Semua Bab 幸福配達人は二度目の鐘を鳴らす: Bab 51 - Bab 60

76 Bab

第51話

「優樹菜、琢己くん」 渋みのある義弟の声に若い二人は身を引き締める。これから放たれる義弟の暴挙な言葉など予想もしていないだろう。「――お前達二人には結婚してもらう」 その場の空気が一瞬にして凍りつき事情を知らされずに呼びつけられたあたしたちはは唖然としていた。開いた口がふさがらないという状態を初めて知った。 妹の夫の口から発せられたその言葉は、言うまでもなく裏で母の指示した言葉なのだろう。「ちょ、ちょっと待ってよ。結婚って、誰が? 誰と?」 優樹菜ちゃんが慌てて口を出す。彼女も事情を知らされてはいなかったようだ。「そんなこともわからないのか? 結婚すると言って、お前と琢己君と以外誰が結婚するというんだ」 ようやく口を動かすことができるようになった優樹菜の言葉を夫がややくい気味にふさぐ。「そ、そういうことを言ってるんじゃないの! なんでそんなことしなくちゃいけないのかってこと! 大体アタシやたくみくんの意見も聞きもせず、親が勝手に決めることじゃないでしょ!」「まあ、待て。ちゃんと話を聞くんだ」「なにを聞けっていうの!」興奮のあまり優樹菜ちゃんはその場で立ち上がった。握り拳を堅く握り、父を睨み付けた。「だから聞けと言っているだろ」優樹菜ちゃんの興奮を抑えるつもりか妹の夫直治さんはトーンを一つ落として言った。優樹菜ちゃんの怒りは収まらないが、ただ怒っていても始まらない。拳を握りしめたままソファーに腰かける。視線を妹の方へと向け、「お前も知っていたのか」と無言で訴えかける。「いいか。これはお前を、お前たちを守るために言っているんだ」 少し落ち着いた口調で直治さんが場を荒立てないように慎重に言葉を捜す。「守る?」「そうだ。お前たち、大学に進学したら、どうせ勉強もせずに結婚相手を探すつもりでいるんだろう?」「そ、そりゃあ結婚相手は捜すわよ。でも、勉強しないわけじゃない」「この際勉強はどうでもいいんだ」「なによ、自分で言っておいてどうでもいいって!」「もう、ゆかり。少しは落ち着いて。そんな喧嘩腰じゃあちゃんと話なんてできないでしょ」 妹は諭すように言うが、こんな話を冷静に聞けなんて言う方が無理だ。「……いいか、大学に入って卒業までに結婚相手を探す。それが今、世の中の平均な考え方だということはわかっている…… しかしだ。父さんはお前たちに、そんな風に結婚を考えてほしくはない。い
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第52話

――生涯で結婚は一度限り。母を含めそう考えている人間、若者の言葉を借りるなら旧時代的思考の人達は決して少なくない。自分たちが結婚したころには二人目の結婚なんて考える人なんて誰もいなかった。離婚率が高くなっていることを指摘される世の中ではあったが、結婚するということは一生そのひとと生活を共にするのだと考えていたものがほとんどだ。重婚制度というものにきわめて否定的な意見を持っている母はどこで仕入れてきたのか、最近そう言った行為をするものがあるということを耳にしたらしい。 あらかじめ、決して恋愛対象となることのないであろうふたりが事前に結婚することで、実質的に結婚する相手は生涯でひとりだけにするという考え方。一見、横暴なだけのようにも聞こえるが、反面では、『自分は既に一度目の結婚を愛のない形で済ませているので、生涯愛するのはあなただけです』というプラトニックな意思表示をすることで相手に愛の深さを伝えることができるという価値もある。 重婚に否定的な意見を持っている人に対しては極めて有効的だが、重婚に肯定的な人には愛が重すぎると嫌われることもある。「はあ? な、なによそれ。そんなの自分勝手じゃない!」 一度は押し黙った優樹菜ちゃんだったが、母たちの企みの意味を理解して再び反攻に出た。「そんなことされなくてもアタシたちは真剣に結婚相手を考えてる! 真剣に二回の結婚というものを考えてるの! その一回の権利を親が勝手に奪っていいものなんかじゃないはず! アタシ、そんなの絶対に認めない!」「お前が何と言おうと、もうこれは決まったことなんだ! いいか、お前たちが自由に結婚できるのは一回きりだ。その一回きりの相手を真剣に考えるんだ」「い、いやよ! 考える余地なんてない! ちょっとたくみくん! アンタもなんか言いなさいよ! これはアンタのことでもあるんだからね!」「……お、お、おれはべつに」「っもう、はっきりしないんだから。ちょっと来なさいよ」 優樹菜は琢己の手首を強く掴みひっぱった。惰性で立ち上がる琢己を連れて部屋から出る。もうこれ以上ここで話をしても埒が明かないと判断したのか、あるいは単に一秒でも早くその場を去りたいという気持ちもあったのか…… 大人たちだけの取り残された応接室で直治さんが「まったく……」と、小さく嘆息を漏らす。「ねえ、ちょっとこれどういうこと?」 まったくもって話
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第53話

