Alle Kapitel von 神殿育ちの嫌われΩは、隣国の伯爵αに蕩ける愛を刻まれる: Kapitel 211 – Kapitel 220

256 Kapitel

第210話 ワイール伯爵の不正

     つらい日々だったけど、こうして罪が明らかになるのは、正しいことだと胸を張れる。 (ルシアン様にさえ、知られなければ……僕は大丈夫)  勧められるまま、エマは入口に最も近い椅子に腰を下ろした。  審問の場には、張りつめた緊張感が満ちている。  気を紛らわすように、エマは改めて室内を見渡した。  王太子の斜め前には書記机が置かれ、そこにユリックが座っている。その隣には三十代ほどの書記官が座り、黙々と記録を取っていた。ユリックの背後には、若い補佐官が一人立っている。式典の準備で顔を合わせたことのある人物だった。  エマの右隣にはルシアン、その隣にナタリナが腰掛けている。  その先には空間があり、向こう側に被審問者の席が並んでいた。  レオナールとドレイク。そして、エマたちが着席してから、王太子に召喚された、ノワジエール侯爵とワイール伯爵。彼らの背後には屈強そうな騎士が三人いて、目を光らせて立っていた。  椅子はすべて王太子を正面にする形で配置されており、エマは彼らの顔を見ることなく、座っていられる。 (良かった。王子の顔を見なくてすむ)  エマはルシアンの影に身を寄せるようにして、王太子を見上げた。  いよいよ、審問が行われる。 「証人が揃いましたので、ワイール伯爵に関する審議に入ります」  書記机に座るユリックが文書を整え、王太子を仰いだ。  王太子が頷くと、ユリックは淡々とした口調で読み上げる。 「ワイール伯爵。貴殿は自領に有するサファイア鉱山において、本来B級に分類される原石を加工し、A級品として流通させた疑いが持たれております」  ワイール伯爵の肩が、ビクッと跳ねた。 「加工による色調および透明度の補正。ならびに、それを恒常的に行っていた事実。以上をもって、貴殿を等級偽装の実行責任者と認定します」 「異議あり!」  ワイール伯爵が声を張り上げる。小太りの伯爵は額の汗をハンカチで拭い、必死に弁明した。 「それは偽装などではありませんっ! 品質
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第211話 ノワジエールの不正

    「押収された顧客名簿より、密売の事実は確認済みです」  ワイール伯爵は滝のように流れる汗を、必死でハンカチで拭っている。口をパクパクさせているが、言うべき言葉が見つからないようだ。  ユリックは、さらに問いを重ねた。 「ワイール伯爵。これら一連の等級偽装について、ノワジエール侯爵からの指示があったと認めますか」 「なッ……知らんぞ!」  横から、ノワジエール侯爵が声を荒らげた。 「わしはそんなことは……!」 「静粛にッ」  即座に騎士が一歩前へ出る。椅子に腰掛けたノワジエール侯爵を、鋭い目で見下ろす。  侯爵はグッと息を呑み、苛立った顔で黙った。  顔面蒼白だったワイール伯爵は、その様子を見て、わずかに目を輝かせた。 「……そ、そうですっ! 私は、ノワジエール侯爵から、等級偽装するように指示を受けておりました!」  ワイール伯爵の口から、堰を切ったように言葉が溢れ出る。 「我がワイール領は、王族直轄領ですっ! ただの管理者に過ぎない私が、殿下の祖父である侯爵に、逆らえるはずがありませんっ!」  その弁明を受けて、ユリックは静かに頷いた。 「承知しました。ノワジエール侯爵に関しては、脅迫および強要の可能性を含め、後ほど改めて審議いたします」  そう告げると、文書を閉じる。  ノワジエール侯爵は、隣に座るワイール伯爵を恐ろしい顔で睨みつけた。だが、近衛騎士がいるせいで、ひと言も話せないようだ。  ユリックはワイール伯爵を見つめ、最後の問いを投げかけた。 「ワイール伯爵。謹慎中のレオナール王子が現れた件について、報告義務を怠った理由を述べなさい。故意に隠匿したのであれば……」 「存じ上げませんでしたッ! てっきり、謹慎が解けたとものと! あの騒ぎの後、すぐにワイール領に戻った私が、どうして真偽を確かめられるでしょう? 王子であらせられるレオナール殿下が、『王太子殿下の小言を聞きたくないから黙っていろ』と命じれば、私は従うしかなかったのですっ!」 「な
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第212話 共犯

