All Chapters of この愛を止めてください: Chapter 11 - Chapter 20

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冷めきった婚約者11

 彼の後ろを歩き、店員さんに誘導されるまま、お店の中を進む。 会員制かもしれない。 お店のシステムがわからないが、芸能人とかがよく使っていそうな感じの雰囲気だ。 個室に入り、メニュー表を渡された。 えええええっ。こんなにするの? 目が点になる。 ドリンク一杯でも、時給くらいする。「雨宮さんはお酒は飲めますか?」「えっ、ああ。はい」「ビールでいいですか?」「はい」 今日はお酒なんて飲むつもりじゃなかったのに。 いや、こういう時こそお酒の力をかりた方がいいのかな。「何か食べたいものがあったら、遠慮なく頼んでください。とりあえず、僕のオススメでいいですか?」 こんな高いもの、頼めないよ。「はい」 さっきから私は<はい>しかまともな返事をしていない。 緊張している中、部長が何品か注文をしてくれ、先に飲み物が運ばれる。「お疲れ様です」「お疲れ様です」 グラスとグラスがぶつかり、カチンと音がする。 一口飲むが、こんな雰囲気のためか美味しいと感じられなかった。 せっかく時間を作ってくれたんだ、私から切り出さなきゃ。「あの、部長!」「はい」 彼の顔を真っすぐ見ることができなくて、机に向かって話しかけていた。 いや、こんなのダメだ。「私、高校時代に部長と仲良くさせてもらっていた雨宮くるみです。覚えていますか?」  きちんと目を合わせたつもりだったが、言葉が続いていくうちにどんどん下を向いてしまった。 部長の返事がない。 私のことなんて覚えていないよね。 約十年くらい前のことだ。でも――。「私、十年前に龍ヶ崎部長に失礼なことを言ってしまって。ずっと謝りたかったんです。本当にごめんなさい」 なんのことを言っているのか、彼はわからないかもしれない。 けれど、心の奥底で引っかかっていた。 あの時、私があんなことを言わなければ、二人の関係はもっと良いものになっていたのかもしれない。 部長の表情はあまり変らなかった。 彼の考えていることが読めない。「ごめんなさい」 私は謝ることしかできなかった。「················ごめん」 えっ。俺って、くるみって言った? 覚えてくれていたの?「またこうやって会えて良かった。実は部長になる前から、くるみが今の部署にいることは知っていたんだ。だけど、昔み
last updateLast Updated : 2025-06-24
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冷めきった婚約者12・回想~10年前のこと~

 ああ、どうしよう。 高校生の時のように、普通に話しても良いのだろうか。 私の気持ちが伝わってか「今はプライベートだから。楽に話していいよ。俺も昔みたいに話すから」 フッと彼が微笑んでくれて、心がスッと楽になった。「··、ごめんね。もう怒ってない?」 私が名前を呼んだ瞬間、部長の瞳が大きくなった気がした。「怒ってなんかいないよ。俺の方こそ、酷いことをしてごめん」 彼は深く頭を下げてくれた。「良かった」 安心した。「海斗のお父さんは元気?」「ああ、元気だよ。···が急に家に来なくなったから、当時はすごく心配してたけど」「そうなんだ」 海斗の家に遊びに行った時、とても良くしてくれた記憶が残っている。 そう、それは十数年前、私たちがはじめて出逢った時のことだった――。  龍ヶ崎部長、当時は下の名前で|海斗《かいと》と呼んでいた。 海斗とは、高校が一緒だった。 私は兄弟が多く、当時、自宅に帰っても勉強に集中できないという理由で、テスト前は学校の図書館をよく利用していた。 図書館に行くと、必ず同じ場所に座り、勉強をしている|海斗《彼》がいた。<頭が良さそう……> 第一印象はそんな感じだった。 だけど、海斗が使っているペンケースに私が当時好きだったマンガのキャラクターが貼ってあって、そこで勇気を出して話しかけたんだ。 私の周りの友達は男性マンガには興味がなくて、女性雑誌やコスメの話に夢中だった。「あの、このマンガ、好きなんですか?」 海斗は最初驚いた顔をしていたけれど「はい」そう返事をしてくれた。 それから私はテスト以外の時も図書館に通うようになった。 海斗は一つ上の先輩で、意外と家も近いことがわかった。 そして私の予想通り、頭が良くて。苦手な数学をわかりやすく教えてくれた。 恋愛感情は全くなくて<友達、お兄ちゃん>そんな存在。  お互いに好きなマンガがゲーム化したことで、海斗の家に遊びに行くようになった。 至って健全な付き合いで、ゲームをしたり、一緒にマンガを読んだり、勉強を教えてもらったり、お互いに親友のような存在だったんじゃないかと思う。 遊びに行くと、海斗のお父さんにも優しくしてもらったのを覚えている。「くるみちゃんと出逢ってから、海斗が明るくなったんだよ」 そんなことを言ってくれ
last updateLast Updated : 2025-06-25
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回想~10年前のこと~  偽りの関係1

