修矢は遥香をお姫様抱っこして会場から連れ出した。その背後に、鋭く冷たい視線が二人を追いかける。柚香は奥歯を噛み締め、怒りを必死に抑え込んでいた。――修矢は自分が連れてきたのに、なんで今置き去りにされてるわけ?「柚香?大丈夫?」母は娘の異変に気付き、気遣うように声をかけた。振り返った瞬間、柚香の瞳は萎縮した悲しみに包まれる。「……何でもない」さらにためらいながら続けた。「ママ、私は大丈夫よ」母は娘が見ていた方向に目をやる。そこには修矢に抱えられて去っていく遥香の姿があった。「まったく、遥香ったらますます節度がなくなってきたわね。離婚してるというのに、まだ修矢にしがみつくなんて。柚香、傷つくことないわ。何年経っても修矢が好きなのはあなたなの。だからこそ、あなたが帰国したと同時に、遥香と離婚したのよ」父も小声で付け加えた。「折を見て、遥香には釘を刺しておく。今日のところは、丸井先生の前で変な騒ぎを起こさない方がいい。それにしても、さっきの柚香の絵、本当に素晴らしかったよ。3年間、海外で努力を重ねてきた甲斐があったな」柚香は控えめに微笑む。「パパ、ありがと。これくらい当然よ。私を留学させてくれて、パパとママには本当に感謝してる」親にとっては、まさに理想の娘だ。父と母は満足げに目を細めた。それに比べれば、遥香はまるで出来損ないの娘であった。尾田家の別宅にて。離婚届にサインして以来、遥香がこの屋敷に戻るのは初めてだった。修矢は車のドアを開け、遥香を丁寧に支えながら遥香を車から降ろした。どの動作も極めて優しく、手や腕の傷に決して触れないようにしていた。屋敷に入ると、遥香は目を伏せつつ、室内を見渡した。離婚前と何一つ変わっていない。リビングのテーブルに置かれた陶器のティーセットは、遥香のお気に入りだ。窓辺のチューリップは、ちょうど花を咲かせていた。冷蔵庫の扉には犬のマグネットコレクション――あの頃、修矢は遥香の鼻を軽くつつき「子供っぽい趣味だな」と笑っていた。この家の至るところに、修矢を愛していた記憶が染みついていた。ただ、今ではそれは遥香を傷つける刃と化していた。「奥様がお戻りになりました!」使用人の柳井(やない)が喜び勇んで駆け寄る。「奥様は戻ってきてくださると信じてました……」修矢は柳井の話を
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