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かどわかし⑧

Author: 緋村燐
last update Last Updated: 2025-08-18 17:31:39

「灯里、良かった無事で」

 泣きそうな顔で安堵する美智留ちゃんは、そのままあたしを抱きしめる。

 沙良ちゃんも心配そうな表情。

 さくらちゃんなんてもう涙を浮かべている。

 工藤くんや小林くん、花田くんも相当心配してくれたのか、あたしの無事な姿を見てホッと安堵の息を吐いていた。

「皆、心配かけてごめんね。何もされてないから、安心して」

 実際にはキスされそうになったけれど、未遂だから問題ないだろう。

 なんて思いながら美智留ちゃんの背中をポンポンと叩く。

 すると安心したからか、それともあたしがケロッとしすぎていたからなのか。

 美智留ちゃんはがばっと顔を上げて口を開いた。

「もう! 本当に何が何だか。灯里は付いて行っちゃうし、日高は先生には言うなって言うし! 連絡取れたと思ったら日高はすっ飛んでいくし!」

 と、どんどん文句が溢れてきていた。

 美智留ちゃんの言葉で、先生には連絡していないんだと言う事を知る。

 良かった、と思った。

 陸斗くんのためにも、騒ぎにはして欲しく無かったから。

「ねえ、聞いてるの? ちゃんと説明して!」

 そう叫ぶ美智留ちゃんに、どこから説明するべきかと悩んでいると工藤くんが声を上げた。

「いや、まずは急いで集合場所に行こう。ちょっと時間ギリギリなりそうだし」

 スマホを見ながらそう言っているのを見て、皆同じように時間を確認する。

「って、マジでギリギリじゃない。急げー」

 沙良ちゃんの掛け声を皮切りに、皆で走り出した。

 そうして走ったおかげで集合時間五分前には何とか到着する。

 皆で息を切らしながら、「そろそろ集まれー」と言う先生の声に従う。

 歩きながら外していたメガネを掛ける陸斗くんを見て、あたしは「あっ」と声を上げる。

「あれ? お前そう言えばメガネは?」

 陸斗

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