 それから、私たちは自然と距離ができて、あんなにも毎日会っていたのに、お互いを見て見ぬふりをした。 そんな日が続いて、どう考えても私があんなことを言わなかったらってずっと後悔していた。だから謝ろうと思って、海斗がいる図書館に行ったけれど、海斗はいなかった。 次の日、海斗がいるはずの教室に行ってみたけれど、彼の席は誰も使っていない様子だった。「あの、すみません。龍ヶ崎先輩はどうしたんですか?」 海斗のクラスの先輩に声をかけてみたら 「ああ。あいつ、引っ越したよ。親の仕事の関係だって。海外へ行ったっぽいけど。キミ、あいつとよく一緒に居た子だよね?聞いてないの?」  引っ越し?海外?放課後、勇気を出して海斗の家に行ってみたけれど、そこにはもう誰もいなかった。 私がもっと早く謝れば、普通に話せる男女くらいの関係になっていたんだろうか。 海斗は私が生きてきた中で、謝りたい人だったんだ。・・・・・・・・・・・・・・・・「くるみは俺のことを変えてくれた。クラスに馴染めなくて、図書館にこもっていた俺に普通に話しかけてくれて。それから段々とクラスでもコミュニケーションを取れるようになったんだ。クラスマッチでバスケに出てた時、頑張れって大声で叫んでくれただろ?実は、あれはマジで嬉しかった」  当時はそんなこと海斗の口から聞いたことはなかったし、新鮮だった。 それから昔の話や今でも当時のゲームや漫画が好きなこと、いろんなことを彼の口から聞けた。「今ではあの大手企業から出向されて部長だなんて。すごいね、海斗は」「いや、そんなことないよ。親父のコネだってバカにされている」 そういえば、海斗のお父さんってどこかのお偉いさんなのかな。仕事で海外に行くくらいだ。「ううん。残業した時の海斗の仕事の早さ、すごくかっこ良かったよ。なんか、部長って感じだった」「なんだよ、それ」 ハハっと笑ってくれた顔は当時の面影が残っている。    またこうやって普通に話せる日がくるなんて思ってもいなかった。  照れくさくて、お酒を飲むペースがいつもより早い気がする。 その時、私のスマホが鳴っていることに気づいた。  相手を見る、大和だ。  電話だ、なんだろう。「ごめん。電話してくる」 席を外し、海斗に聞こえないところで、画面をタップした。<おい、お前。いつ荷物取りに
last updateLast Updated : 2025-06-27
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偽りの関係2

