愛莉がいなくなったと知った瞬間、玲奈の胸にあったのはただ一つの思いだけだった。――すべてを手放してでも、娘の無事と引き換えたい。その愛莉がいま、こうして目の前にいる。張りつめていた胸が、ようやく落ち着いていった。玲奈は汚れなど気にせず、愛莉の頬に自分の頬を寄せ、震える声で言った。「無事でよかった……無事でよかった……」そう言いながら、涙がこぼれる。愛莉は少し胸が痛み、小さな手で玲奈の頬を包んで、顔の涙を拭いた。それを見て、玲奈の心はさらに乱れた。この瞬間、娘が戻ってきたように感じた。愛莉は涙を拭きながら言った。「ママ、泣かないで。かわいくなくなっちゃうよ」玲奈は嗚咽をこらえて頷いた。「うん……泣かない。泣かないわ……」傍らに立つ拓海は、母娘の一部始終を見つめていた。いまの玲奈が痛ましくてならない。雨はまだ止む気配がない。強くはないが、それでも三人を濡らしていく。玲奈も、愛莉も、拓海も、みすぼらしい姿になっていた。玲奈は愛莉をいったん下ろすと、娘の前にしゃがみ込み、腕を取って左右を確かめた。そして不安そうに尋ねる。「ママが見るね。どこかケガしてない?」愛莉は素直に体を回し、玲奈に確かめさせた。見ていくと、体には擦り傷と打ち身があった。それから足首のあたりが、何かに噛まれたようになっていた。玲奈がうつむいて確かめようとした、そのとき、愛莉が玲奈に抱きついた。そしてしゃくり上げながら言った。「ママ……ねずみに噛まれたの」その言葉に、玲奈の胸はきゅっと痛んだ。愛莉は智也の娘で、幼いころから玲奈の愛情の中で育ってきた。ねずみなど、目にしたこともないはずだ。それなのに、噛まれる日が来るなんて。そう思うほど、玲奈の罪悪感は深まっていった。そこへ、智也の車が路肩に止まった。彼は大きな傘を開いてから車を降り、雨に濡れている玲奈と愛莉を見るなり、早足で駆け寄ってくる。傘を二人の頭上へ差しかけると、智也の視線が、ふと横の拓海へ向いた。――なぜここにいる?玲奈が呼んだのか。それとも、愛莉を連れ出したのは……考えが次々に浮かぶ。だが拓海も同じ界隈の人間だ。愛莉を狙ってまで玲奈に何かするほど、そんな暇はないだろう。そう整理し
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