     だが、サファイア原石の等級偽装は、ノワジエール侯爵の直筆による指示書があったことで、主犯と確定する。ワイール伯爵への脅迫罪も追加された。  横領については、レオナールへ献上された中から、偽装サファイアとすり替えていたことが明らかになる。  やはり指示を出していたのは侯爵で、実行犯はドレイクだった。 「なっ、ドレイク!? 貴様が、オレの宝石を横流ししていただと!?」  今まで大人しく座っていたレオナールが、驚愕の声を上げる。  問い詰めるレオナールに対し、ドレイクは返事をせず振り返ることもなかった。 (どういうこと? あの二人は、主従なのに)  エマの知る限り、ドレイクはいつもレオナールに付き従っていた。 「従者が裏切るなんて」  思わずもれたエマの呟きを拾って、二つ隣の席に座っていたナタリナが、小声で答えた。 「エマ様。あの二人は、主従ではありませんよ。先の審議でも、お互いに罪をなすりつけてましたから」 「えっ、そうなの?」 「はい。ただの共犯です。ドレイクのような男に、従者を名乗る資格はありませんっ」  ナタリナは怒りの表情で言い捨てる。  ルシアンも眉をひそめながら、頷いた。 「私も同感です。あの二人はすでに罪が確定している。この審議でも、さらに罪状が増えるでしょう。貴方が、罪人を気を留める必要はありません」  ルシアンの指が、さらりと髪を撫でた。  向けられる優しい眼差しに、エマは頬を染める。 「はい、ルシアン様」  エマは頷き、また前を向いて審問を見届けた。  ノワジエール侯爵の残る罪のうち、帝国献上品へ偽装サファイアを混入させた件について、侯爵は一切認めなかった。 「帝国への献上品を偽物とすり替えるなど! 自らの首を絞めるような真似を、するはずがない! その件については、現場の不手際だ!」  侯爵の言い分は認められ、過失で処理される。  帝国貴族への密売については、ルシアンの証言によって確定した。  ル
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第213話 レオナールの責任逃れ

    「貴殿は、『王子殿下の意向』『王子の命令』と称し、国内の貴族および商人から、違法な取り立てを行った。王族の名を使い、圧力をかけて、異議申し立てや通報を封じた事実が確認されています」  エマは、思わず息を呑んだ。 「ひどいっ」  権力を盾にするなど、あってはならないことだ。エマは被害に遭った平民を思い、心を痛めた。  一方で、レオナールは憎しみのこもった声で、ドレイクをなじった。 「貴様ッ……よくも、オレの名を騙って好き勝手してくれたな!?」 「静粛に」  ユリックが咎めるが、レオナールは止まらなかった。 「おい、何とか言え、ドレイクッ!」  怒鳴るレオナールに、ドレイクは返事をせず、振り返ることもしない。  エマはここで、さきほどナタリナが「共犯」と言った意味が理解できるような気がした。ドレイクが行った行為は、すべてレオナールもやっていることだ。 (王子だって、「王族」の責務は一切果たさず、権力だけを振りかざした)  ドレイクと、何が違うのだろう。  ユリックはレオナールを諫めると、張りのある声で述べた。 「王族の命と騙り、権限を詐称し、国家の意思であるかのように振る舞った行為。これは、王族権限詐称罪に該当します」  ユリックは鋭い眼差しで、ドレイクを睨みつける。  続いて、書類偽造と職権乱用の事実が述べられた。ドレイクは、レオナールの筆頭補佐官と共謀し、帳簿・証明書の改ざんを繰り返し、私腹を肥やしていたことが明らかになる。 「以上をもって、ドレイクの罪状は、献上品偽装実行犯、横領、王族権限詐称、書類偽造および職権乱用。これらすべてが事実として認定されます」  罪状が確定すると、王太子より処分が言い渡された。 「ドレイク。そなたは従者を罷免。全財産を仮没収。身柄を地下牢に拘束し、外部との接触を禁ずる。なお、本件は聖樹冒涜罪と併合し、最終裁定において処分を決定する」  ドレイクは黙ったまま、何も答えなかった。  そして、横領を働いたレオナールの筆
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第214話 最後の審議