「ごめん。電話してくる」 席を外し、海斗に聞こえないところで、画面をタップした。<おい、お前。いつ荷物取りにくるんだよ。邪魔なんだけど> 荷物って。まだ別れて二日しか経ってない。「わかってるけど、次に住むところがそんなに簡単に見つかる訳ないでしょ。私だって仕事してるんだから、それくらい理解してよ」 本当に自分勝手。大和《この人》に慈悲はないの?<早く取りに来いよな。お前の私物なんて見たくもない。二週間以内に全部持っていかなかったら、捨てるから>「はっ?どういう……」 私が反論しようとすると、電話が切られてしまった。 二週間以内に全ての荷物、家具なんて無理だ。まず家探しに、引っ越し業者、費用もかなりかかる。 今の会話、録音しとけば良かった。 元婚約者からの嫌がらせって、何か法的に問われないかな。 せっかく海斗との会話が楽しかったのに。台無しだ。 私が個室に戻ると「大丈夫?何かあった?」 柔らかい声音で海斗に問われた。 私ってそんなに顔に出ているのかな。 海斗にはこんな恥かしいこと、言えない。「ううん、なんでもないよ。大丈夫」 テーブルを見ると、海斗が頼んでくれた、普段自分では食べられないような高級料理が並べられていた。 考えなきゃいけないことだらけだし、早めに帰ろうと思ったけど。お料理もまだこんなに残っているし、食べなきゃもったいない。今日はこの瞬間を楽しもう。 一時間後――。「くるみ、美味しかった?あのさ、飲みすぎてない?」「ぜんぜんっ!こんな美味しいお料理、次いつ食べられるかわからないし、海斗とちゃんと話すことができて嬉しかった――」 頭が働かないし、顔が熱い。 いつもよりは抑え、飲みすぎていないのに。 ああ、そうか。寝不足とか関係しているのかな。「私、トイレ行ってくるね――」 立ち上がろうとしたがフラついてしまい、慌てて海斗が支えてくれた。「ごめんねっ」「いや、俺が飲ませすぎたかも。ごめん。立てる?」 海斗の支えをかり、立ち上がることができた。「うん、一回立てば大丈夫そう。ありがと」 気持ち悪くなったわけではなかった。崩れたお化粧が気になっただけだ。 トイレから個室に戻ると「くるみ、帰ろうか。送ってくよ」 海斗が立ち上がり、私の荷物を持ってくれている。「ああ、うん。お会計は?半分出すよ」
last updateLast Updated : 2025-06-29
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偽りの関係3

 すると「くるみ!」 振り返ると海斗がいた。 どうしたんだろう。タクシー、降りちゃったのかな。「少し話せないかな。くるみの力になりたいんだ」 昔と変わらず、すごく海斗は優しい。 けれど「海斗に甘えていられないよ。大丈夫、ありがとう」 もう大人になった。昔みたいに甘えてはいられない。「じゃあ、俺の頼みを聞いてくれないかな」 珍しい、海斗が誰かを頼るって。「私にできること?」「ああ。くるみじゃなきゃダメなこと」 海斗には高校生の時にお世話になったし、この間の残業だって手伝ってもらって、今朝も吉田さんのフォローまでしてもらったから。「わかった。話、聞くよ」 返事をすると彼はホッとした感じの表情をした。 私が泊っているビジネスホテルのロビーのイスに座り、話すことになった。 タクシーで寝たら、酔いも多少は収まった。今ならきちんと彼の話を聞けそうな気がする。「単刀直入に言うね。俺の····になってくれないかな」「えっ」 言葉に詰まる。 偽装恋人って、そのまま彼女のフリをすることだよね。「今の会社の部長としての契約は一年なんだ。だけど、あまりに女性社員に連絡先を聞かれたり、プライベートなことを聞かれるのが多くて。くるみも知っている通り、俺は人と関るのが苦手なんだ。仕事って割り切ればできるけれど、いちいち答えるのが意外と大変で。くるみが別れたって聞いたから。俺がこの会社にいる一年間、彼女のフリをしてくれないかな」 海斗の言っていることはわかる。 私と大和が婚約状態だったことは、かなりの人が知っているし……。 別れた原因は大和だけれど、別れて数日ですぐに彼氏、しかも部長と付き合っているなんて、社内の人が知ったらなんて言われるんだろう。 それに、一番に思うことは、私と海斗が容姿的にも不釣合いなこと。 周りの目線が正直怖い。偽装だとしても、私が彼女役だったら海斗の評判が落ちるんじゃないかって考えちゃう。「ごめん。私、彼氏と別れてまだ数日だし、海斗と釣り合わなすぎて。海斗にはもっと良い人がいるよ」「俺は······の。釣り合わないなんて、誰が思うの?俺はそんなこと思わない」 海斗の目が真剣だからドキッとした。 「くるみが良い」なんて、男性経験が多いわけじゃないし、言われたことがない。「もちろん、彼女のフリをし
last updateLast Updated : 2025-07-01
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偽りの関係4