 ――由緒正しいだとか言われていたこの家に生まれた母は、もしかすると自分の思う相手との結婚を許されなかったのかもしれない。だからと言って、それを琢己たちに押し付けていいという道理はない。もちろん、あたしにしてもそうだ。勝手に許婚なんて決められて、その相手との結婚が失敗しただなんて考えでもしたら目も当てられない。しかし、親の反対を押しいってでも自分で決めた相手と結婚したのだというのならば、それは自己責任として我慢することだってできる。――今にしてもそうだ。「ねえ、薫。正直あんたはどう思ってるのよ、あの二人の結婚……」 母が言い出したことだということはわかっている。そして、きっと直治さんもあの口ぶりからしておおよそ賛成しているのではないかということがうかがえた。 はっきりしていないのは薫だ。「どうって…… たしかに親が決めることではないかもしれないけれど、それでもたしかに二度目の結婚っていうのは正直理解しにくいとは感じてる…… お姉ちゃんはどうなのよ?」「そんなの反対に決まってるじゃない! 親が決めることじゃない!」力強く言い切る。しかし、冷静に考えて少し言葉を補足する。「……でも、たしかに二人目の結婚という考え方はあたしも未だに理解しにくい…… 時代錯誤的な考え方なのかは知らないけれど、結婚に二回目があると思うなら、やっぱり結婚することに対して責任が持ちにくいんじゃないのかな?」「いや、責任っていうけどさ――」ずっと黙って座っているだけだった夫が急に口を挟んだ。「結婚にわざわざ責任なんて持ち込まなくていいんじゃないかな? 結婚したんだからあれはこうしなきゃいけないだとか、そんなこと考えるから俺たちの時代はぎくしゃくして離婚率が高くなったんじゃないか。二度目の結婚が認められているという時点で結婚に責任なんて感じる必要なんてないんだよ」 言っていることはわからないでもないが、あんたは誰の味方なんだと言いたくもなる。あたしの夫はIT系の会社で働いている。サラリーマンではあるが仕事にスーツは着ていかない。むしろその行為を愚かしいと考えている。ものごとの考え方は自由で理路整然とした現実的な考え方を好むのだが、あたしとの会話に対してもいつも正論で反論をする。ただ、黙って肯いて欲しいだけなのに、そこに真理を探究して、実際何がいけなかったのかを考察しはじめる。 今にして思えば、出
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第54話

