卓也が真っ先に駆け込んだ。茜はとっくに日高の存在に気付いており、近寄ってきて冷たく言い放った。「帰りなさい。姉はあなたなんかに会いたくないんだから」日高には反論の余地などなかった。数分後、卓也が彼を中へ招き入れた。希穂の言葉を代弁した。「子供に一目会う権利だけは認める。見終わったらすぐ帰ってくれ。二度と近づかないでって」日高は涙がこぼれそうになりながら、揺りかごの中で元気に手足を動かす子供を食い入るように見つめた。去り際、彼はふと弱々しい姿の希穂も目にした。卓也と茜に優しく囲まれ、幸せそうに微笑む彼女。卓也が贈った花束は病室のテーブルからあふれんばかりだった。今の彼女は、紛れもなく幸せそうだった。日高は長い間その姿を見つめ、この笑顔を永遠に心に刻み込もうとした。かつては目の前で簡単に見られた、あの貴重な笑顔を、彼は大切にできなかった。今や独りぼっちの身――全ては自業自得だった。希穂が入院している間、卓也が一番奔走していた。彼女はむしろふっくらとしたのに、卓也は目の下に深いクマができ、何キロも痩せ細ってしまった。それでも卓也は一言も愚痴をこぼさず、むしろ生き生きとしているように見えた。希穂は、日高が多額のお金を残していったことを知っていた。きっと子供のためだろう。彼女は迷わずそれを受け取り、このお金は全て子供の将来のために使おうと決めた。幸い日高は約束を守り、二度と彼女たちの前に姿を見せることはなかった。子供が一歳になった時、希穂と卓也は結婚式を挙げた。二人で何度も話し合い、伝統の神前式に決めた。伝統的な白無垢が、二人の幸せそうな表情をさらに引き立てていた。卓也はこの日のために四ヶ月も前から準備を重ね、細部まで完璧に整えていた。彼女は何も心配する必要なく、ただ子供と遊んだり茜と買い物に行ったりするだけでよかった。三々九度の時、日高は人混みに紛れて、遠くからそっと希穂の姿を一目見た。彼女の幸せな様子を確認すると、静かにその場を立ち去った。その後、彼の体調は急激に悪化し、若くしてこの世を去った。卓也は希穂と娘を連れ、各地を旅して回った。希穂は大きな手と小さな手をしっかりと握りしめ、幸せな未来へと続く道を歩んでいった。
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