All Chapters of 地味男はイケメン元総長: Chapter 61 - Chapter 70

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かどわかし⑥

「次俺! 俺にもやってみろよ!」 そしてメイクが終わったから騒いでも大丈夫と思ったらしいお兄さんが、またうるさくなった。 お兄さんにもメイク? メイク出来るのは嬉しいんだけれど、何でかなぁ? お兄さんにはやりたくないって思うのは。 そんな思いを口には出来なくても表情には出した。 でもやっぱりバカなのかお兄さんは気付かず近付いて来る。「なあなあ! ぅぐっ」 そんなお兄さんの頭を杉沢さんが掴み押しのけた。「お前はダーメ」 そして彼の目があたしを捕らえる。「っ!」 杉沢さんの眼差しに、一瞬息が止まった。 獲物を見つけたような目。 でも陸斗くんのとは違う、もっと絡みつくような……そう、蛇に睨まれたらこんな感じ。 獲物を丸のみしようかと企んでいそうなその口が開いた。「君、名前は?」「え? えっと、倉木 灯里……ですけど……」「そう、灯里ちゃんね」 そう言って微笑む杉沢さんだけれど、眼差しの色は変わらない。「君、凄いな。メイク中、ゾクゾクしたよ」 にじり寄って来た杉沢さんは、あたしの顔を両手で包み込むように固定した。「なあ……日高なんかやめて、俺の彼女になんない?」 熱のこもった吐息が近付く。「ね、灯里ちゃん」 そのまま、唇が触れそうになる。「や――」 やだ!!「灯里!」 そのとき、待ちに待った声がした。 その声のおかげで杉沢さんの動きもピタリと止まる。「灯里! ここか!?」 穴の開いた障子戸に、声の主の影が現れた。 それを確
last updateLast Updated : 2025-08-16
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かどわかし⑦

「言われなくても帰るよ。もう会いたくもねぇ」 陸斗くんは暗に会いに来るなと言っていたみたいだけれど、杉沢さんはあたしに向かって「じゃあまたね」とひらひら手を振った。 いや、あたしも会いたくないんですけど……。 そう思って返事をしないでいると、陸斗くんに「行こうぜ」と立つのを促され縁側に行く。 靴を履き終わって、さあ帰ろうかと立ち上がると突然陸斗くんがしゃがんだ。 かと思ったら突然の浮遊感。 慌ててとっさに掴んだのは陸斗くんの制服の襟(えり)部分。 横抱き――いわゆるお姫様抱っこをされてると気付くと、耳元で陸斗くんの声がした。「首に腕まわして、ちゃんと掴まってろ」 好きな人の声をゼロ距離で聞いて、ゾワワと体が震える。 どうしたものかと思いながら言う通りに彼の首に腕を回した。 重くないのかな……? そんな不安を吹き飛ばすかのように、陸斗くんはスタスタ歩いて行く。 というか、あたし一人で歩けるんだけど……。「陸斗くん? あの、重いでしょ? あたし歩けるよ?」 そう提案したのに……。「俺がこうしていたいんだよ。……連れ去られたって聞いて、気が気じゃなかった」 そう言ってあたしを抱く腕に力が入る。「またあのバカな舎弟だとは思わなかったけど、俺のせいで巻き込まれたんだってのは分かり切ってたからな」 あのバカなお兄さんで良かったのか悪かったのか……そんな感じでため息をつく。 まあ、お兄さん明らかに不良っぽい感じだったし。 美智留ちゃん達がどう説明したかは分からないけれど、陸斗くんの中学の頃の関係者だってのは想像に難くなかったんだろう。
last updateLast Updated : 2025-08-17
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かどわかし⑧