 夫の意見は最も合理的で、最も人間味が無い。「でも、そんなことしたらあの子たちの戸籍にキズがつくでしょ?」「キズってなに? ただ単に戸籍の管理上でバツ印が一つつくだけのことさ。そんなことで誰も損しないし、そもそもそんなもの誰も見ない」「でも、あの子たちがほかの誰かと結婚した時、その相手が見るかもしれないでしょう?」 ――以前は離婚率が高くて、離婚経験のある人なんてどこにでもいた。バツイチなんて言葉に敬遠する人なんてほとんどいなかったが、重婚が合法化してからというもの、離婚しなくとも次の相手と結婚できるし、所得の三割が養育費として妻の口座に振り込まれ、それと同時に減税の対象となるため、別居をすることになった夫婦も戸籍まで抜く人はほとんどいない。 だからこそ、離婚という言う言葉に対し、世の人々が『何かある』と勘繰ってしまうようになったのも事実だ。だからこそ――「結婚相手に何か聞かれたらどう答えるつもり?」「そのまま真実を伝えればいいだろう? 時代が移り変わっていく中でそれぞれに様々な事情はつきものさ。そんなことにいちいち振り回される必要なんてなくて、その時にちゃんと説明すれば誰にだって納得できる話だろう? そんなことでとやかく言うような時代じゃない」「と、言うことはお義兄さんは重婚制度には賛成――なんですね?」 妹の薫が言う。「別に賛成というわけじゃあないさ。ただ単に今の法の制度がそうなっているから、それに従っているだけで賛成とか反対とか、そういう事ではないな」「――その話、母の前ではしないでくださいね。そんなことを言ったら、今度は私たちにも重婚させないようにって、なにか言い出すかもしれないですから…… そう、例えば私とお義兄さんとを結婚させて、お姉ちゃんと直治さんとを結婚させる、とか言い出すかもしれない」 妹の言葉に、思わず直治さんのことを見る。同じようにあたしを見てきた直治さんと自然と視線がぶつかり、思わず赤面してしまった。 ――直治さんと結婚する。 なまじ考えたことが無いわけでは無いだけに、心を見透かされたような感覚でドキッとした。 あまり計画性がある人物ではないと夫は直治さんのことを見下してはいるが、何事もやる前から否定ばかりして何もしようとはしない夫に比べれば、思い立ったことをすぐに実行に移す直治さんの行動力は魅力的に感じる。 実際、計画性のなさから事業にも
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第55話 ~前澤直治のケース

 ――内心、なにが愛のある結婚だ、などと思ってしまう。 義母の提案で(俺は養子という立場もあって、逆らうことが許されない提案)娘の優樹菜と甥(妻の姉の子)の琢己を結婚させるという話になった。初めのうち、一体何を言っているのか意味がわからなかった。 俺たちが住んでいる家、妻の実家はそれなりに由緒正しい家柄らしく、随分と古風な考え方を持っている。男の子に恵まれなかった前澤家にこうして俺が婿養子に来たのもそのためだ。 義母の考えた縁談の真意、それは跡継ぎの問題なんだと思う。あいにく今の前澤家の本家、俺と妻との間には娘の優樹菜ただ一人で、由緒あるこの家を継ぐ者はいない。重婚制度というおかしな法律がつくられて以来、女性が結婚して家を出て行くということはあまりなくなったようだが、これから先どうなるかなんてわかったもんじゃない。そこで前澤の血を継ぐ者同士で結婚させ、確実に家督を継がせようというのだろう。 もはやこんなものは古風を通り過ぎて封建的だとしか言いようがない。しかし義母が言うには重婚制度があるからそれほどたいした問題ではないという。たとえ二人を結婚させたとしても、それぞれまだもうひとりの相手と結婚できるではないか、ということだった。反論したい気持ちは山ほどあるが、前澤家の問題に本来部外者である俺は口出しできない。 そのクセ、いやな役回りだけが押し付けられる。俺の口から娘たちにその縁談を伝えるという役だ。「前澤家の当主はあなたなんだから」と、義母はこういう時にだけ俺を〝当主〟などという封建的な言葉でおだてていいように使おうというのだ。 娘たちを前に、俺は何といえばいいのか…… とてもじゃないが由緒ある前澤家を守るため、などとはとてもじゃないが言えない。そこで俺は〝愛のため〟などということを口走った。本当に愛のある結婚を捜すため、一度目の結婚を仮想的に結び、それぞれあと一度しか結婚できないと考え、結婚相手を真剣に考えられるように…… などと口から出まかせで説得を試みた。 ――何が愛のある結婚だ。 自分の言葉ながら鼻で笑ってしまいそうだった。 俺と妻とは、いわゆる出来ちゃった婚だ。 当時俺には妻とは別に交際している女性がいた。俺はその女性を心から愛していて、将来的には結婚も考えていた。しかしある日、大学の飲み会で後輩に言い寄られ、酒の勢いもあってその女性と関係を持ってし
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第56話

