修矢が振り向くと、その目には一片の温情もなかった。「柚香、そろそろほどほどにした方がいい」そう言い残して、彼はその場を後にした。「遥香」修矢は出口のところで遥香と保に追いついた。彼は速足で二人の前に立ち、彼女をまっすぐに見つめて言った。「来い」「川崎さん、彼について行くか?」保がふいに笑い、皮肉たっぷりに言った。「この黙り屋、さっきはそんなこと一言も言ってなかったけどな」「鴨下社長」修矢の視線が鋭く彼を射抜く。「黙ってれば誰もお前のこと黙り屋とは思わない」保はあからさまな嘲りを浮かべた。「尾田社長、せめて自分の女がいじめられてるときくらい、何とかしてやれよ」そう言って、今度は遥香の方を見た。「遥香、どっちに行くんだ?」修矢の顔色が暗くなり、強引に彼女の手を取ろうとしたが、遥香はその手を力強く振り払った。「行こう」その言葉は保に向けられたものだった。保は修矢に挑むように眉を上げ、その目にはあふれんばかりの勝ち誇った色が浮かんでいた。「尾田社長、良い犬ってのは道を塞いだりしないんだぜ」そう言いながら、わざと遥香の前に立ち、挑発的な目で修矢を見つめた。修矢は唇を固く引き結び、遥香と保が並んで歩き去る姿を見送った。胸の奥に、はっきりとした敗北感が押し寄せてきた。本当に自分は間違っていたのか?その頃、保は遥香のために車のドアを開け、丁寧に彼女を乗せた。車に乗ると、彼はにっこりと笑いかけた。「遥香、今度はどうやって俺にお礼してくれるんだ?」遥香は淡々と答えた。「保さんが勝手にしたことでしょ。お礼なんて必要ないの」「助けてやったのに、その言い方はないだろ?」保は首を傾げ、からかうように彼女を見つめた。「恩知らずだな」遥香はじろりと彼を睨んだ。「用がないなら降りるよ」保が何かを企んでいるのはわかっていた。もし彼の言葉がたまたま自分の胸に刺さらなかったら、こんなふうに一緒に車に乗ることもなかっただろう。修矢については……遥香はそっと唇を噛み、無理やりその姿を頭の中から追い出した。案の定、保はすかさず本題を切り出す。「彫刻の展示室をやってもらえないか?」「だめ」遥香は考える間もなくきっぱりと断った。保が彫刻の展示室を作ろうとしているのは、祖父を喜ばせるためだとわかっていた
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