「灯里、良かった無事で」 泣きそうな顔で安堵する美智留ちゃんは、そのままあたしを抱きしめる。 沙良ちゃんも心配そうな表情。 さくらちゃんなんてもう涙を浮かべている。  工藤くんや小林くん、花田くんも相当心配してくれたのか、あたしの無事な姿を見てホッと安堵の息を吐いていた。 「皆、心配かけてごめんね。何もされてないから、安心して」 実際にはキスされそうになったけれど、未遂だから問題ないだろう。  なんて思いながら美智留ちゃんの背中をポンポンと叩く。  すると安心したからか、それともあたしがケロッとしすぎていたからなのか。  美智留ちゃんはがばっと顔を上げて口を開いた。 「もう! 本当に何が何だか。灯里は付いて行っちゃうし、日高は先生には言うなって言うし! 連絡取れたと思ったら日高はすっ飛んでいくし!」 と、どんどん文句が溢れてきていた。 美智留ちゃんの言葉で、先生には連絡していないんだと言う事を知る。 良かった、と思った。 陸斗くんのためにも、騒ぎにはして欲しく無かったから。 「ねえ、聞いてるの? ちゃんと説明して!」 そう叫ぶ美智留ちゃんに、どこから説明するべきかと悩んでいると工藤くんが声を上げた。 「いや、まずは急いで集合場所に行こう。ちょっと時間ギリギリなりそうだし」 スマホを見ながらそう言っているのを見て、皆同じように時間を確認する。 「って、マジでギリギリじゃない。急げー」 沙良ちゃんの掛け声を皮切りに、皆で走り出した。  そうして走ったおかげで集合時間五分前には何とか到着する。  皆で息を切らしながら、「そろそろ集まれー」と言う先生の声に従う。 歩きながら外していたメガネを掛ける陸斗くんを見て、あたしは「あっ」と声を上げる。「あれ? お前そう言えばメガネは?」 陸斗
last updateLast Updated : 2025-08-18
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閑話 杉沢 鶴

「あーあ、乱暴に開けやがって。立て付け悪くなってるじゃねぇか」 日高と灯里ちゃんを見送った後、障子戸を閉めてそう文句を垂れた。「ま、いいけどな」 どうせもうすぐ解体される建物だし、と付け加える。 西村を総長としたグループのたまり場にしていた空き家。 商店街の裏にありながら他の民家とは離れていたので丁度良い場所だった。 空き家と言っても持ち主はいるから、俺が探し出して交渉して、水道も使えるようにしてもらった。 俺達みたいなのに貸してくれるような豪胆で変人な爺さんだったけれど、その爺さんもつい先日亡くなったらしい。 気の弱そうな息子がビクビクしながらここを解体する旨を伝えに来た。 西村が事故って刑務所に入ったことでグループを離れた奴が何人もいた。 残ったやつも、もうヤンチャは止めてまともな職に就くと言っているヤツばっかりだ。  俺も元々西村に付き合わされてただけだったし、そろそろ就職でも考えるかなと思っていたところだったから問題は無い。 今俺がここにいるのは、まともな職に就くと言ってたヤツの何人かがなかなか上手くいかないから、最後に少しだけ面倒を見てやるためだ。 と言ってもほとんどはもうまともな職に就けてそれなりにやっている。 残るはあのバカだけなんだが……。「あれはまたクビだな……」 あの後すぐに電話でバイト先に呼び出されてすっ飛んで行った。 何であいつは仕事一つまともに出来ないのか……。「もう見捨てちゃおうかな……」 流石に面倒見切れなくなってきた。 特に今回は際どい。 日高を呼び出すためだけに誘拐なんかするんじゃねぇよ……。
last updateLast Updated : 2025-08-19
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話し合い①

「……つまり、日高は元はケンカの強い暴走族の総長で、今は普通の学生になるために地味な格好をしてたってことか……?」 校外学習でのことをすべて話し終えると、工藤くんがまずはそうまとめた。 校外学習から一日経って、今日は土曜の休みの日。 午前中は部活がある人もいたから、午後お昼を食べたら集合という事になった。 場所は内密の話をするにはうってつけのカラオケ。 主に音楽系の宣伝が流れるテレビの音をBGMに、部屋の中が何とも表現しがたい雰囲気になっていた。「……日高の本性が口悪いのも納得って感じね」 ポツリとそんな感想を口にしたのは美智留ちゃんだ。 一昨日陸斗くんが素顔を皆に見せた辺りから、口調は素のものになって来ていたから口が悪いのはバレてたんだろう。「まあ、色々思う所はあるけどそこはまず良いとしよう。それより、その前の仲間とか敵対してたやつとかがまたちょっかい出してくることは無いのか?」 一番心配な所なんだろう。 工藤くんは誤魔化しは許さないといった様子で真っ直ぐ陸斗くんを見て言った。 今回はあたしがさらわれただけで、特に何もされずに帰してもらえた。 でもまた何かある様だったら今度は誰かがケガをするかも知れない。 下手をしたら、事件に巻き込まれるかも知れない。 色んな不安は出てくるだろう。 その不安だけは解消したい気持ちは分かる。 あたしは取りあえず黙って陸斗くんに回答を任せた。「まず、前の仲間が何かして来ることはねぇよ」 陸斗くんは初めにそう言って話し出す。「元々火燕ってグループは喧嘩っ早かったり、ちょっと周りについていけねぇはみ出し者が集まってるようなもので、なんつーか……来るもの拒まず去る者追わずって感じのグループなんだ
last updateLast Updated : 2025-08-20
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話し合い②