 そして翌日俺は、何事もなかったように会社へと出勤する。春うららか。というにはまだ早い様子で、桜は散ったもののまだまだ冷たい空気が吹きすさぶ朝、今年入社したばかりの新人を連れて営業回りへ出発する。女性新入社員の新垣凜子(あらがきりんこ)はかじかんだ指先をカイロで温めながら俺の半歩後ろをついてくる。 今年の新卒採用は三人で、そのすべてが女性だ。出産軽減税率の施行以降、卒業後はすぐに結婚と出産をしようとするものが多くなり、社会に出ると共に妊活に励む結婚組はおろか、結婚相手が決まらないまま就職をする、いわゆる負け組大卒でさえも就職後もなるべく早くに相手を見つけて出産退社が横行するせいで、新卒女性の採用状況は厳しい。せめて育児を終えて以後、仕事に集中しようという出産OBでもなければ人事部は渋い顔をする。大手企業では新卒採用のほとんどは男性ばかりだ。うちのような中小の企業では有能な男性社員はほとんど回ってこない。 が、しかしそこは悲観すると言うほどでもない。かわりに大手企業があまり採用したがらない女性社員の、とびきり優秀な人材がうちのような中小企業に廻ってくることは珍しくないからだ。当然、長期間の勤務が望めないというのはいたしかたのないことだが、中にははじめから結婚などする気がないというものだって少なくはないし、元々人材の回転の速い営業職中心の弊社ではそれほどの苦ではない。それどころか出産退社をした女子社員の口コミネットワークが新たな顧客の呼び水となることもしばしばで、育児が終わった女性社員の再就職としても、一度慣れ親しんだ弊社に復帰するというものも多い。結果として弊社としては人材に恵まれる好環境にあると言える。 そして彼女、新垣凜子もまた、どうやら優秀すぎる人材で、俺なんかが指導役を務めることはおこがましいとさえ感じるほどだ。俺は若いころに一念発起して会社を興したのはいいが、これと言った成果を上げることはなく、浮き沈みというよりは沈みっぱなしで会社を倒産させた。妻の実家の資産でその負債を補い、妻の実家のコネで今の会社に再就職をさせてもらった身だ。前澤の家にも、会社に対しても頭の上がらない俺に指導役なんてものは荷が重すぎる。それに、しいて言うなれば俺のような出産軽減税率以前の、一夫一婦制しか知らない世代からすれば、新垣さんのような若い新入社員の指導をあてがわれたとて、何がセ
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第57話

 新入社員との親睦を深めるための飲み会。と、妻には伝えておいた。 事実その点に関して嘘偽りはないというのが自分自身に対するいいわけで、若い女性と一対一だなんてことは伝えなければいいだけの事情。 しかし、もしポリノグラフによる嘘発見器に掛けられてしまえば、やはりそれは嘘だと判定するのだろう。 心にやましい気持ちは限りなくある。 若い女性と噛み合う話なんてあるわけないと考えていたのはまるで間違いで、相手が優秀な人物であるならばその相手と会話の口調を合わせるというのはそれほど難しいことではないらしく、事実彼女は巧みに俺の心を奪うように会話を弾ませた。 久しぶりの胸躍るような会話。 少し調子に乗りすぎてしまった俺はつい、娘に美りやり従兄と結婚させようとしていることを話してしまった。 彼女が、大学の卒業論文で結婚に関する倫理について書いたのだという話を聞いてしまったからだ。「本来DNAの型にはそれぞれ病気にかかりにくくする抗体があるんです。子供をつくるとき、この抗体を両親から半分づつ受け継ぐようになるんですけど、この時に両親のDNAの種類が似ていると生まれてくる子供が受け継ぐ抗体の種類がかぶってしまうんです。そうすると必然、生まれてくる子供の病気に対する抗体の種類が減ってしまうんです。だからDNA配列の近い家族間での子供は病気になりやすいわけで、その対策としてこの国では家族間での結婚を禁止しているんです。つまり、男性からすればなるべくなら特定の相手ではなく、いろんなDNA配列の相手と交配して、様々な病気に対する抗体を持った子を産ませることこそが最も自分の遺伝子を後世に残す方法なわけです。これは女性にしても同じことで、たしかに女性は男性と違って一度に多くの子孫を残すことはできませんが、一人産んだその子が健やかに育っていくに従い、また同じ相手と子供をつくったとして、やはり前回と似たような遺伝子配列となるわけで、それを回避するため、一度子供をつくった相手を敬遠するようになるんです。別の相手を見つけて交配した方が前の子とは違った遺伝子配列が生まれやすいわけですから…… つまり、倫理。生物としての倫理を追求するならば、毎回違う相手と交配する方が理にかなっているんです。それを一夫一婦制の法律はあえてそれを禁止していたわけで、むしろこっちの方が倫理に反する行為なんです。だからわたしは
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第58話

