「優樹菜、琢己くん」 渋みのある義弟の声に若い二人は身を引き締める。これから放たれる義弟の暴挙な言葉など予想もしていないだろう。「――お前達二人には結婚してもらう」 その場の空気が一瞬にして凍りつき事情を知らされずに呼びつけられたあたしたちはは唖然としていた。開いた口がふさがらないという状態を初めて知った。 妹の夫の口から発せられたその言葉は、言うまでもなく裏で母の指示した言葉なのだろう。「ちょ、ちょっと待ってよ。結婚って、誰が? 誰と?」 優樹菜ちゃんが慌てて口を出す。彼女も事情を知らされてはいなかったようだ。「そんなこともわからないのか? 結婚すると言って、お前と琢己君と以外誰が結婚するというんだ」 ようやく口を動かすことができるようになった優樹菜の言葉を夫がややくい気味にふさぐ。「そ、そういうことを言ってるんじゃないの! なんでそんなことしなくちゃいけないのかってこと! 大体アタシやたくみくんの意見も聞きもせず、親が勝手に決めることじゃないでしょ!」「まあ、待て。ちゃんと話を聞くんだ」「なにを聞けっていうの!」興奮のあまり優樹菜ちゃんはその場で立ち上がった。握り拳を堅く握り、父を睨み付けた。「だから聞けと言っているだろ」優樹菜ちゃんの興奮を抑えるつもりか妹の夫直治さんはトーンを一つ落として言った。優樹菜ちゃんの怒りは収まらないが、ただ怒っていても始まらない。拳を握りしめたままソファーに腰かける。視線を妹の方へと向け、「お前も知っていたのか」と無言で訴えかける。「いいか。これはお前を、お前たちを守るために言っているんだ」 少し落ち着いた口調で直治さんが場を荒立てないように慎重に言葉を捜す。「守る?」「そうだ。お前たち、大学に進学したら、どうせ勉強もせずに結婚相手を探すつもりでいるんだろう?」「そ、そりゃあ結婚相手は捜すわよ。でも、勉強しないわけじゃない」「この際勉強はどうでもいいんだ」「なによ、自分で言っておいてどうでもいいって!」「もう、ゆかり。少しは落ち着いて。そんな喧嘩腰じゃあちゃんと話なんてできないでしょ」 妹は諭すように言うが、こんな話を冷静に聞けなんて言う方が無理だ。「……いいか、大学に入って卒業までに結婚相手を探す。それが今、世の中の平均な考え方だということはわかっている…… しかしだ。父さんはお前たちに、そんな風に結婚を考えてほしくはない。い
Terakhir Diperbarui : 2025-07-09 Baca selengkapnya