    「……小国の王子が、それほど偉いとはな」  隣から、ルシアンの皮肉な声が聞こえて、エマは恐ろしい気持ちになる。 (王子は……ただのならず者だ)  王族という身分ゆえに、誰も逆らえないが、国民からはひどく嫌われている。レオナールの愚かさを目の当たりにして、こんな最低な人間の婚約者であることが、辛くなった。 「エマ。大丈夫ですか?」 「ぁ……はい。ルシアン様」  ルシアンが小声で、エマを気遣った。  一人用の椅子に座っているため、寄りかかることはできないけど、ルシアンが手を伸ばしてそっと背中を撫でてくれた。 (温かい)  強ばった体から力が抜ける。ルシアンが触れてくれると、心まで温まるようだった。 「ありがとうございます、ルシアン様」 「残す審議はあと一つです。もう少し頑張ってください」  ルシアンが柔らかな笑みを浮かべる。 (あと一つ?)  エマが不思議に思っていると、ユリックが罪状をのべた。 「レオナール王子は、王族の責務を放棄し、王族の名誉を著しく損ね、王室の威信を穢しました。監督義務違反、王命違反、公務放棄罪、権威乱用罪。これらすべてが事実として認定されます」  レオナールは「オレのせいじゃない!」と叫んだが、すぐに騎士に黙らされた。  ユリックは王太子の指示を仰ぐように、顔を上げた。  王太子が片手を挙げると、ユリックが続ける。 「最後の審議に入る前に、出席者を変更します。ドレイクを外へ」  二人の騎士がドレイクを囲むようにして、腕を掴んで乱暴に立たせる。 「うっ……放せっ」  ドレイクは足を引きずりながら、エマたちとは反対の扉へ消えていく。 (あれ? 足を怪我してる?)  ひどく歩きにくそうで、他にも数カ所怪我をしているようだった。 「侍女も退席せよ」  ユリックの言葉に、ナタリナがサッと立ち上がり、ユリックに訴えた。 「お待ちください! 私は、聖樹エマヌエーレ様に忠誠を誓った
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第215話 身分詐称

    「本件は第一級審議とする。この場で見聞きしたすべての事柄は、私の許可なく口外してはならぬ。王族であろうと、騎士であろうと同じだ。沈黙の誓いを破った者は、例外なく断罪される。よいな?」  威厳に満ちた声に、ユリックが即座に応えた。 「王太子ダリウ殿下のご命令に従います」  それに続き、書記官、若い補佐官、周囲に控える騎士たちが次々と宣誓する。  王太子の斜め前に座する国王夫妻も、大聖花と神官も、厳粛な面持ちで声を揃えた。 「女神イーリスの名において、沈黙を守ります」  エマもナタリナも、それに倣って誓う。  そしてルシアンも自らの信仰する神に誓った。 「ライヒト神の名において、沈黙を守ります」  その誓いを横で聞きながら、エマは不思議に思う。 (どうしてルシアン様は、この審議に出席されるんだろう?)  第一級審議は、王家審問の中でも、特別に重い案件にのみ用いられる名称だ。  帝国の貴族が、証人として出席するのは異例だった。 (帝国にも関わる、重大な審議なの?)  エマは気を引きしめて、王太子を見つめる。  一方、被審者であるレオナールたちは、沈黙の誓いを前に露骨な不満を示していた。  だが、王太子は冷めた目でこう告げる。 「誓いを立てぬ者は、審議を行うまでもなく断罪する」  騎士が一斉に剣を抜いて構えると、三人は顔を歪めながらも、しぶしぶ宣誓した。  そして、これまで進行を担ってきたユリックではなく、王太子が、ゆっくりと口を開く。 「それでは、審議に入る」  その声に、場の視線が一斉に集まった。 「王族身分詐称の疑惑についてだ」  いきなり告げられた重い言葉に、空気が張り詰める。 「本件は、デイモンド伯からの正式な告発を受け、私が独自に調査を行った。その結果、当時の宮廷医による証言と、複数の証拠を入手している」  その瞬間だった。 「そんなの、でたらめだわッ!」  甲高い声で叫んだのは、
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第216話 判別の儀

