冬凪が後ろを振り返りながら言った。「夏波、あの人たちいいの?」 ユウさんを背負いながら振り向くと、世界樹の向こう側で終わらない派閥争いが繰り広げられていた。トラギクが真正ひだるさまを召喚して、それを赤さんたちが分身の術みたいにいっぱいになって迎撃してる。一進一退、どちらが勝つか?「見たい?」「別にいいかな」 ここで決着が付いても、またどこかで同じようなことを繰り返すのだろう。それがおじさんたちの楽しみだから。女の子はそのスキに出し抜いて新しい世界を作ればいい。「ここから出られます」 鈴風が白い床にしゃがんで何かを操作すると、何もなかった空間が扉の形に抜けて向こうの景色が見えるようになった。 外に出るとそこは、大きなシャッターが閉まったお屋敷の前で、表札に「調」とあった。シャッター横の門の前に白いワンピを着た若い女性が立っていて道の先を気にしている。びっくりするくらいの美人。 ププ あたしたちの後ろでクラクションが鳴った。真っ赤なオープンカーがゆっくりと近づいてきていた。白ワンピの女性と同じくらいの女性が運転している。その車は調家の前で停まると、「悪い」 運転席から白ワンピに声を掛ける。「遅いよ。ヒカ」「オープンするの手間取った。まあ乗って」 白ワンピが助手席に乗り込むと、「ユカ。おはよう」「ヒカ。おはよう」 二人は長いハグをした。その後ヒカがハンドルを握りクラッチを操作しながら、「今日はどこ行く?」「雄蛇ヶ池」「またか。他に行きたいとこないの?」 「だって、スワンボート好きなんだもん」「しかたないな、ユカは」 ユカの横顔を見るヒカの笑顔が素敵だった。赤いオープンカーは長いだらだら坂をゆっくりと進んでいってやがて見えなくなった。
Last Updated : 2025-11-15 Read more