愛莉の言葉を聞き、そしてあれほど心配そうな顔を見て、智也は一瞬考え込んだ末、先に沙羅の様子を見に行くことに決めた。声を落として愛莉に言う。「分かった。今すぐ行こう」愛莉はこくりと頷く。「うん」そうして愛莉は、少し離れたところにいる玲奈へ視線を移した。その隣には拓海が立っている。二人の距離感は、ただの友達とは違う。愛莉にはその違いがうまく説明できない。けれど胸の奥がちくりとして、言いようのない不安が湧いた。――もし、ママにこの先ほかの子ができたら......そこまで考えかけて、愛莉は慌てて思考を止めた。怖くて、続きを想像できなかったのだ。かつて何より自分を優先してくれたあの頃のママは、もういない。その事実が、幼い胸に重くのしかかっていた。智也は考えを固めると、玲奈へ向き直った。「お前も一緒に来い」すると拓海が眉を寄せ、乾いた笑いを漏らす。「お前は愛する人に会いに行くんだろ?なら俺だって俺の愛する人のところに行く。そういう理屈じゃないのか?」智也は答えず、玲奈だけを見据えた。しばらく間を置いて、低く問いかける。「来るのか、来ないのか。どっちだ」拓海の中で、何かが弾けた。苛立ちを隠さず二歩で玲奈の前へ出て、智也に言い放つ。「消えるならさっさと消えろ。俺の愛する人を巻き込むな」だが智也は拓海を相手にしない。その無視が、拓海の怒りをさらに宙ぶらりんにした。そのとき、背後の玲奈がそっと拓海の背中をつついた。拓海が振り返り、声を潜めて訊く。「......まさか。あいつと一緒に行って、あいつの大事な女に会う気か?」玲奈は拓海を見上げ、淡々と答えた。「うん」拓海は反射的に拳を握った。けれど、すぐに奥歯を噛んでその怒りを飲み込む。玲奈は拓海の脇をすり抜け、智也の前に立った。そして短く言う。「行こう。私も一緒に行くわ」理由はひとつ。残りわずかな最後の数日をやり過ごすためだ。正式に離婚届が受理されれば、もう智也の顔色なんて見なくていい。だが今は違う。もし彼が機嫌を損ねて、土壇場で取り下げでもしたら――もうこれ以上待つなんて嫌だ。これ以上、彼と絡み続けるのは耐えられない。だから、ここは耐える
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