「次俺! 俺にもやってみろよ!」 そしてメイクが終わったから騒いでも大丈夫と思ったらしいお兄さんが、またうるさくなった。 お兄さんにもメイク? メイク出来るのは嬉しいんだけれど、何でかなぁ? お兄さんにはやりたくないって思うのは。 そんな思いを口には出来なくても表情には出した。 でもやっぱりバカなのかお兄さんは気付かず近付いて来る。「なあなあ! ぅぐっ」 そんなお兄さんの頭を杉沢さんが掴み押しのけた。「お前はダーメ」 そして彼の目があたしを捕らえる。「っ!」 杉沢さんの眼差しに、一瞬息が止まった。 獲物を見つけたような目。 でも陸斗くんのとは違う、もっと絡みつくような……そう、蛇に睨まれたらこんな感じ。 獲物を丸のみしようかと企んでいそうなその口が開いた。「君、名前は?」「え? えっと、倉木 灯里……ですけど……」「そう、灯里ちゃんね」 そう言って微笑む杉沢さんだけれど、眼差しの色は変わらない。「君、凄いな。メイク中、ゾクゾクしたよ」 にじり寄って来た杉沢さんは、あたしの顔を両手で包み込むように固定した。「なあ……日高なんかやめて、俺の彼女になんない?」 熱のこもった吐息が近付く。「ね、灯里ちゃん」 そのまま、唇が触れそうになる。「や――」 やだ!!「灯里!」 そのとき、待ちに待った声がした。 その声のおかげで杉沢さんの動きもピタリと止まる。「灯里! ここか!?」 穴の開いた障子戸に、声の主の影が現れた。 それを確
Last Updated : 2025-08-16 Read more