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駆け抜けていった愛

駆け抜けていった愛

By:  栗栗Completed
Language: Japanese
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小野希穂(おの きほ)はついに悟った――速水日高(はやみ ひだか)が本当に愛していたのは自分ではなかったのだ。 何度も繰り返し、日高は隣に住む女のために、自分とお腹の子供を捨てたのだった。 深く傷つき、そして日高にすっかり失望した希穂は、妹の元で暮らすようになり、やがて本当の愛情というものを見つけ出した。 もはや日高の愛など、彼女には必要なかった。 彼の存在さえ、今や遠い過去の記憶にすぎなかった。

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Chapter 1

第1話

ベルが鳴り、小野希穂(おの きほ)は妹からの電話に出た。

「姉さん、前から海が見たいって言ってたよね?あんなに姉さんを大切にしない夫なら、いっそうちに来ない?これから一緒に子供育てようよ」

希穂は鼻をすすり、うなずいた。

「……一週間後に行く。その間に荷物まとめるから」

電話を切ると、家路についた。しかし、さっき目にした光景が頭から離れなかった。

速水日高(はやみ ひだか)は雪村夢夢(ゆきむら むむ)を気遣うように座らせると、上着を脱いで彼女の下に敷いた。

あちこち走り回って果物を洗い、得意げな笑顔で夢夢に食べさせていた。

「妊娠中は日光浴が大事だ。赤ちゃんにもいい。医者も言ってた、適度な果物は問題ないって。

食事で分からないことがあったら俺に聞けよ。相変わらずのうっかりさんじゃ困るからな」

男は溺れるように少女の鼻を軽くつまむと、彼女は照れくさそうに手を引っ張って甘えた。

「日高さん、本当に優しい……私にも赤ちゃんにも。生まれてくる子、きっと恩返しするわ。

私がこんな状態になって、親戚みんな避けてるのに、日高さんだけが助けてくれる……感謝のしようがなくて」

涙ぐむ夢夢を、日高は胸に抱き締め、優しく囁いた。

「夢夢、泣くなよ。こんなに泣いたら、せっかくの綺麗な顔が台無しになっちゃうよ、赤ちゃんまでしかめっ面になっちゃうぞ」

その冗談に夢夢は笑い、拳を振り上げるふりをしたが、逆に手を握られて温められた。

自分の夫は、他の妊婦を完璧に世話していたとは。

「俺はせっかちで雑な性格でさ」と言いながら、妻には起きて水を一杯くれるのも面倒くさがっていたくせに、夢夢には「日光浴が大事だ」と優しく説いていた。

「人を慰めるの苦手だし、女の子を喜ばせるのもわかんない」と言いながら、夢夢を泣かせないように、冗談を連発していた。

いつも夢夢にサプライズを仕掛け、家に帰ると疲れた顔で、不機嫌さを妻にぶつけた。

希穂は悟った――四年間共に寝た相手は、愛し方がわからないのではなく、ただ自分を愛さないだけなのだ。

スマホを取り出し、日高に電話をかけた。何度も切られるが、五回目にしてようやくイライラした声が返ってきた。

「会社で残業中だ。用事なら帰ってからにしろ」

一言も返す間もなく切られた。庭から夢夢のぶりっこの声が聞こえた。

「日高さん、帰ったら?小野さん、大事な用事かも……私、平気だから」

日高の声は冷たかった。

「構う必要ない。妊娠してからやけに疑り深くなってるだけだ。夢夢だって妊婦なのに、あの女よりずっと身体弱いくせに、よくわきまえてる。あの女はただのわがままなんだ」

二人は笑い合い、赤ちゃんの名前を話し始めた。

それを聞き、希穂は絶望的に壁にもたれ、掌に爪を立てても止まらない涙が頬を伝った。

涙が枯れ果てた彼女は、わずかに膨らんだお腹に手を当て、胸が締め付けられるのを感じた。

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