「ほら、入って。それ以上伸びると校則に引っかかって指導されちゃうでしょ?」 そう言うと、渋々といった様子だけど中に入ってくれた。「あ、お帰り」 入ると同時にお父さんから声が掛かった。「お? 美智留ちゃんか。高校生になったんだなぁ。家から近くて良いだろう」 そう聞いてきたのは常連のおじさん。 おじさんの髪は整えられているから、切った後なんだろう。 他のお客さんがいないときはそのまま居座って話をしている常連さんだ。 二つあるスタイリングチェアは誰も座っていないので、今も何かの話で盛り上がっていたところなんだろう。 おじさんは日高を見て「彼氏か?」なんて聞くけれど、本気で言ってるわけじゃない事は明白だ。「そんなわけないでしょ」「だろうなぁ、その子の髪見りゃあ分かるよ。また見ていられなくて連れてきたんだろ?」「そう言う事」 中学の頃から男女問わず髪がボサボサな子はここに連れてきてカットしていたあたし。 実は沙良もそれがキッカケで仲良くなった。 だって沙良、髪伸ばしてるわりに手入れしてないんだもん。 遠目から見ただけでも艶がないし、近くでみれば枝毛だらけで見ていられない。 今でもあたしが定期的にカットしてあげないと枝毛製造工場になってしまうくらいだ。 とにかく、そういうわけで入学当初から日高の髪は切りたいとずっと思っていた。 でも流石に同じクラスになっただけ、という状態で切らせてとは言えない。 だからそこそこ付き合いの出来た今、丁度良いから話をするついでに切らせてもらおうと思ったわけだ。 これが今日日高を誘ったもう一つの理由。「お父さん、奥のチェア借りるね」「おう。いつも言うが、慎重にやるんだぞ」「うん、分かってる」 場所を貸すからには相手に傷を負わせることは厳禁だと、いつも言われること。
Last Updated : 2025-07-27 Read more