     ジゼル側妃が悲鳴のような声を上げ、前へ出ようとするが、彼女もまた騎士に制される。 「放せ! こんなこと、許されるはずがない!」  ノワジエール侯爵も怒鳴り散らすが、その声には明らかな動揺が滲んでいた。 (え……?)  エマの胸に、疑念が広がる。 (もしかして……?)  騎士がナイフを手に取り、レオナールの手を水晶盤の上へとかざす。 「やめろ! 放せ! やめろおおっ!!」  レオナールの悲鳴とともに、血が数滴、水晶盤へ落ちた。  だが、何も起こらなかった。 「……ッ!?」  エマは思わず息を呑む。  水晶盤は沈黙したまま、ただ透明な水面を揺らしていた。 (うそっ!?)  反応がない。  それは、ベータであることを意味していた。 「レオナール様は、ベータでございます」  大聖花は、はっきりと宣告する。  ランダリエ王国において、王族として認められるのはアルファのみ。  その事実を、知らぬ者はいない。 「ベータである以上、レオナール様を王族として認めることはできません」  大聖花の言葉に、エマは呆然となった。  目の前では、レオナールが首を振り続けている。顔は青ざめ、目は虚ろだった。 「そんな……そんなはずないっ! オレは、アルファだ!」 「陰謀よ!」  ジゼル側妃が甲高く叫ぶ。 「王太子と神殿が手を組んで、私のレオナールを陥れようとしているのよ!」 「ジゼル側妃」  神官が低い声で制する。 「その発言は、イーリス大神殿への冒涜と見なします」 「我らは女神イーリスに仕える者」  大聖花が、凜とした声で続けた。 「相手がどのような方であろうと、権威に屈することはありません。イーリス大神殿は、今後一切、レオナール様を王族として扱うことはございません」  大聖花の宣言に、ジゼル側妃が蒼白になった。侯爵も押し黙っている。  王太
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第217話 やるせない気持ち

     王太子は次に、ドレイクの処分を下した。 「ドレイクは、聖樹冒涜罪の主犯として認定されている。すべての罪状を合わせ……ドレイクを極刑とする」  その決定に、異を唱える者はいなかった。  弁明する機会もないまま極刑となったドレイクを、可哀想だと思う者も、この場にはいないはずだ。 (あの二人が、極刑……)  下された裁きを、エマは噛みしめる。 (もう二度と……あの人たちの顔を、見なくて済む……)  これまでの苦しみが脳裏を駆け巡り、じわりと涙が浮かぶ。  涙があふれる前に、エマは静かに目を閉じた。 「エマ様」  ナタリナの温かい手が、肩におかれる。  後ろに立っているナタリナもまた、この処分に感極まっているようだ。 「もう、エマ様を脅かす者はおりませんっ」 「うん……っ」  けれど、湧き上がる喜びの中に、苦いものが混じる。  まだ続く審議の中で、それを吐き出すわけにはいかない。  エマは歯を食いしばるようにして、審議を最後まで見届けた。 「次、ジゼル側妃の処分を言い渡す」  王太子は冷淡な口調で告げる。 「ジゼル側妃。そなたは、王族身分詐称罪および王統冒涜罪の主犯として、側妃の身分を剥奪し、全財産を没収する。第一級大罪に相当し、本来であれば極刑は免れぬが……」  王太子はそこで言葉を切り、国王夫妻へ視線を向けた。 「国王陛下ならびに王妃殿下の嘆願を受け、命までは奪わぬものとする」  だが、次に言い渡された処分は、残酷なものだった。 「ただし、貴族の身分を剥奪。以後、平民として、イーリス大神殿に預ける。下働きとして、終身の贖罪奉仕を命ずる」  それは、ジゼルにとって絶望的な処分だっただろう。  平民を蔑み続けた彼女は、一生を下働きとして過ごすのだ。死よりも耐えがたい屈辱であることは、想像に難くなかった。 「い、いや……いやぁぁーーっ!!」  ジゼルは首を振り、悲鳴を上げた。 「陛下
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第218話 大聖花様