 彼女は数年前に、まだこの国が法律で重婚を認めていなかった頃、世間を騒がせた大物俳優が起こした不倫騒動の話を持ち出した。大物俳優の名言〝不倫は文化だ〟という言葉は当時の流行語になったのを覚えている。その大物俳優の発言に対して厳しく批判をした、朝の情報番組に出演していた中堅お笑い芸人に対してひどく腹を立てたというのだ。「あれって、結局のところ人気アイドルのメンバーと新婚ほやほやだったあの芸人が奥さんに対して点数稼ぎしたかっただけなんじゃないですかね? 大体考えが浅はか過ぎると思いませんか? 『不倫はどんな理由があっても絶対いけないことだ』なんて、ちょっといい大学出てるだけのお笑い芸人のくせにまるで文化人気取りで〝絶対にいけないことだ〟なんて、そんな簡単な言葉で結論付けられるなら戦争なんて起こるわけないんです」「でも、当事としてはそれはそれほど特別な考えじゃなかった。誰もが運命の人と結婚したんだって信じ込みたかったんだろうな」「運命のひと……ですか」「そう、運命のひと」「じゃあ前澤さんは、その運命の人と結婚したんですか? 結婚を決意した時、『ああ、この人こそが運命のひとなんだ』って感じました?」「そ、そりゃあ、もちろん感じたさ」 ――嘘だ。 運命の人だと感じるどころか、妻とは単なる出来ちゃった婚に過ぎない。もしかすると当時交際していた恋人に対してはそんな感情を抱いていたのかもしれないえれど、なまじ彼女の面影のある新垣さんを前にそんな言葉は言えない。「じゃあ、聞きますね。その運命の人と出会った時、その時点ではたしかに運命の人だと思えたかもしれませんが、たとえばそれは百年ある人生の中のたかだか二十年の間に出会えた最高のひと、ぐらいのことだと思いませんか? 残り八十年もある人生の中で、その人以上の存在が現れるわけがないなんて、確率論から言っても無理があるじゃないですか。 たしかに前澤さんは今、四十年の中で出会った最高のひとと結婚しているかもしれません。でも、もしその人以上に『運命』だと感じることができるような人に出会えた時、前澤賛同しますか?」「……」 ――俺は何も答えない。  もとより妻に対して運命の人だと感じたことすら嘘だというのに、これ以上何がいせるだろうか。 しかし、新垣さんはそんな俺に追い打ちをかける。「それって、真実の愛というものに対して、不誠実な行為だと思いま
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第59話