「彼女のフリをしてくれたら、最高にくるみが幸せだってことをあの二人に見せつけることができる。それくらいの力、今の俺は持っているし。同じ部署だけど、社員には文句言わせないから安心して。俺が一方的にくるみに惚れたってことにするから。今すぐってことじゃなくても良い。一カ月後とか、タイミングはくるみに任せるよ」 確かに私が部長と付き合ったって知ったら、今まで私のことを女としてバカにしていた大和だって、吉田さんだって驚くだろう。 吉田さんはプライドが高いから、認められなくてイライラすると思う。 ああ、もう。頭がパンクしそう。「ゆっくり考えて。くるみにとってもマイナスなことだけじゃないから」 連絡先を交換して、海斗とはその場で別れた。  ホテルの自分の部屋に戻り、ポスっとベッドへ倒れ込む。 いくら海斗の頼みだからって、彼女のフリをするのは、どうなんだろう。 あの二人へ見せつけるというささやかな復讐にはなるかもだけど、しばらくは普通に生きたい。明日は休みだ、不動産に行って物件も見なきゃ。 貯金っていくら貯まっていたっけ。 あれは二人で貯めたものだから、私が貯めた分くらい、返してもらってもいいはず。 スマホを取り出し、オンライン情報で銀行の貯金残高を確認した。 ドキッと嫌な鼓動が鳴った。 嘘でしょ……。 信じられない。桁がおかしい。 引き出された額を確認する。「一週間前にかなり引き出されている……」 大和の仕業?何のために!? 疑念の勢いのまま、大和に電話をかけた。 何回かのコールの後<なに?>不機嫌そうに彼は電話に出た。「共同で貯めてたお金、なくなってるんだけど!?何に使ったの?」<はぁ。お前には関係ないだろ> 煩いなと電話越しで呟く声が聞こえた。「関係ないわけじゃないから!あれは結婚資金のために貯めてたお金でしょ?私の分、返してよ!」<お前さ、俺は最初から反対だったじゃん。覚えてるだろ。別れた時にこういう問題が起きるから、嫌だったんだよ。だけど、お前がもしも何かあった時とかにも使えるからって言って強引に進めたんだろうが> 確かにきっかけは私だった。「だからって自分の口座も持っているじゃん。お財布は基本的には別々だったんだし。どうしてあの口座から引き出したの!?」<ああ、そうそう。お前が言っていた急な出費があって使ったんだ
last updateLast Updated : 2025-07-03
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偽りの関係5

「なにっ」 反論しようとすると、電話が切られてしまった。 あてにしていたお金は戻ってこない。 悔しくて涙が出る。 私が個人的に貯めていたお金もあるが、結婚資金のために積立てていたお金の方が多かった。 悔しい。これじゃあ、何もできない。 私は大和のどこか好きだったの。 思い出したのは、付き合った当初の大和の顔だった。 最近は……。 私の<好き>は<情>に変っていったのかな。 次の日――。「くるみの方から呼び出してくれて、嬉しい。けど、どうした?顔色悪い、目の下赤いし、泣いたり、寝不足なんじゃないか?」 私は海斗に連絡をした。 ビジネスホテルに併設しているカフェに海斗が来てくれた。「海斗、昨日の話なんだけど。私で良かったら、海斗の偽彼女になる。こんなこと、十年ぶりに会った海斗にまた頼るのは申し訳ないし、恥かしい話だけど。やっぱりあの二人を許せない。力を貸してほしい」 私は彼に向かって頭を下げた。「これは俺がお願いをしたことだよ。逆に俺が感謝したい。ありがとう。こちらこそ頼みを聞いてくれて」 海斗は会った時とは違い、肩の力が抜けたようで、表情が柔らかくなった。「お互いのメリットになれば良いと思う。業務と私情はきちんと分けるつもりだけど。くるみの力になれるのであれば、なんだってするよ」 海斗の言葉に鼓動が速くなってしまった自分がいた。 これはあくまで偽装彼女になるって話なんだから、勘違いしちゃいけない。 一年だけの契約なんだから。「私も……。私にできることだったらなんでもする」 つい大口をはたいてしまったけれど。「それじゃあ、契約成立ってことで」 海斗から手を差し出され、握手を交わした。 あれ、男の人の手ってこんなに大きかったっけ。 高校の時もふざけて海斗と手を繋いだことがあるけれど、あの時はこんなことになるとは考えてもいなかったな。「ええっ!こんな立派なマンション!?本当に良いの?」 次の日、彼女のフリをするという代わりに、海斗が用意してくれたマンションは、私では契約できないような高層マンションだった。 ポカンと口を開け、マンションのエントランスに佇んでいる私に「ああ。ちょっと狭いかもしれないけど、空室があって。知り合いの不動産なんだ。気に入ると良いんだけど」 狭かったらごめんと言う海斗は、住む世界が違う人
last updateLast Updated : 2025-07-05
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偽りの関係6 

