あたしは真っ白い空間に浮いていた。見渡す限り同質の景色がひろがり果てがあるかさえわからなかった。それでもそこが空間であるのが分かったのは、大昔のシミュレーションゲームのようなワイヤーフレームで構成されていたからだった。「夏波」 真上から声が降ってきた。見上げると手が届きそうな空中に心棒のようなものに荒縄で拘束された人がいた。その人は真っ白い裃を着て顔は蒼白、目をつぶり口の端から銀色の牙を覗かせていた。白馬には乗っていなかったけれど、夢で何度も会ったクチナシの人だった。その人が下を向いて目を開けた。その瞳はやはり金色で、「夏波。誕プレは受け取ってくれた?」 久しぶりに聞く優しい声だった。「十六夜なの?」「そうだよ」 よく見ると鬼子姿の十六夜に似てなくもなかった。あたしは戸惑いながら話しかけた。「誕プレはまだだけど……。十六夜ってば、トラギクに捕まったんじゃなかったの?」 十六夜はしばらく黙って考えている様子だったけれど、結局思い当たらなかったのか、「捕まった、とはよ」「まゆまゆさんを助けたの十六夜でしょ? その後トラギクに連れて行かれたって」 十六夜は口元を緩め、「ああ、それ。それはリアルに渡るための作戦」 トラギクに捕らわれるふりをしてリアルにおみやげを置いて戻ったと言った。「リアル? 戻る? てか、ここはどこ?」「新しい世界だよ」 足下に広がる空間を見渡してみたけれど恐ろしいほど何もなかった。「ここが? 何にも見当たらないけど」「これからできるんだ。あたしたちの世界が。そこには夏波も冬凪もいるんだよ」 十六夜が何を言っているのか全然わからなかった。「世界って?」「そっか、夏波にはまだ無理か」 十六夜は小さくため息をついて、「トリマ、誕プレ受け取ってな。土蔵の裏に置いてき
Last Updated : 2025-10-14 Read more