    「……エマ。泣かないでください」  不意に、両手を優しく包まれる。  顔を上げると、ルシアンの温かい瞳が、エマを見つめていた。  ルシアンはエマの前に跪き、こぼれる涙を指でぬぐう。 「ルシアン、さま?」 「エマ。貴方のせいではありません。辛い巡り合わせであったことは事実ですが、貴方は今も、清らかで尊い聖樹です」 「……っ」 「貴方が深く傷ついていることは、知っています。その傷を、私が癒やして差し上げたいのです」 「癒やす……?」 「ええ。どのような冒涜も、貴方自身を穢すことはできない。貴方はどこにいても、光り輝いている。私の、愛しい女神」 「っ、ルシアン様っ」 「さあ、どうか泣き止んで。まだ、大事な話が残っていますから」  濡れた頬を、ハンカチで拭ってくれる。  エマがコクリと頷くと、ルシアンが優しく微笑んだ。 「……エマヌエーレ様」  懐かしい声に、ハッと振り向く。  すぐ側に、大聖花が立っていた。 「大聖花様っ!?」 「退出の前に、王太子殿下にお許しを頂きました」  その言葉に周りを見渡すと、すでに国王夫妻の姿はなかった。ユリックも、書記官たちも、騎士も、すべて審問の場から退出している。  ルシアンは場所を譲り、大聖花がエマの正面に立った。  エマも慌てて椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。 「大聖花様……ご無沙汰しております」 「ええ。貴方が神殿を離れてから、まだ二年と経っておりませんね」  大聖花は穏やかに微笑み、エマを見つめる。 「つい先頃、蕾をつけ、これから花開こうという折に……その身に、かように過酷な試練が課せられるとは」  いたわるように、大聖花の手がエマの頭におかれる。神殿に来たばかりの頃、心細くて泣いていたエマを、何度もそうして慰めてくれた手だった。 (大聖花様っ……)  大聖花は優しく頭を撫でながら、静かに語る。 「これもまた、女神イーリスの御
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第219話 秘匿の条件

    「っ……大聖花様も、どうかお健やかにお過ごしください。幼き頃より、今日まで見守ってくださったこと、心より感謝いたします……女神イーリスのご加護がありますように」  エマの眦から、涙がぽろっとこぼれ落ちる。 (大好きだった。いつも、優しくて、温かくて)  イーリス大神殿で過ごした日々のことが、頭を駆け巡る。  聖樹を平等に慈しみ、愛してくださった方だ。幼いエマが神殿に馴染むまで、優しく寄り添ってくれた。十年間、ずっと温かく見守ってくださった。  その恩は、一生忘れない。  大聖花は、瞳を潤ませながら、深く一礼する。  そして、控えていた神官とともに、静かに退出した。  気がつくと、その場に残っていたのは、四人だけになっていた。  エマの他には、ナタリナ、ルシアン、王太子だ。 「エマヌエーレ。こちらへ」 「はい」  王太子に呼ばれ、エマは中央の台へと進む。  背後にはナタリナが控え、隣にはルシアンが並んでくれていた。その存在が、心強い。  と、そのときだった。 「やっと終わったな。待ちくたびれたぞ」  聞き覚えのある声に、エマはハッとして振り返る。  そこに立っていたのは、帝国の皇太子、ティエリーだった。  紫色を基調とした簡素なジャケットに、藍色のマント。そこには皇族を象徴する獅子の紋章があしらわれている。 「こ、皇太子殿下っ!?」  エマは慌てて、両手を胸の前で重ねて、軽く膝を折った。ナタリナもそれに倣う。  動揺しながらも、なんとか挨拶をした。 「帝国の若き太陽、皇太子殿下にご挨拶いたします」 「うむ。そうかしこまらずとも良い」  以前に天耀宮で会ったときと変わらない、気安い口調だった。 (どうして、皇太子殿下がここに?)  戸惑うエマの耳元で、ルシアンが小声で囁く。 「ティエリー様は、二階席で傍聴されていました」 「えっ?」  思
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