蛇口は開いたまま、水がざあざあと流れ続けている。玲奈は拓海の手を握ったまま、冷たい水でずっと冷やし続けていた。背中には、拓海の大きくて温かい胸板。初冬の朝の冷えの中で、その体温はまるで陽だまりみたいだった。玲奈は一瞬、ぼうっとしてしまう。彼の腕がふわりと回り、玲奈の体はやさしく囲い込まれる。抱かれていると、自分がやけに小さく感じた。守られているみたいで――その感覚が、怖いほど自然だった。拓海は顔を玲奈の首元へ埋め、強く息を吸う。玲奈の匂いは、甘くて危うい。蜜みたいに、彼を底なしの方へ引きずり込む。けれど玲奈は、はっと我に返った。ここは自分の家で、外には家族がいる。玲奈は身をよじり、拓海の胸を軽く押して言う。「......離して。みんな外にいるの。見られたらまずいわ」だが拓海は離さない。むしろ腕に力を込め、低い声で言った。「怖がるなよ。もう抱き締めたし、キスだってした」玲奈は眉を寄せて小さく吐き捨てる。「須賀君、あなた――」拓海はさらに強く抱き締めた。まるで骨の中にまで押し込むみたいに。そして玲奈の耳元で囁く。「母さんが言ってた。女の子に手を出したら、責任取らないとって」玲奈の体が、ぴくりと固まる。彼女はすぐに拒む。「......私は、責任なんて要らない」拓海はきっぱり言い切った。「いや、取る。取らないなんてダメだ」玲奈が押し返そうとした、そのとき――「玲奈ちゃん?朝ごはん、まだできないの?」綾乃の声がして、キッチンの方へ視線が伸びてくる。けれど、抱き合っている二人が見えた瞬間、綾乃は慌てて目を逸らした。「......陽葵、もうすぐ幼稚園行かないといけないから、ね。朝ごはん、急いで」そう言い残し、綾乃は足早にその場を離れた。玲奈は追うように返事をした。「うん、分かった!」そして玲奈は容赦なく拓海を一発叩く。腕の中から抜け出し、睨みつけた。「いい?ごはん食べたら、あなたは先に帰って」「もし聞かれたら......私の具合が悪くて、様子を見に来たって言って」拓海は照明の下で玲奈を真っ直ぐ見つめ、真面目な顔で言う。「......俺、嘘は好きじゃない」玲奈は可笑しそうに笑う。
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