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偽りの関係5

Author: 煉彩
last update Last Updated: 2025-07-05 22:46:27

「なにっ」

 反論しようとすると、電話が切られてしまった。

 あてにしていたお金は戻ってこない。

 悔しくて涙が出る。

 私が個人的に貯めていたお金もあるが、結婚資金のために積立てていたお金の方が多かった。

 悔しい。これじゃあ、何もできない。

 私は大和のどこか好きだったの。

 思い出したのは、付き合った当初の大和の顔だった。

 最近は……。

 私の<好き>は<情>に変っていったのかな。

 次の日――。

「くるみの方から呼び出してくれて、嬉しい。けど、どうした?顔色悪い、目の下赤いし、泣いたり、寝不足なんじゃないか?」

 私は海斗に連絡をした。

 ビジネスホテルに併設しているカフェに海斗が来てくれた。

「海斗、昨日の話なんだけど。私で良かったら、海斗の偽彼女になる。こんなこと、十年ぶりに会った海斗にまた頼るのは申し訳ないし、恥かしい話だけど。やっぱりあの二人を許せない。力を貸してほしい」

 私は彼に向かって頭を下げた。

「これは俺がお願いをしたことだよ。逆に俺が感謝したい。ありがとう。こちらこそ頼みを聞いてくれて」

 海斗は会った時とは違い、肩の力が抜けたようで、表情が柔らかくなった。

「お互いのメリットになれば良いと思う。業務と私情はきちんと分けるつもりだけど。くるみの力になれるのであれば、なんだってするよ」

 海斗の言葉に鼓動が速くなってしまった自分がいた。

 これはあくまで偽装彼女になるって話なんだから、勘違いしちゃいけない。

 一年だけの契約なんだから。

「私も……。私にできることだったらなんでもする」

 つい大口をはたいてしまったけれど。

「それじゃあ、契約成立ってことで」

 海斗から手を差し出され、握手を交わした。

 あれ、男の人の手ってこんなに大きかったっけ。

 高校の時もふざけて海斗と手を繋いだことがあるけれど、あの時はこんなことになるとは考えてもいなかったな。

「ええっ!こんな立派なマンション!?本当に良いの?」

 次の日、彼女のフリをするという代わりに、海斗が用意してくれたマンションは、私では契約できないような高層マンションだった。

 ポカンと口を開け、マンションのエントランスに佇んでいる私に

「ああ。ちょっと狭いかもしれないけど、空室があって。知り合いの不動産なんだ。気に入ると良いんだけど」

 狭かったらごめんと言う海斗は、住む世界が違う人
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