傷口がまた開いたので、もう一度包帯を巻き直す。手当てを終え、遥香は処置室を後にする。部屋を出た途端、誰かに左腕を強く掴まれ、人気のない階段室へと引き込まれた。声を上げようとした瞬間、鼻先をかすめたのは、なじみのあるタバコの匂い――修矢だった。遥香の体は無意識に強張った。修矢は遥香の右手を掴み、強引だがどこか優しさの滲む口調で言った。「こんなに何度も痛めつけて……自分の手がいらないのか?」「あなたに関係ない」遥香は歯を食いしばった。「それより、柚香を心配してあげたら?だってあの子の手、私がつぶしたんでしょ?」最後の言葉をわざと強調した。修矢はさらに一歩近づき、遥香を壁際に追い詰めた。「遥香、とにかく自分の体を粗末にしないでくれ」「分かってるわ。あなたには関係ない。しかも柚香があの状態じゃ、あれ以上何もしようがないでしょ」希望を見せたかと思えば、冷水を浴びせかける。真実を知っているのに、川崎家の両親の前で、自分の潔白を証明してくれないの?そう考えると、遥香の胸はさらに重苦しくなった。柚香の感情は守られて、自分の感情は踏みにじられてもいいっていうの?「あぁ、そうね。感謝するわ、尾田社長」どんなに痛くても、修矢の前ではもう二度と自分を卑下したくなかった。たとえ心が張り裂けそうでも、せめて見た目だけは、平然を装いたかった。「いい子だから、言うことを聞いて」修矢はいつものように彼女の鼻先を軽くつつき、柔らかく、絡みつくような声で言った。遥香は自分の太ももをぎゅっとつねった。痛みで心に言い聞かせる――もう彼に溺れてはいけない、と。この男の誰にでも優しい性格が、遥香に「彼は自分を愛している」という幻想を抱かせ続けた。でも、それはただの妄想に過ぎなかった。遥香は修矢を押しのけた。「用がなければ、私はこれで」「用がある」修矢はポケットから一枚の招待状を取り出した。「来週、祖母の誕生日だ。君にも来てほしいって」封筒に書かれた遥香の名前――修矢の筆跡だ。かつて、遥香は修矢に憧れて、何度も彼の筆跡を真似し、完璧に模倣できるまでになった。でも、そんな日々も今は過去のもの。おばあさまの誕生日会のために、修矢が心を込めてこの招待状を書いたのだ。尾田家にいた頃、尾田の祖母は遥香にとても良くしてくれ
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