「当時の社会としては不倫イコール悪って考えが固まっていて、なかなか大きな声では言えなかたけれど、文学の世界を見てもやっぱり不倫は重要なテーマで、ロシアの文学なんてほとんど不倫なしじゃ成り立たないんじゃないのかってくらいなんです。宗教的に、文化的に見れば不倫を許してしまえば正義は成り立たないのかもしれないけれど、それだからと言って人間が人間を好きになるって気持ちはそう簡単にはおさえられないんです。だからこそ、そのせめぎ合いで悩むことで文学が、文化が生まれるんじゃないですかね」「不倫は文化……ね。確かにそうかもしれないけれど、倫理に反するからこそ不倫で、重婚が認められるようになったいまじゃあ不倫は倫理に反していない。もはや文化だとかそういったものを越えたのかもしれないな」「そうですよ。だって重婚法ができる前に比べて昨今の離婚率は劇的に減っているんです。それって要するに、過去の結婚法にあった、本来あるべきではない足枷的な呪縛が取り払われたから。以前のアメリカなんかでは離婚率が50%を超えていたわけですが、欧米諸国の夫婦間ではお互いに『愛している』と言葉を強制的に言いあうことで、とっくに冷めきった愛を無理やりにつなぎとめようとしていたにすぎなかったんです。だから『愛してる』の言葉がなくなった途端に離婚が成立してしまう文化だったんです。それに対して日本では『愛してる』の言葉を使わないかわり、出産とともにお互いの関係性を一度リセットする。恋人でもなければ夫婦でもない。セックスもしなければキスも、時には会話さえもしなくなり、単なる同居人になる。だから離婚率が欧米ほど高くはならなかったけれども、だんだん欧米的にいつまでも仲の良い夫婦を求めようとしたばかりに離婚率は大きく上昇してしまうことになった。重婚法成立前には離婚率も35%を超えるようになっていたんです」「そうだな。そもそも結婚制度なんていうものは子供の親が誰なのかをはっきりさせやすくするためにあるようなものさ。だから国によっては昔から一夫多妻制なんてのがあるんだ。生まれてくる子供からすれば母親が誰なのかは明白だが、結婚制度が無ければ父親が誰なのかがはっきりしない。だけど、DNA判定なんてものが手軽にできるようになった現在では意味がないんだよな。確か重婚法が成立する以前の日本の法律では男は離婚後すぐに結婚できるのに対し、女性は
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第60話

 居酒屋を出て、俺たちはその場で散会した。若い皆はそのまま二次会へと動く様子ではあったが、さすがに年老いた中年の体で夜遊びは正直つらい。一足先においとますると告げ、若い社員に二次会の費用を少しだけ握らせて立ち去った。まだ終電までにはだいぶ時間の余裕もあるが、いかんせん少し飲み過ぎたようだ。若いメンバーと同席すると年甲斐もなく少々昔に帰ったつもりで飲み過ぎてしまうのだ。体は年々着実に年を重ねて節々も痛み、アルコールに対する抵抗力も弱くなった。少しだけふわふわと浮き足立つ踵に意識を向けながらも一刻も早く家に借りたいと思うあまり、近道をしようとネオン街を横切る。ちかちかと面滅するネオン街の色とりどりの明かりに胸躍らされる思いがしていたのは一体いつ頃のことだろう。今となってはこのにぎやかさに煩わしさしか感じない。 しかし、俺のそんな想いとは裏腹に通りで待ち伏せする客引きのスタッフたちは容赦しない。あるいはそれほどに俺が愛に飢えているようにでも見えるのだろうか。いや、事実、愛に飢えているというのはあながち間違いでもないのだが…… 客引きのスタッフは俺の腕をしっかりホールドして、たった二万円でとても楽しいことができると誘う。「なにがたった二万円だ。それだけの金額を稼ぐのに俺が一体どれだけの苦労をしていると思っているんだ」と、言ってやりたい気持ちがないでもないが、さすがにそこまで言うような気もは持ち合わせていない。 しかし、そこでふと思い出してしまった。結婚してからというもの、妻とセックスをする回数は激減し、娘を妊娠するとともにほとんどそういう機会もなくなった。今のように重婚が合法ではなかった時代、不倫をするにはいろいろと煩わしいことが多すぎてそんな勇気もなく、時々は風俗にでも行きたいと思うこともあったが、妊娠とともに妻は専業主婦になった妻に替わりに稼がなくてはならない俺がそんな無駄遣いなどあってはならないと我慢もした。そして、いつも家でゴロゴロとしている妻に毎月数十万の生活費を入れ続けるのだ。セックスは大体二カ月に一回くらい。もちろん、そんな単純な計算で片づけてしまえるものでもないのだが、支払ったお金÷セックスの回数で計算したなら、一回当たりどれだけのコストがかかっているのだろうかなどと考えたこともある。ならば一回二万なら随分と安いものではないかなどと考えてしまう自分がなんと
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