「大丈夫。何から何までありがとう」 私がペコっと頭を下げると、海斗の手が頭の上にポスっと置かれ「何かあったらすぐ連絡して。俺も今日予定入ってないから」 優しく頭を撫でてくれた。 海斗ってこんなことする人だったっけ。 私の知っている彼はどちらかというと、人見知りだった気がするけれど、大人になって変ったのかな。 海斗と別れ、大和と同棲していたマンションに帰宅した。 カギがかかっていた。 大和がいない、なんだかホッとする。「こんなに急に引っ越すことになるなんて、思わなかったな」 一人呟きながら、まずは必要最低限の荷物をキャリーケースにまとめた。 数日前まで、ここのキッチンで普通に食事を作ってたのに。 朝起きて、洗濯をして、朝食の準備をして。 余裕があったらお弁当を作って。その光景がなんだか懐かしい。 寝室のクローゼットの洋服を段ボールに整理して入れた。「なんだ。結構、荷物少ないかも」 家具はどうしよう。 二人で買ったものがほとんどだ。 私が一人暮らしの家から持ってきた家電とかは、返してもらっても良いよね。 リビングを見渡す。テレビ台に置かれていた、私と大和が二人で写っている写真立てがなくなっていた。 もう好きじゃない、お金まで使われて憎しみの感情すらあるというのに、なんだか寂しくなる。「あの頃は幸せだった。だけどもう終わりなんだよね」 誰も答えてはくれないはずなのに、自分に言い聞かせるように言葉を発した。 ふぅと呼吸を整え、大和に電話をかけた。<もしもし> 不機嫌そうだった。「今マンション来てる。荷物まとめた。数日以内には、引っ越し業者さんが持っていってくれるから。家具とか家電とか、二人で買ったものはどうやってわけるの?」 怖くはないのに、声が震える。<持ってけば?ああでも、冷蔵庫と洗濯機は持ってくなよ。あと、テレビ>「あのさ、それっておかしくないかな?二人で買ったんだから、お互いが平等になるようにしようよ。浮気したの、そっちでしょ?」<はぁ?浮気されるような女だから悪いんだろ。あとの家電は好きにしていいから> 吐き捨てるように彼はそう言うと、ツーツーと電話が一方的に切れた。 浮気される方が悪いって、なによ。 確かに、吉田さんの方が可愛くてスタイルも良いかもしれないけど。 荷物をまとめ、海斗が契約をして
last updateLast Updated : 2025-07-07
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甘すぎる彼 1