「とにかく、危ないことは無いってことは確実なんだな?」「まあ、そうなるな」「じゃあ取りあえずは解決ってことだ」 そう言ってニッと笑った工藤くん。 陸斗くんが不良だったって知っても、態度を変えるようなことはしないみたい。 そのことにあたしは安心した。 こうやって仲間内で集まって遊んだり勉強したり、一緒にお昼を食べたり。 それがなくなるような事にならなくて良かった。 その後からはいつもの様な和やかな雰囲気になる。「でもホント、倉木は本当は全く地味じゃないんだな。オシャレだし」「そうそう。昨日の帰りもコンタクトになってて一部の男子が噂してたけど、今日メイクしたの見たらどうなるだろうな」 工藤くんの感想に、小林くんが頷きながらそんなことを言う。 それに花田くんが「ああ、あれかぁ……」と呟いて陸斗くんを見た。 その陸斗くんはムスッとしたまま黙り込んでいる。「何? その噂って?」 さくらちゃんがキョトンと可愛らしく小首を傾げて質問した。 それに花田くんが陸斗くんを気にしながら答える。「倉木さんって、素顔も普通に可愛いだろ? それに昨日はちょっとアイメイクしてたこともあって、帰りのバスで思ってたより可愛いって噂になってたんだ」 それに小林くんが付け加えるように「そうそう!」と続けた。「いつもは地味で男慣れしてないだろうから、告ったらすぐに付き合ってくれるんじゃねーとか言ってたな」『……』 花田くんがあえて言わなかったであろう具体的な話をサラッと暴露してしまう小林くん。 みんなの沈黙で失敗したことに気付いたのか、口を閉じて素知らぬ顔でジュースを飲み始めた。 とぼける気満々である。「……ねえ、灯里は誰かにメイクしてあげたりもするの?」
last updateLast Updated : 2025-08-21
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話し合い③

 チェックをして、フッと笑顔になる。 今回も上手く出来た。 そうして気を抜いたら、目の前にあるのはカッコイイ好きな人の顔。 あたしは笑顔のまま固まり、また鼓動が早くなるのを感じた。 トクントクンと鳴っている心臓が、次の瞬間にはドクンドクンと更に大きな音を鳴らす。 何故なら、陸斗くんがあたしを引き寄せて抱き締めたから。「へっ!? り、陸斗くん!? どどどどどうしたの!?」 ぎゅうっと強く抱き締められていて押しのけることも逃げることも出来ない。 陸斗くんの体温や腕の力を感じて、あたしは完全に昨日の二の舞いになりテンパっていた。「お前が悪い……」 肩の辺りから聞こえた声にさらに混乱する。 あたしが悪いって何かした!? メイクしただけだよね!? ってか声凄く近いんだけどー!!? あたしの心臓の音、絶対聞かれてると思いながら何とか悲鳴を上げずに堪えていると、ゴホンッという咳払いがいくつか聞こえてきた。 その咳払いで今あたし達がどこにいて、傍に誰がいるのかを思い出す。 少し視線を動かすと、花田くんと目が合った。「あー……」 そう声を伸ばしながら視線を泳がせた花田くんは、目を伏せて続ける。「取りあえず倉木さんを放してやれよ、日高」 言われて、陸斗くんは渋々といった様子で放してくれた。 放してはくれたけれど、肩に手は置かれたまま。 あれ? と思っていると、あたしは陸斗くんの隣にピッタリとくっついた状態で座り、彼に肩を抱かれている状態になっていた。 ん? んんんーーー!? どうしてこうなったと疑問を浮かべる頭。 陸斗くんの体温が離れないことで高鳴る鼓動。 あたしは恥ずかしいや
last updateLast Updated : 2025-08-22
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女子会①

