なんとも、気まずい。 しかし、どう声をかけるべきかというその悩みは、長くは続かなかった。ふわりと上品な薔薇の香りが横合いから漂ったかと思うと、視界の端に、節の立った細く長い指――白く美しい手が、すっと差し出されてきたのだ。 手首には、透かし彫りが施された銀のブレスレットがはまり、その透かしの隙間を縫うように細い赤い組紐が通され、剥き出しになった前腕にするりと巻き付いている。銀の硬質な冷たさと、赤い紐の繊細な柔らかさ。その取り合わせは思いのほか絵になっていて、どこか言葉にしづらい、淡い色香すら漂わせていた。 「はじめまして。白石光(しらいし ひかる)です」 声は、思いがけず厚みのある、穏やかな響きだった。 小夜がゆっくりと視線を上げる。目に入ったのは、滑らかに澄んだ白い顎のライン。ほんのり色づいた薄い唇は、かすかに弧を描いている。鼻筋は細く、まっすぐに通っていた。さらに視線を持ち上げれば、切れ長の瞳がやわらかく笑みをたたえて、こちらをじっと見つめ返していた。やや長めの黒髪は無造作に乱れ、片側は耳にさらりと掻き上げられ、もう片側は白い頬へと流れ落ちている。輪郭は鋭く、ともすれば冷たげに見える顔立ちだが――笑うと、一転して驚くほど柔らかい。 大叔母様は嘘などついていなかった。この男は、本当に、息を呑むほど整った顔をしている。それに、これだけの相手を本気で探し当ててきたということだ。 長年アートの世界に身を置き、美しいものには目がなく、鑑賞欲も人一倍強い小夜である。見惚れている自分の無礼にようやく気づいたのは、ずいぶん経ってからのことだった。 小夜は慌てて手を差し出し、申し訳なさそうに詫びた。 「ごめんなさい。あまりにお綺麗だったので……つい、見惚れてしまって」 ところが相手は、その手を握り返す代わりに、指先をそっと掬うように取り、ふわりと引き寄せた。そして、小夜の頬にごく軽く唇を落とす。イギリスで最もありふれた、ごく標準的な挨拶――頬へのキスだった。 唇を離すと、光は静かに微笑んだ。 「お褒めに与り光栄です」 小夜は一拍遅れて思い出した。そういえば大叔母様が、「あの子は長年向こうで暮らしていて、このままイギリスに腰を落ち着けるつもりなのよ」と話していた。頬へのキスも、向こうの習慣として身についたものな
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