 マンションのエントランスで待ち合わせをし、海斗が用意してくれた車に乗った。「え、これ。海斗の車?」「そうだよ」 会社とは違うジーンズにポロシャツというラフなカッコをしている彼だったが、清潔感があり私服でも爽やかな印象を受けた。「どこに行くの?」「着いてからのお楽しみ」 またこの前みたいに、高級感漂うお店なのかな。 どうしよう、オシャレなんてしていないのに。 駐車場に停めて、数分歩いた。「えっ、ここって!」 海斗が連れてきてくれたのは、サンドイッチやフレンチトーストが有名なお店だった。すごく前に由紀と来たことがある。「くるみ、サンドイッチ好きでしょ?」「どうして知ってるの?」「高校の時、よくサンドイッチ食べてたから」 海斗、そんなことまで覚えてくれているんだ。 コンビニでサンドイッチを買って海斗の家で食べたり、そういえば、海斗に作ってもらったこともあったな。 驚きを隠せないまま、彼の後ろを歩く。「予約してあるから、そんなに待たないと思うけど」 スマートすぎるエスコートに感心してしまった。「海斗、いつから女の子の気持ちわかるようになったの?」「なにその言い方。女の子の気持ちなんて今もわからないよ。くるみが好きな食べ物を覚えてて。最近いろいろあったり、食べたら元気になるかなって思っただけ」 私が彼と離れていた期間に女性慣れしたのだろうか。彼のルックスならモテること間違いない。「美味しい!!」 海斗が頼んでくれたBLTサンドを食べながら、至福の時を過ごしていた。「良かった」 私のこんな姿を見て微笑んでくれている彼だけど、心の中では何を思っているんだろう。「美味しかった。ご馳走様でした。お会計まで本当に良いの?」「うん。くるみが少しでも元気になってくれたのならそれで嬉しいから。良かったら今度、くるみの部屋に行っても良い?くるみが作ってくれたカレーが食べたい」 そういえば、昔、海斗にカレーを作ってあげた気がする。 ただ平凡な、何の隠し味も入れていないカレーだったけど。「カレーでいいの?もちろん作るけど」「楽しみにしてる」 海斗の運転でドライブをする。 夜景、こんなにゆっくり見たの久しぶりかも。「あー。なんか夢を見ている気がする。大人になった海斗が隣にいるってなんか変な感じ」 ずっと謝りたかった相手に許して
last updateLast Updated : 2025-07-09
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甘すぎる彼 2

 次の日―。「龍ヶ崎部長、おはようございます」「おはようございます。雨宮さん」 社内で海斗に会った時はまだあくまで関係は上司と部下だ。 親しい間柄だということはしばらく気づかれないようにしないと。 お互いに自席に座り、仕事モードに入ろうとした時だった。「雨宮先輩、おはようございます」 吉田さんだ。よく私に普通に話しかけられるよね。「おはようございます」 顔も見たくなくて、|PC《パソコン》に向かったまま返事をすると「あれ、なんだか顔色が悪いですよ。どうしたんですかぁ?」 わざわざ私の顔を覗き込んでくる彼女がいた。 喧嘩を売ってるのかな。大人の対応、大人の対応。「大丈夫です。ありがとうございます」「何か力になれることがあったら言ってくださいねっ!」 そんな言葉までかけられた。 彼女の言動にイライラしてしまい、チラッと部長席を見ると、海斗がいてくれる。それだけでなんだか心が落ち着いた。「雨宮さん、ちょっと良いですか?」 業務中に海斗に呼び出された。「はい」 返事をし、部長席へ向かう。「先日の資料なんですが……」 彼が指を指したパソコン画面を見ると<お昼、一緒にどうかな?>そんな文字が入力されていた。「えっ」 てっきり資料についてだと思った。<はい。大丈夫です> 私はそう入力をした。「ありがとうございます」 彼は無表情のまま、返事をしてくれた。 プライベートと会社ではこんなに違うんだ。 年下関係なく、社内ではみんなに敬語だ。 表情もあまり変えないから、なんだかちょっと不思議。 お昼休憩になり、背伸びをしていると「雨宮さん、良いですか?」 海斗が横に立っていた。「あ、はい」 周りの目線が気になったが、別に一緒に食事をするだけだ。 立ち上がり社食へ向かった。「オススメメニューは何ですか?」「うーん。やっぱり日替わりランチですかね。龍ヶ崎部長の口に合うかわかりませんが」 こういうところでも普通に食事をするのかな。「いや、普通に一人でチェーン店の牛丼屋とか行きますよ」「えっ、そうなんですか」 敬語ながらも普段の彼を知っていく。席に座り、そんなやり取りをしていた時だった。「あの、お隣良いですか?」 女性社員二人が話しかけてきた。 直接話したことはないけれど、顔は見たことはある。そんな程度だ
last updateLast Updated : 2025-07-11
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