「いらっしゃい。ゆっくりして行ってね」 お母さんがそう言って三人を迎え入れてくれる。 あたしの家の場所を知らない三人と駅前で待ち合わせをして、家に連れてきたところだ。 今日は前に陸斗くんを連れてきたときと違ってお母さんもお父さんも家にいる。 まあ、お父さんは用事があるみたいでもう少ししたら家を出るけれど。 高校に入ってから初めて友達を連れて来るということで、何故かお母さんも張り切っていた。 おやつにとマドレーヌを焼いていたし、紅茶は良いのあったかしら? なんてもてなす準備をして……。「お昼は食べていくわよね? パスタがいいかしら?」 なんて聞かれもした。 いや、高校になってまでそこまで親に歓迎されるのも……。 まあ、おやつとかは助かるけれど。 メイクに集中出来るし。 そんなこんなで、にこやかに紅茶とマドレーヌを部屋に持って来てくれたお母さんが出ていくと女子会が始まった。「え? このマドレーヌお母さんの手作り? 美味しいし、器用なんだねー」「あたしのお母さんなんてお菓子作りなんて面倒って言ってホットケーキくらいしか作ってくれたことないよ」 沙良ちゃんと美智留ちゃんがそう言うと、さくらちゃんが「うちのお母さんは作ってくれるけど……」と少し言葉を濁す。「ああ、さくらん家のお母さんの作るお菓子って、なんかすごいファンシーだよね」 マドレーヌを頬張りながらそう言った沙良ちゃんに、美智留ちゃんが付け加える。「クッキー一つずつに綺麗にアイシングしてたりさ、あれはかなり凄いんじゃない?」「でも絵柄がプリンセスとかユニコーンとかばっかりだよ!? 流石にちょっと恥ずかしくなってきたんだけど!?」 なんて頬を染めるさくらちゃんは可愛い。 もしかしてさくらちゃんが本当は面倒見の良いお姉さんなのに
last updateLast Updated : 2025-08-23
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女子会②

 笑って誤魔化しながら自分の顔を確認したさくらちゃんは、軽く目を見開いた。「……何て言うか……あたし、こんな顔にもなれるんだ……」 そう言ったさくらちゃんを見た美智留ちゃんと沙良ちゃんは「おお」と揃って感嘆の声を上げている。「じゃあ、ヘアセットはあたしがやるから、次は沙良やってもらっててよ」 美智留ちゃんがそう言って、いつの間に準備したのか櫛やヘアアイロンを準備していた。 確かに髪に関しては美智留ちゃんの方が上手いだろう。 ここからは任せることにして、あたしは沙良ちゃんに目の前に来てもらう。 いつも長い髪をポニーテールにしている沙良ちゃん。 今日も来た時はシンプルなポニーテールだったけれど、先にヘアセットしてもらったのか毛先を巻いて編み上げた状態のポニーテールに変わっていた。 沙良ちゃんはそのままの素材の良さを引き出す感じが良いと思うけれど……。「どんな感じにしたいとか、リクエストある?」 一応聞いてみた。「そうねー。えっと、こんな感じとか?」 そう言って見せられたスマホの画面には、人気アイドルグループの一人の写真が出されていた。「……」 正直顔は分かるけれど名前はすぐには出てこない。 だってこのグループ人数多いんだもん。 その中でも比較的沙良ちゃんに似たタイプだとは思うけれど、もう少し可愛い系統だ。「どう? 出来る?」「うん、出来るけど……どうしてこの子なの?」 ちょっと可愛い系にメイクすれば大丈夫だとは思うけれど……。 沙良ちゃんはアイドルに近付きたいとか思うようなタイプではなかったと思うから、不思議に思って聞いてみる。「んー
last updateLast Updated : 2025-08-24
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女子会③

 そんなことを考えながら美智留ちゃんに視線を戻した。 美智留ちゃんの今日の髪型は編み込みをサイドに入れたお団子ヘアーだ。 カラフルなヘアピンを使ってオシャレに仕上げている。 美智留ちゃんの顔は正統派美少女って感じだ。 メイク次第でどんなタイプにも成れそう。 髪型に合わせるなら大人っぽくは違う。 だからと言って可愛い系にすると一気に子供っぽくなりそうだ。 うん、ここはそのまま正統派って感じで。 そうイメージを決めたらあとは早い。 肌はトーンアップしつつ、ファンデーションはパウダータイプでサラッと。 アイラインは控えめにしつつ、シャドウを使ってぼかしていく。 眉は平行気味にして眉尻を少し下げる感じ。 これで美智留ちゃんの凛々しさが出ていると思う。 ノーズシャドウも入れて、鼻を高く見せる。 チークも粒子が細かくてうっすらとつくようなものを選んで入れてみた。 口紅はベージュピンクで赤くなりすぎないように。 そうして完成したメイクは正統派美少女の美人度アップって感じだと思う。 鏡を差し出し、何となく三度目の正直と思いながら聞いてみる。「メイクどうかな?」「……」 まずは沈黙。 鏡を手に取ってはくれたけれど、すぐには見てくれない。 そしてそのまま彼女は口を開いた。「……日高に同情するわ……」 いや、それどういう意味!? 訳が分からな過ぎてそれは言葉として出てこない。 あたしの疑問なんて知らない美智留ちゃんは、そのまま鏡を見てくれる。「……やっぱりすごいね。メイクの仕方、灯里に教えてもらおうかな?」 あたしが美智留ちゃんにヘアセットを教え
last updateLast Updated : 2025-08-25
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