病院を出たあと、玲奈は智也の車の助手席に座っていた。落ち着かない。まるで針のむしろに座らされているみたいだった。この席には、自分だけじゃなく沙羅も座っていた。そう思うだけで、胸の奥がむかむかする。しかも隣にいる男は――沙羅とも、身体を重ねている。玲奈は冷えた顔で黙っていた。智也がエンジンをかけないのを見て、愛莉が泣いた、と沙羅から電話が来るのを待っているんだろうと察する。「迎えに来て」と言われるのを。けれど十分ほど待っても、智也のスマホは沈黙したままだった。とうとう智也がしびれを切らし、エンジンをかけてアクセルを踏む。その様子に、玲奈の胸がざわつく。思わず横を向き、不安げに問いかけた。「......本当に、愛莉のこと待たないの?」車はちょうど信号で止まった。智也はブレーキを踏んでから、玲奈と目を合わせる。険しかった表情は、彼女を見るとすっと緩み、深い笑みが浮かんだ。「本人が残りたいって言ったんだ。好きにさせればいい」玲奈はまだ納得できず、焦ったように言いかける。「でも、あの子まだ熱――」そこまでで、言葉を飲み込んだ。けれど智也は、その様子がよほど嬉しいのか、笑みをさらに濃くする。「ほら。まだ俺たちのこと気にしてるじゃないか」玲奈は目を閉じ、わざと返事をしなかった。愛莉は自分の身から生まれた子だ。気にならないはずがない。それに沙羅は脚を痛めている。愛莉自身も熱がある。そんな小さな子を置いて帰るなんて、誰だって不安になる。信号が青になり、車は走り出す。玲奈が黙ったままなので、智也もそれ以上は何も言わなかった。車はそのまま小燕邸へ向かい、三十分ほどで門の前に停まった。智也は降りて、玲奈のドアを開けようとする。けれど彼が回り込む前に、玲奈は先に降りていた。昔なら欲しかった小さな気遣いも、今はもう心を動かさない。智也は行き場のないまま、苦く笑う。玲奈は小燕邸へ歩き、智也を待たなかった。智也は数歩で追いつき、彼女の横に並ぶ。玄関に着くと、掃除をしていた宮下が足音に気づき、振り返った。逆光の中で、玲奈の姿を見た宮下は目を丸くする。「奥さま......?」玲奈は頷き、宮下に小さく笑って見せた。すると智也が宮下
Read more