彰が車を走らせて去っていくと、奈々は慌ただしくスマホを取り出した。口座に振り込まれた特別手当のゼロの数を数えた途端、危うくその場で飛び跳ねそうになる。 やはり、社長についていけば、懐具合には困らない。 …… 「社長。何か、気にかかることでもおありですか」 運転席の彰は、この一日、小夜の様子が明らかにおかしかったことに気づいていた。頃合いを見計らい、静かにそう尋ねる。 そうだ。 しかも、とびきり馬鹿げた心配事だった。 口に出したところで、正気を疑われるに決まっている。小夜自身にも、自分のことがよく分からなかった。意識の混濁した佳乃が口にした、たった一言。それだけでどうしてここまで怯えているのか、理屈ではまったく説明がつかない。 元来、臆病な性分ではないはずなのに。 その夜、ようやく眠りについた小夜は悪夢を見た。 最初に見えたのは、ローマでの宴だった。圭介が小夜を庇って銃弾を受け、薔薇の花が敷き詰められた床へ崩れ落ちる。噴き出した血が真紅の花びらをさらに赤く濡らし、彼の呼吸は少しずつ、少しずつ失われていく。 場面は一転し、冷たい霊園の土の中から一本の手が突き出した。泥と血にまみれた圭介が墓の中から這い上がり、氷のように冷たい指で小夜の首を絞め上げる。耳元で、ひどく掠れた声が響いた。 「こんなに愛しているのに……どうして一緒に来てくれないんだ」 小夜は悲鳴を上げ、ベッドから跳ね起きた。 夢から覚めても、しばらくは魂が抜け落ちたように身動き一つできなかった。長いこと見ないふりをしていた違和感が、深い夜の闇の中でいっそう不気味な輪郭を増していく。どこかがおかしい。たしかに何かがおかしいのに、それが何なのか分からない。 「ママ?」 隣で眠っていた樹が、小夜の上げた物音に目を覚ました。 実はこの夜、小夜は恐怖のあまり、あるいは何かから逃げ出したい一心で、本家へ佳乃の様子を見に行くこともできず、かといって自分の寝室でひとりで眠る勇気も出ず、樹のベッドへと逃げ込んでいたのだ。 だが今となっては、その行動を少しだけ後悔していた。 真夜中、ナイトライトの淡い光の中で、樹の瞳がじっとこちらを見上げている。その目の形は、亡き圭介とよく似た、妖艶な切れ長の目だった。 小夜は無言でベッドから下りた。震えそうになる声を
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