は来てないの?もう!普段、用もないのに来てるくせに!雪乃はイライラと唇を引き結んだ。その時ー『雪乃』耳から身体を震わせる深い声音が応答した。「き、今日はマンションに来てる?」動揺を隠すように急いで問うと、悠一はクスッと微笑って言った。『行ってない。なんだ?寂しくなったのか?』「違うわよ!」何なの、この男!?自惚れてんじゃないわよ!雪乃は、少し赤くなった顔を歪めて言った。「いないならいいわ!じゃあね!」『待て』「?」強い口調で制されて、タップしかけた指を思わず止めた。『何かあったのか?』「?いいえ?」ただ人手が欲しかっただけだ。雪乃はそれだけ答えると、通話を切った。目の前で人が気を失っているのだ。長話をしている暇はない。仕方ない…。雪乃は気合を入れて、倒れている青年の頬を叩いた。「すみませんっ。起きてください!」パシンッと結構強めに叩いても、彼は目を覚まさなかった。う〜ん…駄目か〜。どうしようかと考えていると、ふいに後ろから声をかけられた。「奥さま」振り返ると、一人の屈強な男が立っていた。「私で良ければ、
last updateLast Updated : 2025-07-23
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72.

雪乃はとりあえず、青年を事務所の応接スペースにあるソファへと運んでもらった。そこへ寝かせてもらうよう伝えると、なぜか男は雑に青年を扱い、雪乃を困惑させた。「ご苦労さま。もう帰ってもいいわよ」「いえ、こちらに控えております」男はきっぱりと言った。雪乃はそう聞いて、まぁ、いいか…と頷き、それならと男にコーヒーを出し、支度をする為に自室に戻ることを伝えた。「また後で来ますね。え…と。名前を訊いてもいいかしら?」「……田中です」田中さん…。たぶん偽名ね。いいけど。「じゃあ、田中さん。朝食は済まされました?」「お気遣いなく。ありがとうございます」「……」取りつくしまがない。もう、いいわ。雪乃はため息を一つついて、事務所を後にした。田中はコーヒーを一口飲んで、フッと笑った。ボスの奥さまは、なんだか可愛らしい人だな…。自分のような者にコーヒーを出して、名前まで訊いてくれる。おまけに朝食の心配までしてくれるなんて…。そんな人、見たことない。彼はチラッと向かいのソファに寝かせた青年を見て、苦笑した。自分が狙ってた相手に助けられたなんて…。目を覚ましたらどう思うだろうな。しかし…〝保険証〟か…。そのおかしさに、ついククッと肩を震わせて笑ってしまった。あの女とは大違いだ。田中は、いつかの那須川グループ本社ビルの地下に、春奈を閉じ込めた時もそこにいた。あの女は泣くか喚くばかりで、本当に鬱陶しかった。しかも自分たちのような者を徹底的に見下していて、奥さまのように、普通に声をかけることすらしなかった。ボスの見る目は正しい。そう思って、田中は満足げにカップを置いた。一方、雪乃は。自室に戻ると、麻衣と友香に『諸事情により、本日事務所閉鎖』とメッセージを送った。麻衣からは訳を尋ねる返信があったが、面倒だったのでまた明日にでも話すことを伝え、浴室に入った。そしてシャワーを浴びて部屋に戻ると、今度は悠一からのメッセージが届いていた。『気を失っていても、2人きりにはならないように』とあった。「……」なにこれ。雪乃は濡れた髪を拭きながら、返信した。『親切なボディーガードさんがいるから、大丈夫よ』そう送って、手早く髪を乾かし、着替えて簡単にサンドイッチを作り、下へと降りた。雪乃の返信を受け取った悠一は、口をへの字に曲げて、今彼女に付
last updateLast Updated : 2025-07-23
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73.

春奈は実は、ケンは失敗すると思っていた。あんなに真面目な男に誘拐なんて、そんな大胆なことできるわけがない。いざとなったらビビって失敗するに決まってる。そんなリスクは負えない。だから、彼は捨て駒にした。春奈はケンがアルバイトをするBarで、昔の知り合いに会った。それは父親が不動産で成り上がった小金持ちの河本賢也(こうもとけんや)で、彼は一言で言うならクズだった。顔はまぁまぁ整っていたが、その性格の悪さが滲み出て、あまり好感の持てる人物ではなかった。賢也はお金に物を言わせて女を取っ替え引っ替えし、〝遊んで飽きたら捨てる〟を繰り返していた。令嬢たちの間でも悪評が立っていて、彼の父親は出自にコンプレックスでもあるのか、しきりに彼と令嬢を見合わせようとしていたが、全て惨敗していた。彼の方でも大人しいだけの令嬢には興味がないのか、そんな事には全く頓着せず、日々遊び人のように過ごしていた。だがある時、「彼の子を身籠った」と言ってきた女が2人同時に現れ、さすがの彼の父親も怒りに震え、彼をしばらく家から追い出したようだった。それを彼は、まるで長期休暇でも貰ったかのようにA国に来てまた遊び倒し、とうとう父親から一切の送金を止められたのだった。そんな頃、春奈は彼と再会し、彼の現状を聞いて、ある計画を思いついたのだった。「なぁ、あいつ、そろそろ仕掛けたかな?」「さぁ…」春奈は気怠げにそう言って、いつものカクテルに口をつけた。ケンが出国してから、思った通り監視が厳しくなった。それがわかっていたから、春奈は賢也に「あまり自分に近づくな」と言っていた。理由もきちんと説明してやったのに、バカな賢也は気にせず話しかけてくる。だから最近、彼女はホテルに閉じ籠もった生活をしていた。賢也にも自分からの連絡を待つように言い、なるべく接触しないようにしていた。全てはこの計画を成功させる為なのだ!わざと両親と言い争いをしてケンに取り入り、彼を出国させて雪乃をつけ狙わせる。悠一が彼に注意を向けて、計画を失敗した彼に処罰を与えている隙に、今度こそ本当に狙うのだ。その為には、お金の為ならなんでもするような人間が必要だ。しかも、頭が悪ければ尚良い。それが、河本賢也の役割だった。彼は今、父親のせいでお金に困っている。プラス、彼はスリルのある遊びに飢えている。こんなに
last updateLast Updated : 2025-07-23
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